僕がまだ幼かった頃に、○○○が死んだ。
悲しかった。
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ちょうどその時、飼っていたハムスターが子どもを産んだ。
父さんは僕の頭を撫でながら、
「それはきっと、○○○の生まれ変わりだよ」
と言った。
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幼いぼくは、「○○○はこんなに小さくなったんだ」と不思議に思ったけど、それでも嬉しかった。
だから、大事に大事に育てた。
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そんなハムスターもやがて死んだ。
悲しかった。
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でも、ちょうどその時、飼っていた猫が子どもを産んだ。
父さんはまた僕の頭を撫でながら、
「それはきっと、ハムスターの生まれ変わりだよ」
と言った。
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そういうことか、と僕は思った。
嬉しかった。
だから、大事に大事に育てた。
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猫は長生きしたが、やがて死んだ。
僕は高校生になっていた。
ちょうどその時、飼っていた犬が子どもを産んだ。
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僕は、上京で実家を離れるまで、大事に大事に犬を育てた。
上京してからも、毎日のように父さんに、犬は元気かとメールをした。
年に数度帰省するときは、ずっと一緒に過ごした。
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そんな犬も年老いて、今、僕の腕の中で瞼を閉じた。
「ありがとう」
僕は犬に声をかけた。
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涙を流す僕の肩を、優しく抱き締めてくれる腕があった。
僕の婚約者だった。
「ありがとう」
僕は、彼女にも礼を述べる。
彼女のお腹には、新たな命が宿っていた。
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――さあ、これで準備は整った。
幼い日、父さんは言った。
生まれ変わりだよ、と。
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ハムスター。
猫。
犬。
そして――。
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途切れることなくつないだ輪廻の輪は、ついに結実した。
「再び」、人の形へと。
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生まれておいで。
やっとまた会えるね。
おかえり、
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母さん。
作者綿貫一
こんな噺を。