「エターナルチェイン」~ある怪奇譚その二~

長編13
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「エターナルチェイン」~ある怪奇譚その二~

翌日…一晩泊まった沢口を玄関で見送った後、僕は早速、ネットの履歴から件のスレッドを辿った。

「超高級婚活サイトに登録したんだが、質問ある?」

と題したスレッドを開くと、そこには、スレ主が応募した経緯やプロフィールやらが書かれていて…その下に、超高級婚活サイト、「エターナルチェイン」への入会システムが、細かく記載されていた。

その内容に、僕は思わず目を疑った。

入会金二百万。一回の定員は三十名…しかも、入会希望者のエントリーシートを元に、AIが厳選に厳選を重ねる為…選別された者同士が出会うまで、最低でも半年、最高で五年もかかるらしい。

つまり、入会希望を出したからと言って、誰でもすぐに入会出来る訳では無く…AIに選ばれるまで、自分にピッタリの相手が現れるまで…待ち続けなければならないのだ。

だが、そこを越えると、結婚が決まったも同然で…相手のチェンジも一切無く、皆ストレートに婚約へと進むらしい。離婚率ゼロパーセント、相手への満足度は、ほぼ百パーセントという…完璧なマッチング。

一体、どんな仕掛けがAIに埋め込まれているのかは謎だが……相当に最先端の技術なのだろう。

だが、これはまだ、ほんの序の口…なんと入会者は、エターナルチェインと提携をしている、あらゆる施設やサービスを、無料で利用できるのだという。

アパレル用品や化粧品、スポーツ用品、レジャー施設、ジム、エステ、ゲーム機、電子デバイス、果ては車、と…あらゆる製品が無料で入手可能な上、アドバイザーと呼ばれる専任スタッフが、ホテルやレストラン、旅行の手配をまで代行してくれるのだという。

