中編3
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王子さまになった日

僕がまだ、とても小さい頃の話です。

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家族で街に買い物に行きました。

両親とお兄ちゃんと地下道を歩き、その突き当りにあるデパートを目指します。

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通路を太い方に曲がるとデパートが見えて来ました。

突き当りがデパート。その手前、右手には地下駐輪場に入る細くて暗い入口。左手には地上への出口につながる別の道があります。

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デパートの入口が見えたら、僕とお兄ちゃんは居てもたってもいられませんでした。

おもちゃ屋、量り売りの回るお菓子売り場(今もあるのかな)、ソフトクリーム…。

楽しいものがたくさんある事を知ってるからです。

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「行くよ!」と駆け出すお兄ちゃん。

「待ってー」と着いていく僕。

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年子で、1歳しか違わないのにとても小さかった僕は、急いで着いて行きましたが、全く追い付けませんでした。

5歳だった僕でしたが、一度デパートで迷子になった時「2〜3歳の女の子が迷子です」とアナウンスされてしまった程の小ささでした。

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「2人とも走っちゃダメ!お菓子のトコにいてね」と母。「はーい!」と上の空の僕たち。なんのお菓子を買おうか、しか頭にありません。

微笑みながら両親はのんびり歩いて着いて来ていました。

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突き当りのデパートの自動ドアが開き、飛び込むお兄ちゃん。入ってすぐ左手に、お菓子の大きなディスプレイがゆっくり回っているのが見えます。

様々なお菓子が所狭しと陳列され、まるでお菓子のお城に見えました。

振り返って僕に手招きするお兄ちゃん。

僕も続けて入ろうとデパート手前まで来たときでした。

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ふわり…

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と身体が浮きました。

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気付くと知らないおじさんの肩に乗っていました。

暗い地下駐輪場の入口に潜んでいたおじさんが、僕が来たときに出てきて、僕を抱き抱えて地上出口へ向かう左手通路に走り始めたのでした。

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さっきも行った通り 、とても小さかった僕は、片手で簡単に持ち上がり、荷物の様に肩に抱えられました。

失礼な話ですが、おじさんはとても汚く、とてもくさかった事を覚えています。

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しかし僕は、抱っこされている事から、僕を知っている、お父さんお母さんの知り合いなのだ…と思い、くさいと言わず努めて笑顔でいました。

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「これから、おじさんがお父さんだぞ」と言われ 、意味も判らず我慢していると「離せー!」とお兄ちゃんが走ってきて、おじさんの足を叩き始めました。軽く蹴られたお兄ちゃんでしたが、簡単に飛んで転びました。

「お母さーん!」と両親の方に走るお兄ちゃん。

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それを聞いて「お母さんがいるのか」と聞いてきたおじさん。

「うん。お父さんもいるよ」と言うと、おじさんは急に立ち止まりました。

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「またな」と言って僕を投げる様に下ろし、大急ぎで地上出口へ走り去りました。

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慌てて駆け寄る両親とお兄ちゃん。

焦った顔で僕を抱っこするお母さん。両親の知り合いだと思っていたので「あのおじさん、だれ?」と聞いても「もう離れちゃダメ」と僕を離さないお母さん。

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僕だけが何も判らないまま、その日の僕はまるで王子さまになった様でした。どこへ行くにもお付きの護衛の様に両親やお兄ちゃんがピッタリ僕にくっついて行動していました。

お菓子やおもちゃに惹かれ、あっちこっちへ寄り道する僕に、3人は離れず着いてくるのが面白くて、ずっと笑っていたのに、両親は全く笑わず周りを見ている事が、当時は不思議に感じていました。

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少し大人になった時、急に思い出してあれが誘拐だった事、もう少しで一生離ればなれになっていたかもしれない事を理解し、本当にギリギリの所だったのだと背筋が寒くなりました。

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以前投稿した「路上にて」「夜の砂浜」と併せて、この3回が、僕が受けた誘拐未遂三部作です。

多いのか少ないのか。皆様は誘拐されかけた事はありますでしょうか…?

Concrete
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@あんみつ姫 さま

いつもありがとうございます!
かわいい…かどうかは判りませんが、ボーっとしていて、何でも疑わないで「簡単に連れて行ける」と思われては、いたと思います(汗)。

現代でもあるんでしょうけど、都会なら街中に防犯カメラがある時代ですから、やっぱり昔の方が誘拐し易かったかもしれませんね。怖いです…。

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@りこ さま
いつもありがとうございます。

お兄ちゃんには、いつも助けられていました。その時お兄ちゃんが居なかったら、僕はここにいないと思うと感謝しかありません。

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