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第十一話 よくある?

「君が木村一志君、で君が神崎宗則君だね?」

 大学の会議室、警察の偉い人が来てしつこい、カンサツカンとかいう目付きの悪いオッサン

「つまり全部偶然だと言うのか?〇〇村や〇〇病院などは良いとして…」

 鋭い目を向ける

「〇〇山は心霊スポットでもないし、ネットにも出ていなかったが?」

 

「たまには運動しようと思ってなw」

「ツーリングがてらですw」

 実は口裏を合わせるように言われていた、あまりに手柄を上げすぎる為に後藤さんと児島さんは不審に思われていると聞いたからだ

 そしてそこには二人の若い学生がいて怪しいとなったらしい

 

「ふん…全部偶然だと?」

 メガネの奥の目玉がギョロギョロ

 

「はい!」

「もちろんです!」

 

「ふむ……そうか……では失礼する」

 モバイルを閉じて会議室を出て行く、と代わりに

 

「よお!」

「三崎さん!」

「あれ?何で居んだ?」

 俺達の顔を知っているために案内係にされたらしい

 

 ……………………

 

 中庭で駄弁る

 本庁捜査課全体と検察がお祭り騒ぎで寝る暇が無いそうだ

 ただでさえ病院と企業グループの不正で手一杯なのに、更に山の大量殺人犯まで逮捕した

 後藤と児島は放って置くと必ず大事件を持ってくる、という認識になったらしい

「出世するんでな、風当たりも強くなるわな」

 

「後藤さん出世すんだw」

「児島さんはキャリア?に戻ったり?」

 

「それはねぇよw」

 缶コーヒーを飲み干すと

「後藤さんはノンキャリだが異例で警部になる、まぁ定年間際の御祝儀だなwで、児島は警部補に内定したそうだ」

 

 階級の話をされても俺達には分からんがな?

「さて俺も戻って仕事だ、電車で少し眠れるぜ」

 

 三崎さんも帰ったら中庭の空気が軽くなる、イカツイ三崎さんは反社の人に見えるからだ

「もしかしたら後藤さん達ってあのポジションかもな」

「あぁ、あのドラマの」

 紅茶ばっかり飲んでるアレ

 

 と、

「木村と神崎だっけ?」

 女子に声を掛けられる、茶髪ポニテに実習の作業着、同期じゃないから多分先輩?

「あんたら警察と仲良いんだって?友達にストーカーいるみたいなんだけどさ」

 え?俺達ってそういうポジション?

 

 …………………………

 

 女子の部屋

 それは紅茶とケーキ、縫いぐるみと甘い空気、野郎の汗臭さなど微塵も無い夢の国……と思ったら

 

「いきなり連れて来ないでよ!」

「急ぐって言うからさ!w」

 大学から二駅の線路沿い、安アパートの一階の前で待たされる俺達、さっきドアが空いただけで通販のダンボールが崩れて来た

「ど、どうぞ〜」

 ドアを開ける

 そこはゴミ屋敷、大家に怒られそうなゴミ屋敷

 服、靴、テキスト、書きかけのレポートに電子基盤……片付け…たんだよな?

 

 女の理想がガラガラと音を立てて崩れていく

 何とか作ったであろうスペースに座ると

「この娘なんだけどさ」

 高田麻理恵さんが横に振ると

「…青井千尋です」

 黒髪ストレートが俯いている、そりゃあ恥ずかしいだろう

 

話を聞くと最近深夜に物音と窓の人影に悩まされていると言う 

  

「警察にツテ使って頼めない?」

 麻理恵さんが拝み手をするが

 

「いや、話通すのは構わねぇよ?でもな?」 

 見回す木村

「多分言ったらこの部屋から調べられますよ?」

 うわぁ…壁一面ダンボール…

 

ガバッと顔を上げると

「無理無理無理無理」

 首を振る千尋さん 

 

「なんなら片付け手伝うか?」

 やりたくねぇけど

「学食奢ってくれたら…」

 崩れて来そう

 

「ちょっと!女の部屋イジり回すの?!信じらんない!」

 怒る麻理恵さん

 

じゃあどうしろと? 

