短編2
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一行怪談

1.

考えても考えても怖いアイディアが浮かばないので、いっそ血を見たら書けるかなとか思い、カッターを手にして家を出る。

2.

駅のホームで、目の前の中年男の背中を押してやったら、そいつが実は幽霊で、”ばーか!”という嘲笑を聞きながら、俺は転落していった。

3.

TVの中でお天気姉さんが、明日は貴方の命日になるでしょうと連呼しているので、ひどい放送事故だと思ったら、消音モードにしていたことに気づく。

4.

“祟り場”と書こうとして、かな文字を入力して変換キーを押したら、”此処”になった。

5.

仲の良い友達と楽しくお喋りして、それじゃまたね、と別れた後、会話の中のたった一言がどうしても許せなく思えて、だんだん憎悪が膨らんでくる。

6.

骨揚げを無事終えた後、火葬場の人に、”それでは来週も宜しくお願い致します”と丁重にご挨拶された。

7.

深夜友人から電話があり、今から会えるかと言うので、暇だからいいよと言って切電した直後、彼が先週事故死したことを思い出す。

8.

深夜ピンポンが鳴ったので玄関に出ると、私が殺した女が、”遅くにすみません、私を殺した方はどなたでしょうか“と聞いてきたので、このまま迷っているのも気の毒に思い、”隣の○○さんですよ”と教えてあげた。

9.

出て来た饂飩がどんぶりの中でぴくぴく蠢いていたが、空腹だったので、ずるずる食べてしまった。

10.

やっとの思いで書き上げて投稿ボタンを押した瞬間、”お憑かれさん”の文字が浮かんだ。

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お久しぶりでございます。
私もmami様同様、5番と続く6番に共感を覚えました。
似たような体験もしております。
定型詩(リズミカルな音や枕詞、季語といった言葉の余韻を楽しむ世界)とは、また一味違う一行怪談。
澱みない清流の如く、もしくは、氷の表面を滑るように流れる水の如く、ストンと腑に落ちる感覚がいいですね。

日本人の感性を呼び覚ます魅力があるのでしょう。
とても面白く拝見いたしました。

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