長編17
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小さいおじさん

皆さんは「小さいおじさん」をご存知でしょうか?

10年ちょっと前にテレビでタレントの方が目撃談を語って話題になりましたよね。

でもここ最近はめっきり話題に上がらなくなりました。

もしかしたらオカルト通の皆さんの間では既に流行りの過ぎた都市伝説のような扱いになっていて、もう興味を引く話題では無いのかもしれませんが。

でも出来れば聞いて頂きたいのです。

私が昔住んでいた家に「小さいおじさん」がいたんです。

私達姉妹は、あれのことを「小人のおじさん」と呼んでいました。

 

私が小学生の頃のことです。

うちは父が早くに亡くなっており、その頃は母と妹と三人で都内のアパートで暮らしていました。

妹が小学校に上がると、母は夜遅くまで家を空けることが多くなりました。

妹とは歳が五つ離れており、妹は小学一年生、私は六年生でした。

甘えん坊の妹は母が帰ってこないと、寂しがってよく泣いていました。

母はいつもいくらかの現金を家に置いていっていたので、母が帰ってこない日は近所のお弁当屋さんで買ったお弁当を食べて、二人だけで布団に入りました。

その日の朝も、私が目を覚ますと母は私達が寝ている間に帰って来ていて、妹の横で寝ていました。

母は朝起こすと相当機嫌が悪かったので、私は母を起こさないようにそうっと布団から出て、足音をたてないように忍び足で台所に向かいました。

すると台所に小さいおじさんがいたんです。

大きさは多分20㎝くらいだったと思います。

テーブルの上にのって、母の飲み残したビールを飲んでいました。

自分の顔より大きな缶ビールを両手で持ち上げて、ワインを樽から直接飲むかのように豪快に飲んでいました。

私がポカンと固まって見ていると、

おじさんが持ち上げた缶を下ろしたときに目が合いました。

私と目が合った瞬間、おじさんは「やばっ‼︎」という顔をして、一目散にテーブルから飛び降りてどこかに消えてしまいました。

私はただ呆気に取られていました。

もちろん驚きはありましたが、恐怖感はありませんでした。

今のは小人だろうか?と考えました。

小人はもっと可愛い格好をした妖精みたいな存在かと思っていたので、ちょっとイメージとギャップがありました。

髪は短髪で丸顔。無精髭を生やしていたように見えました。

体型は中年太りと言うか、お腹が出ている感じもありましたが、

ビールの缶を豪快に持ち上げていたせいか、結構がっしりした筋肉質な体格にも見えました。

服装は黒っぽい色のタンクトップ。

下はちょっと大きめの短パンでした。

本当にその辺にいるおじさんが、そのまま小さくなった感じでした。

想像の中の可愛い小人とは違いましたが、それでもあのような不思議なものを見たのは生まれて初めてだったので、私は段々と興奮してきました。

私は妹に小人を見たことを話しました。

妹は小人の話に興味津々でした。

「わたしも小人のおじさんに会いたい」

そう何度も私にせがみました。

私はどうしたら小人のおじさんをもう一度見ることが出来るのか考えました。

たった一つの手がかりは、おじさんはビールが好きらしいということだったので、母のビールをおもちゃのコップに注いでテーブルに置いておいたりしましたが、おじさんは現れませんでした。

