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中編7
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山の灯台

 トイレには行かない方がいいんじゃないかって話なんですけどね。

 この話を持ってきたのはA君で、大学生の頃の話なんだそうです。

 A君夢を見ましてね、

 塔の入り口の前に立っていまして、高い高い塔です。上を見上げても塔のてっぺんは全然見えなくて、首が痛くなる。

 空は雲一つ無い青空で、深い青なんです、見ていて気持ちよくなってずっと見ていたい空です。

 塔も真新しい真っ白で陽の光に照らされてピカピカ光っているように見えるほどで、神々しいんですね。

 立ってる場所は塔の土台階段下で、階段は同心円状というか半円で幅が何メートルあるんだろうってほど大きいいんです、前後の幅がとても広くて、高さはそれほどでもありません、二十段はないくらいです。

 もう空から塔から階段から威風堂々として、凄いなぁと思えるんです。

 A君喉が渇いていて、中でちょっと水を飲ませてもらおうと階段を上るんですが、その階段にですね、

 広い階段に女の子が大勢うつぶせで寝ているんですよ。

 死んでるんだか眠っているんだか全然解りません。みんな長い黒髪で白いワンピースを着て赤い靴を履いている。A君がおっかなびっくり近づいてもピクリともしない。近づいたA君、女の子の中にはつま先が上を向いている子がいるのを見つけるんですが、長い髪が顔を覆っているんですね、だから近寄るまではうつ伏せだと思っていた。

 で女の子のワンピースも下ろしたてで良い材質のようで、地べたに寝ているのに汚さが欠片もない、髪もつやつやして、寝てるのかな?とも思えるのですけど誰一人起きてる子がいないのは変だなあと。

 階段を上がりきりますと、女の子が掃き掃除をしています。その子はクラシックなメイド服を着てまして、A君のことなんて気にせず掃除をしています。

 A君も話しかけちゃ駄目なのかなと見るだけでドアノブに手をかけるんですが、鍵が掛かってなくて開きます。

 中に入るんですけど、入った途端喉が渇いていたことがすっかり頭の中から消えて、トイレに行きたいなとトイレを探すんですよ。

 そこで目が覚めたんです。

 夢を見たときあるあるですぐ忘れたんですけど、なんで思い出したかといいますと、

 大学が夏休みなりまして、廃墟巡りをしている仲間のB君が帰省する、実家に帰ると言い出したら、C君が車を買ったから慣らし運転をするから送ってやるよと言いまして、A君も誘われてB君の家までドライブしようということになりまして、ブーっと走って山の中を通っていたら、灯台が見え始めたんですよ。

 ナビにはそんな建築物ありません。

 山の中に塔が建っていたり、観音像とか大仏像とかだったら解りますよ、宗教施設がそういうところにあるのはよくある話ですし、塔も何かの象徴として理解はできます、それが灯台?とB君もC君も不思議に思うのですが、そこはそれ、廃墟巡りが趣味ですから進行方向左側見ながら「行ってみたい!」と思うのですが、

 山を抜けるまでナビは一本道しか表示してなくて灯台は表示されない、道路の脇に立っているのならともかくナビにない道を通らないといけないのなら、山のことを知らない自分たちには行けないだろうと悔しく思うのですが、二人が熱くなる一方でA君は(あれ、なんだっけ、どっかで見たことあるぞ)と気になって、集中して記憶を探りまくってようやく、

(あぁ、夢で見たのか)と落ち着きました。

 灯台の胴体が夢で見た塔の胴体と同じで、夢の中ではてっぺんが見えなかったので時間がかかったのですね。

 二人が盛り上がってる中A君は

「不思議だね~」と感心しているテンションで静かにしていたんですが、しばらくして道が左側に分岐しているところまで来まして。

 ナビは相変わらず一本道を示していて、そんな左に行く道なんて表示していません。地図情報が古いのか、存在しない道なのか、三人思案のしどころです。

 三人とも灯台に行ってみたい気持ちはあるのですけど、存在しない道に入ったら帰ってこられなくなる話だってたくさん読んでいます。

「どうしよう」

 考えること十分、

「行こう!」

 決めました。

 今までは左側に見えていた灯台が、車が右を向き左を向きするたびに近づいて前方向に見える回数が増え、この道が灯台に行く道かと安心できるのだが、そうなると灯台に近づいて上の方が見えなくなる。胴体の太さ大きさが直に見えて迫ってきて迫力の圧倒される。

 一時間もせずに到着し、駐車場があるわけではないが車を何台求められる拓けた場所に停める。

 あとは人が歩く道になるのだが、A君が見た夢と違うのは、階段は同心円状ではなく普通にまっすぐ作られている、高さや広さはだいたい同じ、建って年月が経っているようで灯台も階段も相応に年期が入っている、

 女の子は寝ていない、メイドさんもいない、迫力があるのと周囲と調和しているのだけが同じか、と思いながら扉まで進む。

 関係者以外立ち入り禁止の札もなく、チェーンも張られておらず、この灯台の名前や由来のプレートもない、B君とC君が写真を撮ったり状況をボイスレコーダーに録音しながら歩き始める隣でA君は記憶との照合をしている。

