「こんな時間までフラフラしてるんじゃない!」
交番勤務の五十代、◯玉県のとある町
コンビニ前で駄弁る中学生が数人
「まだ9時じゃんw」
「親御さんが心配するだろう?」
「心配してませーん!w」
「放任でーす!w」
「帰ってもつまんないもーん!w」
話にならない
「なぁオッサン、その箱何が入ってんの?」
自転車の後ろ、白い箱を指差す木村少年
……………
「出会いはこんな感じだったw」
「お前元DQNなのか?!」
意外すぎる!
「違うって、家に居場所が無かったんだw」
例の廃病院の手術室、後藤さんに霊の確認作業を頼まれた
「行方不明者ってこんなに居るんだな」
木村はパラパラと資料を捲る、この辺りの学校資料
「制服着てるのは良いとして…」
半分以上普段着らしい、特定は難しいだろう
バタンと乱暴に扉が開くと
「おう!追加だ!」
坊主頭にメガネでデカイ体にジャージの三崎さん、四課の人
「とりあえず近隣の所轄の行方不明者の資料も借りて来たぜ?」
「あ、ありがとうございます」
俺は頭を下げる
「しっかし何が分かんだ?伝説の後藤がやることだ、間違いはねぇだろうがよ」
霊視の話はしていない(信じるわけない)
「お前らみたいのが後藤さんの小飼なのか?」
「伝説なんですか?」
「何だ知らねぇのか?交番勤務から数年で本庁警部補だぜ?ノンキャリの星だ」
振り返ると
「今日は4時に撤収するからな!所轄がうるせぇのなんの…」
愚痴を言いながら出て行く
……………
「うお?パトカー来てるぜ?」
「お前何かやったか?w」
「そういや木村、聞いたかよ」
「あん?何を?」
校舎屋上で駄弁る木村少年達
「英語の日比野先生が行方不明だってよ」
「誘拐とか?」
「いやぁ案外駆け落ちとか?w」
「美人だもんなw」
白い自転車もある
「あのオッサンも来てんのか」
その日の夜
市内中心から離れた住宅街、木村の自宅近く
「お?珍しいな、今日は一人か?」
自転車を押しながら
「何だオッサンか」
「オッサンじゃない、後藤さんだ」
「分かったよ、後藤のオッサンw昼に学校来てたな」
「英語の先生だってな、一昨日から出勤していないそうだ」
「オッサン、チャリでブラブラしてないで早く解決してくれよ?」
「まったく、お前みたいなガキにも言われるのか」
「何がよ?」
「二言目には警察のせいだ、税金泥棒ってな」
「そこまで言ってねぇよw」
「事件てのは予想出来ないから事件なんだ、事前に分かってりゃ世話ないのにな」
「ふーん、事前に分かる…か…」
「じゃあ早く帰れよ?」
漕ぎ出そうとすると
「オッサン!」
「何だ?」
「事前…ってのと違うんだけどよ、俺の話信じるか?」
「何か知ってんのか?」
「日比野先生の話じゃねぇんだ、いつものコンビニの前で轢き逃げあったろ?一月前」
「あったあった、何か知ってんのか?!」
「…信じるか?」
真剣
「信じる」
大人は皆そう言うんだ、けどな…コレ言うとな…
「…俺な、霊が見えるんだ」
「それで?」
「マジか!信じるのかよ!?」
ビックリする木村、こんな大人は初めて
「だから先を聞かせろ!」
両肩を掴む後藤さん
………………
「良く信じたな後藤さん」
俺だって木村と出会わなかったら、今でもオカルトレベルだったろう
それに『見える人ってスゲェ!』とか思ってただろう
「あの人基本お人好しでな、貧乏クジばっかりだったらしい」
人の良さが顔に出た好好爺
……………
木村少年に会った直後
「今晩は、いつも遅くまでお疲れ様です」
コンビニ近くの配送センター、事務所を訪ねる後藤さん
「あぁお巡りさん、どうしました?」
若いメガネの二代目、パソコンで帳簿の整理
「ちょっとお聞きしたいんですがね?」
「何でしょう?」
「お宅の配送車、一台だけ全然動いてないですね?」
「…そうですか?たまたま同じ場所に止まってるだけですよ」
「ナンバーも同じだしねぇ、他の車はズラーッとこっち向きに停まってる、なのにアレだけ後ろ向いてる」
「………」
「フロントに跡があるんじゃないかな?」
「なな、な、なん!何の事かわかりません!」
「どうします?交番まで来てもらえますか?貴方が目撃され」
ガタン!!
逃げ出す二代目
「待ちなさい!!」
……………
「今思えば伝説の始まりかもなw」
「木村は何を見たんだ?」
轢き逃げの場所に会社員の霊が立っててよ、配送センターの車が来ると運転手に掴み掛かるんだ、でも毎回じゃない、良く見たらメガネの兄ちゃんにだけ掴み掛かるんだ
「それを後藤さんは信じたのか…」
「スーツの袖から骨が飛び出しててなw頭が半分」
「止めろ聞きたくない!」
耳を塞ぐ、リアルな様子は勘弁してくれ!