更に、結婚が決まれば…結婚式、披露宴、ハネムーンの手続きに加え、新居のピックアップまで…正に、至れり尽くせり、ってやつだ。

そりゃ、二百万掛かろうと、何年待とうと、入会したい訳だ…

ていうか…アドバイザーの役割、めちゃめちゃ多くないか?これじゃまるで…

「…もう、スタッフって言うか、執事じゃん…」

「しつじ?あ!そういえばワタシ、結構前に、執事カフェって所行ったよ!!」

耳元すれすれでミユカの大声がして、思わず「ギャッ!!」と悲鳴を上げた。

「ちょ、ちょっと…びっくりした…」

「やっと戻って来た!(笑)ねえ、それってそんなに気になるの?…どれどれ…」

「ああっ、ちょっと勝手に見ないでって…!」

「ていうか!私が来たの三十分も前だし!何で気付かないのよ~!」

三十分…

そんなに長い事、夢中でこのスレッドを…

「ごめん…俺そんなに…」

「え、何コレすご!え…こんなに沢山、物貰えるの…やっば!やっば!いや…さすがにネタだよね?!」

「あ!あ、ちょっと勝手に見るなって…」

「いやいや!有り得ないってばこんなの!婚活しただけでこんな贅沢な生活…まったく誰がこんなシナリオ書いたんだか…」

「贅沢…か、そうだよなぁ…」

「何?もしかしてカツ君、この私を差し置いて、婚活しようとか思ってるワケーーーっ?!」

ミユカは、妹以上、彼女未満という…絶妙な立ち位置のガールフレンドだ。

どこでどう出会ったのかは忘れたけど…時に飲み友だったり、身体を許し合ったりと…付かず離れずな付き合いが今でも続いている。

世間ではそれをまとめて「セフレ」と呼ぶのだろうけど…僕の認識では、ミユカはそれで片付くような子では無い。

隙あらば、僕の頭上の斜め上から降って来て…色んな意味で、僕を困惑させるのだ。

「もー、ミユカ!俺は調べてものしてるの!冷蔵庫のアイス、好きなだけ食べていいから、もうちょっとだけ…!」

「ホント!?じゃあ全部食べるねー!」

ひとしきり邪魔をした所で、ミユカは好物を見つけた猫の様に、俊敏に僕から離れ、嬉しそうに冷凍庫のドアを開ける。

「おおっ!贅沢ショコラと贅沢イチゴ味だ~!ふふっ、両方食べてやる!」

「腹壊すなよ~…」

”贅沢”か…

確かに…思い出してみれば、沢口の身なりは、以前に比べてちょっと変わったような…

そう、確か…いつぞやの飲み会に、テーラーメイドのセットアップ姿でやって来て、秋元達から「どこぞのセレブだよ!」なんてツッコまれていたっけ…

ただの婚活サイトには絶対に無いサービス…ここに入れば、誰もが、普通よりもランクの高いものに囲まれて、生活できる―――

だが、おかしいのだ。

エターナルチェインのシステムや、入会してみたという人の書き込みは結構あるのに…肝心の、エターナルチェインそのものへと繋がる情報は、どれだけ検索しても、全く出てこないのだ。

完全紹介制だとしても、ここまで至れり尽くせりのサービスを提供しているとなれば、マスコミの一つでも、反応していて良い筈なのに…掲示板以外のメディアで、一切取り沙汰されていないどころか、公式ホームページさえ見つからないなんて…

僕は再びスレッドへと戻り、他に情報が無いか探った。

まあ…もともと民度がアレな空間で、結婚だの婚活だのを調べる事自体、非効率なのだが…今現在、ここに来るほか術は無い。

「今時結婚なんて贅沢」、「結婚のメリット一つもない」、「女に搾取される人生なんて地獄」

…と、予想通りネガティブ要素強めな捻くれコメントで埋め尽くされてはいたが…それだけに、エターナルチェインの会員は、

「選ばれし民」

「圧倒的勝ち組」

と揶揄され、羨望と嫉妬の対象になっていた。

勝ち組、選ばれし民…

何故か、心がざわめいた。

僕自身、結婚にネガティブなイメージを持っている訳では無い。

かと言って憧れている訳でも無く…ただ、今の自分の延長線上に、「結婚して家庭を持っている」という光景が、浮かばないのだ。

マイペースな独身生活がすっかり板についてしまったせいで、そう思うのかも知れないが…

何て言うか、息継ぎの難しいスポーツを延々と続けるみたいな感じがしたし、僕自身、「特定の誰かと人生を共にしたい」という強い感情に駆られた事が、殆ど無かった。

だから、沢口が、みのりちゃんという伴侶を得たと知った時…純粋に、ただ「凄いな」って思ったし、二人の、結婚式での幸せそうな顔を見て…正直、こういう生活も良いな、って思ったんだ。

けど…その背景には、エターナルチェインという、規格外の婚活サイトによる後ろ盾が隠されていた。

あのスーツも、ホテルでの結婚披露宴も…自分達で頑張って手に入れたとかじゃなくて、全て婚活サイトのお膳立てだったって事…

まあ、勝ち組というフレーズは当てはまるけど…なんか、複雑。

もしかして、花嫁の手紙も、そうだったりして…

ピロン

…という電子音と共に、スマホの画面に一通の通知が届く。

「号外:俳優MとモデルK、離婚を発表―――」

それは、ちょうど一年前…沢口と同じ時期に結婚した、売れっ子芸能人二人の、スピード離婚の速報だった。

「えええーーーっ、離婚しちゃうんだ…二人共美男美女で、すごく仲良さげだったのに…」

ミユカが、口の端にチョコアイスの残骸を付けたまま、スマホを凝視している。と思ったら…今度は僕の方に顔を向け、ニヤリと微笑んだ。

「二人共、有り余るほど色んなもの持ってるのに…呆気ないよね?」

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結局、その日の収穫は、信憑性の分からないエターナルチェインのシステムと、それらにネガティブな反応を示す、ネット住民の見解のみ…

