『装飾虚偽(そうしょくきょぎ)』(存在しない記憶vol.5)

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『装飾虚偽(そうしょくきょぎ)』(存在しない記憶vol.5)

秋から冬に季節が変わろうとしているある日の事

蘭(あららぎ)ユウジが職場のコンビニエンスストアで仕事中、22時30分に薄いピンク色のコートを着込んだ北野(きたの)ハヅキが来店した

「あ、ハヅキさんいらっしゃい」

「らららぎさん!事件です」

「僕の名前を歌い上げるように間違えるな、僕の名前はあららぎだ」

「流石蘭さん、私が欲しい返しをくれますね」

「いや、今のはハヅキさんからのネタ振りでしょ・・・ところで事件?」

「あー、そうなんですよ、蘭さん」

ハヅキの説明ではユウジ達が使用している動画アプリで詐欺事件が起き、運営会社から配信者に向け手口を公開して注意喚起されていた

「なるほどね、手口が分かってるならそれに注意すれば良いんで無い?」

「問題はその後なんですよ、今回の手口にある高額ギフトに鍵を掛けて本人確認書類提出で登録したユーザーのみ使える様にする事を検討してるらしいのです」

「なるほど・・・確かにそれなら何処の誰がギフト投げたか分かるから犯人逮捕に繋がるかもね」

「そんな事になったら蘭さん絶対鍵開けないですよね」

「開けないね、そもそも1000ポイントを超えるギフトなんて投げれないし…」

「ですよね!よし!蘭さん、鍵が付く前に私に高額ギフトを投げてその快感を楽しみましょう」

「やっぱそう来たか、投げねーよ」

「高額ギフトは良いですよぉーまずはライバーからの心よりの感謝、そしてリスナーからは羨望と尊敬を受けれるんです」

ユウジ達が使う動画アプリでは110円からポイントを購入出来る

110円で50ポイント

視聴者はそのポイントを使用して配信者にギフトという形で投げ銭が出来るシステムである

配信者はポイントに応じた金額が報酬として支払われる

一見するとハヅキがユウジに収入の為におねだりしてる様に見えるが、以前ユウジが50ポイントのギフトを投げた時

配信中は普通にお礼の言葉を発したが、ハヅキが次の日コンビニに来て嬉しかった気持ちを伝えた

ユウジは100円程度と言ったが、ハヅキは値段で無くユウジが自分の為に使ってくれたのが嬉しいと言った

ユウジが高額のギフトを投げた後自殺・・・

そんな事になったら悲しいから無理はしないで欲しいとユウジに話している

ハヅキは自分に起きた怪現象を解決したユウジに感謝の気持ちを持っているが、ハヅキ自体は恋愛に興味は無く恋人を作る気は無い

しかし、好きなアニメやアイドルの話が出来るユウジを友人と思っている

仕事が終わり帰宅後

有村(ありむら)ミオナからの連絡をユウジの携帯電話が通知した

「ユー君大変だよー」

「ミーちゃんおはよ、どしたん?」

「アプリで詐欺事件起きてるって」

「なんか起きてるらしいね、まさかミーちゃん被害に遭った?」

「ううん、私のとこは平気、でもこれはユー君の出番でしょ?」

「何故?」

「だって・・・ユー君は何処かの駅の伝言板に秘密の言葉を書き込むと何でも解決してくれるんでしょ?私の問題も解決してくれたしー」

「俺を何処ぞのもっこりスイーパーと同じにするな、あそこまで優秀じゃない・・・てか、なんでミーちゃんがそれ知ってるのよ・・・世代的に知らんでしょ」

「だってこの間番組でMCとメンバーがコラボしたのってその作品の歌でしょ?お兄ちゃんが再放送で見たって教えてくれたよ」

「あぁ、そういやそんなシーンあったね、懐かしかった、しかし、だ、心霊絡みなら何とかなるかもだけど、前回のはギリギリ・・・詐欺師捕まえるのは警察の出番でしょ」

ミオナの中でユウジはどんな存在なのか疑問に思わずにはいられないユウジだった

ふと、SNSを開く

占い師をしている斐巫女(ひみこ)が最近詐欺被害に遭った人の相談が増えたと嘆いている

ユウジは早速斐巫女へ返信した

テレビを見ないという斐巫女

知らないであろう最近起きた出来事を

1:今から30年前1人の詐欺師がいた

名は稲羽(いなば)ハクト

警察に捕まる事も無く、被害総額は億を超えると言われている

警察関係者か詐欺師にしかその名を知られてない詐欺師

この名前が一般人に知れ渡る事となるのは、ハクトの名をかたって詐欺を行った詐欺師を騙して、被害者に被害額を送金した

詐欺師をも騙す詐欺師

そんなニュースが彼を有名にした

しかし、それ以降ハクトが現れる事は無くなった

そして現在

山の中などにぽつんと建つ建物を衛星写真から探すテレビ番組である家が放映された

番組は人が住む、もしくは、現在も使用されてる場合、取材交渉するのだが

その家は住人は既に死去しており、尺の都合で少しだけ放映された

