これは俺等(おいら)、枷都勝道(かせと・かつみち)の体験した話。
年期の入った拉麺(ラーメン)屋で、常連と思われる婆さんがそこの店主に、財布を拾ったけど交番が留守だと言う話で、店主さんが110番して近くの警察署に掛けて欲しいとの話をオペレーターから頼まれたみたいである。
俺等も、郵便局のATMで二回位落とし物を見付けて、留守の交番に置かれた直通電話で連絡して、「そこの郵便局に連絡なさらないと………」と警官の方に困った顔をされたりもした。
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喰い終えた帰り道で、まさかの財布を見付けたのだが、やはりすぐ近くの交番は御留守、致し方無く私は明日届けねばと、スーパーで使う様なビニール袋に中身も見ずに放り込む。
まるで盗っ人みたいだが、金銭を抜き取って放り出すよりは、ワンクッション置いて届けに動いた方が良かろうと踏んで、卓子(テーブル)の上にビニール袋を置いて、俺等は寝床に寝転ぶ。
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ギーギー変な音がして、俺等は飛び起きる。
「はっ?!」
ビニール袋がクシャクシャ音を立てながら暴れ………いや、これは財布が暴れていると見て、間違い無いだろう。
冷や汗をかきながら、縛ったビニール袋を開けると「シャーッ」と明らかに口を開けた生き物が鋭い牙を剥いて飛び出して来た。
「ひいっ!!蛇っ!!」
思わず財布を包んだビニール袋ごと投げてしまい、ゴトンと落下音がするが、直後に俺等の腕めがけて牙を剥いた蛇が飛び掛かる………
「ギィェ──────────────────────っ!!」
自分の絶叫で、俺等は飛び起きる。
充電中のスマートフォンに触れると真夜中の2:00を過ぎており、台所の卓子(テーブル)を見ると、ビニール袋に包まれた財布はそのまま、常夜灯に照らされている。
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翌日の仕事終わり、俺等は交番に警官の姿を確認すると、ビニール袋から財布を取り出して、さも先程初めて拾いましたと言う感じで届ける。
「中身を見ていないのですね」と私に訊いた警官の方と共に中身を見ると………
「うわ!」
俺等よりも警官の方のリアクションが早い。
「んぅ!」
俺等も中身を見て凍り付く。
紙幣に硬貨、クレジットカードに運転免許証に保険証、電子マネーにポイントカードとレシートと、スタンダードと言えばスタンダードな中身と共に、ズルズルと鱗状の皮が出て来た。
「………まさか、蛇の脱け殻」
「あー」
金運アップの俗説の有る代物を忍ばせて置くなんて………比較的真新しい感じである。
(………だから、蛇の夢か)
「持ち主からの連絡は不要」との旨を取り付けて、俺等は礼を言って交番から退却した。
作者芝阪雁茂
拉麺屋で御婆さんが財布を拾ったと言って、店主さんが電話を掛けた話は、先程起きました実話です。
で、そこからヒントを得たフィクションでありまして………