ウィルソン家と大神家
1、ロビン・ウィルソン
私には、父の思い出があまりない。
私を産んですぐに亡くなった母、メアリーについては写真すらない。
父は、幼い私をロンドン塔に連れて行っては、いつもこう語っていた。
「ロビン、人間とは悲しいものだ。神とは、永遠に交わることが出来ない。どこまで行っても、人間は人間だ。神にはなれない。人間がなれるのは悪魔だ。ロビン、パパは、ママとの約束を破って、悪魔に魂を売り渡してしまった酷い人間なんだよ。」
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ロンドン塔のカラスたちは、そんな父を憐れむかのように、頭上を飛び回ってはギャアギャアと泣き叫んでいた。
「ロビン、この声を君はどう思う?」
「うるさいよ。僕は嫌いだ。でも、悲しいよ。カラスだって、羽を切られたらこんな鳴き方しかできないじゃないか。勝手に、こんな場所の守り神にさせられるなんて。」
「あぁ、ロビン。君はなんて賢い子なんだ。」
父はそういって、いつも私を固く抱きしめてくれた。
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「パパは、悪魔なんかじゃない。パパは、パパだ。パパより悪いやつなんて、世界中にいっぱいいるじゃないか。パパは、僕にとって最高なんだ。どんなパパでも。パパはパパだ。」
カラスの鳴き声を聞きながら、私は、心のなかで叫び続けた。
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第二次世界大戦後、日本が敗戦したことを知った翌日、父は息を引き取った。晩年、父は、わずかばかりの財産と年金で細々と暮らしていた。
それでも、後期ビクトリア朝を生き、当時の大司教から、日本に宣教を兼ねた教育の発展のために労するようにと命じられただけのことはある、気品と教養を兼ね備えた人物だった。
病が進み、手の施しようがなくなってからも、延命治療や緩和治療の手を借りることなく、死を受け入れ穏やかに息を引き取った。
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今、私が校長をしている「鳳徳学園」の創設に関わった父だが、学校の歴史を繙(ひもと)いてみても、父の名前はどこにも見当たらない。
手あたり次第に当時の資料を捜してみてたが、出てくるのは、地元の名士か「大神家」に纏わる話ばかりだ。
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なにゆえ、父のような善人が、この様な不遇な目に合わなければならなかったのか。怒りと憎しみが湧き上がる。
うぐっ、うぐっ、痛い。
目の奥が疼く。
あの大事な娘マリアを奪った、憎き大神遊平に付けられた爪痕が疼く。
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「いかがなさいました。ロビン様。」
「あぁ、ヒロか。…すまないな。」
「傷が痛みますか。」
「あぁ、いつものことだ。今日は、朝から父のことばかり思い出されてね。顔の傷より心の傷のほうが痛むよ。」
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「心中お察し申し上げます。」
「ヒロ、お前には、すまないことをした。ヒロとマリアが一緒になってくれさえしていたら。こんな嫌な思いはさせずに済んだものを。」
「それは…二度と口にしないと約束したではありませんか。運命の歯車が合わなかっただけのこと。ご縁とはそういうものです。」
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「ご縁だと?マリアがあんな黄色い猿の息子と本当に添い遂げたいと願ったとでも言うのかね。私の父を裏切り、破滅に追い込んだ大神家を。娘の命を奪っただけでなく、孫の遊輔にあの忌まわしい血を入れた。それだけじゃない。あいつらのしたことは、言語道断なことばかりではないか。大神一族許せない。絶対に。」
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「ロビン様。少し落ち着いてください。ここは、校長室です。さっきまで、お休みになられていた「魔夜中」つまり異空間とは違います。
すべて筒抜けになります。お控えください。」
「す、すまない。つい、父や娘や幼き日過ごしたスコットランドの暗く淀んだ空を思い出してしまったよ。ロンドン塔のカラスの鳴き声もね。」
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「えぇ、何度伺っても、お父様のお話は、心が痛みます。誰が好き好んでこんな身体になりたいものか。気づいたときには、人を殺めている。そうしないと生きてはいけない身体になってしまった私ですら、そう思うのですから。」
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この学園の時計塔は、ロンドンの有名な時計台「ビックベン」を模して造られたと父から聞いた。ビックベンほどではないにしろ、この時計塔を目にする度に、父が、この地で何をしようとし、どんな夢を抱いていたかがよく分かる。
相対する旧校舎は、ビクトリア様式とゴシック様式がコラボした見事な建造物である。
工法は、当時の最先端の技術を駆使したもので、従来の石や煉瓦(れんが)などに加え、鉄・コンクリート・ガラスといった新しい工業的材料を積極的に取り入れ、卓越した職人たちによって造られたのだという。
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ゴージャスで贅沢かつ優美な佇まいをしていることから、地元では自慢の観光スポットになってもよいはずなのだ。それもこれも、全て、父がいたからこそ出来たことだった。
にもかかわらず、この学園の過去の記録からは父のことは全て、まるでなかったことのように抹消されている。
それが、八百万の神々を愛し、祀り、信じる者どものすることか。
あいつらは、人間じゃない。
「悪魔」だ。
我々の家系と同じ、呪われて当然だ。
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鏡に写る顔は、高度な移植手術を幾度も繰り返したにもかかわらず、あの有名な怪物のごとく眼は垂れ落ち、鼻はこそげ歪み、顔も頭部も身体も、継ぎ接ぎ(つぎはぎ)だらけの有様だ。
私は、荒ぶる呼吸を整え、鏡から目を遠ざけると 白い仮面で顔を覆った。
