7月下旬・・海水浴のシーズン
うちは大家族のためになかなか海水浴へ行けない
5年ぶりに愛知県知多半島のある海水浴場へ行くことになった
葵やカナちゃんははじめての海だからワクワク感が顔に出ている
子供たちは海で泳いでオヤジとS君はビールを片手に飲みまくっていた
F子とS子は肌を焼くのは嫌だと言って海の家でおしゃべりをしてた
おふくろとカナちゃんママは周辺のお土産店でお土産を買いまくっていた
私は結局子供たちのお守り
あぁ・・・子供の時の思い出が蘇る
F子の手を繋いで海の中へ
F子のおそるおそる海へ入る時のビビった顔
私とF子は浮き輪だから溺れることはないがF子は終始私の手を離さなかった
「兄ちゃん・・波が来たよ!!」
波が来るたびに私に言ってきた
3人娘たちは浮き輪でプカプカと浮かびながら波が来るのを待っていた
昔の私とF子だな・・・
匠と仁は泳ぎが得意なのか結構遠くまで泳いでいた
さてと・・・
夕方になり
帰る支度をした
おふくろが予約しているホテルへ連絡をした
「え・・え?・・・そうです・・○○と言いますが・・・予約していない?
いえ・・予約はしてあると思いますが・・そうですか・・・すいませんでした」
「おふくろ、どうした?」
「あいつ!!!予約するの忘れてたみたい!!」
「え!!!!おいおい・・・・」
おふくろはオヤジを呼び出した
おふくろの顔は真っ赤か
オヤジは言い訳ばかり
「あいつ!!役に立たないわ・・・今からでも予約できる宿泊施設はあるかな」
「ないよ・・・キャンセル待ちしかない・・・どうするんだよ」
「そうだよね・・・困ったわね・・」
「とりあえず・・・検索してみるけど・・・」
なかなか見つからない
近くて・・・ないない・・・
あ・・・あった・・・
でも・・・
「あったよ・・・でもな・・・4人部屋ひとつだけ・・・」
「ダメだね・・・」
「とりあえず、電話する」
なかなか繋がらない
「あのぉ・・・部屋って空いていますか?・・・はい・・・10人ですね・・・
え?・・キャンセルが出たんですか・・・はい・・・」
「おふくろ・・・見つかったよ・・」
「ほんとかい!」
「なんか今日の予約した人全員がキャンセルしたんだってさ」
「え!?・・・全員がキャンセル?」
「そうみたい」
「ちょっと・・・不安だね」
「パパ!そこって大丈夫なの?」
「大丈夫かと言われてもな・・・」
「俺は別にどっちでもいいぞ、野宿でも車の中でもよ!」
オヤジ!!!原因を作ったのオヤジだぞ
いつも無責任だ
「野宿は嫌だよ・・・女子がいること忘れてるんだろ」
「あ・・・あ・・・」
「あ・・あ・・じゃないよ・・・仕方ないからそこへ行きましょう」
車でおよそ30分
住宅街の外れにあった
見た目はビジネスホテルのよう
一応旅館と書いてある
とりあえずは旅館の受付へ
あれ・・・受付がいない
何度も呼んだ
返事が無い
みんながザワザワしはじめた
「いらっしゃいませ」
え・・・いつのまに・・・いつからいたんだ・・・
「先ほどの・・・」
「はいはい・・・え・・と10人ですかね?・・・大丈夫ですよ、今日はすべてキャンセルになったんで・・・」
老婆が受付をしていた
「え・・と食事のほうは?そうですか・・・少し時間はかかりますけれど・・・作りますね」
老婆の案内でそれぞれの各部屋へ
確かに旅館だ
外装はビジネスホテル風
中身は旅館
まぁやっと落ち着く場所が見つかってホッとした
おふくろ、S子、F子、かなちゃんママ
おやじと子供たち
私とS君
3つの部屋に分かれた
和室の落ち着いた感じ