僕は再び、暇を持て余したミユカのちょっかいに手を焼いて…それ以上の検索には踏み込めなかった。

その後も、仕事の合間を縫って色々と検索をかけてみたが…手掛かりになりそうな情報は、一向に見つからなかった。

が…灯台下暗しとはこの事で、僕は思いもよらぬ人間から、カミングアウトを受けた。

沢口の同級生で、飲み仲間の佐川太郎だ。

「なあ沢口って、あのあと、どうしたんだ?」

「ああ、俺ん家に泊まって帰ったよ。一晩経ったら、落ち着いた」

沢口の件から一週間後…久しぶりにサシで飲まないかと誘われた、大衆居酒屋の一角。

その場にいない人間の話をあまりしない二人だったが…事が事だけに、話題は自然と、沢口の話になる。

「そっか、良かった。あいつ、マジ凹みしてたじゃん…ちょっと気になってたんだよ」

「だな。まあ、奥さん戻ってくれば、元通りになるだろうけど…」

「そうだよなぁ、でも、あんなに凹んでる沢口、オレ初めて見たよ。大学時代に付き合ってた彼女と別れた時、あそこまで落ち込んで無かったからさぁ」

「…よっぽど、みのりちゃんの事好きなんだな」

「あーもう!心配通り越してムカついてきた!のろけやがって~!相手がいるだけ幸せだっつーの!」

「そうだな…」

佐川は、ジョッキに残ったチューハイを一気に煽ると、スマホゲーム並みの早さで、タブレットからお代わりを注文した。

「みのりちゃん、今どうしてるんだろな」

「実家に帰ったとかじゃねーの?よくある話だろ。沢口が気にし過ぎなんだよ!」

「所でさ…沢口とみのりちゃん、婚活で出会った、って知ってる?」

「ああ、そうみたいだな。秋元か三好が言ってたよ。良いなぁ、あんな可愛い奥さんと出会えるなんて…奇跡だろ」

「それがさ…沢口、エターナルチェイン、って婚活サイト使ってたんだよ。佐川、知ってる?…佐川?」

佐川は、僕の方を見たまま、真顔で硬直していた。

横から、店員がお代わりを持ってくるのを見向きもせず、次第に。口の端がピクピクと震え出す…

「おい、さが――――」

「マァジかよ…あいつ、選ばれし民だったワケ!?」

「えっ…知ってるの?」

「知ってるも何も…オレ、入会希望出して、もう三年も待ってるんだよ!っつーか、沢口に紹介したの、オレなんだぞ!」

「え!?」 

「道理で、服の仕立てが良いと思ったら…なぁるほどねぇ…なぁ、今から一緒に殴りに行こうか…」

「佐川、落ち着け、な…あとでカラオケも付き合うから」

「オレ、三年待ちなのに…なんで黙って…あああ、確かに披露宴、沢口にしては、かなり豪勢だなって思ってたけど…そう言うことか…あの感じじゃ、永久保証だな」

「…永久、保証…何だそれ?」

「エタチェンのサービスが、結婚後も利用出来るって事!オプションだから追加料金かかるけど…大体の人がそれ前提で入会してるみたいよ?オレは知らんけど!」

「って事は…何か、色んなサービスが結婚後も…服とか、車とか…」

「…らしいな。くそ~っ、沢口の奴…オレにそんな事…初耳だぞ…」

確かに、沢口はみのりちゃんとの出会いについて、あまり詳しく話してはくれなかった。

なれそめ位、話してもいいだろうにと思っていたが…仲間の誰が聞いても、いつも、「まあ、ご縁があって…」と言うだけ。その後もなんやかんやで、はぐらかされて、僕らもそれ以上、踏み込めなかったのだ。

それがまさか、佐川が全ての切っ掛けだったとは…

「なあ、佐川は誰から教えてもらったんだ?あれって、完全紹介制だろ?」

「ああ…オレは、会社の元後輩から教えてもらったんだよ。元後輩は、取引会社の人間から教えてもらったとかで…二人共、一、二年で入会して、すんなり結婚したからさ…オレも、そのつもりで貯めてたんだよ…入会金」

