中編6
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扉って不思議なものですよね。

扉の本質ってなにかを考えたら「仕切り」ですよ。

扉が無かったら、なんでもかんでも通過することの許可を誰もが認めることになる。

じゃあ本質的には扉のくせに、別の顔をしてるやつはいるのだろうかと見渡してみれば結構いるもんで

神社の鳥居がありますね、あれも私達人間にとってはおじぎをして入る境目程度ですが、怪異からしたら明確に侵されざる仕切りです。

皮膚もそうです。皮膚は細菌からしたら仕切りでしょう。

共通するところは、許されざるものが仕切りを跨ぐとき、必ず悪い事が起こるということです。

また扉の癖に半開きのやつはいけませんね。

仕切るような、仕切れてないような、そんなのは始末に負えません。

少しだけ開いた襖(ふすま)

しめ縄の外れた鳥居

外に何がいるかボンヤリ見える磨りガラスの玄関扉

・・・カーテンなんてものもいけない。

窓をくぐり抜けた侵入者がカーテンに追い返されるとでも?

下がスカスカじゃないですか。あれは似非の仕切りです。

どれもこれも、皆さんうっすら怖い気がしませんか?

本能的に知ってるんですよ

仕切りは完全に仕切られてなくてはならず、それを越えようとする者はすべからく不吉であると。

扉の取手をガチャガチャする者は必ず招かれざるモノです・・・そんなモノに鍵を渡ろうものなら・・・

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・・・こんな夢をみました

私は部屋の真ん中にポツンと置かれた椅子に座って壁を見据えていました。

椅子の他には何もありません。無地で白い壁紙の部屋でした。電灯も窓もないのに明るい部屋でした。

しかし大きな壁を挟んで、向こう側からボソボソと話し声が聞こえます。

何を言っているかは聞き取れません。ただ何とも耳障りな声でした。

私は壁の向こうにいるモノに声をかけようとしましたが、不吉な気がしたので躊躇われました。

そこで目が醒めました。

起きてしばらくはボーっと夢の意味を考えましたが、別に大して深い意味はないだろうと捨て置くことにしました。

仕事をいつも通りこなし、帰って家族と平穏なひとときを過ごし、当たり前に寝ました。

・・・こんな夢をみました

昨日と同じ部屋にいます。やはり私はポツンと置かれた椅子に座り、壁に向き合っています。

気のせいか昨日より部屋は暗いようです。

そして壁の向こうから声が聞こえます。

前よりも声は少しはっきりと聞こえます。

壁が薄くなったのでしょうか・・・

私は意を決して、壁の向こうに話しかけてみました。

すると一瞬、壁の向こうの声が止まりました。

しかしすぐにまた何やらこちらにボソボソ言っています。

私は何と言っているのか聴き耳を立てました。

「いれて・・・いれて・・・」

なんとも身の毛のよだつ声でした。

そこで目が醒めました。

起きてまた、しばらく夢のことを振り返り不穏な気持ちになりました。

同じ空間にいる夢を2日連続でみることなど今までないことでしたから。

私は、神主をしている学生時代の親友に、この夢のことを話そうかと軽くメモを取りました。

その日もつつがなく1日を過ごしたのですが、どうも頭がボンヤリしてます。

あんな夢をみたせいで、睡眠が浅かったのでしょうか。

こんな状態なので友人に電話するのはまた後日でいいかと思い、夕食後は家族との会話もそこそこに寝床につきました。

・・・こんな夢を見ました。

また私はあの部屋にいました。

さらに部屋は薄暗くなっているようです。

そして同じようにひとり椅子に座り、壁を・・・

そこは、もはや壁ではありませんでした。

壁のかわりに磨りガラスが一面あり、うっすら向こう側が見えます。

磨りガラスの向こう、そこには誰かが座っています。

・・・真白いナニカ

口を開いたのでしょうか、顔のあるであろう白い輪郭の真ん中に黒い部位が広がります。

・・・私は咄嗟に耳を手で塞ぎましたが、声は少し聴こえます。

「ねえ・・・きこえてたんだよね・・・いれてよ・・・」

そこで目が醒めました。

