中編6
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ア イ ガ オ ウ

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友人のお父さんから聞いた話です。

子供の頃に体験した話をしてくれました。

仮に名前を一郎君とします。

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shake

ドタドタドタ!

こっちに向かって走ってくる音が聞こえました。

shake

ドタドタドタ!バァン!

「いった!」

「馬鹿野郎!ノロノロ歩いてんじゃねーよ!ノロマ!」

勢いよくぶつかってきたのは、同じ組の本間君でした。

彼はいわゆるガキ大将で学校内で自分より弱い者を虐める質の悪い子でした。

いつも周りには取り巻きが居て、取り巻きは常に彼のご機嫌取りをしていました。

小学生の割に体格がよく力も強く、自分に歯向かって来る者には容赦なく暴力を振るっていました。生徒だけでなく、先生にも。

しかし、親が金持ちか何かで先生達は彼に

対し強く言う事ができませんでした。

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「ごめん...」

「ノロマノロマ~」

「ノロマノロマ~」

本間君と取り巻き達は倒れた一郎君を無視し、駆け出しました。

「はぁ...」

服に付いた泥を払っていると、どこからか声がしました。

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「ニャ~」

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辺りを見渡していると右足に柔らかい感触が当たりました。

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「ニャア」

体の小さな猫が一郎君の右足に頭を擦り付け、こちらをじーっと見つめていました。

しゃがみ手を伸ばすと、猫は手に頭を擦り付けてきました。

「かわいい…飼い猫、じゃなさそう。野良猫か」

猫を撫でながら話しかけていると、猫は一郎君の手のひらをなめ始めました。

くすぐったくなって手を引っ込めると、猫は鳴き始めました。

猫が舐めていた手のひらを見ると、擦り傷ができていました。

「お前、もしかして傷を舐めてた?よくわからないけど、ありがとう。優しいね」

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一郎君は猫を抱きしめると、安心した気分になりました。

“飼いたいな”

猫を抱きしめていると飼いたいという気持ちが強くなりました。

その場で暫く悩んだ後、自宅近くまで猫を抱いたまま歩き出しました。人慣れしているのか、猫は一切暴れることなく一郎君の腕の中にいました。

一郎君は猫に学校の話、本間君の話、猫相手に学校での人間関係の相談をしました。

猫は黙って話を聞いてくれました。学校にも家にも相談できる相手はいません、猫にならなんでも話せると思いました。

「話を聞いてくれてありがとう、ここまで連れてきちゃったけど、お前を飼えないんだ…ごめんね」

「ニャア」

「飼えないけど、友達だよ!友達だからね!」

「ニャア」

「そうだ、名前を付けよう!そうだな…肉球が桃色だからモモにしよう!モモ!」

「ニャア」

「飼えなくてごめんね、また明日ね、モモ」

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「うん」

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「え…」

一瞬、猫が人の言葉を話したように聞こえました。

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もう一度猫に呼びかけると、猫はニャアと鳴きました。首を傾げ大きな目で見つめています。

一郎君は悲しくなり、もう一度猫を抱きしめるとそっと猫を地面に下ろしました。

ごめんね ごめんね と鳴きながら歩きました。

後ろを振り向くと、猫は一郎君をじっと見つめ座っていました。

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それから一郎君は毎日学校帰りに猫と遊ぶようになりました。

いつも決まった場所で、猫と遊びその日あったことを話しました。

猫と一緒に居ると嫌な事も忘れることができました。

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ある時、学校帰りにいつもの場所へ行くと人が集まっているのが見えました。

数人が集まり騒いでいるようでした。

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「やれ!もっとやれ!」

「そこだ、ちげーよこっちだよ」

「もっと蹴れ!蹴れ!」

よく見ると自分と同じクラスの者と本間君の姿がありました。

足元の何かを蹴っているようで、時折小さく鳴く声が聞こえました。

小動物が鳴くような声。

「もしかして…」

一郎君は駆け出しました。

「何やってるの!」

「はあ?」

みんな一斉に一郎君を見ました。

その時、彼らが蹴っていたものの姿が隙間から見えました。

猫でした。一郎君がモモと名付けた猫の姿がありました。

一郎君は彼らの中に割って入ると猫の上に覆いかぶさりました。

「どうしてこんな事するの!可哀そうじゃないか!」

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「…楽しいから」

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普段の本間君とは違う冷たく残酷な言葉に、一郎君は何も返せませんでした。

