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長編9
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第九話 自転車 前

「漸く解放されましたよ」

 いつもの大学の会議室

 久しぶりに児島さんが直接来た

「マスコミ発表出来る段階まで大変でした」

 テレビでは大企業の粉飾決算、脱税、不正取引、不正献金、そこから芋づる式に政治家の汚職、さらには株価までの影響

 全部あの家の関連で、これらが児島さんの貢献、つまり大手柄

 

「出世するんじゃね?」

 

「あの封印解いた影響かも」

 

「何の話です?」

 シラヌシさんの話をすると

「なるほど、長男に帰って来て欲しかったのは恐らく…あの家に寿命まで住んで欲しかったんですねぇ」

 茶を飲むと

「老人ホームなどにも入りたがらず家に拘り続けたそうですから」

 それこそが封印だったのか

 

「んで?後藤さんは?」

 

「別件を追っています、君達だけには関わらせたく無い案件らしいです」

 

「俺達だけ?」

 

「それよりも…私の言い付けはどうしました?」

 睨む児島さん

 ギクッ!

 それから服装、頭髪、身嗜みを一通り説教される

 

「失礼します♪」

 森瀬ちゃんが

「お茶、お代わりいかがですか♪」

 声のトーンがいつもと違う

 

「あぁ、ありがとうございます」

 礼をする児島さん

 

 『おのれ児島ぁ!!』

 腹の中で叫ぶ木村

 

 ………………

 

「あー気に入らねぇ」

「木村…」

「何でアイツがモテるんだ?」

「仕方ないだろ?あの顔でエリートだってバレたし」

 人間中身とは良く言うが、まず外観で気に入られないと中身は知って貰えないらしい

 そしてやっぱり金と顔

 こんな世の中間違ってる

 キモオタにも人権を下さい

 

 バイクのインカムからは木村の不機嫌な声が続く

「いつか児島を追い越してやる」

 え?警官になるの?w

 

 新たな依頼は山の中、ある山に疑惑があるという

 しかし証拠が無い、まぁいつもの事だ

 『スピード落とせ』

 『落石注意』

 『救急車の到着に二時間以上掛かります』

 などの看板だらけの場所、都心から交通の便が悪い為にあまり人気は無い山らしい

 登山口で入山料と住所氏名、登り始めるが

「神崎!引っ張ってくれ!」

「ムリだって!」

 なぜインドアオタクが健康的に登山などを…

 そして運動不足の若者を登山老人達は笑顔で励ます

「頑張って!」

「若いのにだらしない」

「ほらほら遅いよw」

 これが初心者コースって世の中間違ってないか?シニアの方がペース早いぞ?

 

 やっと初心者コースの頂上で休憩(俺達にとっては頂上とする!これ以上はムリ!)

「水飲むんだよ?」

「何だ?座り込んで?」

「もう限界かい?」

「情けないねぇ」

「俺が若い頃は…」

 老人達に囲まれる

 先輩達、情けない若者で申し訳ない、イジらないでください傷付きやすいオタクなんです

「膝が…」

 タオルで汗を拭く

「神崎、痩せた方が良くね?w」

 いくら食べても太らないお前に俺の気持ちは分からん

 ペットボトルの水を飲み今度は降りる、老人達とは別のコースになり二人きりに

「漸く話せるな」

「まったくだ、見えるか?」

 この山には今時珍しく携帯の電波が届かない場所が多い、

 道路にシステムも無く車の通行記録が無い、

 そしてこっち方面へ向かって出掛けた人が多数行方不明

 怪しい条件が揃っている

 だから探りを入れろ、これが今回の依頼

 ただな?上級コースなんて行きたくないぞ?

 頼むから早く手懸かり見つかってくれ

 

「ポツポツ居るけど服装が違うな」

 

「どんなだ?」

 膝痛い

 

「時代劇の藁のアレw」

 上着を着る格好をする

「ああ、子泣き爺のアレw」

「他にも…猟師か?」

「やっぱり山って結構事故あるんだな」

「来る途中も多かったぜ?峠攻めたりしたんだろw」

 でもこんな山の中を当てもなく歩くってどうよ?

 

 水の流れる音が聞こえる

 滝でもあるのか?

「ん?」

「どうした?」

「何か動いた、こっちだ」

 登山道から外れ杉林の道無き道へ

「神崎、触れ」

「いるのか?」

 触ると少し先、20メートル位先に小さい影

「…子供?」

「あぁ、髪の長い女の子だ」

 動き回るということは執着するものが無い、または分散している?