その放映を見た退役警察官は目を疑った

住人が死去したその家の郵便受けには兎のカードが貼ってあった

それこそ、ハクトがアジトを引き払った後に残すカードだったのだ

2:タルパは何時もの様に業務をこなし、キヨマロと共にユウジが働くコンビニエンスストアに来ていた

3人で雑談をして解散というのが何時もの流れだ

タルパは精神薬を飲まなければ眠る事は出来ない

休みの日だ

薬を飲んで寝るか考えている時

タルパの携帯電話が着信を報せる

大国(おおくに)シュウからの着信だ

「別君、今電話平気?」

『国さん久しぶり、平気だよどうかした?』

シュウは55歳で警察官だ

所轄で刑事課長をしている

5年前タルパが巻き込まれた傷害事件を担当した刑事だった

タルパが付き合ってた女が薬で錯乱

喧嘩騒ぎになり、付近の住人の通報

駆けつけた警察官がシュウだった

女はしきりに警察官に対し

「そいつは悪魔だから信じちゃ駄目!」

と言い続けたが、警察官からみればどちらがまともかは一目瞭然だった

結果、錯乱した女が襲って来た事による正当防衛が成立した

シュウはタルパが持つサイコパスへの知識に関心を持ち、警察官としてアドバイザーとする事を決め、現在にいたる

『あれ?俺何かしたっけ?』

「いや、今回は疑って無いよ」

『今回はって事は前回疑ってたのかよ!』

「疑っちゃ居ないさ、なぁ、催眠術によって完全に記憶飛ばすのって可能だと思うかい?」

『可能っちゃ可能だろうけど・・・完全には難しいんじゃ無いかなぁ?』

「だよなぁ・・・管轄で厄介な事件起きてね、別君の意見聞きたいんだよ」

『良いよ、何処にいるの?今から行くから家まで迎えに来てよ』

「今は署に居るよ、分かった、迎えを出す」

『パトカーはやめろよ?この前のクラウンが良いな』

「なんだよ、パトカーは駄目か?分かった、30分位で行けると思う」

3:迎えに来た若い刑事2名と談笑しながら警察署に到着したタルパ

空いている取り調べ室へと案内されるとシュウが座って待っていた

テーブルにはファイルが積み重なっている

「おはよう、呼び出して悪いね」

『良いよ、今日休みだしー、で、どんな事件?』

最初に事件が起きたのは大阪府

詐欺事件だが、被疑者が徹底して否認している

その日1日の記憶が無いと主張している

ポリグラフ検査でも科学捜査研究所の職員がデータを見る限り犯人では無いと結論を出した

すると、京都府でも同様の事件発生

東京都でも3件事件発生

全国で合計10件の事件が起きている

警察は冤罪を防ぐ為、監視する事で様子見をしている

タルパはシュウが取り寄せた資料を読んでいる

するとこの事件の共通点として、路上占い師に声を掛けられた事があった

『国さん、この路上占い師ってのは誰か分かってるの?』

「それが分からないんだよ・・・被疑者は全員顔を覚えて無い、名前もバラバラ、うちで起きた事件では『ヨウキヒ』と名乗っていたらしい」

『被疑者の声とか聞けないかな?』

「あるよ、本庁から任意で取り調べの時録音してるし、うちで起きた事件の被疑者は会社に休みの電話入れてる、その音声データも提出して貰ってる」

タルパはその音声データを聞き比べた

違和感を覚えた

何回か聞き返した結果ある事に気付いた

『この会社に休むって言ってるデータ・・・少しだけどイントネーションが違うね、少し東北訛り入ってる』

シュウは驚いた

言われてみれば、タルパの指摘通りであった

『精神鑑定とかした方が良いかもよ?』

「ありがとう、早速手配するよ」

被疑者の精神鑑定を警察は行ったが異常は認められず、捜査は振出しに戻った

4:ある日の事

雨で仕事が中止になった為、タルパはガールズバーへ飲みに行っていた

その帰り道

ユウジの働く店に顔出そうと考えていた時だ

閉店して空き店舗になっている建物の前に座る占い師である鮫渡(さわたり)コトネがいた

女性で顔立ちも整っている

マントの様な物は羽織ってはいないが黒いコートを着ている

以前通った時には居なかった

タルパは酒が入った時も少しだけ霊感が働く

その占い師に何かを感じた

目が合った事で占い師の口が開く

「こんばんは、占いますか?」

『悪いが占いには興味は無い、あんたがヨウキヒか?』

タルパは見逃さなかった

占い師が一瞬動揺し、身体を強張れせた事を

「いえ・・・私はそんな名前ではありませんよ?」

『ふーん・・・じゃあ何で身体が一瞬強張ったんだ?』

「あなた何者?」

『さぁね』

占い師が一瞬口を閉じ、辺りに沈黙した空気が流れる

「着いて来て」

そう言うと占い師はテーブルと椅子を片付けて立ち上がった

占い師が歩く方向に着いて行くタルパ

やがてウィークリーマンションに着き、タルパを一室に案内した

「私は稲羽ハクト、君の名は?」

『待てよ、占い師に名前なんて明かすわけねーだろ』

