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長編9
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第十話 自転車 後

「何だってこんな山登んのさ、これだから……」

 ブツブツ言う婆さんと山登り、靴、杖、バックパック等を装備して普通のお婆さんに見える、あのジャラジャラでは怪し過ぎる

 見た目は孫が二人でサポートしているが

「ちょ!ちょっと待って下さい!」

「早いって!」

 なぜ老人は山登りになると早いんだ?

 姿勢良くスタスタ歩く

「この若さで警察に協力たぁ殊勝なこった、アタシみたいに拝み屋でもやれば儲かるだろうになw」

 いや、俺達だって生活のためだし、まさか無償でやってるとでも?

 

「なぁ婆さん」

木村は遠慮なく 

「千鶴子さんだろ、最近のガキは…」

 

「俺達の能力って何で違うんだ?」

 

「あ!そもそも霊感って何なんですか?」

「それはな」

 霊感とは簡単に言えばラジオのダイヤルだ、誰でも持ってるが自覚出来ないだけだ

 

「て事はこっちが合わせるんですか?」

 汗が止まらん

 

「そうだよ?それしか無いだろ?」

 涼しい顔

「じゃあ婆さん、俺が見えて神崎が見えないのは」

 

「木村だったな、お前天然で見えてるよな?視界のダイヤルを勝手に合わせられる、つまり天才の類だ」

 振り返ると

「そんで神崎だっけか?あんたは視界も聴覚も少しズレてるんだw」

 

「え?でも木村に触らないと俺見えませんが?」

 

「あんたは多くの人と一緒さ、最初で躓いてるんだw」

 

「?」

 

「あんたはそもそもアンテナが無いんだよw」

 笑う

 

 だから木村に触ると見えるのか、出会ってなかったら一生気付かなかったかも

 

 初心者コースの頂上

「こっからだぜ?神崎、行けるか?」

「怖いな…」

 …………………………

 

 

 駐車場、キャンピングカーのスモークガラス越しに管理小屋を見る二人

 小屋から大西が出ていった

 

「!、動きました」

「漸くか、どぉら」

 車を降りる、大西の居ない内に後藤と児島は管理小屋を調べるのだ、と無線が鳴る

「はい…………なるほど、ありがとう」

「何か分かったのか?」

「あの黒いベンツのゲレンデだけナンバー照会出来ません、恐らく大西の車かと」

 駐車場の一番遠くに停まっている車に近付く二人

「……偽造ナンバーだ、良く出来てやがる」

 よく見るとゼロが上から貼り付けてある

「行方不明者の資料に車の情報は……」

 タブレットを操作する

 ……………………

 

 近くまで降りて来た

「ほう、こっちだね」

 手を翳しながら道を外れ、杉林に入る婆さん

 

「おい婆さん!もう少し先だぜ?」

「怖い怖い怖い……」

 

「本当に見るだけだねお前は、感じ取る事も出来ないのかいwそうだ神崎コレ持っておきな、来たら分かるぞ?w」

 

 渡された数珠を手首に着ける

 って言うか千鶴子さん余裕あるな…

 

杉林の斜面を慎重に下ると 

「ほら若いの!頑張りな!」

 藪をバシバシ杖で叩く

 

 二人で藪を掻き分け進む

「はっはっは!こりゃ楽だ!」

「またクモの巣だらけかよ!」

「来るな来るな来るな……」

 

暫く進むと自転車の所に出た

「ほう、面白いじゃないかw」

 ニヤリと笑う婆さん

 

「?」

「どういう意味ですか?」

 

「何かの意味がありそうだ」

 

 

 ……………………

 

 管理小屋を調べる二人

 

「何も無いな……」

鍵さえ掛かっていない小屋

 

「残るは車しかありませんね……」

 駐車場へ戻りベンツの周りから中を見る

「当然鍵が閉まってますよね、下手に触ると警報が……」

 開ける道具はもっていない

「さて、後藤さんどうしましょうか?」

 

「おい児島、こっち来てみろ」

 車の陰になっているフェンスの方、なぜか南京錠が付いている、良く見ればどうやらここは開く様だ

「これは……なぜ鍵が?」

「児島、見つけたかもしれんぞ」 

 ……………………

 

「パァン!」

 突然弾ける数珠、と、

「ぐううっ!」

 苦しい

「神z、出やがったなぁ!」

 

「おう、いたいたw神崎こっち来な」

 長い数珠を俺の首に巻くと念仏を唱えて

「そおらっ!!」

 バシッと背中を叩かれると

「はひゅっ!」

 呼吸が楽に

 

「良し離れた、神崎、アタシの肩触ってみな?」

 1メートル位の距離にフラフラ影が浮いている、触手の様に髪が動いている影

「ひいいっ!」

 後退り

「大丈夫だ」

 

「婆さん!何で神崎狙うんだ?!」

 

「知らないよ、ただ仲間に引き入れたいだけだろうよ」

 手を翳すと

「ふん!おいでおいでって言ってんだ、聞こえないんだなw」

 

「何で俺なんだ…」

 ガタガタ震える

 

「落ち着きな、アタシがいるんだ大丈夫さwそれより見てみな?」

 そうだ、目を瞑る……ウゲッ!

