呪場(じゅば):マイマイガブリとの遭遇

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呪場(じゅば):マイマイガブリとの遭遇

これは、『月刊ヌー』の元ライターである私、砂貝隆人(すながい・たかひと)が、先輩で編集長兼カメラマンの倉森康男(くらもり・やすお)と巻き込まれた事態の回想である。

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私は、酔い潰されて悪ふざけで橋の欄干から突き落とされて死亡した学生の遺体が上がらないと言う、余り深さも高さも無い川と橋の在る場所で、心霊写真が撮れるとの噂で倉森先輩と訪れていた。

「やる瀬無ェよなァ、砂(すな)ちゃんよ」

欄干横に座り込んだ倉森先輩が煙草を吸い終えて、携帯灰皿にギュっと押し込む。

「そうですね………うん?」

橋のたもとを覗き込んで見ると、大変に汚れたボロ切れが落ちて………いや、人だ。

「砂ちゃん………うっ、凄ェ臭いだ」

嘔吐を覚える臭気、近年不気味な暑さ故に、臭気も強烈さに拍車が掛かっている様だ………果たして、それは浮浪者の変わり果てた姿だった。

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警察に通報し、現場検証に私達は立ち会う。

「………言いにくい話なんですがね、コイツ、アルコールに弱い学生を酔い潰して、悪ふざけで橋の欄干から突き落とした、いわゆる主犯格だった奴ですよ」

ガリガリと汗で濡れた髪をかいて、替えの白手袋を着けた刑事が話してくれる。

「慰謝料だ何だを支払えなくて一家離散、結局逃げ出せないし、浮浪者の輪には入れないで、熱中症でサヨナラですか………」

倉森先輩の言葉に「恐らくは」と言いながら、嫌な顔を下に向けている刑事。

臭気の中に、湿っぽい感じが混じる。

………そう、カタツムリかナメクジの這っている場所特有のジメっとした独特の空気と言うか匂いが。

「うわぁっ!!」

鑑識職員が担架(たんか)に乗せようとして、叫び声を上げる。

「どうしたっ!!」

刑事が駆け寄り、私も少し距離が有りながらも、明らかな異変に気付かされる。

………ドロドロに浮浪者の身体は溶けており、衣服に骨と目玉だけ付いている格好だったのだ。

流石に気味が悪いのと、遺体を撮る危険性も有ったので、事情聴取に終始した私と倉森先輩は、橋の欄干での撮影は諦めざるを得なかった。

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数日後、私達は浜辺に居て、幾つか変な写真が撮れたのでクーラーボックスからペットボトルのスポーツドリンクを取り出して飲んでいる。

「砂ちゃん、災難だったよなァ」

「そうですね」

「刑事には言ってなかったけどよ、俺変なの見たんだよ」

写真を見せて来る倉森先輩。

私は覗き込んで、或る意味後悔を覚えた。

………大量の巻き貝、しかも全ての口からドロドロの液体が流れ出ている。

「マイマイカブリだって、大量には喰い散らかさないよな」

「マイマイカブリって何だよ」と言う本音はオクビに出さず、私は浜辺から少し離れた林に、気配………明らかに人以外の気配を感じた。

ザザザザザ………

「………!!」

林なのに、昼間なのに、明らかに暗い向こう側。

しかも、林の向こうの草地をキャタピラよりも滑らかで静かな音を立てて進んでいる。そして、私は見てしまった。

………巨大な、いや、私や倉森先輩と同じ位の背丈の巻き貝が移動している事に。

「先………輩………」

あの巨大な巻き貝に悟られぬ様に、小声で私は、先輩に呼び掛ける。

「お、い………」

力無くへたり込む先輩に気付いた私は、彼の視線の先を見た………いや、見てしまったのだ。

巨大な巻き貝、しかもあの軟体動物では無い。

カミキリ虫みたいな巨大な、もとい、私達と同じ大きさの虫が背中に巻き貝を背負っていた。

「あ、あ………」

私は先輩の横でぶっ倒れてしまう。

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意識を取り戻したのは、病室だった。

祖父が、何故か無言で私を見ている。

「………浜辺で、お前、何を見ただか」

「えっと………巻き貝背負った、カミキリ虫みたいな奴が」

「マイマイガブリだ」

「?」

マイマイカブリに響きは似ているが、祖父の訛(なま)りかなと気にも止めないでいた。

「先輩に、大量の巻き貝を写した写真を、処分する様に言っといただ。大量のカタツムリを置いて、マイマイカブリを大量に放して喰わせる………マイマイガブリを出す儀式だべ。しかも学生の落とされた場所が儀式を行うで呪場(じゅば)だ。あとは隆人………分かるな?」

興味深い話だが、祖父の眼光は明らかに私が深入りするのを許さない感じだったので、早々に退職届を出して、祖父を手伝う事にした。

倉森先輩も、身体を壊したとの体(てい)で一緒に辞めたが地元で見掛ける事も無く、今に至る。編集長である先輩が辞めたから、『月刊ヌー』も人手に渡って呼称を変えて再スタートしたらしいけど、既にこちらの知る話でも無い。

まさか、マイマイガブリを私とは違い追ったが為に………いや、まさかな。

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