旅館の裏は竹やぶになっていた
ちょっと古臭い感じ
昭和初期という感じかな
食事は2時間後ということだ
わたしはオヤジの部屋へ行った
子供たちははしゃいでいた
オヤジは携帯式のラジオで落語を聞いていた
楓がわたしのところへきた
「パパ・・・ちょっと・・・」と私の耳元で小声で話しかけてきた
「パパ・・・ちょっと変じゃない?・・・予約した全部がキャンセルって・・
偶然じゃないような気がするよ・・・それにここ・・・人の気配が全然しない・・・
あのおばあちゃん・・いつ、あの受付にいたの?・・いつのまにかいたよね・・」
確かにだ
人の気配が全然ない
旅館はそんなに大きくはない
でも老婆一人だけでは無理だろう
今日の予約した分が全部キャンセルって・・・絶対に可笑しい
「パパ、あたち・・・用が・・・」
「じゃあパパと一緒に行こうか」
「うん!行くんだぞ」
葵を連れてトイレを探しに行った
え?なんでトイレを探しに行くのか?って・・・部屋にはトイレとお風呂が無い
あちこち探したが見つからない
そんなことある?
厨房?らしきのところでおばあさんの声がした
おばあさんに聞いてみようと思い厨房の前の部屋へ入った
声をかけようかとその時に
((あぁ・・・今日はたくさんの客が来たよ・・・今日で30人だよ・・エヘヘヘヘ・・・さてと・・・肉料理の肉は・・・おお・・・朝に処理したものを使おうかね・・
新鮮な肉だよ・・・))
え・・・朝に処理した・・・意味がわからん・・・ここは家畜を飼っているのか・・・
それにたくさんの客で30人!?・・
((お・・これはこれは・・・朝にいた小さな獲物の肉だね・・・まぁ・・小さいからほんのちょっとしか取れん・・・))
獲物?・・やはり家畜を飼ってるのかな・・・
((骨も砕いてカルシウムを摂らないとね・・・ゲゲゲゲ・・・この脳みそは・・・))
どうも様子がおかしい
「葵、トイレは自力で探そう」
「うん・・・」
やっと見つけた
それも和式で・・・ボットントイレ・・・
時代錯誤の旅館だな
「葵、戻ろう」
「うん!」
部屋に着いた
楓に先ほどの厨房のことを話をした
「え・・・変な笑いをしてたの?・・・ねぇ・・パパ・・・もうこの旅館から出よう‥嫌な予感がする・・・」
「パパもそうおもう・・」
私はオヤジにも厨房のことを話をした
「なに・・・変な笑い・・・ここを出るって・・・でもよ・・・もうこんな夜中だぞ・・
他の旅館の予約は取れんぞ・・・」
「仕方ないよ・・・楓もここから出ようと言ってるし・・」
「楓ちゃんが・・・わかった・・・出よう」
オヤジは各部屋を回って車へ戻るように話をした
やはり・・・みんな・・・あんましこの旅館の雰囲気は良くないと感じていたらしい
厨房を迂回して旅館から全員車へ戻った
乗り込んですぐに市街地のコンビニへ向かった
コンビニに無事着いた
突然、スマホが鳴った
「エ!・・・ゲッ・・・・例の旅館からだ・・・」
「パパ、取らないほうがいいよ、無視して」
「そうだな」
スマホを車のダッシュボードの上に置いた
((あのぉ・・・皆さん・・・どちらへ・・・まだ食事が・・・
当旅館の自慢の料理です・・・食べて行ってください))
何もしていないのにスマホから旅館の老婆の声が聞こえた
みんな・・・腰を抜かすほど驚いた
「パパ!!きちんと電話を切ったの?」
「切ったよ・・・」
もうみんな・・・寒気がして・・・気分が悪くなった
「おいおい・・・なんか寒気がしてきたぞ・・・」
「おっちーー!!!背筋になんか冷たいものが走ったんだぞ」
「もう少ししたら家へ帰ろうよ、パパ」
