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中編3
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縫いぐるみと日本人形

「父ちゃん、父ちゃん」

私………安永剛彦(やすなが・たけひこ)の息子である、我が子、伸道(のぶみち)が話してくれた不思議な話である。

私は、仕事の都合上、妻の実家には顔を見せる回数が減ってしまってはいるが、伸道や弟の秀明は妻と一緒に幾度と無く遊びに行っている為、長い休みの日に泊まる、第二の自宅になっているのかも知れない。

そんな暑い夏の或る日に、妻も仕事に出掛けて、秀明も昼寝をしている際に、伸道が私に話し掛けて来る。

「あのね、父ちゃん」

「どうした、自由研究か宿題か」

仕事の書類を片付けた私は、伸道に訊いて見る。

「あのね、ばあちゃんちに行ったときにね、ネコのぬいぐるみと、イヌのぬいぐるみがね」

何時か覚えていないが、伸道は夜中か夜明け近くに、彼に取っての祖父母宅………妻の実家に泊まっている際に、目を覚ましたらしい。太陽が出ていなくとも、空が白む時刻を考えれば、今の季節なら3:30~4:00位だろうと踏んで、この子は外の便所で用を足せるかな?と想像を巡らせていたら、事態は違う様だった。

「ネコのぬいぐるみとイヌのぬいぐるみがね、えーと、ばあちゃんちの人形とね」

チョコンと猫の縫いぐるみと犬の縫いぐるみをテーブルに置いて話す息子。

「いっしょにあそんでたの」

「!」

そう言えば、日本人形と言うか市松人形と言った種類だろうか、子どもの格好をした人形が妻の実家の二階に有ったなと、私は思い出す。

「でね、お目めこすったらね、人形のとなりにふたりともならんでたの」

幼稚園や買い物での御出掛け以外は、何故か猫の縫いぐるみと犬の縫いぐるみを傍に置いているから、妻の自宅にもこの子等を連れて行ったのだろう。

「帰るときにバイバイしちゃうから、ぬいぐるみにお人形さん見せて、おわかれしてきた」

二匹の縫いぐるみを撫でながら、我が子は怖い云々とは異なる感情で話している様に映る。

*******************

妻に話して見ようか考えたが、冷静な彼女の事、私も含めて一笑に付されるかなと黙っていたが、その夜に兄弟が寝静まった後にこんな話をして来た。

「伸道、何か話してた?」

「どうして?」

「あのね………」

果たして、縫いぐるみと市松人形が遊んでいたと言う話だった。で、眠い目をこすったら、御行儀良くチョコンと二匹並んでいたとも。

「言おうか考えてたんだけどね」

全く同じ内容を話してくれたと、私は妻に話して見る。

「言ってくれたら良かったのに。あー、御盆でこっちも忙しかったから、聴いて貰いたかったのかもね。何回もあの子話してたから」

「そうか………有難う、御疲れ様。麦茶でも飲もうか」

御盆休みながら、実家の御盆や墓参りに子どもの世話と、頑張ってくれていた彼女の姿を思い描きながら、私は麦茶とコップを取りに、台所に向かう。

「ダンナサン、アリガトウ。オトウチャン、アリガトウ」

(………?)

可愛らしい声が三通り聞こえたが、不思議と怖さを感じさせない御礼が響いた。

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