 緩やかな下り斜面、足元は枯れ枝でフワフワ、気を付けながら進む、と、

「…自転車捨ててある」

「まったく、不法投棄かよ」

 蔓草が絡まり錆びてボロボロ、補助輪が付いてピンクの塗装が一部見えるため、昔の女の子用みたいな、更に進むが…

 

 二人とも…足が…止まる…

 

「…なぁ…神崎…」

 振り返る

「…ヤバい…おかしいぞ…」

 俺も

 

 冷や汗、背中がゾクリとする

 登山するような山の中まで不法投棄するか?

 自転車だぞ?

 見てはいけないモノじゃないか?

 

「あれ?消えちまった、とりあえずもどっ……ーっ!」

 後ずさり

 

「木村?どうしっ!?」

 『おいでw』

 首に冷たい何か、え?ナニコレ?少し苦しい

 

「くっそ!離れろ!」

 木村はバタバタ俺の周りの空間を叩いている

「逃げるぞ!」

 

 二人で斜面を駆け上がる!

 

「離れろテメェ!」

 走りながら叩いている

 

「ぜひゅっ!ぜひゅっ!ばひゅっ!」

 苦しい!手だ!!首に手の感触!!

 氷の様に冷たい手が首締めてくる!!

『おいでw』

 いやだ!誰が行くもんか!!

 涙と鼻水とヨダレを流しながら走る!

 足元は滑るがジタバタ走る!

「いやだあぁぁーっ!!!」

 

 登山道に転がりでた!

「木村っ!」

「あぁ、もう離れた…」

 動けない、ガタガタ震えながら二人で道に座り込む

 なんとなく状況は分かる

 

「俺の首に…」

「あぁ、首絞めてた…」

 青い顔の木村

 

「何か感覚があって…」

 首を擦る、物理的に干渉してきたぞ?霊にそんな事…

 

「おい!跡がある!」

 俺の首を指差す

 

 俺達の認識、霊は物理的に干渉出来ない、だから恐くなかった…アレ?…あのマンションの子供…いや、今はこっちだ

 

「木村…何でお前がそこまで恐がる?」

 木村のほうが霊に耐性あるはずなのに、おかしくないか?

 

「…顔がな、目も口も空洞だった、真っ黒だ…髪も触手みてぇに動いてた…それにお前の首絞めながら…多分笑ってた…」

 それは?

「…神崎、出会ったかも知れねぇぞ?悪霊ってやつに…」

 道端で動けない

 

「どうしましたー!?」

 登山道を山歩きのプロっぽいオッサンが来る

 

 ……………

 登山口の管理小屋

「なるほどwたまには運動しようとw」

 良く笑う60歳位の大西さん、登山道の管理とパトロールの人

 日焼けして歯が白い

 

「すいません、山歩き慣れてなくて」

 申し訳ないが誤魔化しておこう

 

「たまに若い人来るけどスニーカーはダメだよ、次からは靴とストック、疲れない装備は持って来た方が良いよw」

 愛想が良い

 

 駐車場

「…神崎、携帯通じる場所まで行くぞ」

 バイクで二キロも走ると路肩に停めて

「児島さんに連絡する」

 

 

 ………………

 

 数日後三人で集まる

「…私もオカルトには慣れたつもりでしたがね」

 大学の近所、地元の警察署の一室、あの山付近の駐在所から資料を送って貰った、三人で調書の山と格闘する

「それはともかく、木村君の話は面白い」

 

「ブランドなんて俺は見ても分かんないな」

 俺もある名前を探す

 

「山の管理人なんて儲かる仕事じゃないだろ?時計はロレックスだし小屋のジャケットなんてモンベルだ、違和感しか無いぜ?」

 木村も調書をぺらぺら捲る

 

 なんでも大西さんは高級腕時計を着けていたし、着てるものもブランド品

 

「何でパソコンで調べられないんだ…」

 過去の事件を紙で残しているのが面倒だ

 

「まったくだぜ、検索すりゃ一発なのに」

 

「文句を言うな、一番確実な記録方法だ」

 

 にしたってアナログ過ぎて俺達世代にはな?