「と!とにかく恐くてレポート進まないの、このままだと留年しちゃう……」

 

 ……………………………………

 

「……え………………?」

 固まる千尋さん

 

 ふぉおおおお!女子が俺の部屋に!俺の部屋に!これはいかに?!いかに?!

 ……となっただろうな、あの部屋見てなければ

 結局千尋さんに俺の部屋を貸して、代わりに俺達は千尋さんのアパートに一晩泊まる事にした

 

「何でこんなにキレイなの?」

 千尋さんは本気で聞いてるみたいだ、オタクにとって整理整頓は基本だがな?

 フィギュアの素材によって保管方法は異なるし、マンガはきちんと並んでいないと気持ち悪い

 掃除が出来ない人っているんだな

「じ、じゃあ散らかさない様にして下さい」

 汚すなよ…

 

「うっわ!あんたら良いとこ住んでんじゃん!」

「何言ってんすか?w単に新しいだけだぜw」

 木村と麻理恵さんも入って来た

 

「……何で散らからないの?」

 

 ……え?

「モノを探すって一番無駄な時間だと思うんですよ」

 グサッ!と何かが刺さった様だ、聞いたことがある、言葉は時に刃物以上の凶器になると

 

 俯く千尋さん

 

 メンドクサイよこの先輩

 

 …………………………

 

 夜

「よくもまぁこれだけ散らかしたなw」

「これ何の部品なんだろ?」

 リード線や電子基盤、PCの部品?

 スイッチ?銅線、各種ニッパー、工具箱

 

「あの人電気科か?」

 落ちているテキストを読むが分からない

 

「風呂場にまで…」

 PCのケースらしき金属製の箱

 

「木村、千尋さん狙うって陰キャっぽいからか?」

 オタクが言う事ではないが

 

「お前なw本人の前で言うなよ?w」

 一頻り笑うと

「まぁ大人しそうに見えるからだろw」

 この部屋を一目見たらストーカーさえドン引きするだろうに

 

 終電を過ぎた頃

 

 

カリカリカリカリ……

 どこかから小さな音がする

「木村、物音ってコレかな?」

「ネズミ?どこで鳴ってる?」

 

 慎重に音源を辿る、両耳に手を当て

「こっちの壁…だよなぁ」

 一面ダンボール

「コレダンボールの中とかじゃね?」

 二人でゴミ部屋をウロウロする

 

「ダンボール…下ろしてみよう」

 二人で慎重に上の段から

 

「どうやって積んだんだ?コレ?」

「ダンボールに乗って積んで行ったんだろ?」

 上の二列を降ろした辺りで木村が見付けた

「何だ?穴だ」

 

 ………………………………

 

「ありがとう」

 頭を下げる千尋さん

「さぁ奢りだ!後輩達よ!」

 当事者じゃないのに威張る麻理恵さん

 学食で四人で昼飯、ただでさえ女子の少ない大学で

 何この……何?w…何この優越感w

 これって青春?!

 

 犯人は何と隣のお爺さん、若い女性に対する歪んだ思いが原因(気持ちは分からんでもないが)

 安アパートで壁が薄いはずなのに音が聞こえず、我慢できず十箇所以上穴を掘ってしまった

 独居老人が拗らせた訳だ

 

 まぁ……そのお陰で女子と数年振りに話せたかも知れない、そこは密かに感謝しておこう

 

 お爺さんは警察に勾留され、当然千尋さんは一晩で俺の部屋から出ていくが

「神崎君の部屋片付けなきゃ」

「まさか……もう散らかしたんですか?」

「この娘ダメなんだよねぇw」

「まず荷物が多すぎんじゃね?w」

 部屋を貸して分かった、千尋さんは服を『畳む』という概念が無い、だから家具という発想が無くダンボールに詰めてしまう

 千尋さんと付き合える男が居たら見てみたいモノだ

 

 …………………………

 

 がしかし、その日の深夜、終電も終わっているのに突然千尋さんがアパートに来た

 

 まさか恋のはじまり?!

