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仕事が休みのある日、中学校時代の友人である篠原から実に10年ぶりに電話がかかってきたのだ。
懐かしさで近況などを聞いてみたが、どうも篠原の声が沈んでいるようであり元気がない感じがした。
俺の知る篠原はサッカー部のレギュラーで溌剌(はつらつ)とした明るい男である。
「篠原どうした?元気ないようだけど何かあったのか?」
と声をかけると少しの沈黙のあとに篠原がこう切り出した
「村上…お前さ…夢が現実になるなんて話信じるか?」
は?何?夢が現実?どういうことかまるで理解できず何があったのか詳しく聞いてみた。
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「俺さ、少し前からおかしな夢を見るようになったんだ。
開けた平地みたいなところに大きな木が生えてて、俺を含めて9人がそこに立ってるんだ。
誰だろう?と思って顔を見てもモザイクみたいになってて見えないんだ。
前の方を見ると川が流れていて、川の先にも誰か立っていてこちらに向かって何か叫んでるんだけど、その人の顔も同じように見えず、距離はそんなに遠くないのに何を言ってるか聞き取れない。
しばらくすると俺の隣に立っていた人が突然苦しみだして倒れた。
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俺は慌ててその人を助け起こそうとしたんだけど身体がピクリとも動かないんだよ…
苦しんで倒れたその人は次第に動かなくなった。
そこでその人の顔がはっきり見えたんだ、中学校の時の担任の荒牧先生だったよ。
そんな夢を何日かおきに見るようになってさ、俺以外の人が1人ずつ倒れて動かなくなった。
倒れた人の顔を見たら見覚えある顔でさ…
最初に倒れたのは担任の荒牧先生、それから中学校の時のクラスメイトの山崎、黒田、新田、羽村だった。
ただ、2人だけ誰だかわからないおじさんとおばさんがいたんだよ
でもすぐにわかったんだ、この倒れた奴等って中学校の時に星野を虐めてたメンバーだって…」
そこで中学校当時の事を思い出した。
同じクラスに暗くていつもボロい服をきていた星野って男子がいたんだ。
それを虐めていたのが篠原、山崎、黒田、新田、羽村に滝川の不良グループだった。
当時担任であった荒牧先生は虐めがあったけど見て見ぬふりしていたんだ。
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そこで俺はふと疑問に思ったことを聞いてみた
「なあ、今の話だと倒れた人の中に滝川はいなかったのか?」
篠原はおそらく今から話そうとしていたのだろう
「ああ、滝川はいなかった。
だから俺滝川に連絡とったんだ、そしたら…滝川も俺と同じ夢を見ていたって言ってて…それが先週の話さ
それで昨日また夢を見て…今度は滝川が倒れたんだ。
起きてからすぐに滝川に電話したけどあいつ出なくて…」
電話で話す篠原の声は震えていた、おそらく恐怖で泣いているのだろう。
夢で倒れたのはこれで8人、おそらく次は篠原だ。
滝川と連絡がとれないということは彼の身に何かあったのかも知れない。
そして、篠原が俺に電話してきた理由もわかった。
俺は親戚にお寺の住職してる人がいて、篠原にその事を話していたからだ。
俺はもう地元を離れて生活しているので直接は行けないが、昔からその親戚とは仲良くしているのですぐに連絡はとれる。
俺は篠原に「わかった、すぐに親戚のお寺に連絡するからお前は今すぐお寺に行け!」
そういうと篠原は堰を切ったように泣き出して
「ありがとう、ありがとう!」と何度も礼を言ってきた。
篠原との電話を切るとすぐにお寺に連絡して住職をしている親戚のおじさんに事情を話して篠原の事をお願いした。
住職さんは「なるほど、かなり重い呪いを受けてしまったようだね。わかった、私の方でなんとかやってみるよ」と言ってくれた。
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それから数日後、篠原をお願いした住職さんから電話がかかってきた。
「おじさん、篠原の事ありがとうございました。」と言うと住職さんから事の顛末を教えてもらえた。
やはり篠原の見た夢は中学校の時に虐められていた星野がかけた呪いによるものだという。
相当強い恨み、怒り、悲しみをもっていたのだろう、どこで知ったかはわからないが夢を通して呪いをかける方法を行ったのだろう。
人がいて何かを叫んでいる
これは字に変えると「伝」という字になる。
川があって木の周りに9人の人がいる
これは字に変えると「染」という字になる。
そう、夢を通して呪いを「伝染」させていたのだ。
「篠原君が言っていた見覚えのないおじさんとおばさんはおそらく星野君のご両親だろう、先月2人とも急な心臓発作で亡くなったそうで葬儀が行われていたので参列したんだが、星野君の姿はなく喪主は親族の方がしていた」
中学校を卒業してからもう10年以上経つが、それほど虐められた恨みは深かったということなのか…
すると住職さんは篠原の事を話してくれた
「篠原君だけど、彼は一番長い期間呪いを受け続けてしまっている。
これはすぐに祓ったり解いたりできるものではない。
うちの寺で預かって何年かかけて呪いを解いていく事になるだろう。
そして、私が彼を保護して呪いを弾いた事で星野君も無事では済まないと思う。
呪いというのは失敗すると自分に跳ね返ってくるのが常だ」
それから俺は篠原の夢に出てきた人が今どうしているか調べてみた。
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荒牧先生は職場の階段で足を踏み外して落下し死亡。
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山崎は渓流釣りに行った先で川に落ちて溺死。
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羽村は電気工事の作業中に高圧電線に触れて感電死。
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滝川は自宅で首を吊り自殺していた。
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そして、星野は地元の山の中で首をかきむしり苦悶の顔で死んでいるのが発見されたそうだ。
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黒田と新田は中学校卒業後の足取りがわからず確認できなかったが、おそらくもう生きてはいないのだろう。
夢で呪いを伝染させる
人の恨みというものの恐ろしさを知った出来事であった
作者死堂 鄭和(しどう ていわ)
貴方は最近悪夢を見ましたか?
夢の中の事と侮ってはいけませんよ?