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都内の会社で働く長谷部さん、西川さん、矢島さんの3人は、長期休暇を利用して西川さんの実家のある東海地方の街へ向かって車を走らせていた。
西川さんの実家がかなり大きな農家で、日頃から仲のいい3人で田舎へ遊びに来たのだ。
金曜の夜、仕事を終えた3人は荷物をまとめて22時頃に集合し、西川さんの車で目的地へ向かった。
次の日の朝早くに西川さんの実家に着いた3人は西川さんのご両親に迎えられ、自然の中で思い思いの時間を過ごしていた。
3日目の夜に西川さんが『なぁ、ここから少し行った山の中に古びた神社があるんだけど、雰囲気怖いから肝だめししようぜ!』と言いだした。
長谷部さんと矢島さんも賛同し、3人で車でその神社へ向かって走り出した。
大通りから田舎の狭い道、そこから更に狭い農道を通り山道に入った。
普段でもほとんど人などいない道である。
窓の隙間から虫や動物の声、風で揺れる木々や草の音が聞こえるくらいで、 自分たちの車以外では動くものすら見当たらない状態だった。
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だが、山道を走り出して5分ほどすると前に2つの灯りが見えた。
どうやら対向車のヘッドライトのようであった。
こんな時間にこんな山道を自分たち以外に走ってる車がいたとは驚きだった。
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スピードを落として対向車とすれ違う、驚いた事に対向車も自分と同じ車種の車だった。
狭い道だがなんとか上手くすれ違う事が出来たので先を急ぐ。
『すげーな、まさかこんな夜中にこんな山道で対向車に会うとはなー!』と矢島さんが笑いながら話していた。
さらに山道を進むとまた対向車に出会った。
まさか2台も車に会うなんて思っても見なかったうえに今度の車も自分と同じ車種だった。
でもさっきすれ違った車よりだいぶ古くて汚れている感じだった。
今度も上手くすれ違う事が出来たので先を急いだ。
しかし、今度は矢島さんの様子がおかしかった。
なぜか俯いてガタガタ震えているのだ。
見ると長谷部さんも同じように俯いて震えている。
『矢島、長谷部、どうした?車酔いしたか?』と西川さんが聞くと黙って首を横に振った。
さらに車を走らせているとまたしても対向車のヘッドライトが見えた。
そして、ルームミラーで後部座席の2人を見ると、さらに大きく震えて頭を抱え込んでいる。
『お、おい矢島!長谷部!どうしたんだよ!』と聞くと
『と、停まってくれ!あの車が行くまでやり過ごしてくれ!!』と矢島さんが叫ぶので、ただ事ではないと思い車を端に寄せて停車した。
対向車がゆっくりと近づいてくる、自分と同じ車種の車だが、さっきより損傷や汚れがひどかった、事故車両のような有様だ。
そして、対向車が西川さんの車の横に来た瞬間、西川さんは2人が震えている理由を知った。
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対向車の運転席に乗っていたのは…頭から血を流している西川さんだった。
後部座席には血だらけで腕や足がいびつに折れ曲がっている矢島さんと長谷部さんが座っていた。
対向車はゆっくりと西川さんの車を通り過ぎようとしていた。
その時、西川さんは対向車の中の血だらけの自分と目が合った。
その血だらけの西川さんが僅かに口を動かして何かを喋っていたようだが、何を言ってるかは聞き取れなかった。
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やがて対向車のテールランプが見えなくなった。
西川さんは黙って車をUターンさせた。
狭い道だったので木に車体を削られたが、そんな事を気に留める余裕はなかった。
そのまま3人は無言のまま、西川さんの実家に逃げ帰った。
あのまま進んでいたらどうなっていたのか?
あの対向車に乗っていたのは一体なんだったのか?
何もわからないまま、3人は次の日の朝に東京へ帰った。
作者死堂 鄭和(しどう ていわ)