「占い師では無いよ、さっきの占い師なら私が乗っ取っている、私は詐欺師だよ・・・君と取引がしたい、だから名前を知りたいのだよ」

タルパは考えた

思いの外に楽しめそうだ

『僕は別天津神タルパ』

声はコトネと同じだがハクトと名乗ったその人物の言葉には少し東北訛りがあった

5:タルパは繁華街の外れにあるマンションの前にいる

ハクトがタルパに持ち掛けた取引

それは、かつてハクトが騙し取った高級風俗店に預けた金を回収する事だった

そのマンションは看板を出してない営業許可済みの風俗店

完全予約制、一見さんお断り

客のプライバシー完全保護

エントランスに入りタルパは管理人室に向かった

『昨日電話した8910番を指名した者だけど』

管理人室いたのは若い男

この男はこの店の受付業務をしている

「お待ちしておりました、少々お待ち下さい」

受付の男が内線で連絡し、しばらくするとオートロックになっている大きな扉が開き、初老の男が現れた

この男はこの店の店長

かつてハクトからこの店を譲り受け金を預かっている男だ

ハクトは店長には『稲田(いなだ)』と名乗っていた

「これはこれは稲田さん随分と若い後継者を見つけたみたいだね、どうぞ、店長室へ」

マンションの301号室通されたタルパ

マンションは3階建で、1、2階は1フロア5部屋

サービスを行う為の部屋である

3階は3部屋で店長室とモニター監視をする警備室と金庫室がある

店長室はマンションの一室で応接用のテーブルとソファーがあり、店長はタルパに座る様に促し言った

「まずは例の物を見せて下さい」

タルパはコートのポケットから封筒を取り出して店長に渡した

封筒を受け取ると奥にあるデスクに向かい、封筒の中身を確認した

それはハクトの癖字で書いた意味の無い暗号である

前日にタルパに乗り移ったハクトが書いたものである

「確かに。確認しました。お金を準備します。遊んで行かれますよね?」

『もちろん』

店長が内線で受付を呼び出し

「VIP様27番あけみさん御指名で」

タルパが通された部屋にいた女性は24歳の美しい風俗嬢だった

その後もハクトはタルパに取り憑いて、女性では行きにくい夜の店を堪能した

目覚めたタルパのポケットには20万円が入っていた

『随分と楽しませてくれたじゃん。でもお楽しみはこれからさ』

タルパは邪悪な笑みを浮かべそう言った

5:ハクトが今まで捕まらなかった理由

それは生まれ持った能力の『憑依』を使用していたからである

憑依により、捜査員の情報を得て、ある程度の記憶操作

それにより、逮捕を免れていた

まずはコトネに取り憑き、詐欺を行う獲物を探す

獲物をコントロールし詐欺を行う

得た金をコトネに渡した後、コトネと離れて獲物を解放する

今日だけは違った

獲物をコントロール中、コトネの待つ裏路地に行く前に刑事から職務質問されてしまったのだ

鞄にある金を見られると疑われてしまう事は火を見るより明らか

ハクトは逃げる事を選択した

獲物から脱出して、魂をコトネの所まで逃げる

あがりの金は諦めた

いくつか曲がり、人気の無い路地に向かった

コトネが待機しいてる場所までは一直線

目の前に意外な人物がいた

カミソリを手にしたタルパだ

『斬撃皇帝』

手にしたカミソリを振る

斬撃となり、ハクトに当たった

「なっ、何故だ?」

斬撃が当たるとハクトの霊体は切り裂かれた

「貴様何者じゃ…」

睨みながらタルパにハクトは言った

ハクトは記憶の操作をしたので、先程、職務質問を受ける事もタルパがこの場に現れるわけも無い

『並列思考って言ったら分かるか?僕は1人じゃ無いのさ…。人間の脳ってのは数パーセントしか使われて無いんだぜ。その空白に何体か人格を植え付けてるから、お前の記憶は全て見させて貰ったよ。もうすぐ僕を詐欺の犯人として警察に売るつもりだったんだろ?お見通しだ。そうなる前に消えてもらうよ』

悔しい表情を浮かべハクトの霊体が消える瞬間をタルパは弱者を見下す様な目で見ていた

ハクトの気配が消えた事を感じたコトネが駆け寄ってきた

「貴方何者なの?」

『悪魔だよ。あくまでも、飽くまでも、悪魔でもね。さぁ、金の隠し場所まで行くぞ』

金の隠し場所はハクトがコトネを乗っ取り契約したトランクルーム

必要経費を抜いた分でも5000万はこの場所にある

『どうする?これを持って自首するか?』

「捕まるのは嫌よ」

『なら分け前は7:3な。救ってあげるよ。巣食ってあげるよ。僕の目となり、その霊感を僕の役に立てるんだ』

こうしてコトネはタルパに従う占い師となった

秋から冬に季節が変わろうとしているある日の事だった

『装飾虚偽』完

Concrete
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