((お客さん・・・食事が冷めてしまいますよ・・・))
またスマホから老婆の声が・・・・
「えええ・・・何で声が聞こえるんだ」
私はスマホの電話アプリを見た
きちんと切ってある
私は電話アプリを終了させた
((おやおや・・・こんなおいしい料理を食べずにどこへ・・・))
うわぁーーー
嘘だろ・・・
「パパ!!!もうスマホの電源を切ってよ」
「そうする」
私はスマホの電源を切った
「お腹すいたな・・・コンビニで弁当でも買おう」とオヤジは車から出て行った
「じいちゃ!待って、私たちも行く」と3人娘たちはオヤジの後を追った
「Sアニキ、私たちの分、買って来てよ」とF子に言われてS君もコンビニへ行った
スマホがブルブルと動いた
((お客さん・・・いつまで待たせる気じゃな・・・肉じゃがやウィンナーやステーキを作りましたのに・・・))
スマホからまた老婆の声だ
「ぎゃーーーー、もうアニキ!!!電源を切ってなかったの!!!」
「切ったぞ!ちゃんとな・・・なんでだ・・・」
かなちゃんママは気分が悪くなって横になってしまった
おふくろも顔色が悪い
「おっちーー!!パパ!!早く家へ帰るんだぞ」
「みんな帰ってきたらすぐに家へ帰ろう」
みんな戻った
「もう帰るぞ」
エンジンをかけた
かからない!!!!
「え・・・エンジンがかからん・・・」
「うそぉーーー!!」
何回やってもかからない
バッテリーがあがったかな
((お客さん・・・そんなにあわてなくても・・・食事はありますよ))
スマホから老婆の声
みんな・・・恐怖のあまり・・固まってしまった
「どうして・・・」
トントン
運転席の窓を叩く音
「お客さん・・・こんなところで・・・食事の用意はしてありますよ」
全員が気絶した
作者名無しの幽霊
恐怖というより不気味
オヤジのミスからとんでもないことになってしまった
まさか、老婆がコンビニまで来るとは・・・
それよりも電源を切ったスマホから老婆の声
後で履歴を見たらひとつもあの旅館からかかっていなかった
というか
そもそもその旅館へのかけた履歴がなかった
どうなってるんだ
ブラウザには確かにその旅館の検索結果は残っていた
腑に落ちないことばかりだ
私は後日、暇な日にその旅館へ行くことにした
住所通りに車を進めた
住宅街を抜けそこにあった
ビジネスホテルだからかスーツを来た人たちが出てきた
遠目から見た感じではたしかにここだ
でも何か違和感を感じる
その旅館のフロントへ向かった
私はその受付の人にこのホテルに年を取った女の人はいないか尋ねた
「いない」との返事
部屋から人の声や歩く音がよく聞こえた
全然雰囲気が違う
それに周りも何か違う気がした
一つ気になることが
ここへ来る途中に竹やぶに覆われた廃墟を見た
ここから300メートル位だ
私は気になりその廃墟へ歩いて行った
うっそうと茂っててジャングルみたいだ
その隙間から廃墟が見えた
見るからにホテルもしくは旅館みたいな感じ
なんとか廃墟の入り口を見つけた
看板に何か書いてある
私は一瞬目を疑った
もう1度よく見た
この前の旅館の名前だった
もっと驚いたのは今さっきのビジネスホテルも同じ名前なのだ
どいうことだ・・・
私たちの家族はこの廃墟へ泊ったのか・・・
気味が悪くなってきたので早々に竹やぶから出た
ふと前を見ると・・・乳母車を押しながらこっちへ来る老婆を見た
「こんにちわ・・・お客さん・・・何で・・・料理を食べる前に出て行ったんだい・・・」
私は一瞬にして固まった
我に返って後ろを振り返った
もう老婆の姿は無かった・・・・