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中編6
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林間学校(Nの視点)

これは私の中学時代の林間学校の悪夢のような話です。

私の学校では毎年林間学校になるとG県に行くことになっており、私の年も例年通りの旅程なはずでした。

ところがおかしなことにバスは高速を別方向に走り、やがてG県ではない、他県の出口に降りました。

バスの中で担任の先生が

「泊まるはずのホテルが火災になった。だから今日は別の場所に泊まることになったぞ」

当時は携帯電話もありませんから、親に連絡を取ることもできません。

私達は担任の言う事を聞くしかなかったのです。

そしてバスは国道から細い脇道に入り、山道のような薄暗く荒れた道を長い時間走りました。

しばらくしてバスは、森に囲まれ荒廃した不気味な駐車場に停まりました。

降りると私達は出席番号順に並ばされます。

すると担任は、不気味な藁人形を順番に回すように指示しました。

藁人形は順々に同級生の手に渡っていきます。

友人のAに藁人形が回ったとき、異変が起きました。

藁人形から黒い影が現れてAの身体に纏わりついたのです。

途端にAは崩れ落ちて、嘔吐をしました。

しかし他の同級生にはその影は見えないようでした。

担任はAから藁人形を取り上げると、淡々とまた回していきます。

私は恐ろしくなり、Aに駆け寄るふりをして他のクラスの人間に紛れて、自分の番はやり過ごしました。

その後、Aと担任を残して私達は教師達に連れられてホテルにむかいました。

ホテルへの道はかなり昔に舗装されたようで、大きな石がごろごろ落ちているなど荒れていました。

みんな心配そうな顔をしています。

そして、ホテルに着きました。

でも、廃墟でした。

道を間違えたのでしょうか?

教師達の顔を見ます。

無表情で、冷酷な顔をしています。

同級生達の顔を見ました。

目の焦点が合っていません。

同級生達は無言のまま廃墟の中に入っていきます。

そしてケタケタと笑い出すのです。その様子を教師達はジッと見ているだけです。

私は恐ろしくなり廃墟に入らず、藪の中に隠れて、そのままバスの方へ逃げ出しました。

その途中、物音が聞こえました。

おそるおそる音の方をみると、河原にAと担任がいました。

その傍には朽ちたテントの残骸があります。

担任はAに何か言うと、林の方へ向かって歩きました。

Aは呆然としています。

・・・しかし奇妙なことに、担任は林に入ると、身を隠し、ジーッとAの様子を伺っていました。

そして担任は、Aが林に背を向けて川を眺めているのを確認すると、しのびあしでAに近づきます。

担任の左手には先程の藁人形が握られていました。

・・・そして右手には大きな鉈(なた)が握られています。

Aは担任の足音に気づいたのか、担任に振り向きます

その刹那、鉈は横に振られ、Aの首を斬り落としました。

ゴロリとAの首は河原に転がります

そして担任は横たわった首のないAの胴体の切断面に、先の不気味な藁人形を差込み、その上から土をかぶせました。

そしてなにやら呪文を唱えます。

すると、どうしたことかAの身体がむくりと起き上がるのです。

そのうえ胴体には、在るはずの無い頭がついています。

しかし・・・その顔はAではなく、三十過ぎの男の顔でした。

そして担任はおもむろに、Aの首を拾い上げると川に投げ込みます。

ドボンッという音をたてて、首は川底に沈みました。

いっぽうAだったモノは担任に近づきます

「セ、ン、セ、イ  オ、レ ドウシタラ・・」

異形の顔を観察した担任は怪訝な様子でしたが、その質問に応えました

「おかしいな、おまえ誰の霊を引っ張ったんだ?

まあいいや、この河原で過ごせ、今は二つの人格が混在しているが、時期に落ち着くさ。

いいか、二、三日したらバスに乗ることになる。

そしてバスを降りたら、どこにも寄らずに歩いてまたこの河原に来るんだ。そして川に飛び込め」

そう言うと、担任はまた林の方へ歩きます。

私は恐怖で動くことが出来ませんでした。

いま目の前で起きたことは悪夢にしか思えません。

私は担任がホテルの方へ去っていくのを確認すると、

震えながらもこの後どうするか思案しました。

バスは山中に入ってから駐車場まで大分走っていたことから、歩いて人里に行こうにも、途中遭難するかもしれない。

それに、あの担任に私がいないことがバレたら、追いつかれ殺されるかもしれない。

・・・こうなったら、自分も他の生徒にまじっておかしくなったふりをするしかない。

そう決めた私は、廃墟に戻り、狂った同級生達の間で同じように狂ったふりをしたのでした。

・・・しかし夜になると・・・

教師達は酒を飲みながら、下卑た話をはじめました。

次第に、あの女子生徒は可愛いよなとか、気持ちの悪い話題になっていきます。その女子生徒の中には私の名前も入ってました。

私は身の毛のよだつ身の危険を感じ、荷物から懐中電灯を取り出すと夜の森に逃げました。

音を立てないように少しずつ駐車場の方へ進みます。決してホテルの方へライトを向けないよう気をつけながら・・・

ところが

「 オ、イ ナカタニ 」

ふいに声をかけられ、血が凍るかと思いました。

ライトを向けると、Aだったモノが立っています。

目から血を流して、ニタニタ笑っていました、

叫びそうになりましたが、必死に声を押し殺しました。

その顔は、昼に見たときよりも元々のAの顔に近づいていました。

・・・しかし、襲ってくる様子はないようです。

「やあ・・・・君か・・・・」

私は、なんとか気持ちを奮い立たせて、Aだったモノと話を合わせました。

どうやらこの異形は自分をAだと思い込んでいるようです。

異形はホテルに行きたいと言いました。

私は絶望しながらもホテルへと戻らざるを得なくなりました。

・・・途中、キャンパー風の男の首吊り死体がありました。

私は心臓が止まるかと思いましたが、それでもなお異形を刺激しないよう、知らんぷりして歩みを進めます。

・・・あの首吊り死体の顔・・・そうだ、Aと入れ替わった直後の顔だ・・・黒い影がAに取り憑き、さらにキャンパーの地縛霊が呪術に引き寄せられたというのでしょうか・・・

やがて忌まわしいホテルに近づきました。

そして教師達に悟られぬように廃墟に戻ると、再び私は他の同級生達と同じように、狂ったふりをするのでした。

教師達は異形の方にだけ注目したのが幸いし、私が外から戻ってきた事に気づいた教師はいないようでした。

しばらくして担任は、再び異形を外に連れだしました。

・・・その後、私はもう外に出る気力もなく、林間学校の期間が終わるまでずっと狂ったふりをしていました。

本当に気が狂いそうでした。

しかし不幸中の幸いか、私を含めて生徒達の身体に悪さをする教師はいませんでした。

やがて地獄のような日々が終わり、教師達は生徒達をバスに連れ込みました。

・・・帰りのバスにAは乗っていました。

確かに見た目はAです。

ですが私はもうそれを直視することはできませんでした。

これが私の林間学校の思い出です。

・・・Aがそのあと、どうなったかですか?

林間学校のあと帰宅途中に行方不明になりましたよ。

「Aは確かに林間学校の終わりまではいた」

と、担任含めて教師達は警察に証言していたようですね。

なぜこんなことになってしまったのでしょう。

私はすぐに転校したので、真実を知る由はありません。

・・・皆さんの林間学校の思い出は、キャンプファイヤーとか楽しいものかと思います

それにひきかえ私の林間学校といえば、本当に酷いものでした・・・

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