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こんな夢をみた(森のなか)

中編4
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こんな夢をみた(森のなか)

ザッ ザッ ザッ

・・・男が 深い森の中を彷徨っている

もう薄暗い夕方だというのに懐中電灯は持っていない

なぜか見知った森のような気がするが

なぜ自分が彷徨っているか 覚えていない

つまりは 男は遭難している

グァーッ グァーッ

不気味な野鳥の鳴声が頭上に響く

あてもなくこのまま歩を進めて 意味があるのだろうか

かといって うずくまっても なおさら怖い

ふつふつとこの状況に怒りさえ湧いてくる

どこかに人里はないか・・・

そのとき 神の情けか 遠くに灯りがみえた

男は すがる気持ちで灯りに近づく

灯りのもとに辿り着いて 男は息を飲んだ

十字架に 人間大の藁人形が打ちつけられている

そして藁人形の頭だけがゆらゆらと燃えている

俺はこの不気味な光景を救いと思っていたのか

呆然とその様子を眺めていると、徐々に藁人形の火が弱まってきた

やがて頭が燃え尽きたときにギョッとした

夕日に照らされた燃えかすの中には、首をかしげ、恨めしげにこちらを睨む知人の顔があった

数瞬間 時間が凍った

男は悲鳴をあげて、ふたたび森の中に逃げ出した

しかし森に逃げこんだところで、元より遭難していたわけだから、暫くするとまた途方にくれるのである

いつのまにか夜になっていた

時間が経つにつれて喉も渇いてきた

どこかに水場はないか・・・

サラサラサラ

ふと気づけば近くに水の流れる音がする

近くに川があるのだろうか

手探りで慎重に、水音のする方へ進むと、穏やかな水流の小川があった

川に顔を近づけ、ゴクゴクと飲む

喉の渇きは癒えた

しかし妙な味がする

なにか 錆くさいような

上流の方を仰ぐ

なにか川面に浮いている

水中に顔を差入れ、正体を見定めてみる

両手両足を縛られ 胴体にダンベルを繋がれた藁人形が水中に沈められていた

水流にさらされ、頭部の藁が徐々に流されていく

そして藁の中から、別の知人の顔が露わになった

こちらを厳しく睨みつける

男がたじろいだ瞬間、なにものかに足を摑まれた

川底にひきづりこまれていく

水中で、もがくほど肺に水が入り込んでくる

それでもなお、必死でもがいていると、岸に戻ることが出来た

いったいなんだってんだ

やるせない怒りの感情が渦巻く

そのとき、ガラガラと音を立てながら、何かが男の前に転がって来た

それは、錆びついたドラム缶であった

ドラム缶が男の前で止まる

ざわざわざわ

ドラム缶の中で何かがうごめく音がする

おそるおそる、中を覗いた瞬間、おびただしい数の沢蟹が、わらわらと出てきた

蟹が逃げたあと、ドラム缶の中には藁人形の姿があった

やはり恨めしげにそいつは男を睨んでいた

男は森の中へと逃げ出した

それしかできない

森の中を駆けずり回る

はたしてこの森を抜けきることはできるのか

しかし

ああ・・・分かっている

俺はいま報いを受けているんだ

あの藁人形ども

いままで俺が殺してきたやつと同じザマになってるんだ

くそ、ここはいったいどこなんだ

いつまでこんな地獄が続くんだ

それに、なんで俺はこんなところにいるんだ

男の心中に絶望感が満ちたとき

プロペラの激しい機械音が頭上に鳴り響いた

見上げると救助ヘリコプターが低空で空中停止している

ヘリコプターの煌めくライトが男を照らす

やった 助かった

男の前に縄梯子が降ろされる

梯子に手足をかける

少しづつ登ってゆく

ヘリコプターは上空高く飛翔していく

もう機体のドアまで腕一本分くらいまで登ったとき

機内から搭乗員が顔を出した

知人の顔だった

そいつはニタニタと笑いながら、男に声をかける

オマエが 救われて 良いわけないだろう

男は悲鳴をあげて、顔をそむける

眼下には、あるはずの森はなかった

底知れない大穴が ぱっくり大地にひらいていた

おい こっちを見ろよ 助けてやるからさ

はっきり聞こえた

いつのまにか機械音は消えていたのだ

機体を見上げる

ヘリコプターはなかった

宙に浮いた知人が梯子を掴んでいる

どうした 救いが見あたらなくなったか

知人の姿が、みるみる藁人形へと変わっていく

ただの藁人形が飛んでいるわけがない

ガクンッ と猛々しい速さで落下していく

落下のさなか、思い出した

そうだ

俺は何度もこいつに落とされて

また森を彷徨うことになるのか

いや

あの大穴の底は

きっと

もっと

不吉な 不吉な そんな場所なのだろう

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@ねこじろう
コメントありがとうございます。
そう言っていただき光栄です。

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