「…この娘…人を……食ってる」

 

「マジかよ!」

 

「霊を吸収してんのさ、間違いないね、混濁してるw」

 

「混濁?」

「何だソレ?」

 

「鈍い奴等だねぇwコイツは子供が本体だが20人位の集合体だw」

 気持悪っ!!

 

 

 

…………………………

「行ってみますか?」

「当然だ」

 二人でフェンスを乗り越え森の中へ、と思ったら数メートル雑草を掻き分けた先に緑に塗られた…木?を組み合わせて枯れたススキがびっしり縛り付けてある

「これは…偽装されたバリケードですか?」

 

 その先には道がある

「後藤さん、これは…」

 

「…行くぞ児島、大西の秘密はこっちの様だ」

 

 …………………………

 

 上をフラフラ影が付いて来るが構わず水音がする方へ、河原が見える辺りまで来ると

「何だコレ?」

 駆け寄る木村、木々の間に隠す様に車が置かれ、緑のシートを被せ枯れ枝を載せてある

 俺は下を少し捲って見る

「コレ…まだ新しいぞ?」

「うお!ランクルじゃん!」

 

「フン!まるで車の墓場だね」

 手を翳すと

「こっちだね」

 枯れ木と倒木にキノコがびっしり生えた場所がある

「木村、後藤を呼びな、見付けたぞ」

 

「何を?」

 無線を取り出す

 

「ここに埋まってる、多いぞ?」

 

 

埋まってる……って事はもちろん…埋まってモノは…

 

  

 

「どうしましたぁ?w」

 いつの間にか後ろに立っている大西 

 

「ひっ!」

 ビックリした!

「何だ?!」

 このオッサン追って来たのか?

「ほぉー…これはこれはw」

 

 「コースから外れますと事故が起こりますよ?w」

 目が笑っていない…と言うか焦点が合ってない?気のせいか目と口から黒い煙の様な

 

「こりゃ面白い!ここはお前達の聖域って訳だ!w」

 

 女の子はフラフラと大西の頭にしがみつく、すると髪が更に広がる

「婆さん!まさか取り憑かれてんのかよ!?」

「そう!憑依さ!良く見ろ木村!」

 

 目を凝らす木村、笑う空洞の口、真っ黒な空洞の目……それにウネウネ触手の様に動く髪……その根元の隙間…何だ?…小さな顔だ!頭に苦悶の表情の顔がいくつも見える!!

「マジかよ!バケモンじゃねぇか!」

 

「出来上がるのも面白いが邪魔するよ!」

 長い数珠をジャラジャラさせ近付く、が、

 

「三人かぁ…ち、ちょっと、ちょっとやっかいだなぁw」

 ナイフを出す大西

 さすがに止まるジャラジャラ

 どうする?

 俺と木村はケンカなんて無縁だし、千鶴子さんは話にならないだろう

 ジリジリ後退する

 

「んじっ、じこっ、事故にぃなりますよおおおぉ?」

 首をガクガクさせながら寄って来るオッサン

 

「婆さん!おかしくなってるぜコイツ?!」

 

「意識乗っ取られてんだ!」

 

「逃げるって言っても…」

分散して逃げても大西にとって庭のような山、逃げ切れるか…

 

「木村!神崎!逃げな!」

 手を広げて立ち塞がる千鶴子さん

「ムリだって!」

「木村!無線は!?」

「くっそ!後藤さん!出ろよ!」

 

  その時

「よくやった!」

「お手柄です!」

 車の陰から飛び出す二人、ナイフを叩き落として抑え込むが

 

「ぬがあああっ!!」

 獣の様な叫びを上げ、大人二人を振り解くと

「おいでえぇー!おいでぇ〜!」

俺の方へ

 破顔……とでも言うのだろうか、人はこんな顔が出来るものなのか

 

