土曜日の夕方
F子とS君が家に泊まりに来た
久々に家族全員がそろった
6月の梅雨空
今さっきまですごい雨が降っていた
夕食時に
匠が学校というかクラスで今話題の噂話をしはじめた
「あのさぁ・・今俺のクラスではちょっと怖い噂話があって・・
これはパパやじっちゃに話したほうがいいと思うから話すね」
「え・・・噂話?どんな?」
「うん・・・まぁ・・・ほら・・・国道沿いにある自販機あるでしょ?
家の近くのあの自販機・・・あれの噂話なんだけど・・・俺のクラスメートが塾の帰りに喉が渇いたんでジュースを買いにその自販機まで走って・・・お金を入れてジュースのボタンを押したんだけどジュースが出てこない・・何回押しても出てこない・・「こりゃ貯金箱にされたかな」と思いつつ下の口辺りを探っていたら何か知らないけど生暖かいものにふれたんだってさ
てっきり温かいジュースが途中で引っかかってるんだと思って引っ張ったら・・・・」
みんな・・・匠を見つめていた
全員沈黙した・・・我が家ではもう大体の察しがついていた
「な・・なんと・・・人間の手首がニュキと出てきたんだってさ
うわっ!と叫んでその手を離したら指をランダムに動かしてて次第に「オイデオイデ」というような仕草になって、そいつ、腰を抜かしてパニックになりながら家へ一目散に帰ったんだってさ」
全員・・・そうだろうという顔をしていた
我が家の場合は不思議な現象には慣れている
誰一人・・・びっくりした者はいない
というかそういう類の噂話は嘘が多いということも我が家は知っている
「匠・・・そりゃ、作り話だろ・・・そいつが面白おかしく作った話だよ」
「ウウン・・・パパ・・・この話をそいつが放課後に教室の中で話したら・・
「俺も」「私も」「嘘だろ、俺もだ」という感じでどんどん広がっていってクラスの1/3はあの自販機で何かしらの体験をしたらしいんだよ」
「え・・・マジか・・・そいつら適当にあわせたんじゃないの?」
「ううん・・・体験した話を聞くと大体合ってるんだよ・・パパ・・・」
「そっかぁ・・・信じられないな・・・自販機から手が出てくる・・・うさんくさい・・・」
「せがれのいうとおりだよ・・・うさんくさいぜ・・もしかしたらよぉ・・・そいつら全員グルじゃねーのかよ・・・」
「グル・・・じっちゃ・・・それはないとおもうよ・・・おそらくね・・・」
「国道は夜の0時過ぎるまで結構な車や人が通るんだぜ・・・仏間にいりゃ騒音がよく聞こえるし2階でも同じだろ・・・まぁ・・・・」
うわぁ・・・嫌な予感がする・・・オヤジの悪い癖が出るぞ
「そうだな・・今日は土曜日だし明日は日曜日だ・・・今夜にでもその自販機の検証するかな・・な!せがれよ」
うわぁーーー図星だ・・・
「いや・・別に・・・関わりたくない・・・オヤジが一人で検証してくれ・・」
「はぁ・・俺の聞き間違いかな・・・せがれよ・・・検証するよな?」
「いや・・だから・・・オヤジが一人でしてくれ」
「なに?・・・俺一人でしろと?・・・・俺に何か身に降りかかったらどうするんだ?せがれよ」
「オヤジなら大丈夫だろ・・・一人でしてくれ・・・」
「ほぉ・・・」
結果・・・巻き込まれた・・・オヤジの無言のいかつい顔に負けた
オマケに3人娘が加わった
「おおお、そっかそっか・・さすが俺の孫娘たちだ、せがれの臆病者とは違う」
嫌味な・・・臆病じゃないよ・・・メンドーくさいんだよ
「よぉし!!午前1時にあの自販機へ行こう」
「うん!じっちゃ!!」
メンドーくさいことになった
今夜は仕事の書類を片付けるつもりでいた
明日は日曜日だしゆっくりと片付けようと思っていた
外はまた雨が降り出した
モワァとした蒸し暑さ
仏間に避難
隅で書類を片付けよう
エアコンが効いていて涼しい
外は相変わらずの車の音や人の歩く音
ついに土砂降りになった
仏間では3人娘たちがおしゃべりをしていた
リビングからおふくろたちの話し声や笑い声
外と内からの騒音
オヤジは寝ていた
そのまま朝まで寝ててくれ
3人娘たちもいつの間にか寝ていた
書類もあとわずかのときに
楓が起きてきた
「パパ・・・あのね・・・匠兄ちゃんの言っていたこと本当かもしれないよ
