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古からの誘い⑪<ネイルアート>

長編13
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古からの誘い⑪<ネイルアート>

室町時代の優れた陰陽師を遠い祖先に持つサラリーマンの五条夏樹。

その古の陰陽師の式神であり、夏樹を現代の陰陽師として覚醒させたい瑠香。

しかし夏樹は陰陽師になる事などに興味はない。

そんな夏樹の秘めたる能力に目を付けた美人霊能力者、美影咲夜が現れ、夏樹を闇の世界へと誘う。

そして今回は、見た目は小学生、実は二十四歳フリーターの霊感持ちである三波風子に起こった事件の話。

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◇◇◇◇

風子は小学校時代からの友人である坂井美瑠と久しぶりに表参道へ買い物に来ていた。

身長が百五十もない超小柄な風子は、気に入った服があってもなかなか合うサイズがなく、衣類に関してはネットで買うことが多いのだが、やはり実物を見ないと失敗することも多い。

その為、気が向くとこうやって買い物に出るのだが、やはり気に入った服はなかなか見つからなかった。

あちこち歩き回ったふたりはひと休みしようと、通り掛かったカフェへ寄ることにした。

「久しぶりにいっぱい歩いてちょっと疲れたにゃ。」

「そうね。風子の身長があと十センチ高ければこんなに苦労しないのにね~。」

身長が百六十を超える美瑠は笑いながらテーブルの横に置かれているメニューに手を伸ばした。

「あれ、美瑠ちゃん、その手・・・」

「あ、分かっちゃった?ネイルしてみたんだ。それがね、なんとタダだったの。」

美瑠は嬉しそうに両手の指先を風子の方へ突き出して見せた。

先日美瑠が立ち寄ったアンティークショップの片隅で、小さなテーブルを置いたネイリストが声を掛けてきたそうだ。

新作のネイルを考案したので是非モニターになって欲しいという。

手の写真だけ撮らせてくれれば、ネイル代は無料とのこと。

デザインも数種類のサンプルの中から自由に選ばせてくれるということで、美瑠は喜んで施して貰ったそうだ。

しかし風子はニコリともせず、眉間に皺を寄せてじっと美瑠の指を見つめている。

風子はその爪から何か怪しげな氣が漂ってくるのを感じていた。

しかしそれほど多くの経験を積んでいる訳ではない風子にはそれが何なのかわからない。

美瑠が自慢げに差し出している左右の手の指先、特に左の薬指から強く漂ってきている。

その指には、虹色に光る、アワビやアコヤ貝の内側のような塗料が使われているようだ。

今までまったく経験したことのない気配なのだが、それは決して好ましいものでないことははっきりと解った。

「ねえ美瑠ちゃん、そのネイルをしてから、何か変にゃことが起こったり、体調が悪くにゃったり、もしくはおかしにゃ夢を見たりしてないかにゃ?」

美瑠は風子が何を言い出したのか理解できずに一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに顔をしかめた。