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トントントン
校長室の扉がノックされた。
「はい。誰かね。」
「生徒会長の護摩堂アキラです。」
八島がドア越しから咎める様な声で応答する。
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「もう、下校時間をとっくにすぎているではないか。」
「すみません。今月末に行われる文化祭と併せて行われるハロウィンパーティについてのお話をさせていただきたいのですが。」
「どうしても今日でないとダメなのか。」
「それが、2学年の一部の生徒が、最近、立入禁止になっているはずの旧校舎と時計塔のあたりをうろついているという噂があって。そのご相談を兼ねて来たのですが。」
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私は、ヒロと顔を合わせ、目で合図を送った。
「入り給え。」
「すみません。こんな時間に。では、お邪魔いたします。」
「立入禁止地域に侵入する生徒がいると。それはけしからんが。いつ頃からだね。」
「いつ頃からって。ご存知じゃなかったんですか?」
ムッとして詰め寄ろうとする八島を、私は、制した。
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「では、この件に関して、君は、生徒会長としてはどう対処したらいいと思うかね?」
私は、校内一いや全国でもトップクラスの成績を誇る護摩堂アキラに質問した。
護摩堂は、いともたやすく。
「いっそ立入禁止の札を取り外し解放してはいかがでしょうか。外人墓地、旧校舎、時計塔。誰でも出入りできるようにしてみては。」
と切り出した。
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「何を言い出すんだ。君は。」
「まぁまぁ、八島さん、そう怒らないでくださいよ。せめて、文化祭の時だけでも、解放しませんか。実は、生徒会で先月アンケートを取ったところ、今年は、創立140周年記念を兼ねて、付属施設も併せ、全校開放してほしいという要望と意見が多数を占めたんです。」
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「そんなバカな。ありえんだろう。そもそも……。」
「安全や防犯上問題がある。特に、時計塔や旧校舎は、老朽化が激しく危険だ。おまけに、学校敷地内には墓地もある。いくら全校生徒の希望でも、校長として、首を縦に振るわけにはいかないな。」
八島の慌てる言葉に続いて、私は、そう答えた。
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護摩堂は、黒縁のメガネの縁を軽く触ると、一向に怯む様子もなく、
「別に一日中解放しろと言っているわけではないんです。文化祭の間だけ。昼だけなら別に問題はないと思いますが。」
「駄目だ。」
「おかしいですよね。老朽化が進んでいると言う割には、時計塔の時計はちゃんと時を刻むし、旧校舎は、なぜかずっとあのまま。寄付金も相当あるはずなのに。どうして改築しようとしなのか謎ですよね。」
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「とにかく、この件に関しては駄目だ。」
「過去何度も重要文化財に指定したいと国から要請があったにもかかわらず、なぜか、『そのうち改築する予定だから』とか『取り壊す予定だ』と言って国の介入を拒んできたんですよね。
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今の時代、私学生き残り作戦として、歴史的建造物を売りにするって、絶好のチャンスだと思うのですが、なんで、あのまま放置しておくんですか。そのうち、老朽化が進むと自然倒壊とかが起こって、今以上に、まずいことになるんじゃないんですか。」
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「君は、大人に対して、しかも校長先生に対して、そんな口を効くのか。気水君は、いったいどんな指導をしているんだ。」
「その気水先生ですが、最近、2学年のある生徒と様子がおかしいという噂です。」
「何?」
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「その例の立入禁止区域を超えて、旧校舎内に男子生徒と教師の気水先生が長時間一緒にいたって噂ですよ。」
「それは、どこから出た話だ。」
八島がいきり立つ。
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「まぁ、あくまでも噂です。だから、さっきも言ったように、昼間だけでもいいから、立ち入り禁止区域を撤廃すればいいんですよ。人目につきやすくなって、かえって防犯上も都合がいいんじゃあないんですか?こんなおかしな噂も立たなくなるだろうし。」
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私は、護摩堂アキラが、何かを感じ取ったのではないかと思った。
護摩堂アキラ こいつは、一体何をどこまで知っているのだ。
それとも、ただ単に勘と目利きの良いだけの奴なのか。
こいつには、今後も目を光らせておかないと。
気を抜けないな。
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プープープープープー
その時、校長室に職員室から内線が入った。
八島が受話器を取る。
「なんだね。ウンウン・・・なんだって。分かった。捜索願については、保護者と相談しよう。昨夜、夜9時過ぎに学校の敷地内に入るのを見たものが居るということだな。分かった。」
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八島の顔色が変わった。
ロビンの耳元に囁く。
(2学年の沢カレンが昨夜から行方不明だそうです。)
ー学校には来ていないのか。
(2日続けて無断欠席だそうで。親には、文化祭の準備があるから学校に行ってくるといって出かけて以来連絡が途絶えているとのことです。携帯も繋がらないらしいですな。)
―うむ、分かった。
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「何かあったんですか?」
「ちょっと面倒なことが起きた。」
