古からの誘い⑦<美影咲夜 登場>

長編14
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古からの誘い⑦<美影咲夜 登場>

優れた陰陽師を遠い祖先に持ちながら普通の独身サラリーマンとして保険会社に勤める五条夏樹と、その祖先の陰陽師の命により現代へ送り込まれ、彼を現代の陰陽師として覚醒させたい式神、瑠香。

そして、見た目は小学生、実は二十四歳フリーターの霊感持ちである三波風子が加わり、五条夏樹の地味だった日常の中に、次々と奇妙な事件がもたらされる。

そんなお話。

そして今回、五条夏樹の運命を変える新たな人物が登場する。

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◇◇◇◇

その日、五条夏樹は目一杯不機嫌な顔で銀行へと向かって駅前通りを歩いていた。

二時間ほど前、やっと入った給料を引き出そうと昼休みにATMへ向かったのだが、月末ということもあって非常に混雑しており、現金を手にしたのは午後の仕事が始まるぎりぎりの時間となってしまった。

なんとか引き出した現金とキャッシュカードを財布にしまうのももどかしく、ズボンの尻ポケットにねじ込むと走ってオフィスへ戻り、辛うじて午後の始業時間に間に合った。

しかし不幸は違う形で彼を待ち受けていた。

上がった息を整えながらもほっとして椅子に腰を落とした瞬間、ぱきっという音と共に嫌な感触が尻に伝わってきた。

(しまった、やっちまったか?)

おそるおそる尻ポケットから先ほどねじ込んだ現金とキャッシュカードを取り出してみると、カードはほぼ中央で見事に割れていた。

(あ~あ、参ったな。)

基本的に自分のうっかりなので誰を責めるわけにもいかず、当座の仕事を片付けて上司に一時間程外出すると告げ、落ち込んだ気分で銀行へと向かっていたのだった。

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◇◇◇◇

夏樹が銀行に入ると、先ほどのATMの混雑が嘘のように空いており、入り口に立っていた男性行員がすぐに窓口を案内してくれた。

番号札を受け取り、椅子に座ってスマホを弄りながら自分の番を待っているとふと誰かの視線を感じた。

しかしロビーを見回しても、こちらに顔を向けている人はいない。

気のせいだったのだろうか。

式神である瑠香と行動を共にしているせいなのか、最近いろいろな事に敏感になっているような気がする。

かなりはっきりした意識だと思ったのだが、もしかしたらフロア内を注視していた警備員の視線だったのかもしれない。

程なく番が来たので自分の番号が表示されている窓口に行き、笑顔で迎えてくれた美人の女性行員にキャッシュカードの再発行をお願いしたいと言うと、再発行の理由を聞かれたので割ってしまったと正直に説明した。

すると記入すべき用紙と必要な手続きを説明してくれ、破損したキャッシュカードも併せて提出するように言われた。

夏樹が素直にカードを渡すと、そのカードを見て彼女はクスリと笑った。

「見事に割りましたね。ここまできれいに割った人は見たことないですよ。どうしちゃったんですか?」

その気さくな問いかけに夏樹がその時の状況を説明すると、用紙の破損理由のところにメモを取りながら、上目遣いに夏樹のことを見てまたにっこりと笑った。

「お尻が硬いんですね。私なんかお肉が柔らかいから絶対割れないわ。」

この人は誰に対してもこのような対応をするのだろうか。

一般的に銀行窓口の女性は無表情で淡々と仕事をこなしていくイメージだったが、こんな美人と親し気な口調で会話できて、夏樹は少し得した気分になった。

「それじゃ、手続きをしますからこの番号札を持ってしばらくお待ちくださいね。」

夏樹は番号の書かれたプラスチックの板を受け取るとフロアにある椅子に座った。

閉店間際の時間であり、駆け込んでくるお客も結構いる。

夏樹は滅多に銀行の窓口にお世話になることはないのだが、世の中には窓口を利用する人も多いんだなと妙なところに感心しながら、次々と呼ばれるお客やその対応に当たる銀行員の様子を何気なく眺めていると、ふとカウンターの中にいる先程の女性が、別のお客の対応をしながらチラチラと自分のことを見ているのに気がついた。