風子が強い霊感の持ち主であることは美瑠も知っていた。

「このネイルに何かあるの?」

風子は黙って頷いた。

それを見た美瑠はじっと真面目な顔で風子を見つめ、そして話し始めた。

「実はね、一昨日・・・そうなの、ネイルを施した日から二日続けて変な夢を見たの。」

その夢の中、美瑠はどこかの山の中にある見知らぬ沼のほとりに立っている。

時刻は黄昏時か夜明け前か。うっすらと明るい空。いわゆる、逢魔ヶ時・・・

周りを見回しても誰も居らず、大声で周囲に呼び掛けても、まるで声が空気に吸収されてしまうかのように静寂が広がるだけ。

そして何故か美瑠は自らの意思ではないのに、ゆっくりと沼へと足を踏み入れて行くのだ。

すると沼の底は美瑠の体重を受け止めることを嫌がっているように、足がずぶずぶと沈んでいくではないか。

そしてもがくほどに体はどんどん沈み、頭がドプンと水に浸かって目の前が真っ暗になったところで目が覚めるのだ。

「まさか風子、このネイルが夢の原因って言いたいの?」

「たぶんそうだと思うにゃ。ちょっと待ってて。」

風子はスマホを取り出し、どこかに電話を掛け始めた。

「あ、夏樹さん?いま家にいるかにゃ?」

どうやら五条夏樹のところに電話しているようだ。

「美瑠、一緒に来て。」

電話を切った風子はそう言うと、まだ口をつけたばかりの飲み物をそのままに立ち上がった。

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◇◇◇◇

カフェを出ると風子と美瑠は真っ直ぐ五条夏樹のアパートを訪れた。

もちろん風子の目的はまだ霊的な事に関してはほとんど素人と言っていい夏樹ではなく、式神である瑠香のアドバイスを求めてやってきたのだが、部屋には美影咲夜もいた。

どうやら夏樹を伴ったお祓いの仕事の帰りに打上げがてらに寄ったらしい。

「咲夜さんもいらっしゃったんですね。今日はちょっと瑠香さんに相談事があって。」

風子がそう言うと、咲夜は手にしている缶ビールを口に運びながらちらっと美瑠を一瞥した。

「それより、その子の手はどうしたんだ?」

さすが咲夜は一瞬にしてその妖気を感じ取っていた。

「うん、今日はその事で相談に来たにゃ。」

風子がそのネイリストの話をすると、咲夜は気難しそうな顔で頷いた。

「そう、なるほどね。でも風子ちゃんもすぐそのネイルの気配に気がついたんだ。やるわね。」

咲夜はそう言いながら、美瑠の爪に手を添えてじっと見つめ、瑠香も横からそれを覗き込んでいる。

「何だろう、もの凄く邪悪な気を放っている。何かうろこのようにも見えるんだけどこれまで見たことがないわ。瑠香ちゃん、解る?」

咲夜の言葉に瑠香は悲しそうな顔で頷いた。

「うん、見たことがある。古来から呪術に使うんだけど、この時代にもあったのね。」

瑠香の記憶によれば、爪に貼られたこの光るものは、ウミヘビのような姿で自殺者や水難者の死肉を喰らう妖怪“濡女”の鱗らしい。

主に呪いを掛ける時に用いられ、呪いたい相手の身に付けている何かに忍び込ませるのが通常だという。

そのネイリストはそのようなものをどこで手に入れたのだろう。

「それで美瑠はどうすればいいかにゃ?」

すると瑠香は黙って首を横に振った。

「どういうことにゃ?」

風子が瑠香の手を握ってもう一度尋ねると、泣き出しそうな顔をして黙っている瑠香の代わりに咲夜が答えた。

「その鱗が貼り付けられている左の薬指を一刻も早く切り落とすしかないわ。」

それを聞いた美瑠は顔面を引き攣らせた。

「いや~っ!何でそうなるの!私が何をしたの!」

美瑠はそう叫ぶと真っ青な顔で部屋から飛び出していった。

「咲夜さん!瑠香さん!何とかならにゃいんですか!」

風子がふたりに詰め寄ったが、咲夜と瑠香は顔を見合わせ、ふたり同時に首を振った。

「風子ちゃん、気持ちは解るけど、あんな強力な呪物を直接貼り付けられてはどうしようもないわ。もうかなり蝕まれていそうだから、おそらく爪を引き剥がすだけでは足らない。」