「君はもう帰り給え。とりあえず、文化祭と立入禁止地域の開放については、保護者会にも議案として提案しなければならないし、即答して良い話ではない。もう少し待ってくれないか。」
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八島の慌てぶりと、いつも口数の少ない校長が、今日ばかりは多弁なことから、護摩堂は、皮肉を込めて言った。
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「しかたないですね。わかりました。ただ、旧校舎の中に入り込んだと思しき生徒の中には、この学園と関係の深い大神遊輔君や、転校生の甘瓜美波さんの名前も上がっています。他にはえぇと…。あの、昨日から、学校に来ていない沢カレンさんも旧校舎で怪しいものを見つけたんだーと、言っていたそうですが。」
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八島の顔色が変わった。
「あれ?もしかして、今の電話は、沢カレンさんについてだったのですか。」
「とにかく、今は、何もわからない状況だ。いいから早く帰り給え。」
「では、このへんでお暇します。また、後程伺いますので。よろしくお願いいたします。」
護摩堂アキラは、わざと丁寧にお辞儀をすると、これ以上ないというくらい ゆっくり校長室のドアを閉めた。
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大神家とウィルソン家の繋がりは、明治時代に遡る。
そう、18世紀 我が母国大英帝国が、最も栄えたヴィクトリア王朝時代だ。
ヴィクトリア女王の血筋に当たるウィルソン家も、そのお零れに授かったといえる。
あのおぞましい悪意に満ちた血の呪いがなければ、我々は、もっともっと栄華を極めるはずだった。
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「血友病」
この恐ろしい病によって、繁栄を誇った一大帝国の男系である血筋は途絶えた。
かろうじて、その難を逃れたのは、王族階級の中でも、最も地位の低い我がウィルソン家だけだったとは、皮肉な巡り合せだった。
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そう、ウィルソン家だけが、男系を貫けることが出来た。
理由は、ここでは語るまい。
別の血が入ったか、もしくは、下等な身分の女が産み落とした男子を我が王族の子として残したかのどちらかであろう。
ここ日本に来る前まで、そう、つい最近まで、私はそう信じていた。
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さて、皆様。
ここからは、私、ロビン・ウィリアムの父の話になる。
父は既に他界している。
また、今更父の名を知る必要もないだろうから敢えて挙げない。
そして、これから出てくる大人たちは、私の父も含め全員、既に他界している。
つまり、故人である。
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今までの話を読み、もういいわと思われた方は、ここから引き返していただいて構わない。
断っておくが、歴史的な検証等は、厳密にはしていないことから、記憶違いやこの時代に対する温度差や意識の違いは多少なりともあると思う。
違和感を感じる方も多いとは思うが、その点を十分留意して読んでいただきたい。
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2.ロビン・ウィルソンの父の話
私は、ヴィクトリア王家の血を引く人間だったが、あの恐ろしき病「血友病」にはかからぬまま成人を迎えた。
父は、私が8歳の時流行り病で、母は、私が13
歳の時に不慮の事故でなくなった。私には、姉がいたが、母が亡くなってすぐにスコットランドに住む叔母の養子となった。
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私の妻、メアリーは、ロビンを産んですぐに産褥熱で亡くなった。
私が、不死鳥を意味する「fenix(フェニックス)」と名付けようとした時、今際(いまわ)の際でメアリーは、私にこう言った。
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「この子には、Robin(ロビン)と名付けてください。過去、同族同士が殺し合い、血で血を洗ったこの国も、やっと平穏な時代になりました。もう、二度とあの恐ろしい権力闘争が蘇らないためにも。この子には、野心や邪心など持ってほしくない。生涯、こまどりのようなかわいい声で歌い続ける愛おしい存在として、誰からも愛される子として生きてほしいのです。」
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「わかった。そうだね。Robin(ロビン)=こまどりは、我が国イギリスの国鳥だったね。君の言うとおりこの子の名前は、ロビンにするよ。だから、安心しておやすみ。」
妻は、私の言葉に安堵した笑みを浮かべ天国へと旅立って行ったのだった。
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ある日、ウィルソン家に、カンタベリー大司教から勅命が下ったことを知らされた。
神学校で一般教養を教える傍ら、事務の仕事を担当していた私に、白羽の矢が立ったというのである。
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それは、東洋の外れにある島国「Nippon」JAPANが開国したことに伴い、その地に赴いて、我が国の貴い働き(ミッション)に尽力してほしいというものである。
既に、アメリカや主要な大国は、最果ての島国において、その勢力を伸ばしつつあった。
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私に与えられた使命は、「開国以前から交流のあるこの島国において、真の神は誰か、神を信じるとはどういうことかを、「教育」を通して正しく教え導くこと。」
という実に困難で抽象的かつ曖昧模糊としたものだった。
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「それならば、牧師や宣教師、直接行政や組織に働きかけやすい政治家といった、もっとふさわしいものがおりましょう。」と固辞したのだったが、