何があったのだろうか、何か書類に不備があったのかと不安になったが、あの女性の言う通りに書類に記入し、必要な物は渡したはずだ。

じゃあなぜ自分の方を見ているのか。

ひょっとすると先程感じた視線も彼女だったのかもしれない。

夏樹はその視線にどぎまぎしながら、なるべくそちらを見ないように手元のスマホに視線を落とし、自分の番号が呼ばれるのを待った。

やがて自分の番号が呼ばれカウンターへ行くと、対応してくれたのは別の中年女性であり、夏樹は心のどこかでがっかりしながら目でカウンターの中を探すと先程の女性は別の客の対応に当たっていた。

特にこちらから話し掛ける理由もなく、ため息を吐いて書類を受け取り、カードが届くまで十日ほど掛かると言われ、重ねてため息を吐くとカウンターを離れた。

取り敢えず必要な現金を引き出した直後というのが不幸中の幸いだと思いながらも夏樹はまたまた大きくため息を吐いた。

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**********

その時だった。

(夏樹さま、気をつけて!)

突然耳元で瑠香の声が聞こえた。

家にいると思っていたのだが、憑いて来ていたのだろうか。

(あの入り口から入ってきたコートを着た男よ。避けて。)

瑠香の囁きを聞いて出入り口を見ると確かにコート姿の男性が背中を丸めて入って来たところだった。

そして夏樹はその男から滲み出ている、そこはかとない異常な雰囲気を感じ取った。

そしてさらに注意して見ると、その男の背後には黒い靄のようなものがまとわりついている。

こんなものが見えるのは初めてだ。

男の背中でゆらゆらと蠢き、嫌な気配はその影から漂って来ているようだ。

瑠香の言う通りこの男には近寄らない方がいいと夏樹は咄嗟に思ったが、この銀行の一般用出入り口は一か所しかない。

とにかくこの男を避けて銀行の外に出よう。

男はきょろきょろと目だけを動かして周囲を観察しながら銀行の中へと進んでくる。

夏樹は今ならまだ大丈夫だと、覚悟を決めて出口に向かって歩き始めた。

そして男まであと二メートルというところで、男は持っていたバックの中にいきなり手を突っ込んだ。

(まずい!)

夏樹がそう思い身構えると、男はバックの中から刃渡り三十センチ近い柳葉包丁を取り出した。

しかし驚いたことに男が包丁を取り出すのとほぼ同時に非常ベルが鳴り響いたのだ。

それはまるで男が包丁を取り出すことが判っており、非常ベルのボタンに指を掛けてそれを待ち構えていたようなタイミングだった。

男は一瞬驚いたが、すぐに目の前にいる夏樹を人質に取るべく手を伸ばしてきた。

男との距離はもう一メートルもなく、もし何の心の準備もなく不意に襲われたのなら避けようがなかっただろう。

しかし、夏樹は男がバックに手を突っ込んだところから横目でその挙動をしっかり見ていた。

間一髪のところでその場にしゃがみこむように男の手を避けたのだが、勢いよく腰を屈めたため、それほど運動神経が良いわけではない夏樹はそのまま尻もちをついて後ろ向きにひっくり返ってしまった。

しかしそれが返って幸運だった。

夏樹を掴もうとした腕が空を切り、前のめりになった男の両足をひっくり返った夏樹の足が払う形になったのだ。

前のめりになったところで不意に足払いを食った男はそのまま宙を飛ぶように前へ倒れると、ぐっという息が詰まったような声をあげてその場でひくひくと痙攣を始めた。

見ていても起き上がってくる様子はない。打ち所が悪かったのだろうか。

体を起こした夏樹がこのまま逃げるべきかどうか迷っていると、なんと目の前でうつぶせに倒れている男の胸の辺りにみるみる血の海が広がってくる。

どうやら倒れた拍子に握っていた包丁で自分の胸を刺してしまったようだ。

(俺が殺したのか?俺は何もしてないぞ。不可抗力だ。)

