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中編4
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狐憑き

これは祖父から聞いた狐憑きの話です。

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祖父が子供のころ住んでいた集落は、これといった名物や名所がない貧しい山奥の集落だったそうです。

そこに住んでいた人達も、戦後の復興で働き手を求め都市部に移動を始めていて、30人位いた同年代の子供たちは季節ごとに姿を消していきました。

祖父が集落から都市部へ出て行ったときには、集落に同年代の子供は数えるほどになっていたそうです。

そのなかでも祖父と一番仲が良かったのがY君で、どちらが木の上に早く登れるかを競いあった良きライバルでした。

ある日の夕方、Y君の家の人が祖父から話を聞きたいと訪ねてきました。

なんでも、学校や帰り道に何か変わったことがないか知りたいと言うのです。

理由を聞けば、Y君の左肩を中心に背中の三分の一が赤く腫れてしまい、こんなに腫れるなんて普通では考えられない、何かが原因だろうから少しでも手がかりが欲しいのだというのです。

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心当たりといえば、祖父はその日家の作業がなかったので学校の帰り道にY君と寄り道をして、アケビ(山野に生え、茎はつるになって、他の樹木などに絡みついて生長する。果実は甘い)を取りに山に入っていました。

アケビのなっている場所に行くと、熟れて落ちたアケビを食べていたキツネと出くわしました。

キツネは祖父とY君をみてすぐに逃げて行ったので、祖父にはY君の異変に心当たりはありませんでした。

それでも祖父はY君を助けたくて、どんなに些細なことであっても覚えているだけ全てを話したそうです。

Y君の背中の腫れは数日で治まったのですが、すぐに別の場所が赤く腫れる有様でした。

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左腕が赤くなったと思ったら数日後にはお腹が赤いと、まるで体の中を移動しているようで、医者も原因がわからないという状況になりました。

更にY君の変化は体だけではありませんでした。

いつも笑っていたY君はだんだんと笑わなくなっていき、話し声がうるさいと友人に殴りかかったり、農機具につながれた牛に突っ込んだりと問題を起こすようになっていて、ケガが絶えなくなっていきました。

このY君の変化を「狐憑き」だと最初に言い出したのがY君のお祖母ちゃんです。

いくら迷信の色濃い山奥の集落とはいえ、狐憑きなど大人たちは誰も信じていませんでした。

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しかし治る気配のない赤い腫れに、人が変わったとしか思えないY君の変貌ぶり。

大人たちも狐に憑かれたというのを馬鹿にできなくなっていたため、Y君の家はワラをつかむ思いでお祓いをすることを決めました。

集落の社を管理していた家に頼み、有名な神社の神主を呼んだと大人たちが話すのを聞いて、集落の子供たちは皆好奇心で興味深々です。

ですが神聖な儀式ということで、子供たちは監視できる場所に集められました。

このとき祖父は隙をみて様子を見に行きたいと考えますが、それで儀式が失敗したらY君が元に戻らないと思って、我慢することにしたそうです。

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儀式の後しばらくは、それまでのこともあってY君は子供たちの輪から孤立したままでした。

Y君が子供たちの輪に入れるようになったのは、赤い腫れが体から消えたということが大人たちの話から伝わってからです。

以前と同じとはいきませんが、ちょっとしたことで怒り出すことがなくなったY君は、よく笑う子供へ戻っていきました。

大人たちから聞いた話によると、儀式では嫌がるY君を神前に座らせて、用意した水を飲ませようとするとひどく暴れはじめたそうです。

それでも無理やり水を口に入れると、急に大人しくなったのだとか。

Y君が急に静かになったので、間違えて酒を飲ませたのかと大人達は心配になったそうですが、Y君に飲ませたのは水で間違いありませんでした。

それから儀式が終わるまでの間、Y君は虚ろな表情で身じろぎひとつせず、儀式が終わってから寝室に行く足取りはフラフラとしていて、まるで寝ぼけているようだったそうです。

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江戸時代の文献によると、狐は人の皮と肉の間に入り込んでその人の意識を奪い、皮と肉の間を自由に移動するとされているそうです。

狐に憑かれた人の体にはコブ・腫れといった特徴が現れるとあります。

私が祖父から聞いた話はこれで終わりです。Y君の身に起きた異変は、今では知る由もありません。

ですがお祓いをきっかけにして事態が治まったのは事実のようです。

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狐憑きなんて、本当にあるのでしょうか…。

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