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あるパチンコ屋で体験した怖い話です。
お化けや霊は出てきません。
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そのパチンコ屋は、広域暴力団の本部がある繁華街にありました。
当時その街で働いていた僕は、ある日、空き時間にパチンコを打ちに行きました。
オフィス街の平日昼間のパチンコ屋は、びっくりする程閑散としていて、BGMだけが聞こえる静かな空間でした。
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打ち始めて数十分ぐらいでしょうか。
離れた台で「ガチャーン」とガラスが割れた音がしました。
何だろう…と思っていると、「バカヤロウ!インチキ台なんか置きやがって!!」と怒号が聞こえました。
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恐る恐るその台に行ってみると、パチンコの前面ガラスが割られ、破片が飛び散った台の前で、派手なシャツを着たチンピラが大騒ぎしていました。
「いくら入れても出ねぇじゃねぇか!」「インチキだろ」「金かえせ!」と言いたい放題。
3人の店員さんも「…メーカーから買った正規品です」「イカサマではありません」「返金は出来ません」と、勇気を振り絞って説明していました。
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そして次の言葉を発した時、チンピラは激高しました。
「恐れ入りますがお客様。ガラスを破損された場合、2万円をいただく事になっています」
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「なんだぁ!?コノヤロウ!!イカサマで8万吸い取ったあげく、2万円だぁ?」
と、他の台のガラスも割る勢いで暴れ始めました。
「お止めください。お客様」と3人の店員は必死に対応していました。
「2万円なんて払わねぇぞ!」
「恐れ入りますが、決まりなので…」
「てめぇらの勝手な決まりなんて知らねぇ!」と、店員を振り切り、店を出て行きました。
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恐怖のあまり、無言の3人の店員さん。
無言のまま、破片を拾い集めていました。
たぶん上司にも、ガラスを割られた事、しかも破損代金2万円ももらえなかった事を説明しなければならず、気の毒な程、無言で落ち込んでいました。
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“いやぁ…。大変だなぁ…”と、人ごとの様に自分の台に戻り、打ち始めました。
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そしてその後、1時間ほど経ったでしょうか。
2人の男性が入店してきました。
その一人が出入り口近くで打っていた僕に声を掛けてきました。
「お兄さん、すんません。店員さんを呼んでくれませんか?」
振り向いた僕は、腰を抜かす程、衝撃を受けました。
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声を掛けてきたスーツの中年男性の後ろにいたのは、派手なシャツが破れ、顔も血まみれになって腫れている、さっき暴れていた男性でした!
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!!!!!
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あまり凝視も出来ず「あ、はい…。お待ちください…」と、すぐに店員さんを呼びに行きました。
さっきの3人のうちの1人を見つけたので「さっき暴れた人が上の人とまた来て、店員さんを呼んでます」と声を掛けると
「えぇ…」と、また報復に来たのかと勘違いし、落ち込む店員さん。
「あ、大丈夫そうです。やさしそうな人でした」
と、出入り口の方に店員さんを案内しました。
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遠慮がちに端で立って待つスーツの人。
その後ろで、猫背になり前手でうつむくチンピラ。
ぱっと見でも、痛々しい腫れと出血…。
「呼んできましたぁ…」とスーツの人に店員さんを会わせ、自分の台に戻りました。
すぐそばにいたし、店内も静かなので、会話が聞こえました。
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「うちのが迷惑を掛けた様ですんません」と封筒を差し出すスーツの人。
「ガラスを割った様で、代金が2万円と聞いたんですが受け取ってください」と。
後ろにいるチンピラを気にしながらも受け取る店員さん。
「他に何か迷惑は掛けましたか?掃除させましょうか?」とスーツの人。
「…あ、いえ。もう清掃は済んでいます。わざわざありがとうございました」
「コイツには、もう二度とこの店には来させない様、言ってあります。ほんと、すんませんでした」
「おい。オマエからも謝れ」と謝罪を則されるチンピラ。
「すんませんでした…」と、蚊の鳴く様な声で謝るチンピラ。
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「これで終わりでいいですか?」とスーツ。
「はい。大丈夫です。ありがとうございました」と店員さん。
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退店し、大股で颯爽とあるくスーツの人の後ろで、申し訳なさそうにチョコチョコ着いていくチンピラでした。
どうも、負けて事務所に帰った後、「大負けしたからガラス割って大暴れして来てやったぜ」的な自慢をした様です。
それを聞いた上の人が、街の人に迷惑を掛けやがって!と怒って制裁を加えた…という顛末の様です。
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チンピラが暴れるのも、その後の事件も、間近で体験し、とても怖かったです。
上の人はしっかりしてるなぁ…と思った出来事でした。
作者KOJI