その後、ビールを勝手に開けたことが母にばれて酷い怒られ方をしたので、ビールを使うことも出来なくなり、小人のおじさん探しは諦めていたのですが、

それからしばらくしたある夜のことです。

その日も母が帰ってこないので、私は妹と二人でお風呂に入っていました。

その時、私達はテレビをつけっぱなしにしていたのです。

お風呂から出てくるころに、ちょうどいつも見ていた動物がたくさん出てくるクイズ番組が始まるはずでした。チャンネルもその番組に合わせてあったはずです。

ところがお風呂から上がってくると、テレビは野球中継を映していました。

あれ?おかしいな、今日はいつもの番組はお休みで野球を放送しているのかなと思い、チャンネルを回したところ、いつもの動物番組はちゃんとやっていました。

私達がお風呂に入っている間に、チャンネルが変えられていたのです。

なんで?私は間違いなくチャンネルを合わせていたはずなのに、、

その時ピンと来ました。

もしかしたら私たちがお風呂に入っている間に、あの小人のおじさんがチャンネルを変えたのではないかと。

私は妹に、小人のおじさんが野球を見たがっている、テレビで野球を流していたらおじさんが現れるかもしれないから、隠れて待っていようと言いました。

チャンネルを野球中継に合わせて、私達は隣の部屋に移動し、襖を少し開けて居間を覗きながらおじさんが現れるのを待ちました。

しかし私は襖の隙間を覗き始めてすぐに思いました。

これじゃあ全然隠れていることにならないなと。

そもそも私達の一連の行動は多分おじさんに見られていると思うし、この状況でおじさんが現れることはないだろうなと思いました。

でもワクワクしながら襖の隙間を覗いて、小声で「小人のおじさんもう来る?」と囁く妹が可愛かったので、しばらくその遊びを続けていました。

何分か経って、私が今日は来ないみたいだねと妹に声をかけようと思ったその時でした。

「あっ、」

妹が小さな声を上げました。

おじさんが現れたのです。

おじさんは台所の方からトコトコと歩いてきました。

そしてテレビの前の低いテーブルによじ登り、あぐらをかいて野球中継を見始めました。

「ちっちゃいね」

妹が目を輝かせて私に言いました。

その後どうなったのかは覚えていません。

初めておじさんを見たときの、妹の驚いた顔だけを覚えています。

  

その次の日からも、私達はおじさんをおびき出すために、テレビで野球中継を流したり、母に怒られる覚悟でビールを出したりしていた記憶があります。

でもその辺りの記憶が曖昧で、きっかけが何だったのか細かいことは思い出せないのですが、気付けば私達は小人のおじさんとずいぶんと仲良くなっていました。

母が帰ってこない夜、泣き続ける妹を前に私は途方に暮れていたことがよくありました。

そんな時、おじさんが現れて妹と遊んでくれることが何度もありました。

どこからともなく現れて、妹の前に立って手を振っていたりします。

妹はおじさんが現れるだけで笑顔になりました。

私にとってはそれが本当に救いになりました。

そんな私の気持ちが分かるのか、おじさんは妹の機嫌を取りながら、たまに私の方を見てニッコリと笑ってくれました。

おじさんは話は出来ないようでした。

私達に何かを伝えたいときは指差しやジェスチャーを使っていました。

そして体を触られることを嫌がりました。

妹はおじさんを抱っこしようと何度か試みていましたが妹が手を伸ばしても、その手をスルッとすり抜けて逃げていました。

おじさんにとっては私達は巨人ですから、力加減を間違えれば怪我をさせることもあるかもしれません。

触られることには危険を感じたのだと思います。

母が帰ってこない日がどんどん多くなっていき、代わりにおじさんが現れる日が増えていきました。

しかしなぜおじさんが私達の前に現れるのか不思議に思うこともありました。

おじさんは妹の遊び相手をするだけで、とくに何かを得ている訳でもありません。

ある日には、妹がおじさんと一緒に布団で寝ると言い出しました。

おじさんは困った顔をしていましたが、仕方がないなと、妹の隣にコロンと横になりました。

布団に入っている時のおじさんの緊張した顔が面白くて、私は笑いを堪えながら見ていました。

やがて妹は眠りについたと思ったら、間髪入れずにおじさんの方に向かって寝返りを打ちました。

妹の動きを警戒していたおじさんは必死の形相で布団から転げ出て、妹に潰されるのを回避していました。

ふーっ(汗)、という感じでおじさんは私の方を見上げました。

おじさんが潰されそうになって私もドキっとしましたが、おじさんの必死な顔を思い出してまた笑ってしまいました。

「おじさん、いつもありがとう」

私はおじさんに言いました。

おじさんはニッコリ笑って、私に何か言いました。

声は聞こえませんでしたが、口の形から

「大丈夫」

と、そう言ったんだと思います。

  

