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20年09月怖話アワード受賞作品
長編11
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屋根裏部屋

不動産会社で働いてたときの話。

その会社に面白い先輩がいたので、その人の話をします。ちなみに先輩は女の人です。

  

ある日の午後、

お客さんを賃貸アパートへ案内していた先輩が、

案内を終えて事務所に帰ってきた。

契約が取れたときはいつも、

「いえーい、決まったよーん♪」       

なんて分かりやすく浮かれて話しかけてくる先輩なのだが、その日は

「おつかれさまでぇす」

と独り言のように力なく呟いただけで席についた。

契約取れなかったんだな、と察しつつ事務仕事を黙々と進めていた俺に向かって先輩は唐突に話し始めた。

  

「今日さぁ、部屋案内してたらインターホンのチャイムが鳴ったの」

   

部屋を案内中にチャイムが鳴る事はたまにある。

他の不動産屋が別のお客さんを案内して来てかち合ったり、近くに住んでる物件のオーナーが様子を見に来たりとか。

  

「わたしインターホンの受話器を探して、はい何ですか?って喋ったんだけど全然何も聞こえなくて。お客さんと、何ですかねーなんて話しながらそのまま続けて部屋を見てたの。

そしたらまたチャイムが鳴って、また受話器で、何ですか?ってやるんだけど、何にも聞こえないのよ。すいません案内中なんですけど、とか言っても何にも返事がなくて、そんで玄関まで見に行ったんだけど誰もいなかったの。

お客さんと、イタズラですかねー、とか話してたんだけど、そこで気がついたの。その部屋日当たり良くて照明つけなくても明るかったから、私電気のブレーカー上げてなかったんだよね。

ブレーカー上げてないのに受話器で何ですか?とか言って、そりゃ何にも聞こえないよね(笑)」

  

おっちょこちょいエピソードとして話す先輩。

「でも先輩、ブレーカー上げてなければチャイム自体鳴らないですよ。電気が通ってないんですから」

  

先輩はちょくちょくこの手の不思議現象に遭遇する人で、それでいて天然のため不思議さに気づかないという面白い人だった。

  

気づかない先輩に分かりやすく指摘したつもりだったけど、先輩はすごくピンときてない顔をしてた。

俺は、あぁ分かってもらえてないな、と感じてたら案の定、

「じゃあやっぱりインターホン故障してたんだね。 ピンポンピンポンピンポンピンポン!てすごい連打されてる感じで鳴っててさ、何かおかしかったもん。」

  

いや故障とかじゃなくて、電気が来てないからチャイムが鳴る事がありえないんだって、しかも何その鳴り方、怖いわ。お客さんもビビってたでしょ。

って突っ込んでやっても、

「そーなんだよねー。お客さん、この部屋はやめますって言って帰っちゃったんだよね。やっぱインターホン壊れてるとか印象悪いよね、その他は結構いい部屋だと思ったんだけどねー。」

とお客を逃したことを悔いるばかりで話が噛み合わない。

  

大体いつもこんな感じで、他にも微妙に不思議な先輩のエピソードがいくつかあるんだけど、先輩は天然だからなのか、不思議がるとか怖がるとかそういう感覚が欠如している変な人だった。

その先輩のエピソードの中でも特にヤバかった話をします。

これは俺も先輩と一緒に体験した出来事です。

前置き長くてすいません。ここから本題です。

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先輩が担当してたそのお客さんは、一戸建ての貸家を探していたんだけど希望条件に合う家が見つからず、新しい物件情報が出るまで気長に待とうということになって、一旦部屋探しを中断してた。

