wallpaper:4390
あれは私がまだ小学5年生くらいの時なので、今から10年以上前の話です。
冬のある日、私は風邪をひいてしまい、学校を休んで2階の部屋で寝ていました
午後4時を過ぎた頃に目が覚めた私は、水を飲もうと階段を降りて1階の台所に行きました。
台所では母が夕飯の支度をしているのか、包丁で食材を刻む音が聞こえ、味噌汁の香りが病み上がりの気だるさを和らげてくれました。
wallpaper:4931
私は『母さんおはようー今日の夕飯は何ー?』と聞きながら、冷蔵庫を開けて中から缶のジュースを取り出し飲みました。
母さんはキッチンの方に向いたまま『今日は肉じゃがよ』と言いました。
ただ、その後に『※※※※※』と、何か喋ったのですが何と言ったのかは聞き取れませんでした。
いや、聞き取れないというより、知らない言葉を聞いたような感覚でした。
『え?今なんて言ったの?』と聞きましたが、母さんは何も答えず夕飯の支度をしていました。
気のせいかな?と思い、ジュースを飲んだ後トイレに入りました。
トイレで用を足していると、誰かが階段を登っていく足音が聞こえたんです。
あれ?母さん、夕飯の支度してるのに2階に上がった?と思い、トイレを出た後2階の自分の部屋に戻ろうと階段を上がりました。
ところが…何か嫌な感じというか…変に胸がざわつく感じがしたんです。
あれ、また風邪がぶり返したかな?と思った私は、夕飯が出来るまで横になろうと2階に上がった途端に違和感を感じました。
さっきトイレにいる時、確かに2階に上がる足音を聞いているのですが、2階に誰かいる感じがしないのです。
2階は私の部屋と父さん、母さんの寝室、物置にしてる部屋しかありません。
念の為に2階の全部屋を覗いてみましたが、やはり母さんはいませんでした。
父さんはまだ仕事から帰ってくる時間じゃないし、2階に上がったとすれば母さんしかありえない。
何か薄気味悪い感じがして、そのまま1階の台所に行きました。
台所で夕飯の支度をしている母さんを見た時、私は声も出せず固まりました。
そこにいるのは確かに母さんなんです。
だけど…母さんの周りに黒いモヤというか…煙のようなものがまとわりついているんです。
すると、母さんが『もうすぐ※※※※ご飯できるからね、※※※※待っててね※※※※』と、先程と同じように聞き取れない言葉を混ぜながら言いました。
その聞き取れない言葉が何故かひどく怖くて、私は足を震わせながら、母さんの後ろ姿を見ていました。
母さんが何か喋っているのですが、段々とわからない言葉の方が多くなってきて、ほとんど何を言ってるのかわからなくなりました。
wallpaper:4879
そして、ゆっくりとこちらを振り向き始めたんです。
私は直感で「母さんの顔を見ちゃいけない!」と思いました。
それでも…身体は金縛りにあったように動けず、母さんの横顔が見え始めた時でした。
wallpaper:4241
玄関の方からガチャと音がなり、ドアが開く音がしました。
その後すぐに『ただいまー!サオリー起きてる?』と母さんの声が聞こえたのです。
その瞬間、身体は動くようになり、私は玄関へ向かいました。
そこには、買い物袋を両手に抱えた母さんがいたのです。
『え?!母さん、今夕飯の支度してたよね?!』と私が言うと『何言ってんの?今買い物から帰ってきたのよ?』と言われ、私は頭が真っ白になりました。
wallpaper:5025
すぐに台所に戻りましたが、ほんの数秒前にいたはずの母さんの姿はなく、包丁もまな板も鍋も使われていない状態でした。
そんな…じゃあさっき見た母さんらしき人は誰?
階段を上がっていったのは何だったのか?
そして…あの聞き取れない言葉の意味は何だったのか?
幼い頃に体験した奇妙な出来事ですが、未だに謎が残ったままになっています…
作者死堂 鄭和(しどう ていわ)