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これは今でも何だったのかよくわかってない。
俺が小さい頃って両親共働きだったから、俺の面倒はお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが見てくれてたのよ。
でも、俺って生まれつき心臓に持病があって外で遊ぶことがほとんど出来なかった。
他の子が元気に外で遊んでるのを見て羨ましかった…
そんな時、部屋の窓から外を見るとたまたまうちの前にいた女の子と目が合った。
女の子は俺に気付くと手を振ってくれた、なんか嬉しくて部屋着のまま家の前に行ったんだ。
女の子は俺を見ると『こんにちは!一緒に遊ぼうよ!』と言ってくれた。
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女の子はここから歩いて5分ほどのとこに住んでる子で、名前は「ナツミ」っていうそうだ。
俺は近所に友達が出来たことが嬉しくて、ナツミちゃんと絵本を読んだり、散歩したりして遊んでた。
俺が心臓の病気で激しく動けない事を話しても嫌な顔1つしないでくれた。
ナツミちゃんと出会って1ヶ月ほど経ったある日、俺は家族にナツミちゃんを紹介したいから家においでよと言った。
この1ヶ月、ほぼ毎日ナツミちゃんと遊んでたから、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会わせたかったんだ。
でもナツミちゃんは、他の人に会うことは出来ないからって言って来なかった。
そういえばナツミちゃんの家もどこだか知らなかった事を思い出した。
俺はナツミちゃんのお母さん、お父さんに挨拶したかったからナツミちゃんの家に遊びに行きたいと申し出た。
今にして思えば女の子の家に行きたいなんて、図々しいにも程があるが、子供ゆえにそんな事は考えていなかったのだろう。
ナツミちゃんは『ごめんなさい、私の家は来ちゃいけないの』と言われてこちらも断られた。
俺は初めて出来た友達の事をもっと知りたいと思った。
そこで、ナツミちゃんと別れたあと、そっと後を尾行した。
今やれば完全にストーカー犯罪だが、当時はそんな言葉すらなかった時代だったので気後れなんかはしてなかった。
ナツミちゃんの後を尾行すること10分、彼女は自分の家にたどり着いたのだが…え?と自分の目を疑った。
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彼女が入ったその家は…俺が生まれる前からずっとあるという廃墟と化した一軒家だった…
壁は蔦に覆われ、窓ガラスは割れて壁はところどころ崩れている。
玄関も自分の背丈ほどの草に覆われてとても入れる状態ではなかった。
だが、ナツミちゃんは今まさにここに入っていったのだ。
呆然と立ち尽くす俺、そこにお母さんの友達の遠山さんが通りかかって声をかけてきた。
『あら?石原さんちのユウト君じゃない?どうしたのこんなところで?身体に障るわよ?』
俺は遠山さんにこの家の事を訪ねた。
いつからここにあって、昔は誰が住んでいたのか。
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『ここねぇ…昔は山村さんって家族が住んでいたのよ、でも…火の不始末が原因で火事になって…ご主人と奥さん、それに幼い娘さんまで焼け死んだそうよ…』
その後に続く言葉に、俺は背筋が一気に寒くなった。
『娘さん、ナツミちゃんって言ったかしらね、可愛らしくて元気な子だったのに…』
それからどうやって家に帰ったのかは覚えていない。
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ただ、その日からナツミちゃんが俺の前に姿を見せることはなくなった。
そういえば…1ヶ月ほぼ毎日会っていたはずなのに、ナツミちゃんの顔を思い出せなくなっていた…
でも、たまに思うことがある。
もしあのままナツミちゃんと遊び続けていたら、僕はどこかに連れていかれてたのだろうか?
そして、もしかしたらナツミちゃんと一緒に行った方が幸せになれたのだろうか?と…
作者死堂 鄭和(しどう ていわ)