「教育に関しては、宣教師や政治を司るものでは歯がたたないことが分かった。お前のような誠実な平信徒で貴族の血を引くものこそがふさわしい。なぜなら、日本において最も行き渡るのが早かったのが、中産階級である元士族と言われる人達であるからだ。」
とのことだった。
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私は、未だ亡き妻を忘れられず、再婚もしていないことや、3歳になったばかりの幼子ロビンがいることを理由に断ろうと思ったが、最終的には、司教様の再三の説得に根負けしてしまった。
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王家の血筋とは、程遠い「東洋の黄色い猿」「八百万の神」が棲むという東洋の外れの島国「JAPAN」「NIPPONN」において、私の果たす役割の大きさに心が打ち震えた。
私は、ロビンを、ロンドンから遠く離れたスコットランドに住む叔母の元へ預け、最果ての地、我が国と同じ島国「日本」を目指し、船上の人となった。
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異国の地での生活は大変だろうと、外務省の口利きで、八島清右衛門という身寄りのない若い男が私の世話をしてくれることになった。
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使命感に燃えた私は、降り立った地で、黄色い猿たちから厚い信頼を寄せられていた大神主税と相見(あいまみ)えた。
「黄色い猿」と呼ぶには、気がひけるような堂々とした振る舞いと、異国の我々に対する礼儀正しさに、私は次第に心惹かれていった。
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主税は、又の名を「遊山」と称し、私にもそのように呼ぶように命じた。
遊山には、産まれたばかりの乳飲み子がいた。その名は、「遊人」といった。
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私にも当時3歳になる息子ロビンがいることを話すと、奥方らしき人が、
「お国に置いて来られたのですか。なんと おいたわしいことでしょう。お連れいたしましたらよろしかったのに。」とたいそう不憫そうな顔をして、茶菓を勧めてくれた。
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その品の良い所作と身にまとう和服の美しさに、思わず見とれてしまうのだった。
私の前を横切る度に、あのビクトリア女王が好んだというオレンジのような甘い柑橘系の匂いが漂い、遊山の奥方と見(まみ)える日は、ロビンと祖国が恋しくてたまらなくなった。
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八島清右衛門は、そんな私に、よく尽くしてくれた。
寂しそうにしていると、いつも、この国に古くから伝わるおとぎ話を聞かせてくれた。
勧善懲悪、因果応報といった話もあったが、中には、雪女や飴を買う女、のっぺらぼうといったゴースト・ストーリー怪談話もしてくれた。
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八島を通し、この国の文化や人々に触れる度に、私は、この国が好きになった。
私は、童話やおとぎ話をして貰う御礼代わりに、八島に毎日少しずつでいいから、英語の勉強を教えることにした。
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八島は思ったよりずっと上達が早かった。
頭がよいのだろう。
いや、八島だけではない。大神もその召使いたちも、皆一様に頭が良かった。
一向に、日本語がマスターできない私に対し、八島は、数ヶ月も経たないうちに、日常の会話程度なら、英語でせるようになった。
そんな八島のお陰で、私は、異国での暮らしを寂しいと思わなくなっていた。
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同時に、前述した 大神遊山とは、かなり親密になっていった。
遊山は、英語を覚える気はサラサラなかったが、好奇心旺盛な男で、いちいち些細なことまで尋ねては、しきりにメモを取っていた。
彼は、とても豪放磊落な人間で、私の話すことに、いちいち頷いては、「それは、たいそうなことだなぁ。」と大きな声で笑い飛ばすのだった。
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私が、この地に新しい天皇と新しい憲法のもとで、英国で学ばれている最新の学問を推進するため私学校を建てたい、それも、正しい歴史や我が国の大切な教えを伝えるため、新しい世界観を教えたい旨を虚心坦懐なく伝えた時も、大神は、私の話を最後まで聞いた後、
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「教育か。それも、新しい教育となれば、話は別だ。ここは、東京とは違うが、この地に学校を作るという話には大いに賛同する。英国国教会に基づく教えに対しても全面的に協力しよう。」
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とほぼ二つ返事で承諾してくれた。
資金調達から始まり、学校建設に伴う全ての手筈はトントン拍子に進んだ。全て、大神遊山の力によるところが大きかった。
学校名を決める段階まで進んだある晩のこと、突然、大神遊山の離れに呼ばれた。
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初めて招かれる場所だった。
そこは、大神家に古くから祀られている氏神のために造られたものだということだった。
いつもは、豪勢な食事や美しい女子衆、楚々とした奥方が迎えてくれるのだが、この夜は違っていた。
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黄昏時を過ぎ、既に夜の帳が下りかかっているような時分に、何の話かと訝しく思っていると、
「すまぬが、この学校の実質的な主導権は、私に握らせてくれないか。」
と開口一番切り出した。
驚いている私の前で、遊山は、更に驚愕するような話をした。
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「校名は、当初予定していた『鳳光学園』ではなく『鳳徳学園』にしていただきたい。」
「なぜ、今になって?」