ほんの一時ではありましたが、そんな和やかな日々を過ごしていました。

しかし、そんな不思議なおじさんとの生活は長くは続きませんでした。

  

  

その夜、私は妹をお風呂に入れていました。

「今日はおじさん来ないね」

私に体を洗われながら、妹が寂しそうに言いました。

お風呂に入ると、妹の体を洗い、妹を湯船に入れてから自分の体を洗うのがいつもの手順でした。

妹を湯船に入れて、自分の髪を洗っていたときです。

妹が「あっ、おじさんだ」と言いました。

私はおじさんがお風呂の中に現れたのかと思い驚きました。

それまでお風呂に現れたことはありませんでしたし、流石に入浴中には入ってきて欲しくありません。

慌ててシャンプーを洗い流して、足元を見回しました。

しかし、おじさんの姿はありません。

「え?どこ?」

聞きながら妹の方を見ると、妹はお風呂の入り口のドアの方を指差していました。

ああ脱衣所にいたのかと思い、ドアの方を振り返って、

私は軽く悲鳴を上げてしまいました。

それはお風呂のドアの、スリガラスのすぐ向こう側に立っていました。

ガラスに貼り付くほど近くに立っているので、スリガラス越しでも姿形が結構はっきり見えました。

顔は、あのおじさんでした。

でもいつもの小人のおじさんではありませんでした。

小人ではなく、大人のおじさんでした。

そして、服を着ていませんでした。

「おーじーさん!」

妹がいつもするように、おじさんに呼びかけました。

ゴンッと音を立てて、おじさんはスリガラスに額を押しつけ、私達をじっと見下ろしていました。

私は目の前の状況が理解できず混乱しました。

顔はいつものおじさんです。あの小人のおじさんです。

でも今ドアの向こうに立っているのは、自分よりもずっと体の大きい中年男性です。

お風呂には逃げるところも隠れるところもありません。

私は咄嗟にドアを内側から押さえて、震える声で言いました。

「入ってこないで」

おじさんの目線が左右に動き、スリガラス越しにお風呂の中を見渡しているように見えました。

私は全身の毛が逆立つのを感じました。

いくらスリガラスに額を擦り付けても、向こうからは中の様子はボヤけて見えないはずですが、それでもかなり気持ちが悪かったです。

「あっちに行って!!」

私がそう叫ぶと、おじさんはゆっくりドアから離れて見えなくなりました。

私は体が震えてしばらく身動きが出来ませんでした。

私一人であれば、母が帰ってくるまでお風呂に籠っていたかったくらいですが、妹が逆上せてしまうのでそう言うわけにもいきません。

私は本当に恐る恐るお風呂から出ました。

家の中にはもう、おじさんはいませんでした。

  

その夜は眠れませんでした。

色々な考えが頭の中を巡りました。

おじさんにはいつも救われていました。

いつしか私は、おじさんの存在に依存さえしていたように思います。

でも結局は得体の知れない、深く関わってはいけない存在だったのかも知れない。

でも、別に危害を加えられた訳ではないし、、

理屈は分からないけど、たまに大きくなってしまうことがあるだけなのかも。

いやでも、服を着ていなかったことはかなり引っ掛かる。

私の中で、何とも言葉に出来ない不快感が広がっていきました。

おじさんはいつも妹と遊んでくれました。

妹が幼いからだと思っていました。

おじさんが妹と遊んでくれると、妹は機嫌が良かったのです。

夜二人きりのときに妹に泣かれるのは本当に辛くて、私も泣いてしまいそうになりました。

妹のことを放り出して、一人で母を探しに行こうかと思ったこともありました。

だから私の心が折れないように、おじさんは助けてくれているのだと感じていました。

でももし、そうではないとしたら、、

私の妹は可愛いです。

私と違って、顔は母によく似ていました。

親バカ(姉バカ?)かもしれませんが、七歳当時から既に、美少女と呼んで差し支えないと思われるくらい可愛いかったです。

妹と戯れて、いつもニッコリと笑っているおじさん、

私は子供ながらに、そこに不快な思惑があるように感じてしまいました。

母には、おじさんが私達の家に現れることは秘密にしていました。

でも私は、本当は取り返しのつかないことをしていたのではないかと不安になりました。

母が帰ってきたら、おじさんのことを話そうと思いました。

母がどんな反応をするか不安でしたが、私一人では抱えきれない状況にあるように思いました。

私は一睡もせずに、布団の中で母の帰りを待ちました。

  

