「えっ」という女性の声が聞こえて、Aさんは振り向いた。Aさんは倉庫での作業に従事しており、その日はAさん以外、倉庫の作業員は既に帰っていた。
Aさんの職場には数人、女性の作業員がいるので、その内の一人が忘れ物でもして戻ってきたのだと思った。
だか、振り向いても後ろに人の姿はなかった。
確かに近くから聞こえたはずなのに。
Aさんは訝しく思いながらも作業を続けた。
先ほどの声は女性の声ではなく、何か機械の音かも知れない。
「えっ」という音は、ぎゅっと何かが詰まったような、嘔吐く音に似ていた。
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ようやく作業が終わり、忘れかけたころに
「えっ」
また、声が聞こえた。
Aさんは音の原因を機械の不調だと考え、段ボールを運ぶコンベアに近づいた。コンベアの電源は既に切っている。
Aさんが近くとコンベアからギシギシという音が聞こえた。
やっぱりコンベアに不調があるんだな。
そう思ったとき、Aさんはズボンの裾を強く引っ張られた。
えっ?
思わず下を見ると、コンベアの下には女性がギチギチに詰まっていた。手足はあらぬ方向を向いているのに、女性は無表情で、折れ曲がった腕を伸ばしている。
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えっ?
女性とAさんの声が被った。
Aさんは慌てて女性の腕を振りほどくと倉庫の電気を切って外に出た。
しばらく動悸が止まらず、その場に座り込んでいたが、Aさんはこれではいけないと考えた。
あの女性は?
事故だとすれば大変なことになる。Aさんは、また慌てて倉庫に戻り、コンベアの下を覗きこんだ。
しかし、そこには女性はいなかった。
「えっ」
声が倉庫中にこだまして、Aさんは再び外に出た。
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そこからAさんは事務所に向かって上司にそのことを報告した。
上司は薄笑いをしながら、気のせいじゃないかと言っていたが、Aさんが
「えっ」
というと上司は目を丸くして驚いた。
その声はいつものAさんの声ではなく、明らかに女性の声だった。
それ以降、Aさんは倉庫に一人では残らないようにしている。
作者鯛西