「いや、私は思うのだ。確かに、キリスト教の教えは素晴らしい。欧米諸国の繁栄にも納得できなくはない。礼拝堂の建立もよかろう。ただ、この土地に古くから伝わる神々も大切にしていただきたいのだ。
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加えて、私は、「徳」を積むということも大切にしていきたい。「光」あなたの国では、Liteと言って、神の栄光を表すという意味があるようだが、どうも いまいち意味が曖昧で。説得力がない。キリスト教の色が濃く出てしまうということで、ここの氏神様や、この地に古くからおわしまする荒ぶる神々がざわついておられるのだよ。そこで、相談なんだが、不死鳥を意味する鳳光の二文字のうちの「光」を「徳」に代えていただきたいのだ。」
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「もし、この申し出を断ったらどうなさるおつもりですか。」
「何が問題なんですかね。別に光も徳もどちらも素晴らしい。たった、一文字を替えるだけですよ。」
「たった一文字でも、意味や学校のポリシーは変わってくる。それは、良くないと私は思う。」
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「もし、校名の変更を許可していただけないのであれば、現段階で、全て白紙に戻します。
ロンドンのビックベンを模した時計塔。ビクトリア朝様式の校舎。すべてがなかったことにします。なにより、あなたが望んだ唯一にして絶対の神も、その崇高な教えも魂も、すべてこの土地、この学校から撤回、いや撤廃していただきます。」
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「そ、そんな。では、私がこれまで、してきたことは、全て水泡に帰すということですか。」
「ええい、分からぬ人だな。この地の神々を祀っている我々に従っていただきます。」
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遊山は、徐に立ち上がり、すぐ横にある襖を真ん中から両側に開け放った。
スパーン
快音とともに開け放たれた襖の奥には、更に別の こじんまりとした部屋があった。
そこには、丸い眼鏡をかけた背広を着たインテリ風の若い男、白髪を襟元で切りそろえた着物姿の老婆、山伏のような修行僧の3人が居住まいを正して座っていた。
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「ご紹介しよう。右から、秋永百慶様、甘瓜雪波様、護摩堂暁星様 です。
もし、学園を意のままにしようとなさいますなら、この方々が、いや、この方々が信じる神々があなたを許しません。よろしいですね。」
「なんということだ。これはいったい。きょ、脅迫ではないですか。」
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秋永:「皆様、信じる神は違いますが、素晴らしい霊力と心眼、神性を持っておられます。あなたやあなたの国、あなたがしてきたことは全てお見通しです。確かに、これからは、あなたのような国の時代がやってくるでしょうが、この国にはこの国が長年培ってきたものがございます。それを捨てることを教育で教えることは出来ません。」
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護摩堂:「脅迫とは違います。私は、むしろ、あなた方の国のしてきたことに疑問を感じます。何も棄教しろ改宗しろと言っているのではありません。受容し、共存しながら、ともに同じ目標に向かって行きましょう。ということですよ。」
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私:「馬鹿を言うんじゃない。宗教とは、そんなものではないぞ。違う神、人や動物やもののけの果てまでを神として崇め奉るなど、私には到底出来ない。」
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甘瓜:「ですから。別に、あなたのことをどうこうしようというわけではないのです。あなたも自分の信仰や信じる神を大切に思うのであれば、当然ですが、そうでない神々を信じている私達のことも敬い認めてほしいと言っているだけです。」
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私:「なんと!これらは全て、大神遊山 あなたが仕組んだことなのか。」
大神:「悪いが、『鳳徳学園』とその理念は、あなたの国の司祭様も了承済みです。これが、その書簡です。」
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私は、渡された書簡を見て、あまりのことに気絶しそうになった。
確かに、司祭様の手書きの文面で、
「Thank you for all the work of the Lord. 」
(全ては、主の御業 感謝して受けよ。)
と書かれてあった。
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目の前が急に暗くなり、私は、目眩がしてその場に倒れ込んでしまった。
振る舞われた茶の中に、何か入っていたのかもしれないと思った。
「ウィルソン様。ご主人様ぁ。どうなさいましたか。」
八島が私のそばに駆け寄るのが見えた。
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「えぇい、邪魔をするな。」
大神が八島を平手打ちにし、八島は、もんどりうって縁側から外庭へと転がり落ちた。けがをしたらしく、唸り声が聞こえて来た。
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「八島大丈夫か。」
そう、叫ぶのが精一杯だった。
何が起こったのか分からなかったが、私は、身動きひとつできずに、仰向けになっているしかなかった。
すると、3人の中のひとりが、私の中に危険で邪悪なものが居るから追い出したいと言い出した。
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異教の神、八百万の神々が、私を責めさいなもうとしているのか。
そんなことはさせない。
私は、ありったけの力をふりしぼり、神に祈った。
「神よ、助け給え。異教の神々から。この私をどうかどうか守り給え。」
