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第十三話 プールのにおい

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第十三話 プールのにおい

夏休み 親に買って貰った車でエンジョイしてるバチクソイケメン金持ちパリピ陽キャなど爆発すれば良い

 俺達はアパートでアニメ鑑賞

「だからよ、この時代でCGが入り始めて……」

「3Dモデリングのデータでプラモデルがこの辺りか…俺達は恵まれてるんだな」

 

 良いじゃない、オタクだもの

           

 木村のスマホが光る

「お?久しぶりに来た」

「児島さんか?」

 

 ……………………………………

 

「うおおー!俺こっちの海来たの初めてだ!」

 インカムから木村の声が響く、今回は日本海方面、海無し県出身のヤツは見ただけで感動するらしい

「神崎!ヤギさん大丈夫か?!」

「異常は無さそうだ、タコさんは?」

「調子良いぜ!」

 俺のバイクの名前はヤギさんで木村のバイクはタコさん、入学時に先輩からそれぞれ一万円で買った、大学にはその昔寮があったそうで、そこの昔の先輩(多分八木さんと多古さん?)が買ったモノを代々受け継いで来た由緒あるバイク

 工業大学という環境が幸いし整備、修理、部品の交換から作製まで授業の一環として行えた

(大きな声では言えないがガソリンは学校のアレをアレして安く済ませるw)

 実はこのバイク達は俺達より歳上で、今日初めて高速に乗ったから心配だった

 ……………………………………

「ここだな」

 港町を見下ろす高台、気持ちいい風が吹く竹藪と雑木林の中に大きなお寺、その門の前にバイクを停める

「児島さんまだ来てないな」

 少し開いてる立派な門に入ると

「お?誰だアンタら?」

 作務衣に軍手のスラッとした柔和なお爺さんがダンボール箱を持っている

 …………………………………………

「あぁ、警察の依頼で?w」

「そうなんですよw」

 愛想良く笑う俺達、実は児島さんから作業着と偽装の名刺を送られていた、今の俺達は清掃業者

 そしてお爺さんは檀家の人、墓掃除をしていたらしい

「今日は確認でして、後日必要な人数で来ますw」

「警察関係の人なら安心だ、鍵を預けるよ、終わったら家に届けてくれw」

 帰って行く

 

 今日の依頼はこの寺の調査、実は住職始め坊さん達が一斉に夜逃げした……

 

 とは表向きな話

 児島さんの話によると実の所この寺は『乗っ取り』に遭っていたらしい、宗教法人は税金が無い為に反社の人には都合が良い、墓の維持管理、永代供養料、勿論御布施などなど

 一通り集めたら改宗してまた集め、檀家に怪しまれたら別の反社へ転売

 例のウイルスのせいで葬式が小さくなり、寺の経営が上手くいかずにこんな事が起こるらしい

 つまり反社にとって『おいしいシステム』を放り出して夜逃げした

 その経緯を調べたいそうだ

 

住居部分の勝手口の鍵を開けると広い台所、散乱する箸や食器、坊さん?達が共同で使っていた場所なのだろう

「一応コレ使えってよw」

 薄いビニールの手袋

「本格的に鑑識の人だなw」

 上って見回す、食器棚に大量のお椀や皿

「檀家の人達も片付けるヒマねぇか」

 醤油とか倒れて溢れてるし、シンクには洗い物が溜まりコバエが飛んでいる

「あ!それで俺達すんなり入れたのか!」

 納得!清掃業者って便利!

 

 散らかっている住居部分を見て回るが何か臭い、プールの匂い?

 普通の家だが台所、トイレ、風呂が広い、本来はお坊さんが何人も住んでいたんだろう、渡り廊下を進み本堂へ、真っ暗なので戸を開けて行く

 光が入ると広い座敷、黒い本尊の……観音とか言うやつ?木魚、線香の台、蝋燭、天井からキラキラした何かがぶら下がる畳の部屋、梁も柱も太くて素人目にも立派なお寺

「んん?」

「木村?いるのか?」

「居るんだけどよ、見てみ?」

 肩に触れるが見えない

「あー、仏像が黒いから見辛いのか、腹の辺りだ」

 目を凝らす、本尊の腹の辺りに丸い影

「木村、何だあれ?」

「何かメッチャ睨んでるw」

 あぁ、頭出してるのか、仏像の中に居るとか?

 木村が横から後ろへ行こうとすると

「やべwロックオンされてるw」

 動きに合わせて顔を向けているらしい

「まさか中に……」

 遺体とか……寺の仏像の中に?そんな事ある?