んとね・・1週間前だったかな・・・2階の兄ちゃんたちの部屋で私たち3人と兄ちゃんたちとゲームしていたんだけど・・・私、喉が渇いたんでその自販機でジュースを買おうかなと思って2階からその自販機を見たんだけれど・・・こうなにかモヤモヤとしたものが自販機のまわりに見えたんだよ・・・
ちょっと怖くなって私、匠兄ちゃんにジュースを買いに行ってもらおうと頼んだの・・・匠兄ちゃんは快く了解してくれてジュースを買いに行ったんだけど、私、心配で2階から見てたの・・・その時は何も起きなかったけどね…でもね・・・何か得体の知れない何かがいる気がしかたない・・・気のせいかもしれないけど・・・だから検証はじいちゃとパパと私だけのほうがいいと思うよ・・・葵とカナちゃんは留守番がいいと思うよ・・・Sおじさんが仏間にいてくれればいいよ」
楓が何かの気配を感じたのだろうか
「そうだな・・・2人は仏間で留守番だな・・・」
午前1時ごろになった
あれだけの土砂降りの雨が止んだ
「よぉし!行こうか!」とオヤジの声
おいおい・・・あれだけぐっすりと寝てたんじゃないのか
「オヤジ・・・葵とカナちゃんは置いていくよ・・・楓が何かの気配を感じているらしい」
「お・・・そっか・・・幸い2人とも寝てるし・・そうしよう Sちゃん、2人を頼むよ」
「おやっさん、わかったよ、俺は仏間にいるから」
オヤジと私と楓の3人で自販機へ
「しかしよ、今まですげぇ雨降っていたのに、1時になったらピタッと止みやがった・・
なんかなぁ・・・」
「俺もそう思った・・・まるで肝試しをさせるために止んだみたい」
「喉乾いたな・・・おまえら何飲む?」
「じいちゃ・・・わたし、オレンジジュース」
「おお、そっかそっか、おい、せがれよ、ほら早く、金出せよ、楓ちゃんがオレンジジュース欲しいと言ってるぞ」
「え・・・オヤジが奢るんじゃないのかよ」
「なに!!この俺様が金を出すのか!100年早いわ」
「うううう・・・(やっと真意がわかった・・・ジュースが飲みたいだけだった)」
10分が過ぎた
何も起こらない
30分だった
何も起こらない
「何も起こらないな・・・まぁ胡散臭いと思ってた・・・作り話だったんだよ」
「まぁ・・そうかな・・・」
ピーピー
ガタン
「え・・・自販機から音がしたぞ」
「機械の音だろ・・・自動で何かしたんだよ」
「いや、オヤジ・・・何かジュースが落ちた音のような気がした」
「そっか・・・どれ・・・」
オヤジはジュースが出るところへ手を入れた
「何もねーーぞ・・・・いや・・え・・・・おお・・何かに触った・・・」と言いながら手を引いた・・・
「ジュースだぜ・・・ラッキーだ!1本儲けた」
「おい!オヤジ・・・金を入れていないのに出てくるわけないだろ・・・」
「そっか・・・・」
「オヤジ・・・そのジュース・・・見本にないぞ」
「お・・・確かに・・・なんじゃこれ」
受け取り口から出てきたジュース
見た目は新しめ
でもこの自販機の見本のジュースではなかった
でもどこかで・・・見た気がする・・・
でもどこで・・・私は目をつぶり記憶を辿った
思い出せない
「パパ・・・製造年月日を見れば思い出すかも」
おおお・・・・そうだ
私は製造年月日を見た・・・唖然とした
もう25年前の製造日だ
「え・・・25年前・・・・うそだろ・・・」
「どれ見せてみろ・・・ゲッほんとだ・・・なんでも今頃出てきたんだよ・・」
((フフフ・・・・))
「え・・・パパたち、今、人の声がしたよ」
「え・・・パパは聞こえなかったよ」
「俺もだ」
楓は周りをキョロキョロとしていた
「気のせいだったのかな・・・」
「このジュース・・・一体なんだよ・・・気持ち悪いな・・・オヤジ・・・捨てろよ」
「そうだな・・・」
「その前に証拠として写真に撮るわ」
25年前のジュースを空き缶入れに放り込んだ
「オヤジ・・・帰ろう」
「そうだな・・・」
楓がまたキョロキョロと見まわした
「パパ・・・誰かに見られてる気がする・・・」
「え・・・」
私も周りを見渡したが誰もいない
家に着き仏間へ
S君に今さっきの25年前のジュースのことを話をした
「えええ・・・25年前のジュースが出てきたのかよ・・・不気味だな・・・写真あるの?
