中編4
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白い光の中に

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神の啓示や託宣は、おそらく存在している。

あなたも当然「水ってなんだろう?」と不思議に思ったことがあるだろう。

それは水分子の集合体であり、地球上の物理法則によって分離しそして結合する原子達の関係する現象だ。

物質を細分・概念化することは出来る。

けれどそれでほんとうに「水ってなんだろう?」の答えになるのか?

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存在とは何か?

それはユダヤ・キリスト教における神の息かもしれないし、

ムスリムの日常に舞い降りる風かもしれないし、

日本人に降る八百万の雨かもしれない。

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私は今のところまだ、神懸かりになってはいない。

けれどある夜、おかしな夢を見た。

ビジュアルが奇妙なうえに内容もわかりずらく、なぜそんなものを見てしまったのか、あんまり心当たりが無い。

その夢の中に、私はいなかった。

ただフィルムの中で起きていることを、ひたすら眺めているような夢だった。

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どこか閑静な住宅街の、団地やマンションが建ち並ぶ広い通り。

空は晴れていた。

ひとつのマンションの屋上には芝生の青い庭があって、そこでひとり水遊びをしていた小学生くらいの女の子が、笑顔を浮かべて手を振った。

どこに?

通りを挟んだ向かいのマンションに住む、窓から顔を出している女の子に。

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どうやら同い年くらい。友達だろうか?

屋上にいた女の子が笑顔で叫んだ。

「またねー!」

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そして柵を乗り越え飛び降りて、地上でぺしゃんこに飛び散った。

向かいのマンションの窓からそれを見ていた彼女の友達は、すぐに階下へ降りて、ぺしゃんこの友達の死体に駆けよった。

そしてその死体を叩いて「交代!」と言うと、そのぺしゃんこの友達がもともと住んでいた、屋上の部屋へ向かった。

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ドアを開けて部屋に入ると、そこにいた家族は彼女を元からの家族として正式に迎え入れてくれる。

地上の死体のことなんて気にもしないどころか、突然あらわれた彼女について、生まれた時からの家族という記憶に書き換えられている。

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屋上の広いベランダに続くのは、彼女の兄の部屋だ。

兄はとても優しいけれど、何やら忙しいという。

ここから彼女の出てくるシーンは無くなり、しばらく兄の部屋の場面になる。

というのも、深夜ひとり、その兄が勉強していると、突然にベランダドアが軋む音を立てたからだ。

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彼はペンを机に置いて立ち上がり、窓際に寄ってカーテンを開けた。

すると、スーツを着た中年男性のような、灰色の石像が窓に寄りかかっている。

ドアを開けてベランダに蹴り飛ばすと「妻がいるんだぞ 子供もいるんだぞ」と言いながら砕けた。

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似たようなことが何度も続いて、広かったベランダは石像だらけになってしまった。

それはたとえば小学生の子供のようであり、それはたとえば引退後の老人のようでもあり、ごく日常的な主婦のようでもあれば、ごくあたりまえの女子高生のようでもあった。

それらの石像を蹴っては崩し、ベランダにばらまいた。

悲鳴はいつも聞こえた。

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「明日ならポイントが倍だったのに」

「あぁ死にたい死にたい…いや、殺すか」

「どう言い訳しよう…電車に轢かれたら許してもらえるかな」

「これめっちゃ美味い」

「へぇ、あの鳥ってハクセキレイって言うんだ」

「息できない…ねえ、息できない…ねえ…」

どんな石像の悲鳴も砕いていった。

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そうして突然、兄の部屋に、どうやら欧米人らしい2人組が訪れる。

兄は戸惑うが、肌の白い老紳士がこう言う。

「おまえは選ばれた」

となりにいた女性がこう言う。

「おめでとうございます」

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兄は言われるがままに装飾とメイクをほどこされ、どういうわけか水の入った茶碗を両手に持たされる。

場所はマンションのあいだの広い歩道。

装飾は鳥の羽だらけの派手なもので、顔のメイクも鳥のように睫毛が長い。

両手に持たされた茶碗にはなみなみと水が注がれている。

さきほどの欧米人らしい老紳士と女性が、そのあとを歩いている。

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兄がこけて、水がこぼれた。

その瞬間に彼は絶命している。

老紳士は「またか」と言い、そこで眼が覚めた。

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10代の頃から20代半ばあたりまで、日常的に悪夢と付き合っていた。

「必ず悪夢を見る」と知りながら眠ることは恐ろしいものだった。

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まず白い光が遠くから追ってくる。

時には電波の周波数のような音で、または誰かの叫び声で、遠くから近くに、小さい音から耳元に、それらの音が最大になった瞬間に、白い光が爆音と共に飛び散る。

そして、ありとあらゆる恐ろしいものが脳を襲う。

助かる道は無い。

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ただ白い光と音に殴られ続ける。

あらゆる醜悪なものが眩しく姿を変えては脳を殴ってくる。

声は上げられず、呼吸もままならない。

単なる金縛りなら脱出法もなんとなくわかる。

けれど、白い光はそれを許してくれない。

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金縛りは幾らでも経験があるけれど、その最中に見えているものはせいぜい誰でも心霊映画さえ観ていれば想像しえる怪物であり、単なる体の不調に起因する程度のものである。

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私が経験していた白い光の爆発は、未知の穴から漏れてきた病の液体。

わけのわからない音、知らない生物の知らない動き、知らない光の知らない何かだった。

あるいは、誰かだった。

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おまけ:

脱衣所で体を拭いていると

「ねぇ、なに着てきた?」

と訊かれる。

背後にいる、半裸の知らない女から。

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私は「ジーパン」とだけ言う。

そこは祖母の家の脱衣所であり、

服装すべてを言えば、

帰り道を尾行される気がしたからだ。

その脱衣所の窓から。

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残念ながらこのおまけは、夢の話では無い。

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