「そ、そんにゃことって・・・」

風子は絶句してその場に座り込んでしまった。

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◇◇◇◇

しかし状況は、咲夜と瑠香が思っていたよりも悪かった。

その夜、美瑠は自宅で死んでしまったのだ。

完全密室の自分の部屋の中、机の前に座った状態で冷たくなっているのを家族によって発見された。

机の上にはカッターナイフの他に、大きめのマグカップに入った水が置いてあった。

それだけ。

それなのに美瑠の肺は水で満たされ、死因は溺死。

そして美瑠の左手の薬指の先端は血だらけだった。おそらくカッターナイフでネイルを剥がそうと必死になっていたに違いない。

その不自然な状態に、警察は当然偽装殺人を疑ったが、それを裏付ける証拠は何も見つからなかった。

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◇◇◇◇

「咲夜さん、私、美瑠を殺したネイリストに復讐したい・・・」

今日も夏樹の部屋でくだを巻いていた咲夜のところへ風子が訪ねてきて、いきなりそう切り出してきた。

風子の口から”復讐”という言葉を聞いて咲夜は驚いた表情を浮かべたが、ちょっと待てと言ってスマホを取り出した。

「ああ、キタローか。ちょっと調べて欲しいことがあるんだが・・・」

電話の相手は真崎幾多郎といい、以前咲夜が真崎のアパート、そして経営するレストランの地縛霊を祓って以来、咲夜に傾倒して咲夜の情報屋を買って出ているのだ。

「ふ~ちゃん、復讐なんて良くないと思うよ。」

横から口を出した夏樹を風子はこれまで見たこともないような厳しい目で睨んだ。

「夏樹さんは優しすぎるにゃ。大事なお饅頭を盗まれたくらいにゃらまだしも、もっともっとずーっと大事な友達の命を獲られたんだよ!絶対許せにゃい!」

「お饅頭と友達の命を並べるのもどうかと思うけど・・・」

目に涙を浮かべている風子の顔を見て、夏樹はそこで黙った。

「絶対に殺してやるにゃ・・・」

そんな風子を見て、咲夜は大きくため息を吐いた。

「とにかく風子ちゃん、復讐するにしても、相手のことが分からなさすぎる。あんな危ない呪物を使う奴だ。キタローに調べて貰うからちょっと待て。」

「大丈夫かにゃ。店長。」

風子は真崎の経営するレストランのウェイトレスとして働いており、彼の事はよく知っている。

「まあ、信じて待つしかないだろ。」

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◇◇◇◇

真崎に霊感は全くないが、情報屋としてはそれなりに優秀だ。

それから三日程で、風子と咲夜は真崎に夏樹の部屋へ呼びだされた。

「何で僕の部屋なんだ・・・」

「まあいいじゃないか。じゃあキタロー、早速話を聞かせてくれ。あ、夏樹、ビール貰うな。」

咲夜はそう言って、冷蔵庫から勝手に缶ビールを取り出すと栓を開け、カウチに座り直した。

「とにかく美影から聞いたアンティークショップへ行ってみたんだ。」

真崎が店主や周辺に聞いた話によると、そのネイリストは君塚渚という名で二十九歳、二、三か月前から週末にその場所でネイルを施しているらしい。

しかし店主が見る限り、それほど客は多くない。

そして閉店後に後をつけ、中央線の中野駅近くにあるマンションに住んでおり、独身で近所付き合いは殆どないことも突き止めた。

普段は新宿にある小さな会社の事務をしている。

「聞き込んだ話によると、以前はネイリストを本職としていたようなんだけど、その店が潰れて新宿にある会社で事務員として働き出したらしい。」

そして実家は石川県ということだ。

「こんな短期間で、よくそこまで調べがつきますね。仕事を間違えたんじゃないですか?」

夏樹が感心したように言うと、真崎はにやっと笑った。

咲夜は真崎の報告に対して、ひとつ頷いた。

「サンキュー、キタロー。濡女の鱗に石川県か・・・ほんのちょっと見えてきたかな。」

顎に手を置き、咲夜が何か考え事をしている。

「ほんのちょっとって、何が見えてきたの?」

風子が咲夜に尋ねると、咲夜は風子の顔を見つめた。

「能登半島の付け根辺りにある小さな神社には濡女のミイラが祀られているという噂がある。あくまでも噂の域を出ないんだが、もしそれが本当なら、そのミイラから・・・」

「ウロコを取ることが出来る・・・」

咲夜の言葉に夏樹が続けた。

「でもそれが本当にゃら、何でそんなことをするのかにゃ?」

風子が怪訝そうに顔をしかめた。

「それは、その君塚渚という女が何に恨みを持っているのかということになるから、後は本人にしかわからないだろうな。」

すると咲夜のその言葉に真崎が口を挟んだ。

「本当にそれが恨みの原因かどうかは解らないけど、ネイリストをやっていた頃、かなり厄介なクレーマーに引っ掛かって、ネイルの店を閉めた後もそのクレーマーが新宿の新しい勤め先にまで押しかけてきていたって話だぜ。