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ぐわっ、ぐわっ、ぐわっ
鳥のような声があたりに響き渡る。
バサバサバサ
羽ばたきをしているようだ。
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しばらくすると、廊下を
ズルッ…ズルッ…ズルッ…
ぴちゃ、ズルッ…ぴちゃ…ズルズル…
と 何かを引きずりこちらに向かってくる音が聞こえてきた。
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私は、身体の中から 眠っていた何かが ムクムクと湧き上がるのを感じた。
―なぁ、お前。こいつらに、こんなことをされるために、ここに来たんじゃあないよな。
グルルルルルル
外庭からだろうか。狼のような唸り声がする。
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「八島は、どうした。」
「声が聞こえないが、大丈夫か。」
ーお前の連れ下僕なら大丈夫だ。頭にたんこぶを作って、気絶しているだけだ。
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ぐわっぐわっぐわっ
ズルッ…ズルッ…ズルッ…
ぴちゃ、ズルッ…ぴちゃ…ズルズル…
グルルルルルル ヴゥゥゥゥゥゥゥッゥ
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―こいつら、馬鹿だな。
お前の中にある 寝た子を起こしちまったぞ。
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薄れゆく意識の中で、数人の男女の泣き叫ぶ声が響き渡っている。
ぼんやりとした眼の前に映し出されたものは、
阿鼻叫喚の中、部屋中に血しぶきがあがっている
世にも恐ろしい光景だった。
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―神々の神が聞いて呆れるなぁ。
こうしていたら、じき、お前も喰われちまうぞ。
生きて祖国に帰りたければ、俺の言うことを聞け。
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「お前誰だ!」
ー俺は、悪魔だ。デーモン様だよ。
「悪魔だと。」
―元は、天使=神の使いだったんだがな。
どうやら、お前の神様は、お見捨てになられたようだ。
つうか、お得意の「沈黙」だんまりを決め込んでおられるようだ。
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「悪魔だと。堕天使のくせに、私に何の用だ。命が欲しいのか。だったら、くれてやるわ‥さっさと取って行くがいい。」
のっぺりとした顔に真っ赤な口。
長く伸びた爪とその爪で傷をつけたかのような細く長い三日月状の目で、悪魔は、私の顔をじっと見つめていたが、笑みをたたえて呟いた。
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―お前ら人間の命などほしくはないわ。ただ、お前が持っている神への忠誠心、従順な信仰とやらを俺にくれ。その代わりと言っては何だが、俺の力を全てやる。なんなら、こいつら全員に呪いを掛けることだってできるんだぜ。どうする?助かりたいんだろう。」
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「助かりたい。一刻も早く帰国して、我が子ロビンに会いたい。この手で抱きしめたい。」
視界が開けてきた。
ここは、地獄なのか。
真黒い雲が立ち込め、ゴツゴツとした岩肌に横たわる私の周りを、4体の獣のような化け物が私を取り囲んでいた。
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この4体の化け物たちは、秋永、甘瓜、護摩堂、大神 の成れの果てか。
うわぁ、ははははははは
「いいざまじゃないか。
では、さしずめ私は何だ?
化け物になるとしたら何だ!」
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―ありがとうよ。
お前の魂もらったわ。
綺麗だねえ。
―あぁ、こいつら全員に、解けねぇ呪いを掛けてやったぞ。
お前にも。
ついでに、お前の下僕の八島清右衛門にもな。
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「八島は関係ない。頼む呪いは説いてやってくれ。彼は、純粋で善良な日本人だ。頼む何もしないでくれ。」
―何を言ってるんだよ。この八島とかいう奴が、ご主人様と同じように私の魂を差し上げますから、どうか下僕のままでいさせてください。
と、あいつからお願いしてきたんだそ。
どうにも、お前を置いて、自分だけ助かるなんて不義理なことはできないんだとよ。気の毒じゃねぇか。
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「ご主人様、おっしゃるとおりでございます。お願いします。私を、イギリスに連れて行ってくださいまし。英語もマナーも頑張って覚えますから。ご主人様にお供できるのであれば、私は、蛇にも鬼にも鳴りますから。お願いします。お願いします。」
―はいはい。お涙頂戴は、そのぐらいにしてくれ。
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ぐわっぐわっぐわっ
ズルッ…ズルッ…ズルッ…
ぴちゃ、ズルッ…ぴちゃ…ズルズル…
グルルルルルル
―化け物どもが腹をすかせているわ。
この4人もろとも、そろそろ、元の場所に返してやらなければな。
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―お前の子孫は、永久に人にはなれない。
お前の子ども、たしか、ロビンといったな。せっかく良い名をもらっていながら、彼の生涯は、フランケンシュタイン博士の作った名もなき大男の怪物そのものだ。
いいか、人はな。
悪魔にはなれても、神にはなれんのだ。
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「鳳徳学園」の創立メンバーが揃ったぞ。
鳳凰(アルプ鳥)=甘瓜一族
死神(鎌男)=秋永一族
狼男(バンパイヤ」)=大神(家)一族
吸血鬼=護摩堂一族
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よく、覚えておけ!!