身体は水をかぶったように寝汗をかいていました。

気持ち悪く、すぐに掛け布団をめくり、シャワーを浴びました。

・・・なんなんだあの夢は・・もうこれは異常だぞ。

念のため夢の内容を、昨日より詳細に書いてみました。

紙に書き出すことで少し冷静になりました。

もしかして、私は病気なのではないか。

それが深層心理であんな夢を見せることになったのでは。

あの滝のような寝汗も病気の兆候かもしれない。

その日、私は仕事を休み病院に受診しました。

・・・医者は、レントゲンで肺に白い影があると私に告げました。

そして後日また精密検査をすることになりました。

・・・私は家に帰って診察の結果を家族に伝えました。

もちろん励まされましたが、私の心が晴れることはありませんでした。

そして夕食を摂ることなく寝床につきました。

・・・寝室を暗くする前に、ベッドわきの紙をチラリと見ました。紙が少し黒ずんでいるような気がします。

少し気持ち悪かったですが、そんなことより私は自分の身体のことを気にしながら眠りに落ちました。

・・・こんな夢をみました。

あの部屋です。明かりはもうほとんどありません。

ポツンと椅子に座っているのは変わらずですが、私の手足には枷が嵌められ、立ち上がることもできません。

見据えた部屋の仕切りは、もう磨りガラスではなく、ただの透明なガラスでした。

その向こう側には全身白い人型の異形が座っていました。

そして異形は急に立ち上がると、私を睨みながら仕切りのガラスを、バンバンと強く叩きます。

そして口にあたる部位が大きく開かれ、底知れない黒を私に見せつけながら叫びました

「入れろよォォ!入れろ!!入れろォォォ!!」

そこで私は目が醒めました。

私の手首足首には枷の痕のような痣がありました。

私は記録を残そうと、板の間から身を起こしましたが、紙はどす黒く変色していました。

・・・きてる

夢の境から 現実に踏み込んで来てる・・・

私は友人の神主に電話しました。

神主に事情を話すと、すぐにお祓いをするから神社に来るよう言われました。

ですが電話口の声はまるでノイズが掛かったように不明瞭です。それはきっと私の耳の方がおかしいのでしょう。

家を出る前に家族にひと言だけ言って・・・

私の家族は・・・あれ・・私の家族は・・いたっけ?・・・いつから私は、自分に家族がいるように思い込んで・・・

私は全身に強い倦怠感がありましたが、家具のほとんど無い簡素な自宅を後にして神社に向かいました。

入口には神主がいました。

・・・この人は、友人・・・だったような・・・わからない・・・

私はポツンとした、どうしようもない孤独感に包まれました。

神主は私を睨み、鳥居をくぐるように指示しました。

なんだ、偉そうに・・・

私は・・・友達・・・客?・・・だぞ?

私は神主を睨み返しながら鳥居をくぐろうとしました。

・・・その刹那、全身が強く打たれるような激痛に襲われました。

どうしても、鳥居をくぐることができません。

な・・なんで・・・

神主に救いを求めようと顔を向けましたが、

神主が私に向ける眼差しは、異物を見るようなそれでした。

そして

「オマエはもう・・人ではない・・・

もう・・・踏み込まれている・・・」

私は神主を怨めしく睨みながら気を失いました。

・・・こんな夢を見ました。

・・・いつもの部屋なのでしょうか?

全くの闇のなかで座っていましたから・・いったい此処が・・・どこなのか・・・

ただ 私の横で ナニカの息づかいが聴こえます・・・

ソレは私の腕に絡みついてきて・・

私の耳元に・・おそらく口元を寄せて・・・

「入ったぞ・・・入ったぞ・・・」

・・・その言葉は・・私の口から漏れ出ていました・・・

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・・・仕切りというものは「扉」です・・・

・・・そして仕切りを越えようとするモノに意識を向けてはいけません・・・

意識することさえ ソレに鍵を渡すようなものなのですから・・・

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