夏樹が心の中でそう叫びながら立ち上がると、男の体から真っ黒い煙のような幽体が抜け出していくのが見えた。

どうやらその男は即死だったようだ。

そして男の背後に憑いていたはずの影は何処へ消えたのか、文字通り影も形もなかった。

男の幽体はしばらく自分の死体を見下ろしていたが、すぐにどこかへ消えていった。

このような幽体を見るのは夏樹にとって生まれて初めてだったが、不思議に彼はそれを不思議に思わなかった。

非常ベルが鳴った為だろう、警察はほんの一、二分で到着した。

そして銀行の出入り口はすぐに封鎖され、銀行関係者とその場にいた客は全員その場に留まることを求められた。

夏樹はその場で上司に電話を掛け、しばらくは仕事に戻れそうもないことを告げると、またため息を吐いた。

今日、何回目のため息だろうか。

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*********

「何を見た?」

気がつくと先程までカウンターの中にいたあの彼女が夏樹のすぐ横に立ち、厳しい顔つきで夏樹を見ている。

口調も先程とは違う。

その質問からすると、彼女は夏樹が何かを見たことに気づいているということであり、そしてそれが何かと尋ねているのだ。

「何を、って何のことですか?」

彼女の意図を汲みかねた夏樹は取り敢えずしらばっくれた。

「あの男に憑いていた婆さんのことだ。」

夏樹には黒い靄のようにしか見えなかったあの影をこの女性は婆さんだと見切っていたようだ。

「いや、黒い影のようなものは見えましたが、婆さんとまでは分かりませんでした。ただ逃げた方が良いと・・・」

「式神に言われたのか。」

この女性は瑠香の存在にまで気づいていた。

いったい彼女は何者だろう。

非常ベルを押したのは、彼女に違いない。

「あの・・・」

「五条さん、こちらへお願いします。」

夏樹が非常ベルの事を聞こうとしたところで警察から声が掛かり、夏樹は別室に連れて行かれて詳細の事情聴取が行われた。

もちろん警察から責められることはなく、銀行へ来た理由や刃物に気がついた瞬間、そしてどのように避けたのかなどの細かい点を聞かれただけで、その時のことは銀行内にいた大半の人達が見ており、夏樹の証言はそれと矛盾するところがなかったため、更なる聴取を受けることもなくその日は解放されたのだった。

事情聴取を終え別室を出てフロアに戻ったが、事務所へ戻ったのだろうか、先ほどの彼女の姿は見えなかった。

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◇◇◇◇

急いで職場に戻り、上司に遅れた理由を報告すると情報は既に伝わっていた。

「五条、聞いたぞ、銀行強盗を殺しちゃったんだって?」

「五条さんが人を刺し殺すなんて意外だわ。」

職場の同僚達が次々と声を掛けてくるが、人の噂などあてにならないというのをつくづくと感じる。

大まかに起こった事実は間違っていないのだが、夏樹に”刺し殺した”記憶はない。

奴が勝手に転んで死んだだけで、言うなれば事故だ。

しかし、夏樹は散々警察に話した説明をまたここで同僚達に何度も繰り返す気になれず、とりあえず苦笑いだけ返してその場をやり過ごした。

そして大幅に遅れた仕事をなんとか片付けて職場を出たのはかなり遅い時間になっていた。

疲れた足を引きずるようにしてアパートへ帰り着きドアの前に立つと、部屋には照明が点いており、話し声が聞こえる。

部屋に瑠香がいるのだから照明は点いているにしても、誰と話をしているのだろう。

風子が来ているのかと思い、夏樹は”ただいま”と声を掛けながらドアを開けた。

すると玄関には、見慣れない高さ十センチはあろうか思われるハイヒールがあった。

風子は背が低いが、こんなピンヒールは履かない。

「おかえり~」、「おかえり~」

瑠香の声に被せて、聞きなれない女性の声が夏樹を出迎えた。

いや、どこかで聞いた声だ。誰だっけ?

