鱗の少年シリーズ 七話目 『蛇のような猫のような』

中編6
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鱗の少年シリーズ 七話目 『蛇のような猫のような』

学生時代、ウロコくんの家に遊びに行った時の話。

ウロコくんの家は二階建ての家だった。

彼のおじいさんが若い頃は平屋だったらしいが、子供が増えたので改築して二階建てにしたそう。

山に家がある上、おじいさんとおばあさんの畑があり、色々な野菜を育てているそうだ。

その日はウロコくんの他に、おじいさんとおばあさん、彼の弟が家に居た。

そして、この前に会った猫二匹、しっぽが二股になっているサビと、目が盲目のクロも家に居た。

ウロコくんの弟は部屋にこもりっきりでゲームをしているらしく、部屋から出てくる素振りも無かったので、顔を見ることは出来なかった。

しかし、ウロコくんのおじいさんとおばあさんは私が来ると、愛想良く出迎えてくれた。

おじいさんはウロコくんと似て無愛想な人だと聞いていたが、おばあさんに上手いこと矯正されたのか、そこまで愛想の悪い人でもなく、良い人だった。

ウロコくんの部屋に案内された後、本日の目的である勉強会になり、私はウロコくんに勉強を教えて貰っていた。

何気、ウロコくんは頭の回転が早いらしく、理解すると飲み込みが早いので、実は学校の成績が良い方なのである。

それについては、ウロコくんの父親譲りらしく、彼のお父さんもそれなりに頭は良いそうだ。

ウロコくんには兄と弟がそれぞれ一人ずつ居て、お兄さんは今日はどこかに出かけているらしかった。

さて、面白みのない勉強をウロコくんと一段落させたところで、彼の飼っている猫達にエサをやる時間となった。

そろそろ昼ご飯の時間らしく、私はウロコくんと階段を降りて、サビとクロにエサをやりに行く。

サビとクロはちょうど階段にいて、私とウロコくんを見ると、キッチンの方に駆けて行った。

自分達の皿がある場所でニャーニャー鳴いており、飯の時間だと騒いでいるようで、中々賢い猫だった。

「エサどこにあるの?」

「こっち」

キッチンの戸棚を開けて、業務用の猫のカリカリを取り出し、ウロコくんはサビとクロの皿に乗せていく。

液状のエサもかけるらしく、それをカリカリと混ぜて出してやると、凄い勢いで食べ始めた。

「凄い食べるね。」

「腹減ってたんだろ。」

「うん。」

勢い余りすぎて、クロの方はエサが溢れてる。

それを皿に戻してやりながら様子を見ていると、不意にサビとクロが一度エサを食べるのを止めて、外に繋がる方角をじっと見た。

私がそちらを見ると、サビがニャー、と一つ鳴いた。

何かあるのかと、私は外に繋がる縁側の方に行くと、サビが着いてくる。

縁側の方に着くと、サビが仕切られた引き戸越しから、ニャー、と声を上げた。

すると、引き戸の向こうから、ニャー、と低い声が上がったのだ。

向こうに猫でもいるのかと、私は引き戸を何気なく引いてみた。

すると、『いるにはいた』。

いや、いたのだが、それは多分猫では決してない。

猫とよく似た何かだった。

猫の特徴にありがちな尖った耳、つり上がった目、小さめな顔。

それらは全て揃っていた。

だが、決定的なのは、その体。

明らかに、『胴』の部分が長過ぎるのだ。

なんて形容すればいいか分からないが、とにかく猫の胴体をめちゃくちゃに引き伸ばして、足を何本も付けたような感じ。

そう、例えるなら、まるで蛇みたいな。

しかし、ムカデみたいに足は何本もあるし、胴体は長く、ウロコくんの家を囲む塀の外まで飛び出してしまっている。

胴体の長い蛇のような猫は、ニャー、と低く鳴いた。

すると、サビがこちらを見てニャー、と鳴く。

あまりにも衝撃的な絵面に、私はどうすればいいか分からず、とりあえず引き戸を閉めた。

そして一目散にウロコくんの所まで行き、

「ウロコくん!」

と、キャットフードを片付けるウロコくんに抱き着いた。

ウロコくんは少し前のめりになったが、すぐに立て直して、

「なんだよ。」

とぶっきらぼうに呟く。

「外に変なのがいる!」

「?」

縁側の方を指差して私がそう呟くと同時に、サビがキッチンに帰って来て、ニャー、と鳴く。

そして、エサ皿の方まで来て、うろちょろとそこを回り出した。

「外に腹でも減ってる猫がいんのか?」

ウロコくんはそう呟きながら、縁側の方まで行くと、引き戸を開ける音が響いた。

「なんだお前。」

と、さして驚いた様子もないウロコくんの声が、キッチンまで響いて来た。

サビは私の方を見てニャー、ニャーとうるさく鳴くので、どうしたらいいか分からず、エサ皿を持ってエサをサビの方へ持って行ってやると、サビはそれを目にした後、スタスタと縁側の方へと歩き出した。