 かと思ったら

 

「まだ人影が……」

「えっ?!」

 急いで木村を呼びバイクで走る

 

「ってことは歩いて来たのかよ!危ねえな!」

「まだ近くに居るかも知れない!」

 

 またこのアパートに来るとは、鍵も掛けずに飛び出して来たそうだ

 中に入る

「そういや窓の方見て無かったな」

 ゴミを足で掻き分けながら進みカーテンを掴む木村

「物音と人影は別って考え無かったよ」

 迂闊だった

 

「開けるぜ?」

 シャッ!と開けると

「コイツか…」

「木村…もしかして霊居るのか?」

「あぁ、なんか爺さんが居る」

 窓のギリギリ外側に居る影

「木村、これ何してんだ?」

「分かんねぇ、まさか霊も覗きかぁ?」

 覗きの常習犯だった?いや死んでから拗らせるなんて事があるのか?

 オッサンは若い女性に向かう習性があるそうで、原因は対になる存在のオバサンにある、という説をギャグ多目なエッセイ集で読んだ事がある

 

 

肩を触ったまま目を瞑る、と…俺と言い争う爺さん…?あれ?俺は爺さんの記憶見てるはずだよな?

 まさか爺さん二人??

「これ…爺さんに…首締められて」

 

「何だか良く分かんねぇけど」

 ガラッと窓を開けて見る、砂利と雑草、ほんの3メートル程で線路、ワイヤーでガードされてるが人が歩く所ではない

「埋まってんじゃね?」

 

 

………………………………………………

 

 隣の爺さんは厳重注意で釈放寸前に再逮捕、後藤さんから身辺調査しろと連絡を受けたからだ

 調べが進むと直ぐに不審な点が見付かった

 書類上は隣には爺さん二人が共同で住んでいる事になっていたのだ

 

 それが一年以上前、金銭絡みの諍いになり殺して当時空き部屋だった千尋さんの部屋の窓際に埋め、その後年金を独り占めしていた

 

 そんな空き部屋に千尋さんが入居、バレないか心配で隣の音に敏感になっていたが、安アパートの薄い壁なのに段々音が聞こえなくなり、不安になり遂には覗き穴を開け始めた

 

ダンボールを積み上げた為に防音になり、ドライバーを貫通させた所で見えはしない

 電車の音に合わせて数ヶ所開けたが全然見えず(でしょうね)焦りから終電が終わっても開けようとして物音がした訳だ

 

「って事は千尋さんも少し霊感あるんだな」

 ダンボールを持つ俺

「あぁ、少しは影が見えてた訳だ…って重てぇな」

 木村も

「……いや、それなら入居してすぐ見るんじゃないか?」

「隣はニートの爺さんだろ?そっちの部屋で首絞めてたんだろ、で、留守になると窓際に立ってたんだろ」

 頭にタオルを巻きダンボールを運ぶ俺達

 

「あ!それ落とさないで!」

 指揮をする千尋さん

「何が入ってんすかコレ?!」

「Pentium3とGforsと……」

 何それ?

 千尋さんの部屋は目出度く事故物件となり悪い噂が出そうなために、不動産屋から同じ家賃で少し新しい所を紹介してもらえた

 それは良いが引っ越しを俺達に頼んで来た、学食三回で引き受け軽トラックも借りて来たが……

 

「あと何個あるんだダンボール……」

 膝痛い、汗臭い、割に合わない

「千尋さん!不動産屋から引っ越し業者に連絡行ったんすよね?!何で断ったんすか?!」

 

「だって見られたくないんだもん!」

 

 やっぱりこのヒトメンドクサイ人だ

 

 

Concrete
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