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怖い絵のある家─曰く付き物件専門の不動産屋さんCASE2【後編】

中編7
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怖い絵のある家─曰く付き物件専門の不動産屋さんCASE2【後編】

この話は前話の続きです。

※前話のリンク先は解説欄へ。

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 さすがに連続して子供の失踪という大変な事態が2件も続くとSNSのオカルトサイトでもちょっとした話題にもなり、俺がここを商売のネタにするということは出来なくなってしまった。

ただどうしても腑に落ちない俺は、この物件にしばらく住んでみようと思った。

自ら住むことによって何か手掛かりが掴めるかも?と思ったからだ。

早速オーナーのSさんに連絡をし事情を説明した上で許可を取ると、事務所からは少し遠いがしばらくこの家に住むことにした。

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 寝床は例の絵のある部屋と決め、室の真ん中あたりに布団を敷く。

最初の数日は特にこれといった変化はなかった。

そして住みだしてちょうど3日が経過した日のこと。

その日は午後から3件ほど立て続けに物件説明とか契約などがあったため、家に帰り着いたのは午後9時を過ぎていた。

シャワーを浴び部屋着に着替えコンビニ弁当を食べた後は、リビングのソファでまったり携帯をいじっていた。

そしてふと時間を見ると既に11時になろうとしている。

俺はリビングの電気を消し二階に上がる。

それからあの部屋に入り布団に横になると、照明を淡いダウンライトに切り替えた。

優しい朱色の光に包まれた室内で右に左に寝返りを打っていると、ようやく微睡が訪れてきてウトウトしだした時だ。

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突然どこからだろうか?微かに叫び声みたいなのが聴こえる。

俺はガバリと半身を起こした。

そして視界に正面奥の壁が飛び込んできた途端

─え?

俺の頭の中は一気に疑問符で埋め尽くされ真っ白になる。

というのは

何もなかったはずの壁に窓があるのだ。

さらに恐る恐る振り返り今度は背後にあるあの絵に視線をやった瞬間、頭の中はいよいよ混乱の渦に巻き込まれた。

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壁に飾ってある油絵の真ん中に立っていたはずのあの恐ろしい巨人と子供の姿が消え、暗闇の背景だけになっているのだ。

「そんなバカな」と呟き立ち上がると歩き壁の前に立ち、まじまじと絵を見て改めて確信した。

間違いない、、、あの巨人の姿がない。

すると

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shake

─ドン!、、、ドンドン、、、ドン!

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いきなり背後から何かを叩く音がする。

再び俺は振り反ると奥の壁に現れた窓に視線を移した。

そして息を飲む。

暗闇を背景にして痩せこけた全裸の男の子が泣きながら、両手で窓を叩いていた。

男の子のあばらの浮いた体にはあちこち痛々しい傷があり、そこから血が流れていた。

彼は真っ赤に泣き腫らした目で俺を必死に見ながら、恐らく「助けて」と叫んでいる。

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─あれはもしかしたら、Aさんの息子?

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「今助けるからな」

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俺はそう言って奥の壁まで走ると窓を開けようとするが、びくともしない。

男の子は相変わらず窓を叩き助けを請うている。

その時だった。

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突然窓の右端から青白い筋張った巨大な手がスッと現れると男の子の上体をむんずと掴み、あっという間に暗闇のどこかに連れ去った。

それから聴こえてきたのは

まるでライオンが捕らえた小鹿を頭から食らっている時のような痛々しいパキパキという骨や肉の砕け裂ける音。

それと混じり聴こえる男の子の泣き叫ぶ声。

思わず耳を塞ぎたくなるような、そのおぞましい音は数分続く。

だがそれも途絶え、

最後に俺の目の前の窓枠内に残ったのは暗闇だけだった。

再び静寂に包まれた俺は呆然としながら窓の向こうに広がる漆黒の闇を覗き込んでいたのだが、やがてガックリと床に膝をつくとそのままその場に倒れこんだ。

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 翌朝目覚めた時あの油絵は元のものに戻っていて、反対側の壁の窓もなくなっていた。

その日の日曜日、俺はオーナーのSさんに電話する。

彼にはどうしても聞きたいことがあったからだ。

Sさんも気になっていたようで、午後から俺の事務所で会うということになった。

事務所奥の簡易な応接室のテーブルを挟んで相対した初老のSさんは、以前よりかなり老けたように見える。

俺はあの物件で連続して起こった不可解な子供の失踪、そして昨晩あの部屋で自ら体験した不可思議な出来事のことを、かいつまんで話した。

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すると白髪を無造作に伸ばしくたびれたグレーのジャケットを羽織った彼は何故か唐突に「申し訳ない」と大声で言うと両手をテーブルについて頭を下げる。