 

「お疲れ様です」

 婦警さんがお茶を持ってきてくれた

「大事件ですか?」

 

「いえいえ、ちょっとした確認ですよ」

 

「児島さんって、あの児島さんですよね?」

 今や警察内で時の人だ、ニュースを見ればあの家の関連ばかり

 

「あ、これかも」

 俺は見つけた、30年位前に家族三人が行方不明になってる、

 両親と女の子の写真がある

「木村、見てくれ」

 

「…この娘っぽいな…髪と服装」

 

「ふむ、当時の大西も事情を聞かれているな…」

 当時は林業が盛んで製材所がたくさんあり、そこで働いていた

「こちらは役場の記録だが」

 10年程前登山ブームで山に登山コースを作り、管理人を置く話が持ち上がったところ、進んで引き受けたそうだ

 

「…あの、児島さんって事は後藤警部補の相方ですよね?」

 なかなか出ていかない婦警さん、まさか児島さん狙い?

 

「…そうですよ?そういえば後藤さんはコチラに勤めてましたよね?」

「はい!この署の英雄ですから!今来てますよ?」

「何ですって!」

「後藤さんが!?」

 立ち上がる三人、関わらせたくない事件があるとか

 

 

 その時

「バァン!」

 ドアが突然開く

「凄い気配してるじゃないか!」

 うるさいジャラジャラ派手な婆さんと

 

「尾形!勝手に動くな!」

 後藤さんが入って来た

 

 ………………

 

「この女は尾形千鶴子、占い師でなぁ…君達には会わせたくなかったんだが…」

 疲れた顔で薄い白髪頭を撫でる

 

「ふん!誰も殺してないのに犯人扱いしやがって!…ところで」

 俺達を見ると

「二人とも守護が憑いてる…狐か?…だけど」

 俺だけ見ると

「あんたは印付けられたね」

 

「印?」

 

「首だよ、また面白そうなヤツに目ぇつけられたねぇw」

 タバコを着けようとするが

 

「禁煙ですよ?」

 児島が睨む

 

「ケチケチすんじゃないよ!」

 

「ご遠慮下さい」

 

「チッ!」

 

「あの、印って?」

 首を擦る

 

「良く聞きな太いの、それ付けたヤツはアンタを気に入った、ソイツの住み家に近付くな」

「何でですか?」

「山神か悪霊か知らないが唾着けたって事だ、引っ張られるよ?」

「殺され…ますか?」

「普通はな?だが守護も憑いてる、死にはしないだろうけどロクな事にならないよ」

 ふんぞりかえる、フンと鼻をならすと 俺と木村を見て

「将来有望だな、こんな若い内に死ぬな」

 

「まったく、偶然ってのは恐ろしいな、この女が地元に出た時に限って」

 意気消沈の後藤さん

 

「なんだい!人を化け物みたいに!」

 何だろう、せかせかした婆さんだな

 

「後藤さん、こうなれば話しても良いのでは?」

 児島さんに言われると

 

「…この女の客はとにかく自殺するんだ」

 

「え?!」

 

 調べると飛び降りの直前から一週間前に尾形千鶴子の占いを受けているという

 それに

 

「あるビルの屋上がカメラに映っててな、この女の目の前で飛び降りたんだ」

 

「フン!アタシゃ占い師だよ?人を殺せる訳無いだろ?」

 

「催眠術ってのがあるだろう?」

 

「証拠になるもんかい!」

 

「世間話の延長だ、お前は催眠術についてどう思う?」

 

「うるさいジジイだね!アタシはそっちの若い連中とおしゃべりしたいね」

 こっちをニヤリと見る、

 見知らぬ怪しい婆さんの笑顔

 …背中が寒い

 

「………尾形さん、我々に協力しませんか?」

 出たよ児島さんの出世欲!

 

「ほう…こっちの若いのは話せるじゃないか」

 ニヤリ

「児島!止めておけ!」

 後藤さんが珍しく怒鳴る

 

「後藤さん、毒喰らわば皿までも、この尾形の能力が分かるかもしれませんよ?」

 

「アタシゃ毒かい!」

 

「やりますか?」

 眼鏡の奥が光る

 

「日当10万経費別なら受けてやる!」

 扇子を出して扇ぐと

「この子達は面白そうだw」

 

 背中が寒い…

 

 

 

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エピソード9は素晴らしかったですね!自転車の前輪に焦点を当てたのがとても面白いひねりを加えました。バランスやコントロールを維持する上で前輪がどれ hill climb racing ほど重要かを深く掘り下げた部分が気に入りました。普段あまり意識しないけど、全体の乗り心地に大きな違いをもたらす要素です。彼らの説明はとても引き込まれるものでした。次のエピソードが今から楽しみです!あなたはどう思いましたか?

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