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中編4
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動く筈が無いのに

菰樹朋久(こもき・ともひさ)です。

時の記念日に間に合いませんでしたが、皆様方みたいな恐ろしい体験には及ばないものの、不思議な体験を致しました事を御話し致しましょう。宜しく御願い申し上げます。

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今年の有ろう事か元日の夕方に、北陸を襲った悲しい地震が有りましたが、幾度と無くこちらの中原県の地も、東北始め震災程で無いにせよ揺れに見舞われるのは日本の宿命と思える位に決して少なく無いし、台湾でも頻発している在り様だ。

自分の住む最寄りである、龍部(たつべ)町立図書館が、建物の外観自体は無事でありながらも、激しい揺れに襲われて叢書が多数落下したり、管理コンピュータが落下物で破損して致し方無く最新式に交換せざるを得ないと言った、小さくない被災状況だった中で、何故か倉庫に保管されていた大きな丸い時計………

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しかも、ゼンマイ式でいわゆるボンボン時報の奴がゴロリと現れた感じで、たまたま掃除用具を取りに来た若い司書が、驚いたと言う。

倉庫で気配を感じた司書が振り向くと、棚から顔を半分だすかの様に………こっちの様子を窺うかの様に不自然に置かれていた時計が、ゴロリとゆっくり全身を現した感じだったので、暫く動けなかったのだと。

ゾワゾワと嫌な寒気を覚えて、老警備員を呼んだ司書は、一緒に棚の奥の方に丸いボンボン時計を押し込む様に戻して、掃除用具を近場に置く事にして倉庫の明かりを消して鍵も掛けたのだと言う。

老警備員の笛麻(ふえあさ)さんにそんな話を聴く事になった僕は図書館の片付けが済む迄、役場の警備から出向する形で、図書館叢書を中心とした夜間警備を担当する事になった。勿論、片付けや仕分けは司書さんや図書館職員に御任せと言う約束を加味してだが。

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終業の時間になった笛麻翁を送り出して、僕は1時間毎の見回りに出掛ける。見回りと言っても、片付け中の叢書には手を付けず、学習室やトイレ等の人の有無を確かめながら、異変に気付いた際は24時間操業の小さな本部に報告や応援の連絡を入れれば良いだけの話でもあるのだが。

館内の一部の時計の秒針の小さな音と、秒針の無い時計が1分毎の時を刻む長針の音、空調のゴォーっと言う音に混じって、僕の足音しか響かない筈の広い空間。

(………?)

コッコッコッコッ………

つつく様な小刻みな音が耳に入る。

コインランドリー等の洗濯音や乾燥音が無くなった場所の自動ドアは秒針の付いた時計と同じ「ジャッ、ジャッ、ジャッ」と言う音が響くのだが、図書館自体はおろか自動ドアさえ施錠された時間、自動ドアのあの秒針みたいな音がこっちに響いて来る事も無い。聞いた覚えの有る音に近いのはそう言えばアレだ、電池式の鳩時計の振り子を取り払って置いた際の時を刻む音だ。

無論、館内に鳩時計の掛けてあるならぬ、置いてある場所は無いから、僕は吊り下げていたマスターキーをジャラリと取り出して、耳を頼りに音のする場所へと近付いて行く………

あの若い司書さんが時計と目が合った倉庫だ。

今や大変眩(まぶ)しい明るさと化したLEDの懐中電灯を照らしながら、がチャリと鍵穴に鍵を差し込んで回す。

カラララ………と警戒しながら警棒に手を伸ばす心の準備も持ちつつ、ゆっくりと上半分が磨り硝子と言う教室の扉に似た引き戸を開ける。

「えっ!!」

若い司書さんのゾワゾワを理解した。

倉庫奥に持って行ったとされる筈の時計が、棚越しに僕を見る様に文字盤が半分出ている。

しかも聞いた話の時刻とは異なる。丁度こっちから見て右側に長針も短針も来ている………2:15を差していた。

「────後にしよう」

何故かそう呟いた私は深呼吸して懐中電灯を消して、引き戸を閉め、施錠する。

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笛麻翁と再び一緒になる日が来て、その日はたまたま二人体制での見回りになった。

「────まさか見たか」

「────見ました」

「そうか………」

僕の目を見て訊いて来た彼は、僕が深呼吸してそのまま施錠したのを知って、何処か安心した感じでさえある。

「一人で動かすには、柱時計だからアレは地味に重い」

若い司書さんと倉庫奥にヨイショと持って行った話だろうと、僕は頷いていた。

「こっそり見ちゃったんだよ、若い子が居なくなった後に」

「えっ、それってどう言う………」

ニヤリとした笛麻翁を見て、ビィィィっと背筋が冷えるのを覚える。

「歯車が取り外されててな………動く筈が無いんだよ」

「?!」

では、僕の聞いたあの「コッコッコッコッ」は倉庫の丸型柱時計では無いと?

「だが、長い針と短い針を固定する目的なのか………何だ、文字盤の裏に電池ボックスが有ってね。勿論、電池も嵌め込まれてなかった」

(ムーブメント交換か………でも………)

あの時の時刻は、明らかにこっちの様子を窺う様な針の置かれ方でもあったし、あの音は動画で聞いた丸型柱時計特有の速い振り子の音で間違い無いから、これは………

スマートフォンのアラームが鳴って、腕時計とを見比べて、事務所の時計も何と無く見上げた僕は、笛麻翁に「時間なんで見て来ますね」と告げて、静寂なる空間の見回りへと、再び出て行く。

Concrete
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