「…胸中お察しします」

「もういい、オレに婚活は合わなかったんだ…もう辞めたい、辞めよう…」

佐川は、沈痛そのものって顔で、ジョッキ片手にテーブルに突っ伏した。正直、佐川がここまで、結婚に対する欲求を持っていたとは知らなかった。

「佐川!な、諦めんのはまだ早いって…中には五年待ってる人もいるらしいからさ…もしかしたら、明日連絡が来るかもしれないよ?な…大丈夫だから…」

「ふんっ、いいよなあお前は…結婚に興味ないみたいだし…オレは、沢口の幸せそうな顔見て、バカみたいに喜んでたんだぜ…『次こそはオレも』って…抜け駆けだとは知らずによ…」

「別に、沢口だって意地悪で隠してたんじゃないだろうし…ほら、現に…奥さんと連絡取れなくなって、凹んでたじゃないか」

「…それだよ」

「え?」

「それ…おかしいだろ。エタチェンは、完全完璧に相性の合う奴と引き合わせるんだぞ。そんじゃそこらで言い合いになるような、そんな関係じゃないんだよ」

「って事は…夫婦のすれ違いじゃないって…そういう事?でも、沢口はそんな風には…」

「…あいつさ、学生の時からそうなんだよ。何かマズい状況になってても…『そんな筈は無い』って、そう思う事で、やり過ごそうとするんだ。で、俺らが気付いた時には後の祭り。相談とかしてこないのよ。そういうプライド、さっさと捨てりゃいいのによぉ」

「…何か、事件に巻き込まれてないと良いんだけど…」

「事件と言えば…そういや、こんな話聞いた事あるか?」

佐川は、いつの間にか顔を上げて、串盛りの最後の一本を手に取ると、それを指揮棒のようにしながら話し始めた。

―――俺の知り合いの話じゃないんだけど…まあ、知り合いのまた知り合いって奴がさ…エターナルチェインの会員で、結婚したんらしいんだよ。でも…ある時から、そいつの頭の中で、変な…幻聴みたいなのが聞こえ始めたんだ。

何か、大きな病気の前兆かと思って、病院で脳波とか色々調べたんだけど、異常無し。精神的なものだとか言われて、メンタル系の薬だけ処方されて帰されたんだ。

けど…その後も、忘れた頃に幻聴が聞こえて、その内に奥さんまでそれが聞こえ始めた。

病院は異常無しの一点張り。エステだのゴルフだの、気晴らししても治る気配はなかったんだって。

で、その夫婦どうなったかって言うと…ある日忽然と、住んでた高層マンションから姿を消して、二か月前、全く別の地域の、山の中で見つかったんだよ。

怪我も何も無かったらしいんだけど…ずっと、「声が聞こえる」「もうすぐ終わる」って、うわ言言ってて…

普通なら、それで病院送りになって、その後分かりません、ってなるだろ?

けどさ…不思議な事に、しばらく入院したら、元に戻ったんだよ。

それも、うわ言だとか幻聴だとか…元からそんなもの、無かったみたいに。

でも…快気祝いに、知り合いが家を訪ねて行ったらさ…見た目も部屋も、綺麗で整ってて…二人、仲良くしてるんだけど…なーんか、違和感があるんだって。

よく見たら、目が。目の中に…光が反射してないんだって。ホラ…俗にいう、

死んだ魚の目、っていうの?

