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中編4
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【違和感のブランコ】#4

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 民宿で荷物をまとめて、最後に友人Kの御両親へ挨拶に。

 連絡先など改めて確認してから、別れ際、お父さんは私の手を強く握り

「面倒お掛けします。ごめんなさい」と謝っていました。

「こちらこそ何もできずに」と告げて、その場を去る前に、

”死因”

という最初の疑問が浮かんだけれど、これにはもう結論が出ていました。

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『私には解らない』

 詰まるところおそらく、納得できる答えは存在しない。

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 バス停までの道を歩きながら、また新しい違和感が積み重なっていました。

 ところどころに設置された”欠損した街区表示板”の『場所』が、何かおかしい。

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 Googleマップを開いて、街区表示板の欠損していない部分から推測できる住所と現在地点を比較してみる。

 すると”欠損した街区表示板”に限り、本来あるべき住所とは違う場所に設置されているものが幾つもあるのです。

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 これは推測ですが、いちど”それ”になってしまった”欠損した街区表示板”は『役目』を終えるまでは機能し続けるのではないでしょうか。

 毎朝、ドアを開ければこの町ではきっと、どこまでも高く昇る青い雲を眺めることができるでしょう。

 でも町のみなさんが最初に確認するのはきっと、そこじゃない。

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 そしてもし必要があればその夜、物音を立てないように、どこかに”それ”を付け替える。

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wallpaper:7504

 まだ何か、違和感はありました。

 けれどバスに揺られ、飛行機に乗り、電車でマンションへ帰宅する頃には、考えるのはやめていました。

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 終わった、と言っていいはずだ。

 できることはもう、いや、最初からなかった。

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wallpaper:7507

 数日後の夕方、自宅に大きめの箱の宅配便が届きました。

 伝票には友人Kの御両親の記名。何だろう?

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 箱は部屋の隅に寄せておいてとりあえず、食事や家事などを済ませていたらもう眠くなっていました。

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以下、

スマホ録音機能使用アプリ:

『睡眠クオリティ計測! 熟睡くん!!』

深夜の録音に、記憶の限り状況を補足。

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01:12

睡眠中。 

〈ネイキ10db〉

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01:13

玄関ドアの外、マンションの共有廊下のほうからなにやら物音。

目を覚ます。

〈ネイキ23db〉

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01:15

複数人で何やら作業をしている気配。

話し声らしきもの。

〈ネイキ33db〉

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01:20

起き上がる。

玄関ドア前へ移動。

何をしているのか確認しようとドアに手をあて、

ドアスコープから共有廊下を覗く。

〈ネイキ34db〉

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01:21

廊下に誰もいないのを確認。騒音は継続。

玄関ドア及び足元が振動で震えている。

複数人の大柄の人物にぐるぐると取り囲まれている感覚。

〈ネイキ60db〉

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01:22

見えない複数人、ドアを隔てた廊下で駆け足。

彼らのものらしき呻き声が聞こえ始める。

声は次第に重なり合い、苛立ちを増すように増幅。

何か、言葉。

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聴き取ろうとドアに耳を近づける。

その耳の高さへ、廊下側から同じ位置に唇を持ってきたかのように

「あるでしょぅ?」

〈ネイキ100db〉

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01:23

玄関ドアから離れる。

友人Kの御両親からの宅配便の段ボール箱を開ける。

丸められた新聞紙の山の奥から、梱包された長方形の箱を取り出し、

破いて、開けてみると、気象計。

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温度・湿度・気圧の計器盤が3つ縦に並んだ、綺麗な気象計。

床が小刻みに揺れている。

呻き声と轟音、耐えられないほどうるさい。

〈ネイキ140db〉

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01:24

まず、玄関ドアの鍵を開ける。

ドアノブを掴む。強い振動。

室内のどこかで電球が割れた。

ドアを開けながら、

「ここじゃない!」

〈ネイキ測定不能〉

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wallpaper:7506

 翌朝、出勤前、ドライバーを片手に、あの島に残してきた最後の違和感を分解することにしました。

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 友人Kの御両親のお宅へ伺った滞在初日、

外塀には無傷の新しい街区表示板が設置されていた。

けれどお別れのあの日、確かに私はあの場所から、街区表示板が撤去されているのに気づいていました。

にも関わらず、知らないふりをした。

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 小さなことならもうひとつ。

 別れ際、友人Kのお父さんは私に対して

「面倒お掛けします」と言いました。

 言い回しとしてはさほどおかしくはない。

けれど、今回の件はまだ過去形にはなっていない、と疑うにはじゅうぶんだったはずです。

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 そうして、この、気象計。

 これは使って欲しくなかった。

 いつか友人Kの部屋で呑んでいた時に、彼はこんなふうに語ってくれた。

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wallpaper:7504

『若い頃は空が不思議だった。雨が。風が。海が。

 この空はどこまで続いてるんだろう?

 バイト代で気象計を買って、いろんなことを調べてるうちに、いつの間にか大人になっていた。

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 不思議なことを追うよりも、違和感から目を逸らすことに必死になった』 

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wallpaper:7506

 気象計の裏蓋のネジを外して、内部を確認。

”下部の欠損した街区表示板”が隠されていました。

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 友人Kのところのお母さんは、確かお父さんより歳下です。

 おふたりで話し合って決めたのか、あるいはどちらかの独断か。

 いずれにせよ、

 私にできることはもう、いや、最初からなかった。

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 また新しく”それ”を梱包して、友人Kの実家へ送り返す手続きをしました。

 今のところあちらからの連絡はありません。

 いつか会えたらお返しするために、気象計は部屋に置いています。

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wallpaper:7465

 日常の違和感を紐解いていくと、その先には何があるのか?

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「誰も知らないし、みんな知ってる」

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