そんでそれが原因で恋人とも分かれる羽目になったって。

そのクレーマーが若い女だったって事らしいから、ネイルをするような若い女を無差別に恨んでるってことかも知れねえな。」

「そんにゃの無茶苦茶にゃ!そんな事で美瑠が?ありえにゃい!」

風子は相当に憤慨している様子で、そう叫びながら隣に座っている夏樹の背中をバンバン叩いている。

「痛いよ。でもそれでどうするの?ふ~ちゃん。」

風子はそこで黙り、じっと咲夜を見つめた。

「分ったわ。キタローの話が本当かどうかわからないけど、何の罪もない風子ちゃんの友達に濡女の呪いを掛けたのは間違いないんだから、復讐に手を貸してあげる。」

咲夜はそう言ってにやっと笑った。

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◇◇◇◇

週末、風子は夏樹と共にそのアンティークショップへと入って行った。

話に聞いた通り、店の一番奥に小さなテーブルを置いて、若い女がネイルアートのコーナーを開いている。

「ふ~ちゃん、大丈夫?」

付き添いとしてきた夏樹は心配そうに風子に囁いた。

もし風子の身に何か起こっても、自分には呪術に対して何もできないことを充分承知しているのだ。

「大丈夫にゃ。私の爪には咲夜さんがお守りの水を塗ってくれてるし、ちゃんと呪文も覚えてきたにゃ。」

夏樹と腕を組み、どこか楽しそうに、それでいてやはり緊張した面持ちでテーブルへと近づいて行く。

「こんにちは。ちょっとお聞きしたいことがあるんだけど。」

「はい、いらっしゃいませ。何でしょうか?」

長髪で面長な顔立ちの彼女は、夏樹と風子に目一杯の営業スマイルを投げかけてきたが、やはりどこか神経質そうな雰囲気が漂っている。

「先日、私の友達があなたに無料でネイルして貰ったんです。」

緊張しているのだろうか。いつもの“にゃ”は全く出てこない。

「ああ、モニターですね?新作が出来た時に時々やっているんですよ。」

「でも、そのネイルをしてからその友達、体調を崩しちゃって。何かご存じありませんか?」

風子の言葉に、彼女は一瞬表情を曇らせたが、すぐに元の営業スマイルに戻った。

「あら、私は別に特殊な揮発性の塗料などは使っていませんから、体調を崩されたのは別に原因があるのでは?」

「そうですか?逆にネイル以外に思い当たるようなことがないって言っていたんですよね。」

「そう仰られても、ネイルで体調を悪くしたなんて話は聞いた事がありません。」

「そうですか?じゃあ、不安を解消するために施して貰ったネイルを削って調べてみても良いですか?何か特殊な物が施されてないか。」

風子も執拗に食い下がる。

「それじゃあ、あなたも試してみませんか?今はネイルをされていないようですけど、お友達と同じに無料で施して差し上げますわ。そうすれば私のネイルに何も問題がないことがはっきりしますから。」

(かかったにゃ。)