「親も妹も気味悪がった能力なのによ、あの人だけだぜ?信じたのw」
ページを捲る
「実は後藤さん、配送車が一台動いてない事は気付いてたんだ、交番のお巡りさんじゃあ捜査出来ないから挨拶がてら揺さぶり掛けたんだ…っと!あった!!この娘だ!!」
「うわぁ…可愛いじゃん」
「おしいよな…後藤さんがカタキ取ってくれるからな」
後ろを向きながら話す木村
首を絞めているんだろう
聞こえるなら、話せるなら、この娘の無念も晴らせるだろうか
………………
久しぶりに児島さんから直接電話
「良くやってくれた、すまないな、私も後藤さんも手が離せなくてな」
どうやら大きな事件を抱えてるらしい
「改めて詳細は話す、あぁそれと白里さんの件だが良くやってくれた、ありがとう」
「児島さんに礼言われるの変な感じだw」
「なぁ、先生の失踪の話途中だったよな」
「あぁあれか」
俺達の新しいアパート、ワンルームだが家電付き、ゲームしながらポテチにコーラにエアコンの天国
俺の部屋は隣だったりする
「俺の霊視って俺の行動範囲しか見えない訳だ」
中古のゲーム本体をモニターに繋ぐ
「そりゃそうだ」
ソフトも中古で買って来た
「後藤さんは普段からチャリでそこら走り回って、違和感見付けてた訳だ」
「ふんふん」
この辺りは街中からちょっと離れると畑と田んぼあるだろ?
その中に小さい墓場がある
「あるある」
電車から良く見る
そこの違和感を後藤さんは見付けてた
だから俺をその墓場に連れて行ったんだ
「違和感?どんな?」
格闘ゲームのキャラ選択、勿論女性キャラ、衣装はダウンロード済
「墓参りって時期があるだろ?」
良く知らねぇけど縁起の悪い日があって誰も行かない日、その翌朝、墓場の辺りに足跡とタイヤの跡があったんだ、で、一部だけ雑草が無くなってる
「まさか…埋められて」
「そう、墓場の霊はほとんど年寄で若いやつは少ないんだ、そこに日比野先生が立ってた」
こんな感じで、と言う木村は首を傾げて舌を出す、多分首が折れて…やめろ、想像したくない
「でも靴跡とタイヤの跡だけで掘り返したら問題になるんだと」
「交番のお巡りさんって捜査出来ないのか?」
「俺も後藤さんと知り合って知ったけどよ、ドラマみたいに行かないんだと、決定的な証拠が無いとな」
「そういうもんか…」
死体がある場所は分かった、けど犯人は分からない、勝手に掘り返す訳にもいかない
轢き逃げの時の様に犯人が近くを通れば反応するはず
画面の格闘ゲームのキャラクターは裸同然の女性、胸を揺らしながら跳び跳ねている
「で、待った訳よ」
朝の通勤時間と夜は5時から10時まで、月水金の3日協力した
「夜はともかく朝は辛かったw」
「で?結果は?」
「三振」
「じゃあ何も」
「いや、逆に後藤さんは絞って行った」
先生の行動範囲に近いはず、そして少なくとも働いている可能性は低い、靴のサイズから予想できるヤツ
「先生の住んでたアパート近く、ニート、独身男、車持ってる、足は28cmってな」
「後藤さんって刑事に向いてるんじゃ」
「そうなんだよwなのに出世してなかったんだw」
で、条件にピッタリのヤツが居てな、巡回がてら近所のアパートに訪問したらしい
「ピンポーン」
「ガチャ」
「何だ?警察?」
大柄でボサボサ頭に無精髭
「こんにちは、巡回中なんですが宜しいですか?」
チェーン越しに話す好好爺
「何?」
「この辺りで行方不明者が居ましてね」
下を見る、靴のサイズ
「関係無いだろ」
服の汚れと口臭、生活態度がよく分かる
「いやいや勿論ですよwただ不審な物音とか悲鳴とか聞いてませんか?」
「知らない」
「そうですか…そうそう、行方不明の先生ですがね、中学の先生だってのに香水が好きでねぇ」
「香水?」
わざとらしくフンフンすると
「この部屋…良い香りしますね?w」
「馬鹿か!もう先週…っ!」
表情が強張る
「テメェ…」
チェーン越しに睨む
ニンマリ笑うと
「下の車…見せてもらいますね?w」
「止めろ!!」
チェーン越しに襟を掴んだ
「公務執行妨害!」
ドアで腕を挟み動きを封じ
「至急至急!応援要請!!」
無線に叫ぶ
「何か後藤さんって揺さぶるの上手くないか?」
「そうなんだよ、けど俺のお陰なんだってよ、絞れるから」
「それで?報酬は?」
「最初はラーメン奢ってくれたりしたんだけどな、褒賞出たら一万くれてなw」
「大金じゃん!」
俺は同じキャラだが木村は男キャラに変えた、浮気するとはけしからん
たとえCGでも野郎のケツを見る趣味は無い、速攻で倒してあげよう
「そのうち家に呼んでくれて、一緒に飯食った」
ふっ、付け焼き刃など俺には通用しない
画面の大男は女性に蹴られまくっている
「久しぶりだぜ?晩飯笑いながら食ったの」
「何で後藤さんに協力するのか分かったわ」
もしかしたら…木村にとって家族なのかもな…父親とか
youwin!
「でも注意されてた事忘れてたぜ」
コントローラーを置く
「何言われてたんだ?」
「俺は霊が執着してる場所が分かっちまう、それを犯人が察した場合」
「お前が危ないな」
「そうなんだ、だから墓場は気を付けろって言われたんだ」
「なんで墓場?」
都心ならともかく田舎の墓場は正確に区画整理なんかされてない、常識があれば墓場を掘り返したりしない
「だから死体の始末するなら最適だって言われたんだ」
「でも普通は火葬して骨壺…」
木村は大笑い
「俺もそう思ってたwでもな?全国で完全に火葬されるようになったの昭和の後半だってよw」
「じゃあ…土葬…」
ゲームを変えながら振り返りニヤリと笑うと
「人骨が出てくるのは当然だw死体の始末に最適だとよw」
また頭を殴られた気分になる
近所に…いや、目の前にあるはずのモノ、普段何気なく見ているはずのモノ
俺は理解出来ていないんだ
作者天海つづみ