中編4
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ソファ3

「十字架・・・」と無意識にそう、呟いていた。

今の彼女をこのまま泊まらせるのも憚れる為、実家まで送り届けることにした。

その帰り道に彼女が話していた夢の内容を反芻していた。

沢山の手が彼女を追い込み、掴みかかり、引きづり込もうとしていた。

そして、記憶に残っている十字架・・・

まるで死霊に誘われているかのような夢。

ソファで寝た二人ともが悪夢を見るのは偶然なのであろうか。

明美の言ってた通り、寝慣れな所で寝てしまったせいなのだろうか。

あれこれと頭の中の整理が付かず、先程から同じことばかりが堂々巡りしている。

チカチカと点滅を繰り返している街頭。

不安げに照らし出される道。

俺は重い足取りでソファのある家へと向かった。

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ドアを開け、廊下の先に朧げにソファの片鱗が見え、心臓の鼓動が早まる。

たかがソファに何を恐れているのだろうか。

ソファが襲ってくるわけでもないし、怖がる必要はない。と理性で押さえつけようとすればするほど恐怖の芽がニョキニョキと育ち始める。

もう座ったり寝転がったりするのしばらく止めよう。

というよりも、あの家具屋に返品は出来ないだろうか。

いや、返品は出来なくても、再度買取をしてもらえないだろうか。

この際金額は0に近くても構わない。

早く手放して、この不安や底はかとない恐怖から解放されたい。

連日において色々なことが起こり、疲れがピークへと達していた。

寝支度を終えた俺はベットへと身を投げ出した。

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リズムを正しく刻んでいたはずであろう俺の呼吸が徐々に乱れてきたのだろうか。

すーっと吐く息から、肩で息をし始めた。

吐き出したその生暖かい空気が俺の顔を包み込み込み、不快感が強まる。

吸う空気の酸素が減っているような感じで、吸い込んでも吸い込んでも肺が満たされない。

寝苦しく、寝返りをしようとした時に気づいた。

体が動かない。

そして体が動かないということを頭はきちんと認識している。

最悪だ。

昨日の悪夢が頭をよぎる。

いや、そもそもソファで寝ていないはずだが。

ソファが原因でないのか?

毎度寝るたびに悪夢に苛まれることがあるならば絶望だ。

俺はありったけの力を込めて体を動かそうとする。

動かない。動かない。動かない。と焦りばかりが増してくる。

体を這ってくる虫の動きが頭にちらつき、目を開けられない。

手にスルスルっと何かが這ったような気がして俺はそれを振り払おうとした。

すると壁のようなものに手をコツンとぶつけた。

あれっと思い俺は指を動かす。

すると一本一本の指がきちんと動いてる感覚がある。

焦りと昨日の記憶から勘違いをしていた。

金縛りなどにあっていなかった。

それではなぜ、動かせないのか。

体の全身に神経を張り巡らせる。

そして一つの結論に辿り着く。

体のサイズほどの場所に閉じ込められているのだ。

そう。それは金縛りの方が遥かにマシだったと思える結論であった。

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「おい、嘘だろ・・・?」

真っ暗で何も見えない。

動けない。

ここはどこだ?

夢?

夢と現実の境界線がまた分からなくなってきた。

これが仮に現実であれば、知らぬ間に攫われて閉じ込められたのだろうか。

それであるならば一体なんのメリットがあるのか。

お金持ちの両親の元で育ったならば、確かに身代金目的の場合もあるがあいにく平凡な家庭での育ちであり、そういった目的の輩に狙われる可能性は低い。

それとも誰かに恨まれているのだろうか。

ただ、ここまでのことをされる身に覚えはない。

目と鼻の先にある天板を殴りつけるが無情にもゴツっという音が響き渡るだけだ。

なぜ、昨日からこんな理不尽な目に遭うのだろうか。

沸々と怒りの感情が強まっていく。

何度も天板を殴る。

狭い空間が許す限り体を全力でばたつかせる。

なんでだよ。なんでだよ。なんでだよ。

空気も薄いせいか、すぐに息を切らしてしまった。

体の所々からは擦り切っておそらく血が出ているだろう。

怒りが収まり始め、冷静さを徐々に取り戻す。

とりあえずどうにかしなければ。

殴っても壊れる気配はないが、この天板をどうにか外すことは出来ないだろうか。

するとヒヤリと冷たい空気が頬を掠める。

・・・隙間があるってことか?

俺は背中を土台にして両手両足を天板に当てがえる。

そして徐々に力を込めていく。

全身がギシギシと悲鳴を上げる。

これで開かなければ他に手段はないだろう。

手足に全力の力を込める。

ギっと軋む音が聞こえる。

持てる力を振り絞り、今まで発したこのないほどの声量が俺の腹から湧き出る。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

ギ、ギギ。ギギギギギギ。

っと天板が外れていく。

外の光と冷たい空気が一気に流れ込んでくる。

俺は勢いよく立ち上がる。

「はぁ、はぁ、はぁ」と荒ぶる息を抑える。

辺りを見回すが視界がぼやけているのか見えずらい。

いや、違う。

「霧」だ。霧に覆われているのだ。

出れたのは良いが、ここはどこだ。

箱から足を出し、数歩進む。

霧が拡散されて、徐々に視界が開けてくる。

そして俺は周囲にオブジェがあることに気づいた。

それは等間隔に地面に突き刺さっている十字架だった。

(続)

Concrete
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