ところがその日、母は朝になっても帰ってきませんでした。

それまで母はどんなに遅くなっても、どんなに酒に酔っていても、必ず明け方には家に帰って来ていました。

朝になっても帰ってこないのは初めてでした。

朝起きて、母がいないことを知ると妹は泣きました。

大丈夫、もうすぐ帰ってくるからと妹をなだめながら、私達は家で母の帰りを待ちました。

その日は日曜日で、母の仕事も休みのはずでした。

しかしお昼になり、夕方になっても母は帰ってきませんでした。

今思えば、もっと早く近くの大人に助けを求めればよかったのだと思います。

祖父母とは全く交流が無く、連絡先も知りませんでしたが、友達の親や、日曜日とは言え学校に行けば先生の誰かがいて話を聞いてくれたかもしれません。

でもそのときの私には出来ませんでした。

母が帰って来ないことを他人の大人に相談するなんて、そんなことをすれば、

もしかしたら私達家族はもう一緒にはいられなくなるかもしれないという恐怖感がありました。

その時の私は、この家で母が帰ってくるのをひたすら待つことだけが、私達三人がこの先も家族でいられる唯一の道だと感じていたのだと思います。

しかし泣き叫ぶ妹をなだめ続けるのも限界があり、

私は結局どうにも出来なくなって、部屋に籠ってしまいました。

そしてその夜もおじさんは現れました。

朝からずっと泣いていた妹の泣き声が急に聞こえなくなったので、疲れて寝たのかと思いましたが、

しばらくすると、今度は妹のクスクスと笑う声が聞こえました。

私が様子を見に行くと、妹は人形を持ち出して一人で遊んでいました。

そして私の方を見上げて言いました。

「おじさんが来たよ」と、

どこにいるの?と聞くと、不思議そうな顔で自分の目の前を指差しました。

妹が指差す先には何もいませんでした。

どう言う訳か、妹には見えているおじさんの姿が私には見えなくなっているようでした。

私は妹に、もうおじさんと遊んでは駄目だと言いました。

妹はキョトンとした顔をしていて、私の思いは伝わっていないようでした。

妹の前にいるのが、いつもの小人のおじさんなのであれば、私が追い払うことも出来たのかもしれません。

しかし見えないことにはどうすることも出来ませんでした。

私は本当にダメな姉です。

妹のことを放っといて、また一人で部屋に籠ってしまいました。

  

かなり夜も遅い時間になっていたと思います。

妹に呼ばれて顔を上げました。

妹は私の目の前に座っていて、

私の目を真っ直ぐに見て言いました。

「お姉ちゃん、わたし、おじさんとお話しできたよ」

おじさんとお話し?