風子は心の中でガッツポーズをした。

彼女、君塚渚が風子にも呪いの手を向けるようにわざと彼女の警戒心を煽るような話し方をしたのだ。

「やって貰えば?僕もネイルで体を壊すなんて聞いた事がないよ。」

夏樹も横から風子を援護する。しかしその表情はどこか不安そうだ。

夏樹の言葉に頷いた風子は君塚渚の前に手を差し出した。

「お姉さんはお店を持たないんですか?」

ネイルを施し始めた君塚渚に向かって風子が問いかけた。

少しでも真崎の調べた内容の裏を取りたいのだろう。

「ええ、以前はお店に勤めたりもしたんだけど、そのお店が潰れちゃってね。こうして細々とやっているの。」

「ふうん、それで食べていけるんですか?」

「この前まで平日はOLしてたの。」

「してた?過去形なんですか?」

「うん。やっぱり性に合わなくて、辞めちゃった。」

真崎の情報はかなり正確なようだ。しかし、この状況でその原因となったクレーマーについて聞くのはあまりに不自然だ。

そして作業が薬指に移った時、君塚渚は横に置いてある道具箱から小さな樹脂のケースを取り出した。

その途端、風子が顔をしかめた。相当に嫌な氣を感じたに違いない。

君島渚はそんな風子の様子には全く気付かない様子であり、そのまま蓋を開けるとピンセットで楕円形のきらきらと虹色に光る薄いシート状のものを摘まみ上げた。

これが例のウロコに間違いない。

そしてそれを風子の指に近づけてくる。

「・・・・・・・・・・・・」

風子は口の中で何かを呟き始めた。小さい声であり何を呟いているのか全く聞き取れないが、咲夜に教わった呪文に違いない。

君塚渚はそれを意に介さぬように、淡々とウロコを風子の薬指の爪に貼りつけようと近づけた。

ところが、まさに爪の上に置こうとしたその時だった。

まるで磁石の同極を近づけた時の如く、ウロコは風子の爪に弾かれたようにピンセットから離れ宙を舞った。

そして君塚渚の腕にぴたっと貼り付いたのだ。

「ぎゃ~っ!」

とんでもない悲鳴を上げ、君塚渚は慌ててそのウロコを払い除けようとしたが、すでにウロコは皮膚に貼りついて取れない。

爪で引っ掻いて剥がそうとするのだが、既に皮膚の一部と化してしまったかのように全く剥がれる様子がないのだ。

「ひっ、ひっ、ひえ~っ、何とか、何とかして!」

顔を引き攣らせて腕を風子へ差し出すが、それはお門違いというものだ。

風子は冷淡にその様子をじっと見つめている。

そうしている間に、貼り付いたウロコは腕の皮膚を蝕んでいくかのように広がっていき、まるで蛇の皮膚のように変わっていくではないか。

その範囲は既に五百円玉よりも大きい。

「”濡女”のウロコにゃんか、何処で手に入れたにゃ?」

こんな怖い顔をした風子は見たことがない。

いきなり、他人が知る由もないはずのウロコに関する問いかけを受け、君塚渚は一瞬驚きの表情を浮かべた。

しかしそれについて問い質している余裕はなかったのだろう、しかも相手は濡女の事を知っている様子なのだ。

君島渚はすぐにその問いに対し素直に答えた。

「実家の近所にある神社のミイラから盗んできたのよ。ねえ、何とかしてよ。」

正直に話せば助けてもらえると思ったのだろうか、そう答えると泣きそうな顔を風子に向けた。

「何で私の友達の爪にこんなものを貼ったにゃ?美瑠が何をしたっていうの?」

「ネイルをするような女は、みんな私の敵なのよ!みんな死んでしまえばいいんだわ!」

真崎の言った通りだった。

風子は半泣きになっている君塚渚を見下ろすように椅子から立ち上がった。

「ねえ、助けてよ・・・お願いだから。」

尚もすがってくる彼女に、風子は冷たく言い放った。

「助かりたければ、今すぐ右腕を自分で切り落とすしかにゃい。さもなければ、あなたが呪いを掛けた人達と同じように死んでいくだけにゃ。」

そして風子はくるりと向きを変えると夏樹の腕を取った。

「帰りましょ。」

しかし根っから優しい夏樹は君塚渚をそのままにして帰るのを躊躇っているように見える。

風子はそんな夏樹の腕を強引に引っ張り、泣き叫ぶ君塚渚を残して店を出た。

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「人を呪わば穴ふたつ。自業自得にゃ。」

◇◇◇◇ FIN

Concrete
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