 扉の前に立ってドアを引くと、開いた。

 三人は顔を見合わせて、頷きあって扉を開ける。

 灯台と言えば螺旋階段で、建物の中央にあるのと壁際にあるのの二種類だが、この灯台は前者だ。壁際には部屋がいくつかある。

 上に行くのは後にして部屋を探検してみようと三人それぞれに別れ、A君はトイレに行くことにした。夢はここで終わっているのだ、あの先に何があったのだろうと思ってトイレに行ったのだが、扉を開けた瞬間(あぁ、これは駄目だ)と解った。

 公衆トイレでも商業施設のトイレでも、小便器のある壁に段差があって、物を置けるスペースでもないんだろうけど物が置けるようになっているところに、飲み物のコップを置いていく奴はいるし、個室の物を置くスペースに、やはりコップやビニール袋に入れたゴミを置いていく奴はいる、だから残置物そのものは見慣れたものなのだが、

 さすがにトイレの地べたタイルの上に、宴会でもしたかのように食べ物の容器を並べて置いてあるのは恐怖を感じる。しかもビニールシートなぞ敷いていない、直置きである。

 他にも食べるにちょうど良い場所はあるだろうに、何故にここに?と背筋が凍って、すぐトイレを出る。

 出たらB君も入った部屋から出たところだったが、B君は特に気になるもの興味をひくものがなかったようで、普通な顔をしている。

 二人して次の部屋を覗いてみようかとしたときにC君が出てきて

「はい、駄目ー。しゅーりょー。外に出ましょ-」と顔を引きつらせてハイテンションで明るい口調でA君B君を引っ張る。

「何かあったのか」

「もう他は見ないの?」

「はい、いーからいーから、もー行きましょ-」と有無を言わせず二人を外に出そうとする。

C君の異常さに素直に従って、外に出て車に乗ってすぐに出発する。

 C君ずっと背後を気にしていたが、別に何もなく、青空も灯台の威容も何も変わらない。上に昇ったらどうだったのかなと気にはなるものの、B君も大人しく車を運転する。

 三人とも無言で、分岐点までやってきて、本来の道を進み出して、ようやく二人がC君に何があったかを質問する。

「あの部屋さ、入ってすぐ、豪華でクラシックな机が見えて、一番偉い人の部屋かと思ったんだよ。館長さんとか校長先生とか、一番偉い人。

 で中に入って部屋の中を見回したら、壁に顔写真が並べられていたんだよ、歴代館長さんの写真かと近づいてみたら、どれも偉そうな、威厳のある顔写真じゃなくて、どう見てもそこら辺のおじちゃんおばちゃんの写真なんだよ。

 ん?と思って下の解説文読んだら

「○年○月、この人は崖から落ちて死にました」

「○年○月、この人は誰それに殺されました」

「○年○月、この人は××に食われました」

って死んだ理由が書かれていて、わぁっと驚いたんだけど、改めて写真を見直すと、記念写真じゃないんだよ、全部遺影なんだよ!」

 二人とも「なにそれ!怖い!」って叫んだんだけどC君まだ先があって

「その「この人は××に食われました」って説明文、その××、見たこともない漢字で、熊とか虎とかじゃないんだよ、絶対作った漢字だろって思ったんだけど、その××がこの中にまだいるんじゃないかって思ったら怖くなって、それでお前たちを外に出した」

 うわぁ!と思ってC君できるだけスピードを上げて、でも山道だから無茶苦茶なスピード出すわけにもいかなくて、それ以降何も喋らず運転にだけ集中して、なんとか山を出たんですけどね。

 A君これ私に話してくれて、

「いやぁ、あの灯台、いったいなんだったんでしょうねぇ、まぁ私はその遺影は見てないんですけど、トイレだけでじゅうぶん怖いですよ、いやぁ、トイレには行かない方がいいんでしょうねぇ」

 と締めた後、

「そうそう、言い忘れてました」

 夏休みが終わって大学に行って、Dが廃墟探しの旅から帰ってきて、私たちに合流したんですよ、なのでこっちはこっちでこんな灯台に行ったと言いましたら

「なんで俺を誘ってくれないんだよ!」

 と怒り出しましてね、いやBの家に行ったのも山に行ったのも予定にないことだったし、お前いなくて連絡取れなかったろとふざけんなと言い返したんですけど、Dが悔しがって

「俺も行く!」と言い出して、行き方を聞いて一人で行ってみたんですけど、灯台もなければ左に分岐する道も見つからなくて、何度も行ったけどどしても見つからなくて、BとCがとった記録を見て悔しがるんです。

 もしあのときDがいたら、遺影を見たって上に行っていたでしょうね、そうなったらどうなっていたか。

 ××は灯台の中にいたのか外の森にいたのか。

 遭って後悔はしたでしょうが、××ってなんだったのか、その興味は満たされたでしょうね

Concrete
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