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中編4
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アリスの御茶会を追う

これは俺、飯村武八(いいむら・たけはち)の話。

今回、「アリスの御茶会」と呼ばれる、いわゆるSNSのオフ会とやらに参加する事になっている。

────と言うのはいわゆる仮面の話で、希望者を募り自殺を促し知らぬ者同士を心中させる集まりに接触する為、俺は「勘玉郎」と言う適当なハンドルネームと、心にも無い自殺願望をプロフィールに書き込んで名乗り、この度コミュニティーへと参加したのだ。

程無く日取りも決まり、駅前の集合場所で落ち合いスモークガラスのワゴン車へと、乗り込むと言うより詰め込まれて行く。

無気力、望まぬ行為を強いられて来た者、解雇され路頭に迷いつつあった者と、俺の関わって来た人と境遇は程近い。

「俺も上手く行かなくてねェ………」とグッタリした顔をしつつ、運転席────いや、運転席後ろの周囲に違和感を覚える。

良く良く見回せば、いずれも若い女性ばかりで、くたびれた様に見せている、俺と言う中年男が一人だけ、まるで異空間に居るのだ。

俺が乗り込んで来た際に、周囲の驚きはすぐさま察知出来たが、まさかこうなっているとは………

昨今の可愛い女の子に囲まれる漫画やアニメなんかをハーレムと言うんだろうが、いずれも蔭を落とす子ばかりだから、ウハウハとも程遠い。

運転席には仕切りが設けられており、向こうを窺う事は出来ない。

だが一瞬、意識を研ぎ澄ましていると、運転席か助手席から、舌打ちと何やら不本意そうな唸り声が聞こえた様に思えた。

*********************

ワゴン車は、山奥に山奥にと緩やかな上り坂をなぞって行く。

ゆっくりとブレーキが掛けられ、「それではゆっくりと」と錠剤と温かいスープが、前の席に居ただろう男より各々に渡され、俺は錠剤を服用する振りをする────

が、その直後、

ガっ!!

俺は細長い棒状の得物で、背後より襲撃を受ける。

手が塞がっていたのと、咄嗟の事だったので、反応が遅れた。

「コラおっさん………手前ェ、よくも割り込んで来て、俺達の楽しみを邪魔してくれたな」

「折角の御楽しみがパァだぞ。ああ?どう責任取るんだオイ」

ギラギラした、正に獣(ケダモノ)の眼光────異性からすれば屈辱同然の行為────を強いていて踏み込まれた際に、ブチ切れて飛び掛かって来る、あの目だ………

(ははあ、正にあの事件の犯人も同然だな。女性を騙して心中させようと見せ掛けて、欲望の捌け口として行為を強要する、あの腐った………)

ジャ─────────っ!!

「いぎぃっ!!」

別なカップにつがれていた、熱々のスープを掛けられ、服越しとは言え、痛さや熱さがビリビリと効いて来る。

「腹抉(えぐ)ってから、手前ェのシンボルでもスパッチュしてやろうか。切り取っちゃうよ~」

倒れた私を見下ろす形で、「ヒャヒャヒャ」と言う不愉快な笑い声と共に、月の光に照らされた不気味な銀色の光が反射し、パチンパチンと不気味な音がする────未成年が悪用して騒ぎになった、あの折り畳み式ナイフか。

(畜生………)

俺は「これ迄か」と眉間に皺(シワ)を寄せて、水ぶくれの出来た様な感覚と痛さで立ち上がれない状態で小さく溜め息を吐く………が、

「何しやがるっ!!」

「ギャァ──────────ァ────っ!!」

不愉快な笑い声から、怒気を含んだ絶叫へと変わる。

俺が目を開けると、あの二匹のケダモノが肩を極(き)められており、無表情な大男が、いつの間にやら結束バンドで手足を縛られていた女性達に近付いて、「怖くない、怖くない」と意思表示しながら、パチンパチンとハサミで切り離して解放する。

「────遅かったな」

「そう言うな。こっちだって、到着した後が難儀したんぞ」

大男がワイシャツをまくり上げて、俺に腹を見せる。

出っ張った腹の上に防刃チョッキが被せられており深々と抉られた痕が見える。

女性達は婦警に任せて、俺は大男と共に拉致と傷害並びに公務執行妨害、自殺教唆に銃刀法違反、婦女暴行未遂の現行犯と罪状を読み上げて、ケダモノ供に手錠を掛けた。

「う、う………しまった………ヒリヒリするの忘れてたな」

「早く救急車に!」

慌てた婦警の一人に促されて、大男に付き添って貰いながら、俺は救急隊の隊員に手伝われつつ救急車に乗り込んだ。

そう、俺も大男も刑事だ。アリスの御茶会と称する自殺コミュニティー摘発に乗り出したが、代償は中々痛いモンだった。

パトカーや救急車の赤いランプが回転している遥か上空で綺麗な満月が、不釣り合いに輝いている。

Concrete
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