見せてくれ」
S君に写真を見せた
S君はじっと見入っていた
「ま・・まさかな・・・」と怪訝そうな顔をした
「どうした?」
「これな・・・よく覚えてるんだけど・・・俺ら小学校の時にソフトボールをしてたろ
その練習の後に俺たち喉が渇いたんで自販機でジュースを買ったろ
Fはお金を入れてジュースが出てきたけど俺は金を入れてボタンを何回押しても出てこなった
このジュース・・・その押したジュースなんだよ・・・」
「うそだろ・・・うっすらとしか覚えてないけど・・・たしかに貯金箱にされたよな・・・」
ということは時空を超えて出てきたってことかよ
ちょいまち・・・取り出し口から手が出てきたって・・・・
もしかしたら・・・過去の取り出し口を漁ってる人の手じゃないかな
「もしかしたらさ・・・取り出し口から手が出てきたって話・・・過去の人の手かもしれん・・・「おいでおいで」はたぶんジュースを掴もうとして「おいでおいで」のように見えたのかも」
「うわぁ・・・おいおい・・・あの自販機はドラえもんの四次元ポケットか・・・」
「あほくさ・・・誰かのイタズラだよ・・・」
「イタズラって・・・25年前のジュースだぞ、オヤジ・・・」
「まぁ・・・・こりゃ・・・もう少し調べないとな」
思わぬ展開になった
「そういえば・・・自販機のある家ってたしかばあさんがいたよな」
「じいちゃ、いたよ、ばっちゃん」
「最近見かけないけど・・・」
「あっ!そういえばそうだ・・・見てない」
あの自販機の置いてある家に老婆が住んでいた
そういえば見かけていない
子供の時から大変かわいがってもらった
おやつやジュースなどもらった
S子やF子はいじめられてF子は大泣きしながら歩いていた
それを見かねてばあちゃんが2人を家にいれて話を聞いたりおやつやジュースを飲んだりしていろいろと話をしたそうだ
今日の朝でも訪ねてみよう
チリンチリン
「うわぁ!びっくりした・・・新聞配達か・・・」
「さぁてと朝の新聞でも読もうかな」
オヤジは玄関へ新聞を取りに行った
「さぁて・・・」
オヤジは新聞を両手に持って読みだした
「うそだろ」とオヤジのびっくりした声
「なんでこった・・・F・・・自販機のばあさん・・・死体で見つかったぞ・・・」
一同、オヤジを見た
「えーーと・・・・息子さんの家へ行っていたのか・・・事故死か?・・・
自宅の前の道路で倒れていたようだな・・・」
「そっか・・・」
「あれ?・・・じいちゃ・・・でも・・・あの家の明かりってついていたような・・・
気がしてたけど・・・」
「え?・・そうだったけ?・・・気にしていなかったな」
「まぁ・・・」
自販機の前の家へ行ってみた
明かりはついていなかった
「ついてないね・・・」
「あれ・・・ついていたように思ってたけどね」
「そう言えば記念撮影で写したよな・・・」
「写したよ・・・」
私はスマホの保存している写真を見せた
「え・・・・いや・・・」
「どうした?せがれ?・・・・え・・・・」
「パパ、どうしたの?」
一同・・・目を疑った
玄関の明かりがついて人影が写っていた
その人影は老婆としか思えない
「パパ・・・これ・・・」
老婆はいるはずはない
息子さんの家にいたはずだ
でもこの影は間違いなく老婆の影だ
影なら間違いと言えるけれど玄関が少し開いていた
そこから白い手が出てる
顔半分だけ見えてる
老婆だ
「う・・・・・そんな・・・こんなにはっきりと・・・」
一同、体が硬直した
老婆の顔がうっすらと透けているのだ
「うわ!!!」と叫んでしまった
作者名無しの幽霊
オヤジの気まぐれでとんでもないことになった
25年前のジュースが出てきた
流石に飲めない
まさか老婆が死んでいたとは
それもくっきりと老婆の半分の顔が写っていた
あの時間帯にはもうすでに亡くなってる
今は老婆の家は更地になり自販機も撤去された
新しい自販機は私の家の東側の真向かいに設置された
家からは自販機は見えない
まぁ暑い夏にはジュースがいるから助かってるけどね
私の区域は私の家一軒だけになってしまった
夜0時以降は本当に静かになった