家族4人で、子供が転校しなくていいようにするには引っ越し出来る地域が限られていたので、なかなか新しい情報も出てこなかった。

先輩は天然だけど明るく朗らかな性格で見た目も結構かわいい方だったのでお客さんからは人気があった。

このお客さんにもマメに連絡を取ってて、かなり信頼されているみたいだった。

梅雨のころ、賃貸の不動産屋は比較的暇な時期。

そのお客さんから先輩に電話があった。

話の内容は、

近所に空き家があり、それが実は知り合いの所有している家だとわかった。

その知り合いに聞いてみたら、そこは一年程前に親から相続した家で、親が生きていた時には貸家として貸していたが、今は空き家になっている。

室内は多少の修繕が必要だが問題なく住める状態で、また貸家にしたいけど修繕工事の手配先とか管理してくれる不動産屋のアテもなく、いろいろ面倒で放置状態になってた。

〇〇さん(お客さんのこと)が住みたいなら相場よりも少し安い家賃で貸してもいい、

と言われているとのこと。

それで先輩に契約の手続きや家賃の設定、修繕工事の手配などの諸々をオーナーとの間を取り持ってやってくれないかと言う相談だった。

なかなか珍しいケースで、ちょっと面倒くさそうな感じもしたが、儲かりそうだし何よりお客さんから頼りにされているわけなんで、先輩はその依頼を張り切って引き受けた。

それで先輩はお客さんに、肝心の家は気に入ったのか聞いてみた。

お客さん曰く、その知り合いに鍵を借りて家を見に行って来たが、家はかなり気に入ったらしい。少し古いが造りがしっかりしてる。広さも申し分ない。立地も静かな場所で良いとのこと。

ただ一点不満というか、修繕工事の時にやって欲しい事がある。

屋根裏部屋があってその部屋の壁に等身大サイズの人の絵が描いてあった。 絵が飾られてたんじゃなく、直接壁に描かれていたらしい。

窓もない部屋で暗いのもあり、正直気味が悪いから工事の時に絵は消して欲しい。

でも気味が悪いとか直接知り合いに言って角が立つと嫌だから、その辺は先輩からやんわりと先方に伝えて貰いたい。

とこんな話だった。

屋根裏部屋の壁に人の絵って、そりゃあ気持ち悪いよね。ていうか何でそんなの描いてあるの?俺だったら気味悪いからそんなとこ住みたくないな、とか思ったけど、先輩は

「分かりました!じゃあ先ずは現地確認してオーナーさんとお話ししてみますね!」

って明るく答えてた。

俺はこの時点で、先輩が何か変なものを引き寄せてるんじゃないかと不安になった。

先輩に現地確認に一緒に来るように頼まれたときは、嫌な予感がするから断ろうかと思ったけど、先輩のことも心配ではあったし、多少の好奇心もあり同行することにした。

不動産屋として賃貸物件を仲介するにあたっては、その家の間取りや設備関係を把握する必要があるので、初回の現地確認は結構手間がかかる。広い家らしいので二人で見に行った方がいい。

先輩と俺はオーナー宅を訪問し挨拶をした後、鍵を借りてその家を見に行った。

  

その家は確かに広く造りも良いと感じた。

最初から貸家にしようとして建てた家ではないのは確かだと思った。建てた人の思い入れというか、こだわりを持ってお金をかけて作った家という感じだった。

ただ梅雨時だからだとは思うが、異様に濃い湿気が充満していた。庭木も手入れされておらず葉が生い茂って太陽の光を遮っており、全体に影のある印象だった。

先輩は、「確かに広さと立地はいいけど、今まで希望を聞いて探してた家の感じとは違うなぁ。敷地内の駐車場も必須だって行ってたのに、ここは駐車場ないし。お客さん本当にここでいいのかな。なかなか家見つかんなくて焦って妥協してるんじゃないのかな」 とお客さんのことを心配していた。

一階の居間から順に、台所、風呂、トイレ、と間取りや修繕工事が必要なところをチェックしながら室内を見ていった。築年数なりに手入れが必要なところはあるが大きな工事をする必要はなさそうだった。

先輩と俺は手の込んだ装飾が施された階段を上り、2階へと上がってきた。

  

二階の廊下の一番奥の突き当たりに、襖貼りの開き戸(ドア)があり、その開き戸の扉を開けると更に上階へつながる幅の狭い階段が出てきた。

これが屋根裏部屋の入り口らしい。

ちょっと階段を隠している感じが余計に気持ち悪いなと思った。

俺は階段の下から真っ暗な屋根裏を覗きつつ、ゴキブリの出現を恐れて階段を上がるのを少し躊躇していたけど、先輩はそんな俺の横をすり抜けて、まるで実家の自分の部屋に入るかのように軽快に階段を上り、真っ暗闇の中に消えていった。

俺はその後を追ってビビリながら階段を上り屋根裏部屋に入った。

  