俺は、一族郎党 こいつら全員に呪いをかけた。
喧嘩両成敗ってことよ。
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人間なんて醜いものだろう?
自分なんて、ちっぽけなものだろう?
因果応報?
勧善懲悪?
笑わせるぜ。
んなもんあるかい。
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これらに、疑念があるから、お前らは、神とやらを信じたいのだろう?
それなのに、最終的には、現実には、ありもしなことを祈り願い、溜飲を下げようとする。
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ついでに言っておくがな。
お前の家系も呪われているからな。
あの中のひとりも言っていただろう?
「お前に付いている悪しきものを取り払わなければならないって。」
結果、誰も取り払えなくて、逆に俺を呼び出しちまったんだから。
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馬鹿だっつぅの。
人間の存在で、神を手玉に取ろうったってそうはいかないよ。
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ついでに言っておく。
お前の祖先は、母国にも厭われた「人造人間」だったんだよ。
そう、フランケンシュタイン博士の作った 化け物。
人造人間。
人の姿はしているが、つぎはぎだらけの醜い容姿。
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ビクトリア女王の血族?さぁ、それはどうかね。
ウィルソン家には違いないが、親族の多くがスコットランドに押しやられ、ロンドンに住めなかったわけが分かるか。
お前はこの先、ずっと仮面を付けたまま過ごさなければならない。
「善い人間」という仮面をな。
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深い悲しみや憎しみの感情が湧き上がった時、お前の眼は、あの狼男たちのように赤く怪しく光るのだ。
赤い満月のように。
そして、やがて、獣と化す。
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―それにしても、大神って奴は、最低だな。
「この中でも一番の悪党かもしれんな。」
悪党にふさわしい呪いをかけてやるよ。
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男系しか育たぬように。
女は、すぐ死ぬように。
男系で長く存続したためしはないのだ。
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ほほう。狼男が 大神を気に入ったようだ。
まぁ、こいつも代々、その系統でもあったようだな。
唯一の生き残る道は、そう、狼男になることだ。
15歳の誕生日から数えて一番早い満月に、奴等は目覚める。
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お前の末裔も、これから後、大神家とは関わるようだ。
後の3人も、まるで大神に惹き寄せられるように。
いや、ウィルソン家に集まってくるのさ。
その依代が「学校」とはねぇ。
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「唯一の真の神」VS「八百万の神々の国」
笑わせるねぇ。
ーさてと、俺はまた仕事があるから。
「私は、これから、どうしたらいいのだ。こんな惨状を見せつけられて、まともでいられるわけがない。」
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―めんどくせぇなぁ。
分かったよ。
これは、全部お前の夢の中で起きていることだ。
つまり、「魔夜中」という夢の世界でのみ起きている出来事だ。
現実と連動する場合もあるが、大概は、「夢」の中でしか起こらない。
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「悪夢」の中では、お前らは自由自在に動き回れる。
問題は、現実に立ち返った時だ。
要するに、夢から覚めた時だな。
そのまま、覚めてしまえばなんのことはないのだが。
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万が一、夢の中で、化け物の力を得なかった場合は、残念だがお陀仏だ。
化け物の力を得た場合、現実に戻ってからも、悪夢を引きずり、人を襲い、殺め、死肉を喰らい、血の滴りをすすり合うかどうかの違いだ。
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まぁ、どっちにしろ、「悲劇」であることに変わりはない。
お前はまだいい。
だがな、お前の息子ロビンは、相当やばいやつになりそうだ。
そうだ。
いいことを思いついたぞ。
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ロビンには、俺のこの羽根をやろう。
ただし、時々乾かしてやらないと いざという時飛べないからな。
乾かすためには、時々、身体を動かして暖かくしないとならないんだよなぁ。
空とぶフランケンシュタイン博士の化け物。
ひひひひひひひひひひひひひぃ
楽しみだなぁ。
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「羽根だと。堕天使の小汚い羽根などいらぬわ。」
ーそうかい。だが、これがないとロビンは、生きていけないのだ。
それが、お前の、お前たちの運命なんだよ。無名の文化人。祖国イギリスのロンドンに返還してやるよ。愛しい我が子ロビンとも、しばらくは一緒に暮らせるだろう。
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○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
ーさてと、昔話はこれくらいにしてと。
どれどれ、そろそろ時間を元に戻そうか。
2021年10月○○日
日は指定できないのだ。
指定できるのは、魔夜中で遊ぶ君たちさ。
ー長くなっちまったからな。簡単にまとめてあげようか。