心臓がドキンとしました。

やっぱり妹を放っておいたのは不味かったと、後悔しました。

「おじさん、お母さんのいるところ知ってるって、

お母さんのところに、連れて行ってくれるって」

だめだよ。

そう言おうとしましたが、息が詰まって声が出ませんでした。

「それからね、おじさんはね、

本当はわたしのお父さんなんだって」

妹の言葉を聞いて、一気に頭に血が昇るのを感じました。

「バカッ!!そんなわけないでしょ!!」

突然怒鳴りつけられた妹は驚いた表情を見せましたが、それでも目を逸らさずに真っ直ぐに私を見ていました。

そしてその目にどんどん涙が溜まって、

あっという間にポロポロとこぼれ出て来ました。

私も涙が溢れそうでした。

あれはお父さんじゃないよ

泣いてしまいそうになるのを何とかこらえながら、そう言うのが精一杯でした。

妹は父の顔を知りません。

物心つく前に亡くなったからです。

なぜか私達の家には、父の写真がありませんでした。

でも私は父の顔を覚えています。

あのおじさんが亡くなった父だなんて、絶対にありえません。

私は自分を責めました。

私がしっかりして、妹を守ってやらないといけないのに。

私は妹を連れて母を探しに行くことにしました。

探しに行くといっても宛はないのだけど。

でもこれ以上、家でじっとしていれば、またおじさんが来て妹を連れて行こうとするかもしれません。

妹に上着を着せて、玄関の框に座って靴を履いているときです。

背後で何かの気配がしました。

ミシッ、ミシッという、この家では聞いたことのない、重量感のある大人の足音が聞こえました。

靴紐を結ぶ手を止めて振り返りましたが、誰もいません。

誰もいないのに、

ミシッという床が軋む音と、

スゥ、、、ハァ、、スゥ、、、ハァ、、という生々しい息遣いが聞こえました。

私は震える手で靴紐を結びました。

「…お姉ちゃん」

隣に座っていた妹が何か言おうとしましたが、私は無視して立ち上がりました。

「いいから早く靴を履いて!」

妹は後ろを気にしながら靴を履き、

そして不安そうな声で言いました。

「お姉ちゃん、おじさん、なんで怖い顔してるの?」

私は妹の手を掴んで玄関のドアを開けました。

そしてカギも締めずに、アパートの廊下を走りました。

アパートの前の道まで走って出てきたところで、立ち止まって妹の方を振り返りました。

妹の手をぐいぐい引っ張って走っていたので、ごめん、痛くなかった?と聞きながら妹の顔を見ました。

妹は私から目線を逸らして、2階の私達の部屋の窓の方を見ていました。

私も妹の目線の先に目を向けましたが、真っ暗な居間の窓が見えるだけです。

「何を見てるの?」

妹に聞きましたが、妹は答えませんでした。

「お家の中に、おじさんいる?」

妹は私の顔を見て、こくんと頷きました。

「こっち見てるよ」

妹の言葉を聞いて、変な話ですが少しホッとしました。

おじさんは外までは付いて来てはいないようです。

しかし暗い居間の窓から私達を見下しているおじさんの姿を想像すると、ゾワゾワと鳥肌が立ち、体が硬直しました。

そしてずっと我慢していた涙が溢れてきて、私は声を出して泣いてしまいました。

私達はもうあの家には帰れないんだと、その時思いました。

  

  

その後、自分達がどこに向かって、どこをどう歩いたのか覚えていません。

私と妹はあの日、深夜に号泣しながら外を歩いているところを警察に保護されました。

私達は児童養護施設に預けられました。

何日かを施設で過ごし、精神的にも落ち着いてきたころ、

父方の祖父母が施設を訪れ、私達姉妹を連れて帰りました。

祖父母曰く、私達とは父の葬儀のときに会っていたそうですが、私はまだ小さかったので顔も覚えておらず、私達にとってはほぼ初対面のようなものでした。

突然知らない街で知らない家族と暮らすこととなり、私も妹も最初は戸惑いましたが、祖父母は優しく穏やかに私達を迎え入れてくれました。

当時祖父母はまだ50代で現役世代でした。

普通の家庭とは言えないのでしょうが、ごくごくまともに私達を育ててくれました。

母があの日帰って来なかったこと、さらに施設にも迎えに来なかった理由を私は聞いていません。

私の耳に入らないということは、あまり納得の出来るような理由では無いのだろうと思います。

私が中学のときに、母が私達の暮らす祖父母の家を訪れました。

私は会いたくなかったので会いませんでした。

そのときに母からは、また一緒に暮らしたいという申し出があったそうです。

正直迷いました。

しかし、二人きりで母の帰りを待つ心細さは私にとってはトラウマになっていました。

それに、その時の平穏な暮らしを壊したくない思いの方が強く、

私は母と再び一緒に暮らすことは拒否しました。

あれから20年が経ち、今はもう私達姉妹はそれぞれ独立して別々に暮らしています。

  

