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短編2
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喫茶店の本棚に

ああ、俺だ。熊竹久六(くまたけ・ひさむ)って言うんだが。

行き付けの喫茶店の本棚に有る、新聞や雑誌を借りて目を通すんだが、見た事の無い絵本が有ってな。

「マスターの親戚の子どもでも置いてったんかな」なんて思いながら、面白半分でめくった訳だが。

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「いかんなあ」「おかしいな、おかしいな」「まわりのおとなたちがパトカーにつぎつぎのせられる、なんでこっちをにらむのかな、こぶとりのおじさんがぼくをなでなでしてくれてるよ。でもぼくはみちゃったんだ、おじさんがパトカーにのせられたおとなたちをにらみながら、くちだけがわらったのを」

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「………何なんだコレは」

少年とおぼしき主人公を保護したらしい小肥りの男の横顔の挿し絵が太陽に照らされた感じで優しく見えるのだが、ページを繰(く)った瞬間、霞の掛かった………と言うよりは灰色の霧に包まれた様な、黒く邪悪な笑みの物体が目に飛び込んで来る。

「んんぅっ!!」

驚いた私は次の瞬間、その絵本を取り落としてしまう。

咄嗟にコーヒーの残ったカップを手で触ってしまい、パっと手を離す。

「………はー」

カップも落としそうになったが、こちらは間一髪で落とさずに済む。

「大丈夫ですか」

驚いたマスターが飛んで来てくれて、俺は絵本を拾い上げようとする。

「………はい、あれ?」

「どうされました」

俺の取り落とした筈の絵本が見当たらない。

落とした場所で無い椅子の蔭(かげ)も卓子(テーブル)の下も探したが、一向に出て来ない。無論、本棚にも。

「又ですか」

マスターが怪訝(けげん)な顔をする。

「又、とは?」

「いやね、絵本を無くしたって子が、昔訪ねて来たんですよ。探させて親御さんも来てくれて諦めさせてはくれたんですけど、その子も親御さんもそれっきりだったのに、絵本がたまに本棚に出没するって、他の御客さんもね………別に悪さしてる訳で無いから、特段困る事も無いんですけど」

「そうでしたか」と言ってからマスターに有難うと伝えて、何と無く外を見た私は凍り付いた。

柄の悪い連中の集団が護送車に詰め込まれる所を、子どもの手を繋ぎながら、小肥りの男が連中を鋭い目付きで口角を上げているのが目に入ってしまったのだから………

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