S町連続失踪事件
昭和50年の夏、某県S町にて起こった連続行方不明事件。
行方不明者が9名にも及んだという数の多さの他に、この事件の特筆すべき点は以下の通り。
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・行方不明者9名のうち、7名が同じ高校に通っていた生徒である
・事件は全部で9回、必ず水曜日か木曜日に発生している
・事件は同年の6月18日から8月13日までの約2か月間に集中している
・行方不明者はその後、発見されていない
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・当時の事件の捜査担当者のものと思われる、肉声テープの音声が残っている(ただし、信憑性は薄い)
(音声リンク先)
http://www.youtobe.com/watch?v=Dzanofaufaemgjaropgja;dlaf
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sound:29
music:1
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『……昭和50年8月13日、午後11時30分…』
(はじめに成人男性の声。続いてしわがれた老人?の声)
『あー…テープ回ってるか?安井、ちゃんと録れてるか?ああ、ならいい。
ん?事件の真相?
そう急くな。一服くらいさせろ。
sound:28
………
スゥー……
shake
ゴホッゴホッ…!
ちくしょう、満足に煙草も吸えやしねえ。
んん……まあいい。はじめよう』
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『事の起こりは今年、昭和50年の6月19日、木曜日だったな。
午前1時、署に通報が入る。
太田陽子(17)、地元のS高校に通う高校2年生の女子が、昨夜から行方が分からなくなっているので探してほしいという、保護者からの通報だった。
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陽子は前日18日の午後9時半頃、友人宅を辞去したことが確認されている。
そして、午後10時頃、自宅近くの公衆電話から母親に、「もうすぐ帰るから」と連絡を入れて以降、行方が分からなくなった。
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陽子は真面目な性格であり、夜遊びをするような娘ではない。
この日も体育祭の打ち合わせのために、同じ実行委員である友人宅を訪れており、夢中になって作業していたところ、帰宅時間が遅くなってしまったと言って、慌てて帰っていったことを友人が証言している。
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娘の帰りが遅いことから、両親が自宅周辺を捜索。
それでも発見できず、日付も変わった午前1時、警察に通報した。
最後に足取りがあった公衆電話周辺、および自宅周辺から友人宅周辺まで捜索されたが、彼女の行方は知れなかった。
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sound:32
ああ、陽子から連絡があった数分後、自宅に無言電話が一本入っている。
すぐに切れたそうだがな。
これが、1人目だった。
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翌週、6月26日の木曜日。午後5時半。
斎藤裕子(18)、失踪の通報。
先の太田陽子と同じS高校に通う、三年生。
ふたりの間に接点はなし。
裕子はよく無断で友人宅に外泊することもあったため、両親は今回もそうだと思っていたとのこと。
しかし、翌日の夕方になっても連絡がなかったため、警察に通報。
彼女の行きそうな場所をくまなく捜索するも、行方が知れず。
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前日の午後10時頃、自宅に無言電話があったとの証言あり。
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翌、7月2日の水曜日、午後11時半。
千田真由美(16)、失踪の通報。
S高校、一年生。
先の2件からS町では生徒、児童に対し、夜道に注意するよう指示が出ており、保護者の緊張も高まっていた。
そんな折の、3人目の失踪。
午後10時頃、無言電話あり。
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S町は騒然となっていた。
毎週、水曜か木曜に女子高校生が消える。
それもS高の生徒ばかり。
学校側は保護者会を開き、生徒の夜間の外出を禁じるよう、呼びかけた。
保護者の側からは学校側の管理の甘さを訴える声が集まり、保護者会は紛糾した。
マスコミも集まり、事件を世間に報じた。
警察の対応も取り沙汰された。
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そんな中、またひとり消えた。
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7月9日、水曜日。
川部誠(17)、S高2年の男子高校生。野球部所属。
部活後、友人たちと下校。
途中で別れ、以降、行方不明。
午後10時頃、無言電話あり。
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7月16日(水)、遠田久美子(18)、無言電話あり。
5人目。
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7月24日(木)、伊藤大輔(16)。
6人目。
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7月31日(木)、石元淳子(16)。無言電話あり。
7人目。
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……異常だよ。
異常だろ?これだけ毎週行方不明者が出ているんだぜ?
親にしろ、子供にしろ、十分恐れて警戒しているはずなんだ。
でも消える。
皆、どこかへ消える。
この狭い町で。掻き消すように。
足跡は何も残らない。どこ行っちまうんだ?
俺たち、警察の面目は丸つぶれだ。
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8月6日(水)、8人目はこれまでと違っていた。
三浦香子(30)、S高教師。
これまでずっと、生徒ばかりが消えていたが、今度は教師だ。
そして、彼女の失踪直前と思われる時間帯、午後9時45分、学習塾帰りのS校生が、三浦教諭を見かけている。
1人目の行方不明者、太田陽子の自宅近くの公衆電話で、電話をかけていたそうだ。
彼女はその後、街灯のない真っ暗な裏路地に入っていったそうだ。
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午後10時前、三浦教諭の自宅に電話があった。
彼女の妹、歩(28)がこれを受けている。
これも、これまでの場合と異なり、無言電話ではなかった。
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『 ……も、もしもしっ!あ、歩?
shake
私、私……なの、変なの!