ここまで長々と、昔話を聞いて頂きありがとうございました。

この話は今まで人に話したことはありませんでした。

自分自身で思い返しても、支離滅裂な妄想のような話ですし、聞いている方もあまりいい気持ちのする話ではないと思います。

でも今回この話をさせて頂いたのには理由があります。

20年前に私達姉妹の前に現れた小さいおじさんは、祖父母の家に来てからは見ていません。

私と妹の間でも、あのおじさんの話をすることはほとんど無く、私もおじさんのことは忘れていたわけではありませんが、もう思い出すことも無くなっていました。

ところが先日、久しぶりに妹に会ったときに聞いたのです。

最近、一人暮らしをしている妹の家に小さいおじさんが現れると。

妹自身、当時の記憶はかなり薄れているようですが、多分あのときのおじさんだと思うと言っていました。

しばらく前から、妹は職場の人間関係で悩みを抱えていました。

先にお話ししましたが、妹は母に似てかなり美人です。

それでいて性格は控えめで大人しいものだから、なんと言うか、変な男に目をつけられることがしばしばありました。

今の職場でも、上司に変な気に入られ方をして、執拗に食事に誘われたりしたそうです。

大人しい妹が何とか誘いを断ると、それまで気持ち悪いくらいに贔屓にしていたのに、急に極端に厳しく当たられるようになったそうで、妹はかなり追い詰められていました。

ところが最近、その上司が突然異動になり、妹にとっては職場の環境がかなり良くなったそうです。

妹は、小さいおじさんのお陰かもしれないと言っています。

「お姉ちゃん知ってる?私達以外にも小さいおじさんを見た人って結構いるみたいだよ。

ネットで調べたら、妖精なんじゃないかって説もあるんだって。

それに小さいおじさんに出会うと幸運が訪れるって話もあるんだよ」

妹は楽しそうに話していました。

あの20年前の夜、おじさんに感じた恐怖を私は記憶に深く刻んでいましたが、

妹には、一緒に遊んでくれた優しいおじさんの方が記憶に強く残っていたようです。

私もテレビやネットで「小さいおじさん」のことは見ていました。

妹の言うような話があるのも知っています。

でも私は、妹にこれ以上おじさんと深く関わって欲しくありません。

結局おじさんの目的は分かりませんでしたが、あの当時、母が家に帰ってこない不安や心細さを抱えていた私達の心の隙間に入り込み、

何よりも父の顔を知らない妹に、自分が父親だなどと、卑劣な嘘を吹き込もうとしたことが私には許せません。

やはりあれは妖精などではないと思うのです。

20年を隔ててまた、心の弱っていた妹の前に現れたことに不吉な予感を拭うことが出来ません。

何とか妹からおじさんを遠ざける方法はないのでしょうか。

現状ネット検索するくらいしか調べる術がありません。

そもそも「小さいおじさん」が何か害を及ぼしたという話自体が無いので、当然ながら追い払ったり退治したりする方法も何処にも載っていないのです。

それに、小さいおじさんが大きくなったという話も見当たりませんでした。

これは霊能者、霊媒師と呼ばれる人に相談するべきなんでしょうか。

しかしそのような人のツテはありませんし、どのような人が信用できるのか判断できません。

オカルトや都市伝説に詳しい方の中になら、何か情報をお持ちの方がいらっしゃるかもしれないと思い、お話しさせて頂きました。

妹は優しい子です。

いつも二人きりで過ごしていたあのアパートで、私は妹に優しくなんか出来ていませんでした。

私は心細くて、余裕がなくて妹に辛く当たったこともたくさんありました。

一番辛い思いをしていたのは妹なのです。

それでも妹は許してくれました。

私が結婚するときに、

「お姉ちゃんも不安だったはずなのに、いつも私のことを気に掛けてくれたよね。感謝してるよ」

と言ってくれました。

妹には、絶対に幸せになってもらいたいのです。

今おじさんから妹を守れるのは私しかいません。

もし何か情報をお持ちの方がいらっしゃれば、教えて頂けないでしょうか。

どうかよろしくお願いします。

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