僕が小6の時の話です。
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夏休みだった僕は、仕事に行った両親、遊びに出掛けたお兄ちゃんが居ない家で、1人でテレビを見ていました。
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ガチャっと開く玄関の音。まだ14:00だったので両親が帰ってくる時間ではありません。
当然お兄ちゃんが帰ってきたと思いました。
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部屋の扉が開きます。お兄ちゃんだと思って振り向くと、入ってきたのは、全く知らないおじさんでした。
とても大柄な中年男性で、汗をかいてハァハァ言っています。
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えっ…
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一瞬で恐怖を覚え固まる僕。恐怖で何も言えません。
田舎は玄関の鍵なんてかけません。勝手に入ってきたのです。
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立ったまま部屋を見渡すおじさん。大きいので、すごい圧迫感です。
無言の二人。ただテレビがワイドショーの音だけ出し続けます。すると当たり前の様にテレビ横の電話に手を伸ばし、掛け始めます。
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出て行って逃げようか、とも思いましたが、それに逆上して追いかけてきたらどうしよう…等、パニックで頭の中がグシャグシャでした。
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電話で大人の会話を続けるおじさん。内容は全く判りませんでした。
そして電話を切ると「遠距離電話をかけた。これは代金だ」とポケットから数枚の小銭を出し、ジャラっと机に置きました。
あぁ。公衆電話を探して見つからなかったおじさんだったのかな…と、少し恐怖が薄れました。
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用も終わったし出ていくかと思いきや、僕の座っているソファの対面に、どっかと座りくつろぎ始めました。
えぇっ!誰!?何で帰んないの?
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汗を拭きながら無言で座る見知らぬおじさん。珍しそうにずっと部屋を見回します。
終始、全く僕を見ません。入ってきてから一度も目が合いません。
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恐怖という唯一の感情だけの僕と、恐怖以外の感情を全て有し、ゆったりとのんびりと、まるで日常の様にくつろぐおじさん。
まるでパラレルワールドにいるのかと感じる程、訳が判りません。
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恐怖と日常が相対する、不安定で不条理な空間。
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無言の時間が続きます。まるで自宅の様に平然とくつろぐおじさん。逆に僕がよそ者の様に居づらい雰囲気です。
進まない時間。動かない空気。その重さに、つぶされそうなぐらい頭が痛くなります。
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恐る恐る「何か飲みますか…?」と話し掛けてみました。
すると、初めてそこに人が居た事に気付いた様に、キョトンと僕を見て「あぁ。悪いね。くれるか?」とおじさん。
初めて目が合いましたが、別の場所に居る人との合成動画の様に、目が合っている感覚がまるで無かった事を覚えています。
「僕んち、麦茶しかないけど…」とコップを出すと、おじさんは一気に飲み干しました。
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うつむいて黙ったまま、何かを考えている様子のおじさん。
突然立ち上がり「君は優しいね。ありがとう」と目を合わさず言い、急に出ていきました。
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急いで二階に上がり、二階の部屋の窓からこっそり外を見ると、全くキョロキョロもせず、まっすぐ前だけ見て堂々と歩くおじさん。そのまま遠くへ歩いて消えて行きました。
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急いで一階に降り、玄関や勝手口の鍵を全て締めて回りました。怖くて怖くてたまりませんでしたが、この出来事を言うと家族が心配する…と勝手に感じ、コップを洗って何も無かった様に戻しました。
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また、おじさんの存在の跡がとても怖く気持ち悪くて、無かった事にしたくて、玄関ノブや電話、座ったソファ等を洗剤で拭いて回りました。
もし窓を見て、おじさんがいたら…と不安で、カーテンも閉めて回りました。
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最初に帰ってきたのはお母さんでした。
「なに?カーテン全部閉めて暑苦しい。開けなさい」と言われ、怖くて言いたかったけど「暗くして映画見てたんだ」と嘘をつきました。
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何だったのかな。誰だったのかな。なにをするつもりで入って来たんだろう。いろんな家を回って来たのかな、ウチに絞って入って来たのかな…。
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この出来事は、今でも家族に言っていません。
作者KOJI
本当にただ電話を借りにきた人だったのか、気のおかしい人なのか、強盗や殺人…(考えたくありませんが)を企てていたのか、判らないままです。
僕は「タイムトラベラーなのでは」と思ったりもしています。
未来から、昔の日本の生活、日常を見に来た観光者。
電話を介しての未来への通信で「ちゃんと到着しました」の連絡を…。
…なんて呑気に考えるので、危ない目に合うのですね。
しっかりします。