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中編5
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レコーダー

それは俺が大学1年生のこと。

大学生になったら彼女ができると言っていたヤツ出てこい。

俺の生活は決して自堕落であったわけではないのに、

真面目に最前席で講義に出ていたはずなのに、

そして自分で言うのもなんだが『良い人』のはずなのに、

俺の交友範囲はごく少数の同性に限られていた。

おかげであと1週間でクリスマスだというのに、なんの予定もない。

・・・いや、それは人のせいにしているだけか。

確かに女子と話せるチャンスはあった。

だが中学高校と男子校で女子と交流の無かった俺が、

いま急に、気さくに女子と話すのは難しい話だ。

考えてみてくれ。

俺が最後に女子と会話らしい会話をしたのは小学6年生の卒業式だ。

記憶の端にあったドロケイをする天真爛漫な小学生の女子達が、次に会ったときには人生でエロスを経た歴戦の威風漂う女子大生になっているのだ。

無理だろ。

一度も攻城経験のない兵士が、虎牢関に単身つっこむくらい無理だ。

・・・それはさておき最近、部屋で怪異がおきている。

俺が寝ている間に勝手に物が動いているし、首のあたりに人の手の形をしたあざが出来ている。

またあるとき、隣の部屋に住む老人(優しく綺麗な未亡人の大家ではない)から、

「にいちゃんの部屋から、毎晩深夜に変な声が聞こえるんだけどよ、

大学生だからって、毎晩飲み会やってんのか?」

と苦情を言われた。

やめろ。

彼女どころか、入学式後の1年生全体の交流会の三次会カラオケで空気を読まず冬のバラードを歌い、

曲の途中でチャラい同級(俺は悪来典韋と名付けた)に楽曲中止された俺には、部屋飲みを共にするほど仲の良い友人もまだいないのだ。

高校時代の友人に相談すると、

「それ、絶対幽霊だよ。寝てる時に録音してみな。きっと怨霊の声が聴けるぜ」

などと楽しそうに言われた。

俺は、悔しく思いながらも、素直にレコーダーを設置して寝ることにした。

下記に記録を示す。

1日目

「・・ガリッ・・ガリッ・・ズリッ・・ズリッ・・・」

まるで壁を引っ掻いたような。そして床を何かが這いずり回るような音が録音されていた。

恐ろしい。

2日目

「・・・シテヤル・・・・シテヤル」

こ、これは、典型的なヤバいやつではないか。

何シテヤルか分からないが、

アイシテヤルとかココチヨクシテヤルとはいかないだろう。

この先 俺はどうなってしまうんだ。

3日目

「オイ・・ナンダオマエ・・コイツハオレノ・・エモノダ・・・」

おや、なにやらこの幽霊、誰かと話しているぞ。

それも、なにか揉めているようだ

しかし残念にも録音はここで終わっていた。

4日目

「イヤ・・・ダカラサ・・・トリツキカタナンテ・・・スキニシタライイジャンヨ・・・」

「なんと品性のないこと・・・

あなた達、最近の幽霊は本当になってませんね。

伝統の日本幽霊の姿に敬意を払いなさい

白装束に三角巾を被り、手をだらんと垂らして、うらめしやあ。

これが一番気品のある幽霊の立ち振る舞いなんです。」

「ソンナコトイッタッテ・・・イマドキ・・ウラメシヤナンテイワネエヨ・・」

「はい出ました。次に『今どき』って言ったら消滅させますよ。」

「ユウレイ ガ ユウレイヲ ジョレイ ナンテスンナヨ」

ここで録音は終わっていた。

どうやら、おしつけがましい別の幽霊が現れたようだ。

5日目

「ウ、ウラメシヤ・・・」

「声に気持ちが入ってない!」

「ウラメシヤ・・・」

「手の角度はこう!」

「・・・・・」

「返事しろ!!」

・・・なんか叱られている

そして率直な感想だが、

以前に大学の部外講話に来た、

自称優秀なマナー講師によく似ている。

6日目

「だから変な台詞を挟むなって言ってるでしょう!何回言ったら分かるんだ!

それと、関節を逆に折っておどろおどろしさを出そうとするのも気品がないから禁止!!」

「デモ イママデ コレデ コワガラレテタシ・・・」

「もし品良くやっていたら、もっと怖がられたんです。

そんな下品な振る舞いをする幽霊を心から怖がれません・・・人間は!!」

「ソウカナァ・・・アンタ ホカノユウレイカラモ キラワレテイルンダロウナ」

「そんなことない!!それに言葉遣いも本当に下品!!

なんていうか、うん、お里が知れるってやつだわ。

あなたのお母様もさぞかし苦労したのでしょうね」

「ウルセエ テメェ オイタチ ヤ オヤ ヲ ダスンジャネエ」

「なんて汚い言葉を・・・もう許し難いわ (呪文)」

「ギャアアアアアア」

ここで録音は終わっていた。

部屋の様子は寝る前のままだし、身体に異常はない。

よくわからんけど、解決したのだろうか。

しかし念のためもう一日だけ録音しておこうか・・・

7日目

朝、目が覚めると、真っ先に枕元のレコーダーを再生した。

「ふふ・・・うらめしやぁ・・・うらめしやぁ・・・うらめしやぁ・・・うらめしやぁ・・」

おお。本当に「うらめしや」一本で勝負しているぞ。

・・・しかし、レコーダーはまだ不穏な様子を録音していた。

「うん?また品位のない幽霊が現れたものね。

そんな赤い服に身を包んで・・・」

「おやおやおや・・・」

「随分と余裕な様子じゃないの 

いいかげん下品な霊と関わりたくないから、さっさと消滅させてやるわ・・・(呪文)」

「おやおやおや おやおやおやおやおや・・・」

「な、私の呪文が効かない!?」

「ここで私達が出会えたことは奇跡なのです・・・」

「か、身体を・・掴まれて・・なんですかその袋は・・・す、吸い込まれる・・・・・や、やめなさい・・・」

「愛です 愛ですよ・・・」

「ん、んなあ・・・・」

「アナタに主の祝福がありますように・・・」

・・・ここで録音は途切れていた。

ふと壁の方に目をやると、

昨夜、壁に釘で据えていた長靴下がこんもりしている。

おそるおそる中を探る

三角巾を被り白装束を纏った女の人形が出てきた。

・・・・怯えた表情がとても可愛い。

俺はその人形をギュッと抱きしめて

思わず呟いてしまう

「あああ・・・来年からは 

この子とクリスマスイブを過ごせそうだ・・・」

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@いも
おおぅ・・・ミス テイク!

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@いも
ググりました。しょういちさんですか?
同じ発音とは?

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