意味の分からない俺は「え、どういうことですか?」と、びっくりしながら彼に尋ねた。

「実はかつて相次いであったという子供さんの失踪のことなんですが、あれは私ある程度予測していたんです。いや予測していたというよりむしろ、、、」

「それはどういうことですか?」

いきなりのSさんの告白に俺は再び尋ねる。

彼は続けた。

「全ての発端はあの家の書庫にある、あの恐ろしい油絵。

あれは私がかつて仕事でメキシコに行った時、地元の古びた骨董屋で買ったものでした。19世紀の偉大な画家ゴヤ晩年の傑作のレプリカなんですが、考えられないくらいに安い価格で譲ってくれたんです。いやむしろ骨董屋の主人のあの時の態度はもらってくれるのなら無料でもいいという感じだったんです。その時はちょっと不審に感じたんですが、とても気に入ったものだったからそのまま持ち帰ったんです。

でもそれが悪夢の始まりでした」

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そこまで語り彼はしばらく無言で俯いていたが、やがてまた口を開く。

「当時私の妻は私が空輸してまで持ち帰ったゴヤの絵が薄気味悪いと言って毛嫌いしてて、挙句の果ては捨てたいとまで言ってました。まあ当時仕事一筋で変人だった私に対する不満もあって二人の間に隙間が出来ていたということもあったと思います。

でも私も当時10歳だった息子も、あの絵の不思議な魅力に引かれていたので妻の主張を無視してたんです。

そして妻は、私がメキシコ出張から帰って10日もしないうちに自動車事故で急逝しました。

しかもその辺りから息子の様子がおかしくなってきたんです。

どこか心あらずという感じでボンヤリしてて、初めのうちは母親を突然失ったことによる精神的な後遺症かな?とか思ってたのですが、そうではなかった。

原因はあの絵でした。

息子は夜な夜な二階の書庫に忍び込んで、あの絵の前に座ってうっとり眺めていたんです。

何度となく注意したのですが息子の行動は止みません。

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それで私ある日の深夜、こっそり息子が書庫に入って行くのを確認してしばらくしてから入口ドアの前に立っていると、ボソボソと誰かと話す息子の声が聴こえます。

不審に思いドアを開けると、私の視界に信じられない光景が飛び込んできました。

入口入って右手奥の壁にあるはずのない大きな窓があり、その窓いっぱいに巨大な青白い男の顔があるんです。そして息子はそいつと話していました。

私が息子に駆け寄り呆けたような顔をした彼をその場から引き離すと、死ぬ気でその男の顔の前に立ちます。

男はニタリと不気味に微笑むと、地の底から響くような声で話し出した。

「俺は元々あるメキシコの大富豪の家に飾られていたのだが、そこの双子の娘2人が消えたことで不吉なものとして捨てられ、巡りめぐって最後はちんけな骨董屋に売られてしまった。

お前は俺をあの退屈な骨董屋から救ってくれた恩人だ。

だから息子は喰わないでおこう。

その代わりに子供の生贄をあと3人捧げてくれ。

それまでは背後に飾るあの絵を捨てずにそのままにしておくんだ。

もしこの約束を破ったら、俺はお前の息子を呪い殺してしまうからな」と言うと窓ごとスッと消えた。

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「どうして、どうしてあの絵の巨人はそこまで子供の生贄を欲しがるんですか?」

俺の質問にSさんは続ける。

「以前にもお話しましたが、あの絵のモチーフになった巨人は【サトゥルヌス】と言って、ローマ神話における農耕の神です。

彼は偉大な神だったのですが、老境に差し掛かると死に対する恐怖から狂気に取りつかれるのです。

そして預言者からの『お前は自分の子供の一人に殺される』という奇妙な言葉に怯え、5人の子供たちを生まれるたびに飲み込んでいきました。

あの絵はそんな伝承から生まれたものだったんです」

「5人の子供、、、

既にメキシコで2人この間2人だから残るは1人、、、」

俺の言葉にSさんは静かに頷くと最後にこう言った。

「はい。

もちろんあなたが今後あの家を扱ってくれることはないでしょう。

でも私はこれからもあの家に住んでくれる親子を探します。

我が子のために」

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 Sさんが帰った後、俺は一人事務所のデスク前に座り考えていた。

「Sさんのあの様子では、彼はこれからもあの物件の賃貸を止めないだろう。あの巨人との約束である5人の子供の生贄が出来るまで」

ふと傍らの窓に目をやると、しとしと雨が降り出しており空には鉛色の不吉な空が広がっている。

降りしきる雨粒を眺めていると、俺の心の奥底には新たなどす黒い不安がもたげてきた。

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「待てよ。

仮に残る1人の生贄が捧げられたら、あとはどうなるんだ?

巨人は永遠にこの世から姿を消してしまうのか?

いやSさんの言ってた神話によると、巨人は自らの死に対する恐怖から自分の子供を5人食ったということだった。

ということは目的を達成した巨人はもしかしたら永遠の生を与えられ、この現世のどこかで甦るのではないか?」

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俺の脳裏にはいつの間にか、広大な原生林の中を徘徊する恐ろしいあの巨人の姿が投影されていた。

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fin

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Presented by Nekojiro

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@アンソニー 様 
いつもコメントに怖いポチ、ありがとうございます

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