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町にひとつだけの民宿で一泊して翌朝、友人Kの死の謎について、
”街区表示板”に絞って調べてみることにしました。
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幸いなことにGoogleストリートビューは、2020年という比較的最近にこの一帯を記録しています。
端末に映るストリートビューの画像と、歩きながら探る現在の町並み。
これを比較していけば、何がどう変化しているのか少しはわかるはずです。
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様々な建物の塀、電柱など、改めて注視すると街区表示板は無数にある。
とはいえ一部が損壊しているような街区表示板はあまり見掛けない。
あったとしても、ストリートビューの画像でもすでに破損しているものばかり。
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一件、ストリートビューでは壊れていないのに現在は壊れている街区表示板を見つけた。
普通の家屋の玄関先。
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”上部”が欠けている。
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撮影して振り返ると、ひとりのお婆さんが立っている。
そしてこう呟いた。
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「内地の人は知らなくていい。
うちは下からじゃないだけマシ」
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何か重大な情報がある。
挨拶もほどほどにお話を聞かせてもらえるように頼んだけれど、手で払って断られてしまいます。
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「じゃあ、御主人からのお話だけでも」
「……もういないよ」
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口振りから、もうこの世にいないのだということが伝わった。
酷く無礼なことをしてしまった。
その場は頭をさげてすぐにその場を去りながら、
最後に耳に入った言葉の、違和感。
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玄関ドアを開けながらお婆さんは、後ろ姿のまま確かにこう言いました。
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「……もういないよ。
”それ”が連れてったよ」
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町の探索を続けながら、情報を整理する。
友人Kと惨殺された少年の家には
”下部が欠損した街区表示板”
御主人を亡くしているおばあさんの家には
”上部が欠損した街区表示板”
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「うちは下からじゃないだけマシ」
「”それ”が連れてったよ」
x x x x x x x x x x x x x
「ちょっと代わってほしいことがあってさ。”それ”送るから受け取って」
「友達に頼むようなことじゃなかった」
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この町はところどころの空き地に不法投棄が目立つ。
行政からの関心があまりない地域なのだろうか?
あまり遠くないどこかで消防車のサイレンが響いている。
まぁ、今は調査だ。
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廃墟に出くわしました。
大枠だけをそのままにして、中身をぜんぶ抜き取ったような、もう建物とも呼べない状態です。
取壊中でもなさそう。
なんだろう、この町は、放置されているものだらけ。
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おそらく玄関があったであろう位置まで移動して、まだ残っていた外壁を確認してみる。
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ありました。
かつて街区表示板であったそれは、もう上部も下部も残っていない。
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ほんの一部だけがかろうじて壁に付着している。
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民泊への戻り道、昨日見掛けた通園バスの周囲が人だかりになっていました。
消防車が1台とパトカーも1台。
運転手らしきおじいさんが、警察に何やら「ハンドルがおかしい」と説明している。
幼いこどもとその親らしき人々が10組ほど、それを遠巻きに眺めている。
そのうちの若い男性に、何があったのか尋ねてみました。
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どうやら園児を乗せた通園バスがさとうきび畑に突っ込んだという。畑がクッションになったのか怪我人はいないとのこと。
特に関連があるとは思えないけれど、すぐ浮かんだのはあのプラカード。
『弾薬庫 建設反対』
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その場のざわめきが、急に静かになりました。
髪がボサボサでスウェット姿の太った男性が歩いてきて、そうして通り過ぎていく。
ゆっくりと、人々の視線を浴びながら。
その男性が歩み去ってしまうと、また町の人々はごくあたりまえに会話を再開した。
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警察への説明から一時的に解放されたであろう運転手は、町の人々へ混ざりながら「あいつなんじゃないか?」と吐き捨てると、さらにこう続けました。
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「あいつのところはもう、上も下も失くなってる。
まんなかを待ってるだけでヤケクソになってる」
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周囲の誰も、それを否定も肯定もしません。
というか、聞こえていないかのように振る舞いました。
その雰囲気に気づいたのか運転手は、もう何も言いませんでした。
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「上も下も」「まんなか」も、たぶんもう間違いなく、私がこの町で観察してきたものだとわかりました。
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あと少し長引きそうです。
今回はここまで。
作者肩コリ酷太郎