 

「さあな?他も見てみようぜ?」

 なんかワクワクする、お寺の探検なんてそうそう出来るモノじゃ無いし、童心に返るってヤツ?wまず普通の家とは匂いからして違うw

 でもそのワクワクは速攻で壊された

 

 本堂の奥、襖を開けると

「何だコレ?!臭っ!!」

「うわっ!」

 プールの匂いの広い座敷、なぜかダンボールで細かく区切られている、布団、クッション、雑誌、ゲーム機などが散乱して大人数が居た形跡がある

「何なんだコレ?合宿でもしてたのかよ?」

 

「…俺テレビで見たことある」

 昔のカルト教団の施設がこんな感じだった、絶対ヤバイ所だ

「木村、いるか?」

 

「女が一人寝てるな…上半身だけ畳から出てるヤツもいるし……もう一人は何してんだこれ?」

「?」

「いや、赤ん坊みてぇにハイハイして動き回ってる」

 何だそれ?でも少なくとも三人亡くなってる訳だ

 

 肩を触ると確かに影が畳を這っている…ハイハイって言うか貞子みたいだ、目を瞑り記憶を見る

「うお……あぁうっ?」

「神崎?!どうしたっ?!」

 何だコレ?!グラグラ?!気持ち悪ッ!

「酔っ払ってるみたいだ……」

 吐きそう、記憶を見ると

 

 だまされただまされただまされただまされただまされただまされたかえるかえるかえるかえりたい

 後悔?三人共同じだ

 

「…まさか薬とかか?」

 

「木村君!神崎君!いますか?!」

「「児島さんだ!」」

 本堂の前に作業着の児島さんが立っている、中に入って見て貰うと

「これは……」

 深刻な顔になる

「?」

「とりあえず手掛かりを探しましょう」

 住居の方へ、リビングや寝室の収納、靴箱、押入れ、あらゆる書類、アルバム、額縁の賞状等々を引っ張り出し調べ始める

「児島さん、あの部屋何なんだよ?」

「女の人を…薬で監禁した様な記憶がみえましたけど?」

 古い書体の紙の束などが大量

 

「……未成年には酷な話だとは思います……」

 見付かった書類に次々に目を通す、珍しくイケメン数学教師が顰めっ面

「女、ボケ老人、ニート、共通するモノは何ですか?」

 

「?」

 

「答えは『金になる』です」

 女は言うまでもなく薬で手懐け働かせる

 ボケ老人の場合も預かれば金になる、施設の環境など劣悪でも分かりません

 ニートの場合、家から無理矢理引き摺り出してタダ働きさせられる上に、家族からは料金が取れる

「そういった犯罪に使われた場所とそっくりなんです、主に古いアパートなどが使われましたが寺は初めてです」

 バサッと書類を置く、檀家の名簿だった様だ

「ですがコレらの施設は必ず途中で摘発されます」

 次は出納帳

 

「なんでよ?」

「逃げ出す者が出ますから」

「でもボケ老人なんて逃げられなくないですか?」

「奇声を上げる、平気で飛び降りるなどあって、真っ先に摘発されたのは違法老人ホームでした」

 

…そうか、管理する方だってそれなりの人数が必要になるのか

「しかし最近は……もっと高率良く……ある可能性が高いですがね……」

 次の書類へ……家系図や土地建物の図面

 

「可能性…ですか?」

「何か勿体ぶってねぇか?」

 俺達には良く分からない書類だ、保険の領収書だの

 

「君達は闇バイトを知っていますか?」

「あぁ、たまに聞くな、大学でも誘われた話聞いた事あるぜ?」

「サイト開くの恐いヤツだ、短期バイトなのに時給良すぎるヤツ」

「……そうです、明らかにおかしいバイトがあるでしょう?」

 御布施の記録

「たとえば寝てるだけで報酬が出るなんてタイプだと被害者は逃げる意味を失い……期日まで自分の意志で、つまり監禁されている自覚を無くします、すると管理が楽なんですよ」

 最悪だ……そうか寝てるだけで金になるなら喜んで貰える日まで……管理も最低限の人数……

 ん?人を集めて何してたんだ?

 

 今度は台所、冷蔵庫の中までガサガサする、と

「あれ?何だコレ?こんなトコに冷蔵庫あるぜ?」

 食器棚の下の引き戸の中に……小さい冷蔵庫?隠されていたのか?

「木村君!触るな!」

 児島さんは慎重に開けて見ると

「ふむ、ラベルが全て剥がされてるか……」

 何かのビンが数本、と

 

「よお!またお前らか!」

「三崎さん!」

 勝手口から入って来た

「三崎君、早速で悪いがこのビンを鑑識へ!」

 透明のビンに透明の液体

「おっ!早速か児島?…あ、いや了解しました児島警部補」

 どこかフザけた敬礼をして出て行く

 

「三崎さんも来てたんですか?」

「一緒に来たんですよ、地元警察に話を通しに行って貰ってました」

 そういった事も大事なんだな

「児島さん、さっきのビン何なんだ?麻薬とかのアブネェ薬なのか?」

 

「恐らく…筋弛緩剤です」

 

「キンシカンザイ?何ですかソレ?」

「神崎、体に力が入らない薬があるらしいぜ?まさかこの寺で売春でもしてたのかよ?」

 