屋根裏部屋は結構広く8帖くらいの広さがあったと思う。天井は屋根に合わせて斜めになっていて一番高いところでは大人でも立ち上がる事が出来る高さがあった。

ただ窓も無いし灯りも小さな白熱球が一つ、弱々しくついたり消えたりしているだけなので全体的にかなり暗く、物置としてしか使えなさそうだった。

「へえ、屋根裏結構広いねぇ。ていうか絵なんてないんだけど」

先輩が薄気味悪い雰囲気の部屋の中で、雰囲気に合わない明るいテンションで話しかけてくる。

確かにお客さんに言われたような絵はなかった。

そのかわり部屋の壁に、何か黒い布が掛けられていた。暗くて携帯のライトで照らしながら見ているような状態だったので、それが男性用の黒い和服であることが分かるまで少し時間がかかった。

お客さんはこの和服を人の絵と勘違いした?

ちょっと考えづらいけど、他にそれらしいものもないし、他の部屋にも絵なんてなかった。

先輩と、きっとこの和服を絵と勘違いしたんだろうと結論付けて、俺たちは現地確認を終えてその家を出た。

釈然としない部分もあるけど、ただの着物であればオーナーに片付けてもらえば済む話なので、壁に絵が描いてあるより対処は簡単だ。

オーナーのところに鍵を返しに戻り、その時に和服のことをオーナーに伝えた。

オーナーは

「え?和服?そんなの残ってた?悪いね、忙しくてろくに中も見てないんだよね。今度確認しとくよ。ちゃんと片付けとくから、〇〇さんに伝えといて」

というわけで屋根裏の件は解決、面倒事が一つ減ってよかった、なんて話しながら先輩と俺は事務所に帰った。

  

事務所に戻り、先輩はお客さんに電話で現地確認の報告と、屋根裏の件について話しをした。

お客さんは先輩から和服を壁に描かれた絵と勘違いしていたのではと伝えられ、最初は納得してなかったが、その他に絵らしきものもなかったと聞かされ、じゃあ自分の勘違いだったのかも、そもそもどんな絵だったか記憶も曖昧。とか、ぼんやりしたことを言い出して、とりあえず壁の絵のことはもう良しということになってた。

それで、家賃や修繕工事について、先輩とお客さんとオーナーで、一度現地で打ち合わせをしようということになった。

俺はもうあの家には行かないつもりだったけど、修繕工事については俺の方が先輩よりも知識があったので、先輩から同席して欲しいと頼まれて、結局再度その家に行くことになった。

  

  

  

後日、その家に先輩と俺、

お客さん(貸家を探して先輩に連絡してきた顧客)と

オーナー(その家の持ち主)の4人が集まった。

どこを直すとか、庭の木は切った方がいいとかあれこれと打ち合わせを進めていく中で、

俺はオーナーに、

「前回お話させてもらった和服の件は、もう対応して頂いてますか?」

と問いかけた。

するとオーナーから

「そうそう、それも話したかったんだけど、言われてた和服ってさ、どこにあるの?探したけど見つからないんだよね。」

という返答。

「屋根裏部屋にありませんでしたか?」

と言っても、オーナーは困った顔をするだけで、

「ちょっと今教えてよ。どこにあったの?」

と俺に案内を促してきた。

俺はまたあの屋根裏部屋に行くのは嫌だなと思ったけど仕方がないので、

「こっちですよ」

と2階の廊下の奥へ進んで行った。

  

そして2階の廊下の突き当たりまで来たところで、

俺は絶句してしまった。

お客さんも後ろから一緒に付いて来ていて同じようにフリーズしてた。

  

前回来たときには有った屋根裏部屋に続く階段も、

その入り口の開き戸も無くなってた。

  

開き戸があったはずの場所はただの白い漆喰塗りの壁になってた。

  

俺とお客さんはしばらく固まったあと、

「あれ?え?あれー?」て感じで混乱気味に階段を探し回った。変な汗が頭からダラダラ流れてきてた。

後から来た先輩だけが平然と、開き戸があったはずの場所の白い壁に手を当てて軽く叩いたりしてた。

  

