短編2
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孤独の食卓

「『銀河鉄道の夜』。

どうだい?僕の作った『鳥ささみのチーズハサミ焼き』は?」

「『流刑地にて』。

うん、美味しい。貴方、料理上手になったよね。昔はからっきしだったのに」

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「て……か。じゃあ、『手紙』。夏目漱石のでも、芥川のでも、堀辰雄のでもいいよ。

まあね、今じゃ作れるメニューもずいぶん増えたよ。ハンバーグだろ、豚のしょうが焼き、もつ煮込み、すき焼き……」

「『道草』。

お肉ばっかりじゃない。ダメよ、貴方太りやすいんだから。ちゃんとお野菜食べなさい」

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『最後の一枚の葉』

『歯車』

『まだらのひも』

『妄想』

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「『ヰタ・セクスアリス(ウィタ・セクスアリス)』。

確かに最近在宅勤務が増えて、すっかり丸くなったなあ。通勤って、嫌だ嫌だと思ってたけど、運動習慣としては意外に効果的だったんだなって、今になって思うよ。半年で3キロも増量中さ。見てよ、この包容力に溢れたお腹」

「『砂の器』。

やめてね、次会う時別人のように丸くなっちゃってるなんてことは。私は学生時代の、ラグビー部のキャプテンだった貴方に惚れて結婚したんだから」

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「『我が闘争』。

ところで、キミの方は最近どうだい?」

「『浮雲』。

別に。これまで通りよ」

「これまで通り、ね」

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『燃ゆる頬』

『方丈記』

『城崎にて』

『停車場の少女』

『夜明け前』

『遠望』

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「そ。これまで通り。う……よ、う。降参かしら?」

「『雨月物語』。

キミは最近、そればっかりだ。僕ばかり話すのはフェアじゃないよ。なんでもいいんだ、面白かったネット配信の話でも、美味しい喫茶店を見つけた話でも、実はちょっぴり体重が増えた話でも」

「増えてないわよ。『料理芝居』。

ねえ、この話もうやめない?明日は月曜なんだから、貴方も早く寝た方がいいわよ」

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『伊豆の踊り子』。

『好色五人女』。

『夏への扉』。

『ラプンツェル』。

『流浪の追憶』。

『唇のねじれた男』。

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「『子猫』。

もうキミの新しい話を聞かなくなって、ずいぶん経つよ。3ヶ月?半年?いや、2年か?」

「ねえ、貴方もうやめて。寝ましょう。ね?」

「僕は歳をとったけど、腹も丸くなったけど、キミはちっとも変わらない。そりゃ奥さんの見た目が若いままなのは歓迎すべきことかもしれないけれど、夫婦仲良く共白髪、一緒に歳をとることはそれ以上に嬉しいことだ。どうしてだ、どうしてキミは変わらない?あの日から、3年前の9月12日から貴方もうやめてそれ以上思い出したら駄目よ」

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僕は自分の口から飛び出した妻の声に、脳ミソにジャーマン・スープレックスをかけられたかのような衝撃を受けた。

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「思い出しちゃったね。大丈夫よ、いつものお薬を飲んでゆっくり寝れば、また全部元通り。

だから貴方、今はおやすみなさい。

『幸福論』」

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