 メガネを直すと

「それなら逃亡する者が出ます、もっとタチが悪いですよ」

「タチ?」

「話しておきましょう」

 そもそもここを調べる切っ掛けは君達なんです

「俺等が何したんだ?」

 

 例の廃病院の時のチンピラが別件を語りました、この寺は同系列の組織でココで使いっ走りをしたことがあり、若い女を集めていたそうです

 そしてさっきの部屋、君達の霊視、そしてあのビンが筋弛緩剤であるならほぼ確定します

「……確定?」

 

闇バイトで集めて逃亡する意味を無くし、期日になれば動けなくして……

「出荷したんでしょう」

 港の方を指差す児島

 

「…………つまりこの寺は」

「人身売買の施設、最悪取引き場所だったかもしれません」

 

最悪だ 

「…闇バイト…」

「恐えぇな……」

「それに匂いが分かりますか?」

「このプールみてぇな?」

「これも理由が?」

「これは塩素系洗剤を撒いたからです、指紋採取の妨害です」

 って事は被害者の特定なんて……

「闇バイトに手を出す世代、学生の行方不明者の手掛かりがあると良いですが……証拠隠滅されましたね」

 もしも麻理恵さんや千尋さんがそんな目に遭ったら…許せない

 

 残された額縁の写真を見ていた木村が

「あれ?このオッサン」

「どうした?」

「いや、仏像のオッサンが写ってんだ」

 写真には平成二十二年度護寺会ゴルフとあり、中央のオッサンがそれらしい

「これは……住職じゃないでしょうか?この人がどうしました?」

 

 …………………………………………

 

「なるほど、この仏像から睨んでる訳ですね?」

 児島さんは横から後ろに回ると

「オッサン睨んでるぜ?」

「まぁ大体予想は着いてますよ」

「予想?」

 後ろの狭い空間へ、そして座ると

「ほらあった」

 台座の後ろに小さな扉、開くと

「うお!金庫じゃん!」

「え?あるのか?!」

 扉邪魔!俺の方から見えない

 

「……おや、鍵が空いています……空ですね、まぁ当然気付くでしょう」

「何だよつまんねぇ!」

 

「……木村君、住職の様子は?」

「まだ睨んでるぜ?」

 って事は?

「……まだ何かありますね」

ニヤリとする児島さん、いや目的変わってない?

「金庫を出してみましょう」

 ズリズリと一辺が50cm位の金庫を出すと壁と台座の隙間ギリギリ

「木村君、住職の様子は?」

「何か叫んでるっぽい」

 さらに金庫をズリズリと手前に動かしていき床に寝転ぶ児島さん

「やはり」

 金庫のあったスペース、その天井部分が扉に、開けると

「ドサドサッ!」

「これに気づいていれば人身売買などしなくても良かったでしょうに」

「オッサン今度は首絞めてるぜ?w」

「お坊さんのイメージが……」

 霊が執着する場所は亡くなった場所、遺体がある場所……まさか現金に執着してるとは、マンガでしか見たこと無い百万円の束が山になる

 ……これいくらあるんだろう

 

「とりあえず現場保全です、戸締まりしましょう」

「あ、鍵返したほうが良いのかな」

「あぁ檀家の方ですね、まだ良いでしょうが一度は挨拶しておきましょう」

 

 

ここから本格的に捜査が始まった、本堂の床下から三人の若い女性の遺体が見つかり、死因は薬の過剰摂取、量を間違えられたんだろうという話しだった

 ただ俺達は後悔する事になる

 

 

「間違いなくここですか?!」 

「はい!ええと……」

 スマホのメモを何度も読み返しナビを操作するが

「俺達一杯食わされたのかよ!」 

檀家のお爺さんの言った住所は

 

「あれ?もう終わったのか?」

 三崎さんが出て来た

「児島、筋弛緩剤だってよ……ってどうした?」

 

やられた!!

 着いたのは警察署だった

 

 ……………………………………

 

「被害者の名簿や取引の記録は……そのダンボールの中でしょう」

「最後の証拠隠滅終わった所にお前らハチ合わせした訳だw」

 結局夜逃げの理由は廃病院の摘発から足が付くと予想して逃げた、と三崎さんは語る

 

「くっそ~あのジジィ」

「……悔しいです」

 

 

「顔は覚えてないんですか?」

 覚えていない、スラッとした柔和などこにでもいる……あぁもう!

「まぁ向こうもプロだ、特徴なんざ作って無いわなw」

 三崎さんは笑うが

「俺達…大失敗しましたよね」

「捕まえとけば良かったぜ」

「バカ言ってんじゃねぇ!お前らは協力してる民間人だ、逮捕権なんざねぇよ」

「その通りです、それに君達は自分の仕事はしています、気に病む事はありませんよ、少なくとも臓器売買と人身売買の拠点2つを止めたんです」

 

「だけど……」

 

「君達の仕事は『見る』事ですよ、後は我々の仕事です」

 

 

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