「この家、屋根裏部屋なんかないんだよね。あんたらも〇〇さんも、どこの部屋を屋根裏と勘違いしたんかね」

オーナーが問いかけてきたが、俺は頭が混乱していて生返事することしか出来なかった。

たいそうこの家を気に入っていたお客さんもそこからは急に無口になった。

多分お客さんも、あの屋根裏部屋に入ったんだと思う。

外に出て、前回家の中を確認した時に自分で書いた間取り図と建物の外観を照らし合わせながら、屋根裏部屋の階段にあたる場所を見てみたが、2階の廊下の突き当たりのその先は外だった。

つまり、階段が通るスペースはない。

扉が壁に早変わりするカラクリ屋敷ではないことが分かったので、引き続き修繕工事の話を進めようとしてる空気の読めない先輩に早々に打ち合わせを切り上げるよう促した。

お客さんも同じ考えだったようで、

「実はこの後用事があって時間があまりないから、あとは〇〇さん(先輩のこと)を通して連絡します」

とかそんなことを言って打ち合わせはすぐにお開きになり、俺と先輩とお客さんはそそくさとその家から退散したのだった。

   

  

次の日、お客さんから連絡があり、あの家に住むのはやめると申し出があった。オーナーに上手く伝えて欲しいと。

先輩は契約にならなかったことを悔しがっていたけど、俺はこれでもうあの家に関わらなくて済むのでホッとしていた。

あの家は絶対無理でしょ、お客さん住むのやめて正解ですよ、と先輩に言ったら、

「確かにねぇ。屋根裏の入り口無くなってたもんねぇ」と、

天然の先輩も流石にその時は事の異常性を認識しているようだった。

先輩は続けて

「でも屋根裏部屋の入り口は壁になっちゃってたけど、壁の向こうに階段はあると思うんだよね」

と言い出したので、

「いや、俺外に出て階段がある場所を確認しましたけど、あの壁の向こうはもう外でしたよ。つまり階段が通る場所がないんですよ。あそこに階段はないです。」

俺もあの屋根裏部屋に入ったのに否定するのは矛盾してるけど、その時は客観的に屋根裏部屋の存在を否定して、あの家と屋根裏部屋との関わりもなかったことにしたい気持ちだった。

「でもね、あのとき私があの壁に近づいて壁をちょっと叩いてみたらさぁ、聞こえたんだよね。

壁の向こうから、誰かが階段を降りてくる足音が」

  

怖がる様子は一切なく、ただ真顔で話す先輩にうすら寒いものを感じて鳥肌が立った。

やっぱりこの人が引き寄せたんだろうなと思った。

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@やしろ食堂 さん
私の投稿を読んで頂きありがとうございます!
そうですね。皆さんに忘れられないうちに何か書きたいと思います。
いい話が出来たら投稿しますので、その時は是非また読んで下さい!

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先輩は非常に魅力的なキャラクターですね。単発の作品で失うには勿体ないので、是非とも今後の作品にも登場することを期待しています。

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@天津堂 さん
私の投稿を読んで頂き、またコメントまでして頂きありがとうごさいます!
先輩の話、他のエピソードはとくに考えてなかったのですが、このようにお褒めの言葉を頂くと、嬉しくて書いてみようかなって気になってきますね。先輩のキャラを活かせそうな面白いネタを考え出せればいいのですが。

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@Y・Y さん
はじめまして。私の投稿を読んで頂き、またコメントをして頂きありがとうございます。
文章として書かれている以上の「もしも」を想像して頂けているというのは嬉しいものなんですね。
私の実力以上にY・Y さんの想像の中で物語が広がっているような気がして得した気分です。

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ふたばさん、はじめまして。
読んで頂き、またコメントまで頂きありがとうございます!
天然に見えるのは実は防衛本能?!
すごいですね!そんな深い設定考えつきませんでした。
ただ飄々としたキャラクターをイメージしてて、怪現象が起きても全然ピンと来てない人っていう設定になり、それを簡単に「天然」と説明してたんですが、防衛本能ですか、何か急に闇が深くなった感じがしますね。
自己防衛!そういうことにします。

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猫次郎 さん、はじめまして。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
その上コメントまでいただき本当に嬉しいです!
何か自分で何回も読み返してると、大した展開もないのに長い話やなぁと、皆さん途中で読むのやめちゃうんじゃないかと不安になってました。
猫次郎さんにフォローして頂いて少し安心できました。
どうもありがとうございます!

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