夏樹が居間に入ると、そこに瑠香と座っていたのは、銀行にいたあの女性だった。

銀行からの帰りにそのまま寄ったのだろう、スーツ姿のままだ。

そしてテーブルには、空いた缶ビールがすでに幾つも並んでいる。

何故彼女がここにいて、しかも瑠香と酒を酌み交わしているのだろうか。

「あの・・・昼間の・・・」

どう声を掛けるべきなのか思いつかず、困惑した夏樹が口籠ると女性は笑顔で夏樹の方へ向き直った。

「私は美影咲夜(みかげさくや)。よろしくね。五条夏樹君。」

銀行で手続する際に、彼女の目の前で名前も住所も電話番号も書いたのだから、彼女が夏樹の名前を知っているのは当然だし、このアパートに来るのも造作のないことだ。

しかし夏樹にとってみれば、彼女のことを銀行員であること、そしてかなり“視える”人間であること以外まったく知らない。

「えっと、よろしく・・・って・・・あの、美影さん、あなたは何故僕のアパートで瑠香さんと酒を飲んでいるんですか?」

「うん。昼間、あんなことがあって少し五条君と話がしたくてここへ来たのよ。そしたら瑠香ちゃんが部屋に入れてくれて、五条君が帰ってくるまで一緒に飲んでたの。可愛い式神ちゃんね。」

「・・・あなた、何者ですか?」

普通の人には見えないはずの瑠香だが、話をするだけなら瑠香の意思でどうにでもなるのだろう。

しかしそれなりに警戒心の強い瑠香と初対面で打ち解け、酒を酌み交わすとは。

しかも瑠香が式神だということまで理解しているのだ。

「私?うん、表向きは銀行員なんだけどね、裏ではお祓いの仕事をしているの。まあ、世間一般で言う霊能者って奴?でも小さい頃からそれなりに修業は積んでるから、その辺のまがい者と一緒にしないでね。」

見た目では、夏樹よりも少し年上、大体三十歳前後だろうか。

まだ若そうな彼女が修業を積んできたというのはどういうことなのか。

しかし昼間の銀行での出来事といい、瑠香の様子といい、デタラメとは思えない。

「今日、銀行で五条君を見掛けて不思議な氣を持った子だなって思ったの。白いオーラを持って、式神をも従えているようだけど、とてもそんな力を持っているようには見えなかったし。

それでちょっと話がしたいと思ったのよ。でももう瑠香ちゃんから話は大体聞いたわ。」

瑠香が何故夏樹のところへ来て、夏樹がそれを拒否した辺りの経緯を言っているのだろう。

「五条君が色恋の煩悩に執着していることもね。あははっ。それでね、今、瑠香ちゃんに陰陽師なんてこの時代には不要だって話をしてたの。

古の時代、陰陽師の仕事っていろいろあったみたいだけど、メインは人々の為に未来を予言する事でしょ?

でもネットを開けば、今年の何月に何かが起こる!なんて当たりもしない予言が溢れかえっているこの時代に、そんな予言なんて誰も真面に取り合わないわよ。

それよりも私と組んで祓い屋の仕事をしない?五条君はとっても優秀な血を汲んでいるようだから、鍛えればきっといい仕事すると思うな。」

「ダメです!夏樹さまには、ちゃんと私を使いこなせるような立派な陰陽師になって世の中の役に立って貰うんです!」

もうそこそこ酔っているのだろう、それを聞いた瑠香が眉間に皺を寄せて、咲夜に食って掛かった。

「あら、陰陽師でなくとも式神は使いこなせるわよ。私は陰陽師じゃないけど、私の眷属の使い魔を試しに呼んでみようか?」

咲夜はそう言うと不思議な形に両手の指を組み合わせて、何かを呟いた。

すると咲夜のすぐ隣にじわっと湧き出るように白い塊が現れ、それはすぐに大きな犬の形に変わった。

一メートルはゆうに超えている。真っ白な毛並みで顔は精悍だ。

瑠香が心底驚いたように目を大きく見開いた。

「白狼・・・白狼を眷属として呼び寄せるなんて…咲夜さん、あなたは何者ですか?」

「ふふっ、だから言ったでしょ?ただの通りすがりの祓い屋よ。」

「嘘・・・」

呼び出された白狼は、ここに争うべき敵がいないことを理解したのだろう、咲夜の横で静かに丸くなって寝そべった。

黙ってしまった瑠香に代わって、今度は夏樹が咲夜に尋ねた。

「式神とか使い魔ってそんな風に呼び出したり、消したりできるもんなんですか?」

すると咲夜は夏樹の考えを見透かしたようにニヤッと笑って答えた。

「ええそうよ。五条君だってその力を身に付ければ、必要な時に瑠香ちゃんを呼び出せるし、デートの時とか居て欲しくない時は消えて貰うこともできるわよ。」

それを聞いた瑠香が横で頬を膨らませ、口を尖らせた。

「でもその力を身に付けるためには、煩悩を捨てなきゃいけないって、瑠香さんが・・・」

瑠香が横でうんうんと力強く頷いた。

「あははは、それは古の時代に瑠香さんが仕えていたような、人類愛に溢れたお坊さんみたいな陰陽師ならそうかもしれないけど、五条君はそんなものになる気はないんでしょ?」