「抑えな!アタシが祓う!」

「よし!やるぞ児島!」

「はい!」

 二人でタックル

「神崎!やるぞ!」

「えぇっ?!あ、あぁ!」

 男四人で抑え込むと

「後は任せな!」

 大西の首に長い数珠を巻き念仏を唱える、そして背中を

「バシッ!」

「良し離れた!後藤!手錠だ!」

 

 ………………………………

 

 夕暮れ

「さて…今回は疲れたなぁ…」

 スーツがヨレヨレの後藤さん

「まったくですよ…」

 メガネが曲がった児島

「擦り傷だらけだぜ…」

 肘から血が滲んでいる木村

「はぁ…膝痛い」

 駐車場に座り込む男四人と

 

「アタシはもう用無いだろ?日当くれw」

 ピンピンしている占い師

 

あの後応援を呼び、試しに少し掘ってみたら白骨が出て大騒ぎ

 駐車場には警察関係者で祭りの様に赤色灯が回る

 現場に引き継ぎキャンピングカーへ

「あの、千鶴子さん」

「何だい?」

 一万円札を数える

「聖域とか出来上がるって言ってましたよね?」

「あぁ、俺も気になってた、何なんだ婆さん?」

 

「…そうだねぇ、後藤!最初の行方不明者は三十年前だったか?!」

 

「そうだが?」

 助手席から振り返る

 

「じゃあ…アタシの予想だけどね」

まだキャンプブームなんて無い時代は管理されたキャンプ場なんて少ない、でもここの河原でキャンプしようとした家族がいたんだろ、運が悪かったのは大西にとって庭のような場所だった、

 そして大西は……金が欲しかった……いや、娘が欲しくなった

 

「ソレって…」

 最悪な気分

「襲ったって事かよ」

 

まぁ何にせよ殺して埋めた、証拠は全部山の中

 

「あの自転車もか…」

「車に積んであったのかもな、そういや婆さん、自転車に意味があるって言ってたよな?」

「多分登山道が無かった頃の目印だったんだろうよ」

 

罪の意識があったんだろうね、多分娘を埋めた場所に毎日のように行って拝んでた、だから登山コースの話の時、真っ先に管理人になったんだ、バレないように

 

「…ちょっと待ってくれ、それならあの娘に恨まれるだろ?」

「何であんな……」

 

「鈍い奴等だねぇ…」

 タバコに火を着ける

「…祈る人、祈る場所と来れば何だい?」

 

「神社?」

「いや墓場じゃね?」

 

「この場合神社が近い、あの娘が祭神で大西は神主さ」

 

「神主っ?!」

  

「いや巫かね」

 煙を吐く

 

「巫女さん……?」

 赤白の美少女が頭に浮かぶ俺

 

「巫は本来神を取り憑かせてお告げをするのが役目だろ」

 

「何であんな…力って言うか物理的な」

首に跡まで

  

「あの娘の墓に最悪な供物与えちまったからさ」

 

「供物って…」

 吐きそう

 

「婆さん、まさか悪霊になったのは」

 

「そう、キャンプと登山ブームが来ちまった、そこで大西は昔のやり方で襲ったんだろ、そしてあの娘の近くに埋めた、それが生贄を与える意味を作っちまった、それが原因だよ」

 煙を吐くと

 大西はたった一人の信者であり神主であり巫であり供物を与えた、

 結果あの娘は混ざって生贄を欲しがる悪霊か山神になった……簡易的な神様作っちまったんだ

 

「神様…」

「あと何人か食ってたら大西使って無差別に襲ったろうよ」

 次のタバコに火を着けると

「あんたらも神社に行くときはちゃんと謂れを調べるんだよ?飛んでもない所に祈ってる事あるからなw」

 

 

 …………………………

 

 後日 取調べ室

 大西の手口が分かった

 

「なるほど、足の付かない物は売って小遣いにして…ブランド品は自分でか?」

 今回はさすがに笑えない後藤

 

「はい……」

 俯く大西

 

「車は偽造ナンバーで気分で乗り換え…はぁ…何人出てくるやら…アウトドアも考え物ですね」

 

 大西は気に入った娘が居ると

「特別なお客様だけに案内しています、プライベートな場所でして他の人は入りません」

 と駐車場から例の道へ車ごと行かせ、キャンプ道具を設営しながら睡眠薬入りの飲み物を渡した

 夜に犯行に及び証拠は全部山の中へ

「声か…聞こえたんです……あの娘が欲しいって……」

 

 恐らく本当に聞こえたんだろう、それは分かっているが

「バカを言うな!」

「異常者のフリして精神鑑定ですか?バカな考えは止めなさい」

Concrete
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