shake
真っ暗……
通って……、
三つ編み……
生徒……
…………
…………
…………
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sound:21
…………ごちそうさま』
shake
(ガチャン)
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前半は非常に興奮した様子であり、雑音も多く聞き取りづらかったそうだ。
ただ、口ぶりから、姉からの電話だと思われる、と話している。
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俺はその日から、例の公衆電話の辺りを張り続けたよ。
あの辺りには何かある。
定年間際の老いぼれの勘だがな。
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三浦教諭の入っていった裏路地な、日中は近道になってるのか、そこそこ通る人間がいるんだが、夜になると街灯ひとつなくて真っ暗でな。
鼻をつままれてもわからねぇ位だ。
塀の両側は空き家と墓地でな。
入口のところに、公衆電話がぽつりと立っているんだ。
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一昨日の話さ。
夕方、その裏路地の入口に、高校生が2人立って話していた。
1人は髪の長い少女で、もう1人はなよっちい男だ。
どうやらS高生らしく、俺は2人に話しかけた。
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聞けば、彼らは文芸部兼……なんだったかな、
そうだ、七不思議部とか言ってたな。
まあ、怪談好きな連中らしく、この連続失踪事件のことも、興味を持って調べているらしかった。
『部長』と呼ばれていた少女は、俺にこんなことを言ったよ。
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『うちの部室に保管してある、何十年も前の部誌に、記録があったんです。
当時も、生徒が連続で行方不明になった事件があったって。
その場所、どうやら今のこの辺りで……
決まって水曜日、
毎回一人、
皆怖がってるのに、警戒しているのに、
ひとり、
またひとり、
誘われるように消えたんですって。
そう、誰かに誘われるように。
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いなくなっちゃった三浦先生、たまたま私たちの噂話を聞いて、
生徒を探すために試したんです。
水曜日、
午後9時45分、
公衆電話で、決められた番号にかけて、
それからこの真っ暗な小路へ――。
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あはは、
いなくなっちゃった。
あはは、
もう帰ってこないのに。
くすくすくす、
あははははははははははは』
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一緒にいた男が「部長、もう行きましょう」ってたしなめるように言って、2人は去っていったよ。
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安井、今日は水曜日だったよな?
俺はな、あんな餓鬼どもの話、信じたわけじゃないんだ。
だがな、何かあるとは思っちまった。
電話の番号も、何故か頭にこびりついちまっててな。
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午後9時45分。
俺は公衆電話で電話をかけた。
どこかにつながったよ。
相手は無言だったが、闇の奥に誰かの息遣いが聞こえた。
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電話を切ると、真っ暗な小路に向かった。
両側の塀は高く、道は全くの闇に包まれていた。
これじゃ向こうから誰か来ても、すれ違うまでわからないだろうな、そう思っていたよ。
そうしたらな、
誰かに、
何かにぶつかったんだ。
闇の中で。
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真っすぐな一本道だ。
ぶつかるものなんか何もない。
誰かいたんだ。
何かが、いたんだ。
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途端に視界がぐるりと回って、
と言っても、真っ暗でなにも見えなかったから、そう感じただけなんだが、
俺は思わず、もと来た道を引き返した。
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やっと小路の出口に街灯の明かりが見えて、俺はほっと身体の力が抜けたのを感じた。
はは、情けない話さ。
だがな、街灯の下で、俺は分かったのさ。
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どうして、いなくなった奴らの家に、無言電話がかかってきていたのかを』
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『……。
……安井、俺はもう定年間近の老いぼれ刑事だ。
自分じゃそう思ってる。
なあ安井、後輩のお前に聞くんだが、お前には俺はどう見える?』
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『み……三つ編みの、制服を着た、少女……』
(成人男性の声。
うえ、と吐き気を押さえるような音。
続いて、しわがれた老人の声)
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『……そうだ。俺は老いぼれのはずなのに、気づけはこんな姿だ。
コイツだ。
コイツがいなくなった奴らを喰ったんだ。
俺も喰われちまった。
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コイツの中にいると、自分て奴がどんどん希薄になってくる。
消化されるんだ。
たぶん、その速さは年齢に寄るんだろう。
餓鬼どもはすぐに消化されたんだ。
暗闇の中引き返し、異常に気付いて公衆電話で助けを呼ぶ途中で、きれいさっぱりな。
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三浦教諭は持った方なんだ。
俺は爺だからな、消化しづらかったんだろう。
はは、ざまあみろって奴だ。
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だが、もうそろそろ限界だ。
だがその前に、話を聞いてくれてありがとうよ。
最後に、まだまだひよっこのお前に、俺から手向けの言葉をやるよ。
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世の中には、たまに薄気味の悪いことが起こるもんだ。
目の前の、こんな風な、な……。
そん時はお前、近寄らねえようにするのも大事だってこった。
俺みたいに……なりたくなけりゃあな……。
俺は……
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………
………
………
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………
………
………
………
………ごちそうさま』
shake
(ガチャン)
作者綿貫一
こんな噺を。
↓こっそり
『ゴミ屋敷に棲むモノ』
http://kowabana.jp/stories/24882
http://kowabana.jp/stories/24899
http://kowabana.jp/stories/24905
『セブンスワンダー』
http://kowabana.jp/stories/24972
http://kowabana.jp/stories/25005
http://kowabana.jp/stories/25027
http://kowabana.jp/stories/26304