夏樹は力強く頷いた。

「単に式神を使いこなして、目の前の害をなす物の怪を退治するだけなら、煩悩を捨てる必要なんかないわ。もちろん過度の煩悩は駄目だけど、普通に誰かを愛するくらい何の問題もないわよ。」

「咲夜さんにも旦那さんとか恋人とかはいるんですか?」

「いないわ。残念だけど。でも煩悩を捨てたわけじゃないのよ。たまたまね。」

そして咲夜は、夏樹の素養があれば身に付けるのにそれほど時間は掛からないだろうと言った。

煩悩、その中でも恋愛に関する素直な欲求を捨てる必要がないのであればそれも面白いかも知れないと夏樹は思った。

そして師となるのは、この美人なのだ。

「具体的に、どんな修行をすればその力が身につくんですか?」

すると咲夜は再びニヤッと笑った。

「五条君なら修行なんて特別なものは必要ないわ。OJT、オンジョブトレーニングよ。私の仕事を手伝って貰いながら勉強して貰うわ。」

「でも昼間は仕事があるから無理ですよ?」

「あら、私も普段は銀行員だから同じよ。でも夜の仕事の時間によっては残業を控えて貰うからね。」

「ええ、そのくらいなら決算期でなければ大丈夫です。よろしくお願いします。」

「そうね、私も銀行員だから決算期は昼間の仕事が死ぬほど忙しいから一緒よ。よろしくね。私にとっても、五条君を鍛えるのと同時に瑠香ちゃんの活躍に期待してるんだ。」

夏樹が陰陽師になることを放棄したことにより、現在フリーの式神であるはずの瑠香に対し、咲夜が期待するというのはどういうことなのだろうか。

「瑠香ちゃんを生み出したその室町時代の陰陽師は相当な手練れね。こんなに食べちゃいたいくらい可愛い癖に、そこらの雑魚の物の怪程度なら一瞬で消し去るようなパワーを秘めてるんだから。」

夏樹の脳裏に木刀を構えて相手を睨みつける瑠香の姿が浮かんだ。

「五条君が本気で瑠香ちゃんを使いこなせば、この日本を征服する事だって可能かもよ。自衛隊なんて敵じゃないわ。」

「いや、日本を征服したって面倒くさいだけじゃないですか。僕はささやかな日々の幸せだけで充分ですよ。」

「そう、私も興味ないわ。でもその日々の幸せを蝕む、悪しき物の怪達を一緒に退治しましょうって事よ。」

しかし咲夜自身も、白狼を自らの使い魔として従える位なのだから、瑠香を自分の支配下に置くことも可能なのではないのか。

夏樹のその疑問に咲夜は笑って答えた。

「瑠香ちゃんはなんだかんだ言っても五条君に仕える為の式神なの。五条君が瑠香ちゃんを必要としなくなった時、瑠香ちゃんは消え去ってしまうから、私が譲り受けることは出来ないのよ。」

式神とはそういうものなのだろうか。

しかしそれは裏を返すと、もう既に夏樹は瑠香を必要としているということになる。

確かに瑠香がいることで毎日が楽しいし、危険な目に遭っても助けてくれる。

しかし絶対に必要な存在かと聞かれても答えられない。

「もし五条君が瑠香ちゃんを心の底からいらないと思う時が来たら、瑠香ちゃんはこの世に存在しなくなるわ。」

瑠香をいらないと思う、そんな日が来るのだろうか。

夏樹は、心の底からと言われると一生来ない気もした。

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いずれにせよ、この美影咲夜と共に行動することにより、夏樹と瑠香、そして風子の運命までも変わっていくことになるのだ。

◇◇◇◇ FIN

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PS.

実は、この美影咲夜はとんでもない個性の持ち主であることを夏樹はすぐに知ることになる。

南無・・・

Concrete
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