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中編4
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怪談 【A子シリーズ】

大学一回生の終わり、講義終了と同時にいきなりA子に拉致されて、校内のとある部屋にやって来ました。

 薄暗い室内にぼぅっと佇む男性が、私達を見るなりニコリと笑います。

 「やぁ、君か」

 「先輩!オッスオッス!!」

 男性に向かって高々と右手を突き上げるA子とは対称に、私は男性を訝しく思いました。

 男性の醸し出す怪しい雰囲気に、言い知れぬ何かを感じていたんです。

 「A子くん、そちらの可愛い子は?」

 男性の言葉に身構える私を余所に、あっけらかんとA子が答えます。

 「アタシの親友!」

 知り合ってそんなに経たないのに、私を親友呼ばわりするA子に納得いかなかった私ですが、嫌悪感はそうありません。

 「よろしく」

 黒目がちな瞳で私を見る男性に、「どうも……」と言うのが精一杯でした。

 「大丈夫だよ……先輩にはアンタは対象外だから」

 あぁ、そう……。

 何もないのにフラれた気分になりつつ、少し安心した私はA子に訊きました。

 「何で、こんなトコに私を連れてきたの?」

 「……こんなトコで申し訳ない」

 男性が笑顔を曇らせながら言うのを、私は必死にフォローします。

 「いえっ…あの……そういう意味じゃなくて」

 「冗談だよ」

 クスッと笑う男性を見て、胸を撫で下ろした私は、隣で爆笑しているA子に軽めの殺意を抱きました。

 「今日は何の話を聴かせてくれるの?」

 先輩と呼んでいた男性に、タメ語でフランクに話しかけるA子を、私はたしなめます。

 「先輩に失礼じゃない!!」

 どうせ言っても聞かないのは分かっていますが、一応、私はA子とは違うことを示すためには必要なことです。

 「そうだなぁ……」

 先輩は顎に手を当てながら天井を見上げ、少し考え込みました。

 「こんな話がある」

 そう言って話し出した先輩は、私達に椅子に座るよう促し、自分も向かい合わせに座りました。

 「僕の友人の話なんだが、友人は僕と趣味が同じで怪談好きなんだ……それでその日も、ある怪談の舞台になった場所に行ったんだ……」

 よくある怪談の導入みたいな話だな……。

 そう思いながらも、私は話に耳を傾けます。

 「そこは帰らずのトンネルと言われる所で、通ると戻って来れなくなるという噂があった……僕らはそこを通り抜けてしまった……」

 先輩の語りの間の度に顔を出す静寂が、室内の空気に重圧感を与えるようでした。

 「トンネルの先は何てことはない廃村だった……今では誰も住んでいない、時代に取り残された残骸みたいな所だった」

 話をしながら瞳はしっかりと私達を見据えている先輩から、私は得体の知れない何かを感じていました。

 「しばらく廃村を散策し、帰ろうとトンネルを戻った……でも、戻れなかった……何度、くぐっても廃村に戻ってしまうんだ……」

 暗く曇った表情に、私は固唾を呑みました。

 「今も、その友人は戻って来てないんだよ……」

 語り終えた先輩は顔を俯かせて、固まりました。

 「その友人って人、何か壊したでしょ?」

 A子が先輩に訊きました。

 「あぁ……村の入口にあった道祖神を」

 「それが原因だね」

 いつもよりあっさり言ったA子が席を立ち、私の腕を取って部屋の出口に向かいます。

 「……間に合うといいね」

 A子は振り向きもせずに呟いて、私を引きずろように部屋を出ました。

ふと先輩を見ると、椅子から立ち上がって、感情のない顔で私達を見送っています。

その血の通っていない表情に、私は思わず鳥肌を浮き出させました。

視線を前に戻した時、背後から「チッ」と舌打ちのような音がしたのを覚えています。

 言葉を交わすことなく廊下を歩きながら、私は気になっていたことをA子に訊ねました。

 「ねぇA子、あの先輩、友人がトンネルに行ったみたいな話してたけど、確か、僕らって言ってなかった?」

 私の問いかけに、A子は目も合わせずに答えます。

 「そうだよ……あの先輩もまだトンネルの向こうにいる……」

 それを聞いて、私は背筋がゾクッとしました。

 「アンタには言わなかったけど、あの先輩はもう死んでるんだよ……帰りたい気持ちだけがここに来たんだ」

 言っといてよ!!

 憤りを噛み殺す私に、A子が言いました。

 「アンタがいなかったら、アタシも連れてかれてた……アンタがいると、アタシの力は強くなるんだよ」

 へ、へぇ……。

 何だか分からないけど、A子の役に立ったのなら良かった。

 入学当初から何かにつけて私につきまとうA子の理由は分かりませんが、そんなA子が何だか可愛く思えてしまっている自分に気づいたのは、また別の話です。

Concrete
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