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彼岸花はまだ咲いているか①

中編5
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彼岸花はまだ咲いているか①

彼岸花はまだ咲いているか①

 かごめ かごめ

 籠の中の鳥は

 いついつであう

 夜明けの晩に  

 あかの花が枯れてった

 うしろのあなたはだあれ

5歳になりたての私は、かごめかごめをなぜかこう歌っていたらしい。

母親は不気味に思って保育園に抗議をしたが、

senaちゃんだけなんです。と言われたそうだ。

母は私にちゃんと本当の歌詞で歌うように言ったらしいけど、私はそれが何故いけないことなのかも、どうして正しくないかもわからなかった。

粘土で好きなものを作るという、よくある保育園の作品展で、私は精巧な墓を作った。

その時も、周りは動物や食べ物、乗り物など子供らしいものを粘土で作ったと言うのに、これには祖父母も頭を悩ませたそうだ。

極め付けは保育園のお便りノートにもよく書かれた、独り言。よく何もない虚空に向かって一人遊びをしているのを指摘されていた。その後母と祖母は私を発達障害センターに連れて行き、

適正テストを受けさせたと聞いた。のちに聞いた話だが、私の息子がそうだったら私も気になって同じ事を考えたかもしれないと思った。

変わった子

それが最初に私についた肩書きだ。

 私の通っていた保育園は、公立の保育園だったが、町の中心からは少し離れた場所にあった。

祖父の自転車の後ろに乗り、毎朝保育園までは5分ほど。最短距離を住宅街やら路地やらを抜けて通っていた。

 保育園は珍しい場所にある。

広々とした園庭と、綺麗な園舎、そこまではどこにでもある保育園なのだが、保育園のある場所は周囲を寺とその寺が持つ墓地に囲まれているのだ。世の中には、保育園を経営している寺などはたくさんあると思うのだが、私が通った保育園は全く寺と関係なくただ、その場所に公立の保育園が建っているのだ。

 寺の敷地内には、ちょっとした公園があり、その隣には仕切りもなく墓地が立ち並ぶ。

そしてその墓地群は縁を囲むように広がっていて、今考えると良くあんなところに通っていたなと自虐したくなる。

 こんな保育園に通っていたからか、昔から盆やなんかで墓参りが当たり前だったからか、私は墓に特別怖いと言った感情はなく、保育園帰りによく墓場でおにごっこやら、かくれんぼやらで遊んでいた。

 そして、その墓場には、

10月になると所狭しと彼岸花が咲き誇っていただ。その光景は、いまでも絵にかけるほど鮮明に脳裏に残っている。そして、この彼岸花が、

数十年、

私に不可思議な、

現実なのか、

夢なのか、

一切判別のつかない体験を結んでいる、

「記憶の花」なのだ。

 

その子は、いつも保育園裏の公園にいた。

保育園はスモックという、いわゆる私服の上に頭からすっぽり被って着る、制服代わりの水色の割烹着のようなものが規定だったのだが、

その子もちゃんとそれを着ていた。

だから私は、違うクラスの子だと思っていた。

保育園帰り、祖父が迎えにきた時も私はよくその子と遊びたくてせがんだ。

祖父は孫の私の言うことはよっぽどのことがなければ聞いてくれた。

私はその子とかくれんぼをしたり、

ブランコで遊んだり、

大人になった今でも鮮明に覚えているのに、

祖父は私が誰かと遊んでいた記憶はないとのちに言っていて、私は子供の頃に祖父がおかしいと思っていた。

その子は、いつも外にいた。

保育園の子であるはずなのに、外にいた。

お遊戯の時間も、昼寝の時間も、絵本の時間も、

とにかく中に入ってくることはなかった。

あの子だけ特別なのかな?

そんな感じだった。

保育園の園長は、敷地内にある寺の親族だった。

とても優しい物分かりの良いベテランってかんじで、園長室もいつもオープンになっていたから、園児もよく出入りしていた。

その園長は私の話をよく聞いてくれた記憶がある。保育園での出来事がどうとかじゃなくて、

先祖の供養の話とか、誰も信じてくれなかったような私の話も詳細に聞いてくれた。

そんな園長が唯一私に怒ったこと。

それが、その女の子の話をした時だった。

「その子の話はしてはいけないよ。

あと、遊んじゃダメ。

senaちゃんとは生きている時間が違うのよ。」

その日から、私は放課後にその子と遊べなくなった。漠然と園長先生という偉い人に言われたから、という子供の感覚からなのだが。

その子はその後もずっと私を待っているようだった。

いつもお昼寝の時間に、ホールの外でたっていたようだった。

ある日、

園長先生とお昼寝、と言うイベントがあり

ホールに園長先生も布団を敷いた。

みんなケラケラ笑ってしばらくうるさかったが、

あっという間に静かになった。

私もうとうとして半分目をつぶっていたが、

突然にそのまま身体が動かなくなった。

声も出ない。

自分の心臓の音だけが聞こえて、

次第に目に涙が溜まった。

怖いとか、恐ろしいとかの感覚ではないが生理的なものだと思う。

しばらくそうしていたら、突然、

「senaちゃん、絶対にお返事しちゃだめよ。」

と言う、園長の声がした。

頷くこともできなかったけど、私は心の中でうん、と言った。

『あそぼう。』

そんな声が聞こえたのはそのすぐ後だった。

とっさにあの子だ!と思ったけど、

私は園長先生の言いつけを守って、何も言わなかった。(実際は言えなかったのだか)

声はその後もずっと続いたが、

私は頑なに無視をして、そしてそのうちに眠りについてしまっていた。

そして目が覚めた時には、

私の隣には母親がいて、先生と何やら話したらお礼をして私を背負って車に乗せた。

なぜ母が仕事を切り上げて迎えにきたのかは、

すぐわかった。

私はその日から3日ほど熱を出したのだ。

熱が下がって保育園に復活した時には、

あの子はいなくなっていた。

代わりに、ホールの外に献花がしてあるのをみつけて、じっとその花を見つめていた私は、

ただつまんないの。と思っていた。

しばらくして、その献花も無くなった頃。

私は久しぶりに保育園の友達と放課後に保育園裏のお寺で遊んだ。

寺の境内で鬼ごっこをしていると、

併設されているお墓の中に、私はあの子を見つけた。

その子はこちらに気づくことなく、

ずっと遠くを見ているようだった。

私は声をかけなかった。

園長先生との約束をしっかり守っていた。

そのまま気づいていないふりをして、

私は友達と遊んだ。

真っ赤な花が一面に咲き誇っていて、

とても綺麗だった。

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