だが、キッチンの出入口で立ち止まって、ちらりとこちらを見るので、着いてこいと言われているようで、私は素直にサビに従う。

サビは縁側の方に向かっており、嫌な予感がしたが、縁側にはやはり、あの蛇みたいな猫がウロコくんに鳴いて、何かを訴えていた。

サビと私が猫の方へと歩いて行くと、ウロコくんが私に気付いたようだ。

「スゲェ白いな、コイツ。」

一言そう言って猫を指し示す彼は、至極通常運転だった。

私はお前の方が逆に怖いよ。

確かによくよく見れば、猫は新雪のように白く、唯一色があるとするなら、赤い目だろう。

アルビノなのかは知らないが、それにしたって異常過ぎる猫だった。

けれど、そんな私の恐怖を他所に、サビは蛇のような猫に近付き、ニャーと鳴いた。

何となく、エサをやってやれと言われた気がして、出来る限り近付かないようにしながらエサ皿を蛇のような猫の方にやると、エサをむっしゃむっしゃと食べ始めた。

「腹減ってたのか、コイツ。」

ウロコくんがそう言って蛇のような猫を撫でる。

サビはそれを伝えたかったらしく、蛇のような猫がエサを食べるのをじっと見ている。

異変に気付いたのかクロもやって来て、結局縁側で二匹と一匹?はエサを食べていた。

やがてエサを食べ終わると、蛇のような猫はニャー、と一言低く鳴いて、ウロコくんの家を出て行った。

結局、あれがなんだったのか分からず、私はウロコくんとの勉強もそこそこに、家に帰り着いてしまった。

だが、後日ウロコくんから、あの猫のことについておじいさんから話を聞いたらしい。

「なんか、じいちゃんの家の近くに神社があるらしくて、そこに祀られてるのが白蛇なんだってさ。それが猫に化けてウチに来たんじゃないかって。」

「仮にそうだとして、何が目的なのさ。」

「あそこ、人が滅多に来ないから、じいちゃんがたまに行って、管理人と一緒に掃除してやってるらしいんだけど、この前行った時、管理人がお供え物を忘れてたみたいで、神棚にお供えものがなかったらしい。それでお腹が空いたから、神社から近いじいちゃんの所に来たんだろって。」

「いや……猫のエサなんかで良かったの?」

「良かったんじゃない。あの後何も起きてねえし。」

適当だな、おい。

そんなので良いのか、神様の使い。

「でも、猫のエサって最近進化してるから割と美味いぞ。」

「食べたことあんの?」

「カリカリとちゅーる。」

「ええ……。」

そうなんだ…。としか言えなかった。

「でも、蛇にエサやってる時、弟が見てたらしいけど、ずっと何も無いところで、何かにエサやってて、気持ち悪いって言われた。」

「弟くんには見えないんだ、やっぱり。」

「うん。」

「なんで弟くんには見えないの?」

「だって俺、アイツとほとんど話したことないし。」

ウロコくんが真顔でそう言った。

「え、でも一緒にいるんでしょ?」

見える人間と一緒に居ると、変なものが見えると言ったのはウロコくんだろうに。

「アイツ、俺の事嫌いなんだ。だから話さねえし、俺の両親も、俺に妄言癖があるって思ってる。」

だから遠巻きにされてて、普段近寄らないし、話さないから見えないんだろと、彼はそう言った。

「ふぅん、そうなんだ。」

まあ、見える人間にしか分からない価値観に対して、見えない人間の価値観が違うのは当然である。

だって、見えないんだから。

見える必要もない、交わる必要もないことだから。

「まあ、私がいるから良いでしょ。彼女出来なかったら私がなってあげるよ。」

冗談交じりにそう言って苦笑を落とせば、

「ああ、そうだな。」

と、彼からもそう返ってきた。

「彼女になったらちゃんと守ってね。」

「彼女になったらな。」

「そこは「うん」で良いだろ。」

「そうだな。」

「可愛くない。」

流されるようにそう言った彼に、私がそう言うと、「なんだよ。」と、不満気に彼は首を軽く掻いた。

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