中編3
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中古の一軒家

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これは不動産会社に勤める後藤さんが体験した話

ある日、後藤さんの会社で販売している中古の一軒家を購入希望の吉田さんという男性が店を訪れました。

吉田さんは仕事を定年退職した後、静かに暮らせる家を探しているらしく、郊外で格安なこの一軒家を希望したのだという。

その一軒家は都心から車で一時間ほどの場所にあり、都内ではあるが周りは山や森が多く、大きな河も流れており自然豊かで静かであったのがとても気に入ったとの事だった。

ただ、その一軒家には大きな問題があり、後藤さんは吉田さんにその事を説明した。

実は前の住人が居間で首吊り自殺をした曰く付きの物件なのだ。

一通り説明を聞いた吉田さんは「現状が綺麗なら問題ないですよ」と言い、内見や手続きを終えて一軒家を購入した。

吉田さんが一軒家に住み始めてからちょうど1年ほど経ったある日、吉田さんから電話がかかってきた。

居間の壁に黒い染みのようなものができて日に日に大きくなっているので対処してほしいという内容だった。

すぐに後藤さんが出向いて現状を確認すると、居間の白い壁に黒ずんだ染みがあり、不気味な事に人の形のようにも見えた。

後藤さんはこの家が保証期間内である事を確認し、吉田さんには無償で修繕手配する旨を伝え業者の手配を行った。

ただ、後藤さんは壁の染みよりも吉田さんが気になっていた。希望する静かな暮らしを送っているはずなのに、1年前に比べて痩せ細っているように見えたのだ。体調でも崩しているのだろうか?と心配になったが、また何かあれば連絡してくださいと伝えて家をあとにした。

それから更に1年後、そんな壁の染みの事も忘れていた頃に再び吉田さんから電話がかかってきた。

しかし、今度は以前のような落ち着いた感じではなくひどく慌て怯えている様子だった。

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「後藤さん…た、助けてください!壁の染みが…染みが人の形に!……違う、あれは染みなんかじゃない!あれは」

そこで電話は切れてしまい、後藤さんがかけ直しても繋がらなかった。

何か大変な事が起きたと察した後藤さんはすぐに吉田さんの家へと向かった。

郊外にある吉田さんの家に着く頃には辺りはすっかり夜になっていたが構わずインターホンを鳴らした。

ピンポーン♪ ピンポーン♪

何度か鳴らしたが家の中から反応はない。

後藤さんはドアを叩きながら『吉田さん!ウチムラ商事の後藤です!吉田さん、大丈夫ですか?!』と呼び掛けたがやはり反応はなかった。

ドアノブに手をかけると"ガチャ"という音とともにドアが開いた。

鍵すらかけていないのか?と驚いたが後藤さんは意を決して家の中に入り吉田さんを呼ぶが反応はない。

もしかしたら入浴中に発作でも起きたか?!と思って浴室を見たが誰もいない。

そして、居間に入った後藤さんは首を吊って変わり果てた姿の吉田さん見つけた。

すぐに吊られている吉田さんを下ろして呼び掛けるが反応はなく呼吸も止まっている。

警察と救急に通報した後藤さんは警察と救急車が来るまで待ちながら、先程の電話の内容を思い返した。

「壁の染みが人の形に」確かにそう言っていた、でも…居間の白い壁には人の形はおろか、わずかな染みもなかった。

結局、吉田さんは運ばれた病院で死亡が確認され、後藤さんは第一発見者として警察から簡単に事情聴取を受けたが事件性はなかったのですぐに帰された。

後日、ハウスクリーニングのために業者とこの家を隅々まで確認した時にも、人の形をした染みは見つからなかった。

吉田さんは一体何を見て、命を絶ってしまったのか

彼が亡くなった今、確かめる事はもうできないのだろう

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お久しぶりです。
戻ってこられたのですね。
また、楽しませてください。

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