それ以来、もう会ってないから、分からないみたいだけど―――

「…と、まあ、こんな話がある訳よ」

佐川は、ひとしきり話を終えると、空になった串を皿の上に投げて、酒を喉に流し込んだ。

原因の分からない幻聴…失踪…、死んだ魚の目…

僕は、佐川の話に圧倒されて、しばらく声が出なかった。が…話を自分の中で反芻する内に、ある疑問が浮かんだ。

「佐川…そんな話を聞いておきながら、エターナルチェインに入るのって…怖くない?」

「まあ、だって…ずっと狙ってる車、タダ同然で乗れるんだから、そりゃ、待ちたいだろ~っ…!」

「…佐川…多分、待たされてる原因…それじゃね?」

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―――こちらは、留守番電話サービスです。発信音の後に、メッセージを…――――

沢口とは、あれから連絡が付かない。チャットに既読は付くものの、返信は無い。

もしかしたら、彼は彼で、みのりちゃんの行方を調べているのかも知れないが…もし、佐川の言っていた事が本当だったとしたら…もしかしたら、みのりちゃんは知らず知らずの内に、幻聴に悩まされていたんじゃないか…?

そう考えたら、あまり悠長にもしていられない。

僕は佐川と別れた後、エターナルチェインに関する情報を一つでも多く集めるため、思い切って、掲示板にスレッドを建てた。

スレ立ての経緯を名を伏せて記載し、直接やり取りが出来るように、自分の捨てアドを貼り付ける。

まるで、濁流の中から砂金を見つけるようなやり方かも知れないが…本流が見つからない以上、別のルートから探るしか無い。

予想していた通り、捨てアドにはあらゆるスパムメールが日々送られてきたが…数日後、その中に、ある人から、丁寧な文面でメッセージが届いているのを見つけた。

送り主は女性で、エターナルチェインに関する情報の代わりに、妊婦サークルというものに覚えがあり、会って話がしたい、と…そう書いてあった。

名前を、「三好 ユキ」…

「あの、三好って…」

「はい…私、三好祐也の妻です」

指定された都内某所の駅へと向かうと…そこには確かに、見覚えのある女性の姿があった。

「…お久しぶりです。…結婚式、来てくれましたよね?」

「三好さん…どうしてあれを?」

「実は、私も掲示板見るの好きなんですよ。で…偶然見つけて、ちょっと興味を持って」

「そう、でしたか…」

「ねえ、あの…お名前」

「喜代田です。喜代田カツヤ」

「喜代田さん…この事、三好には内緒にしてくださいね」

女の人からそう言われると、まるで良からぬ関係みたいで…ちょっと戸惑う。

でも…ユキさんの言っている事は、僕の思惑とは違った意味を持っていた。

「私、三好とはもう、別れてるんです。今から向かう場所も、何もかも、お話し以外の事全て、誰にも漏らさないって、約束してくれますか?」

「それ…どういう…」

「…これ、見てください」

住宅街のブロック塀に隠れて、ユキさんがふいに長袖シャツの左側を捲ると…その細い腕には、大小様々な、青や紫や灰色の痣が水玉模様を作っていて、見た瞬間にその理由を悟った。

と、同時に…三好の陽気な顔が脳裏に浮かび、あまりに衝撃過ぎて、言葉が出なかった。

「…解って頂けましたか?」

僕は、黙って頷く事しか出来なかった。

三好は、ある時期から途端に気が荒くなり…最初は飲酒で収まっていたものが、食器、家具、家の壁へと…怒りをぶつける対象を変えていったそうだ。

そして、最終的にそれは家族へと向かい、ユキさんは一人息子を連れて家を出て、五年前にどうにか離婚できたそうだ。

だが、”どうにか”と付いているだけあって、三好は最後まで悪あがきをしたそうで…今でも、接触の機会を伺っているようなメールが、年に数件、送られてくるという。

「まだ、ここまでは辿り着いてないし、接触禁止命令を出してもらったから、容易には近付けないだろうけど…」

ユキさんが言う通り、ここは、都内と隣県の境目にある、斜面に沿った住宅街の一角だ。

迷路のような路地に沿って、似たような家が立ち並び…その一つが、今のユキさんと、子供の住居となっていた。

「お邪魔します…」

住宅街であるにも関わらず、家の中も外も、しん、と静まり返っている。

ユキさんに促されて、台所のダイニングテーブルの椅子に座ると…ユキさんは、僕の前に一枚の名刺を差し出し、僕の向かいに腰かけた。

Concrete
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