一郎君が猫に覆いかぶさった事により、蹴る対象は猫から一郎君へと変わりました。

頭を庇いながら、猫を庇いながら、ただじっと耐えました。

どれくらい時間が経ったのでしょう、気が付いたら本間君達は居なくなっていました。

起き上がると背中に鈍い痛みが走りました。ゆっくり起き上がり、腕の中の猫を見ました。

「モモ…モモ…大丈夫か、モモ…モモ、返事してよ死なないでよモモ!」

モモの顔に涙が伝いました。

「ニャァ…」

「モモ!!」

猫は力なく鳴きました。

「モモ!モモ!よかった!よかった!」

一郎君は猫を自分の家に連れ帰り、手当することにしました。

両親に見つからないようにこっそり2階の自室に向かい、猫を自分のベッドの上に寝かせました。

猫は全体的に傷ついていて、特に左目の傷が酷い状態でした。猫は呼びかけに応じ瞼を開けますが、左目は閉じたままでした。一郎君は左目の手当の仕方が分からなかったので、目の周りの汚れと血を拭き取り様子を見ました。

水を与えたり、猫が食べられそうな物を与えましたが、猫はあまり口にしませんでした。

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次の日の朝、猫の姿が消えていました。

部屋中探しましたが、どこにも猫の姿はありませんでした。家の中を探しても、外を探しても、どこにもいませんでした。

「モモー!モモー!モモー!!」

一郎君は泣きながら探しました。何日探し回っても、幾ら泣いても猫を見つける事はできませんでした。

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それから、一人 また一人と本間君の取り巻き達が学校に来なくなりました。

「ねぇ知ってる?佐藤君、前田君、それから安藤君、もう学校に来られなくなっちゃったんだって」

「ええ!なんでなんで?」

「頭おかしくなっちゃったらしいよ」

「えーなにそれー怖いー」

「どうしちゃったんだろう」

「本間君と一緒になって悪い事たくさんしてたらしいよー」

「怖い怖い」

「なにそれ、なにそれ!」

「動物を虐めたり、殺しちゃったりしてるらしよ」

「うわぁ…犯罪者じゃん」

「鳩とか、猫とかやってるらしいよ」

「なにそれ、なにそれ!やばいやばい」

「犯罪者じゃん」

「犯罪者」

クラスメイトの噂話が方々から聞こえてきましたが、一郎君にとってはどうでもよい事でした。

猫が居なくなり、心にぽっかりと穴が空き、無気力になりました。

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猫が居なくなり、本間君も学校に来なくなったある日の学校帰りの事です。

久しぶりに猫と遊んでいた思い出の場へ立ち寄ってみたのです。

その場所に近づくにつれて目尻が熱くなるのを感じました。

「モモ…ごめんね…モモ…」

shake

「ぎゃあ!やめてやめて!ごめんなさいいいい!」

見慣れた空き地から聞き覚えのある声が聞こえてきました。

日は沈み辺りは暗くなってきていたので直ぐに姿を確認することはできませんでした。

「助けてええ!助けてくれよ~がやああ」

何者かが地面に蹲り、周りに数人集っているのがぼんやり見えました。

「もしかして…本間君?」

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一郎君の声に一斉に反応し視線が一気に集まってるのを感じました。背を向けていた者達はじっと一郎君を見つめました。皆、獣のように目が光っていました。

「い、いじろう!いちろう!たすけてえ~」

ぼんやりと本間君の姿が見えました。様子がおかしい事はなんとなく伝わってきました。

何か恐ろしいことが自分の前で起こっている、本間君が大変な事になっているという事はわかりました。

shake

ザ、ザ、ザ、ザ、

奥から一人、一郎君の方へやってくるのが見えました。異様な光景を前にしているのにも関わらず、一郎君は恐怖を感じませんでした。むしろもっと、もっとやってしまえという気持ちでいました。

shake

ザ、ザ、ザ、ザ、

近づいてくる姿がぼんやりと見えてきました。

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目の前までやってくると、立ち止まりました。自分よりも少し背丈のある少年、左目に眼帯をしていました。月明りに照らされた少年の顔は不気味に青白く見えました。

少年は一郎君の手を取るとニヤァと笑いました。

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「ア イ ガ オ ウ…ア イ ガ ト ウ…」

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「ア リ ガ ト ウ」

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