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中編5
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異世界磔刑

ある頃から、ヒノモトの若者達がしっちゃかめっちゃかに異世界転生をするようになった。

大体がトラックに轢かれることで神隠しのように転生していた。

それもあって国を挙げてトラックの運転手達に交通安全の御守りを交付したが効果はなかった。

当初は良かった。受け入れ先の異世界がたくさんあったのだ。

異世界一つにつき、転生者ひとりのワンオペができた。

ところがだ。

とある時期から異世界転生者の割り振りをしている人事総括がもうやってられるかとばかりに匙を投げ、一つの異世界にすべての転生者を送り込んでしまうようになったのだ。

その異世界はやはり中世ヨーロッパ調の雰囲気で、魔王やゴブリンのいるような典型的な剣と魔法の世界であった。

そこでは元々の騎士や魔法使いが活躍していたのだが、転生してきたアジアンフェイス達の能力は彼等に比べてことごとくチートであった。

王国の騎士団長は勇者風の転生者に勝てないどころか、「異世界に煮干しラーメンを流行らせたら王女に気に入られて親衛隊長にされそうになったが面倒なのでやんわり断ったら掌から『かん水』が滲み出るようになった」奴の足元にも及ばない始末であった。

そんな次第であるから魔王討伐は早々と達成された。

だが魔王が美少女だったのは言うに及ばず、その倒された魔王がすぐに悪役令嬢に生まれ変わってうんちゃらかんちゃらなものだから事態の収集は困難を極めた。

とにもかくにも、その世界は何百という転生者達を中心に回っていくこととなった。

一方で元からいたその世界の住人たちは、転生者に比べて悲しいほどに多面的に非力であったから、男達は美女全て転生者に取られたし、女達もまた同様に美男を独占された。

そして国の上級職も転生者達に占められていった。

転生者なんてものは、ひとりなら英雄だが、ゴロゴロと集められたなら災厄である。

「支配者が魔族から転生者達に置き換わっただけだ」と嘆く者も多くいた。

とはいえそれはさすがに言い過ぎで、実際のところ、奴隷にされたり殺されたりしないぶん転生者達の方がマシであっただろう。だが自分達に似た姿でありながら、自分達では遠く及ない能力の持ち主達に様々な面で『旨味』を独占され続けるのは気味の悪い心地であったに違いない。

『平家でなければ人ではない』とまではいかないものの、元の住民達は自分達の平凡であることに忸怩たる思いを宿すようになった。

また生活様式も徐々に置き換わっていった。電化製品やエンジンといった物がもたらされたのはまだしも、この異世界ではたして本当に必要であったかといわれたらそうでもない漢字やひらがな等の日本語が転生者によって国語に定められたり、政治についても民主主義政治をなかば強引に導入した。

銃やミサイルは、剣術や攻撃魔法よりもはるかに強力であり、王国の騎士団や魔法使い部隊は解散させられた。

やがて治安を乱したり武装蜂起をさせないために魔法そのものを利用したり教えたりすることも固く禁じられ出した。

電化製品があれば魔法など不要なのだ。なぜ魔法を使おうとする?それは反乱分子だからだ。

かくして魔法を使えるものは転生者達の一族に限られていった。

この世界に脈々と受け継がれてきたものは、波にさらわれる砂の城のように消えていった。

・・・そして、100年の月日が流れた。

良い天気の昼下がり

街中では怒号が飛び交っている

デモ隊が政府軍と争っているのだ。

政府軍に属する転生者達の子孫は魔法で鎮圧しようとするが、デモ隊は火炎瓶で応戦する。

この様相はかれこれ何十年と続いている。

しかしなんてことはない、転生者達が転生する前の世界でよくあった光景だ。

しかしなぜ、神の如き転生者達が支配するこの世界で住民反乱など起きるのだろうか?

これまたなんてことはない。転生者達の誰ひとりとして、民衆が不満の起こさない政治など知らなかったのだ。

なぜかって?彼等を送り出した世界で解決されていなかった問題だからだ。

しょせん転生者の知識は『現代社会』の上澄みでしかなかった。物質精製スキルで完成されたスマホを作れたとしても、タッチパネルが指で何故反応するかを理解している転生者はいなかった。

基礎の理論が不明なのだから、この異世界で更なる科学の応用は望めなかった。

ゆえにこの100年間で文明はなんの進歩もなかった。

ずっと同じような機能の電子機器を使い回していた。

とにもかくにもこの世界は内乱のような状態であった。

そんな中、デモをしていた1人の若い男が道を渡った刹那に政府軍のドラゴンが衝突した。

そして彼もまた神隠しとなった。

・・・目を覚ますとそこには女神が立っていた。

「あなたは死にました。しかし生前の善行により、異世界に転生させましょう。そこは荒廃した世界ですが、あなたはそこでチート能力を使って英雄になるのです。」

かくして青年は光に包まれた。

そして気がつくと、なるほど荒廃した世界である。

原住民たちは薪を使って火を起こしている。

着ているものは動物の毛皮である。髪も伸びっぱなしで不潔である。

青年は思った。

・・・なるほど、この原始人たちを俺が導いてやれば良いのだな。俺はスマホを持っている。火炎瓶の作り方を教えてやろう。しかし、アルコールはどうやって作ったものか?

なあに、なんとかなるだろう。彼等は所詮蛮族なのだ。

青年は一番威厳のありそうな老人に声をかけた。

「はじめまして。僕は異世界から転生された賢者です。あなた達を救いに女神から遣わされました。」

はたして元の世界の言語が通じるだろうか?

「なんと賢者様ですか。どうか我々をお救い下さい。」

おお、凄い通じたぞ。これも女神のくれたチート能力なのか?

話しかけた老人はこの集落の長老らしく、さっそく長老は住人達を広場に集めて、青年を救世主の賢者だと紹介した。

青年は救世主と紹介され気持ち良くなり、

偉そうに自分のいた世界の知識をひけらかした。

かまどの作り方や、井戸の掘り方を語った。

しかし住人達は怪訝な顔をしている。

うむ?話が地味すぎたか。

ならばこれはどうだ。

青年はスマホを見せびらかした。

ところが住人達は失望した顔をしている。

なんだこいつら。

それでは派手な話でもしてやろう。

青年は核兵器について悠々と語り出した。

その話をした途端に鬼の形相をした住人達から石を投げられた。

この、原始人め、いったい何をするんだ。

すると長老は青年に近づき、地面にねじ伏せた。

「なにをするんだ!」

青年は喚いた。しかし老人は静かに語る。

「お前のひけらかした物は、すべからく我々はお前以上によく知っとるよ・・・」

「はぁ!?」

「・・・なんせ、ここはヒノモトだからのう・・・」

青年は磔刑に処せられた。

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