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ウィルソン家:ロビン・ウィルソン、八島弘
大神家:大神遊人、大神遊平、大神遊輔、気水百香
秋永:秋永九十九
甘爪:甘爪美波
護摩堂:護摩堂アキラ
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ーおっと、かわいい蝶々が2名ほど舞い込んできたねぇ。
おや、沢カレンと その友人の松井ユウタじゃないか。
ーユウタは、既に虫の息か。
それは、それは、お気の毒だったねぇ。
カレンちゃんには、こいつらの囮(おとり)となってもらおうか。
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おや、甘いいい香りが漂ってきたねぇ。
う~ん、何度かいでもいい香りだ。
じゃぁ、またな。
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separator
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
気がついたら、旧校舎の前にいた。
スマホを見る。
22時半か。
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胸騒ぎがしてここに来たのだけれど、甘瓜さんは、どうなんだろう。
こうして、夢の中(魔夜中)と現実の両方の世界で僕たちは会って居るけれど、実は、彼女の私生活についての情報は全く知らないのだ。でも、気がつくといつも彼女のことばかり気になる。ということは、恋?いやいや、違うだろう。違うよ。友情か?家族のような身内の様な存在?わからない。今は、わからないままでいいのかもしれない。
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月明かりの中、誰かがこっちに向かって走ってくるのが見えた。
今夜は、満月。あたりはとても明るく、照らされたシルエットから、甘瓜美波であることがひと目で確認できた。
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「秋永君、聞いた?あの悲鳴。」
「甘瓜さんか。君にも聞こえたんだね。助けて、誰か助けてって。」
「そうそう、助けて、ここから出してって言ってたよね。」
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暗闇から若い男の声がした。
「ふーん。なんかやばいことになっているみたいだね。」
「誰?誰かそこにいるの?」
旧校舎の裏口近くの植え込みから、ひょこりと顔を出したのは、意外な人物だった。
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「はいっと。俺です。生徒会長の護摩堂アキラです。こんばんは。」
「護摩堂君、どうして。ここに。こんな時間になにしているの。」
「そうだよ。ここは、原則立入禁止区域だ。生徒会長の君が、こんなところに居ていいの。」
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「おやおや、それは、こっちが聞きたいですよ。どうしたんですか。謎の美少女転校生 甘瓜さんと、イケメンなのにクラス一のヘタレ陰キャラ秋永君。こんな時間に、こんな場所でデートとは。おっと、デートにしては、ふたりとも随分怖い顔をしていますね。」
美波と九十九は、顔を見合わせ、うつむく。
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「君たちが話せないようだから、僕から話そう。沢カレンさんが、昨夜から家に帰っていない。友人の松井ユウタ君も一緒らしいんだが、その彼も昨夜から行方不明だ。」
「沢カレンさんって。あの、ちょっと傾いちゃってる子。」
「そ、そうだね。あまり、話したことはないけど。とってもきれいな子だね。」
「ハーフだからね。両親とも超絶美人にイケメンだそうだ。」
秋永九十九と南瓜美波は、少々呆れた顔で護摩堂を見つめている。
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「別に悪口じゃないからいいだろう。情報収集だ。彼女、かなりの遊び人だなぁ。沢カレンさん。SNSでも有名だよ。」
護摩堂が入ってきた反対側、ちょうど時計塔が見える辺りから ノソノソ黒い人影がこっちに向かってやってくる。
美波が、声を上げた。
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「お、大神君じゃない!」
「護摩堂君に続いて大神君まで。なんでここに。」
大神遊輔は、美波と秋永九十九を見かけ、後をつけてきたらしい。
「思いがけない恋敵だものな。そりゃ、後をつけたくなるわな。」
遊輔は、護摩堂アキラを睨みつけ、九十九に詰め寄る。
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「これは、いったいどういうこと?説明してくれないかな。」
「待ってくれ。大神君。あのね。僕と甘瓜さんは、そんな関係じゃないから。うーんと、話せば長くなるけど。」
業を煮やした美波が、
「あなたとは付き合う気はない。もちろん、今後いっさい誰とも付き合う気はない。よって、今現在も、秋永九十九君とは、付き合ってない。秋永君は、ただの有益なクラスメートだから。ゲスの勘ぐりはやめてね。」
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「もういいよ。分かったよ。別に、君たちの後をつけてきたわけじゃないんだ。いや、それもあるけど。今回は、ちょっと違うんだ。声が聞こえたんだよ。叫び声が。」
「え?大神君にも聞こえたの?」
アキラが言う。
「さてと、お互いの自己紹介は済んだよね。叫び声の主だが、俺は、昨夜から行方不明になっている沢カレンさんじゃないかと思っている。」
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「護摩堂君は、沢カレンさんが捜索願を出されていることどうして分かったの。」
「あ。俺のことアキラって呼んでいいから。護摩堂って名字あんまり好きじゃないんだ。実は、俺、生徒会長だから、校長やあの秘書の様な存在の八島に直接会える立場に在る。時々、ドア越しに彼らの会話が聞こえるんだけど、「大神」「甘瓜」という名前が頻繁に聞かれるんだよ。どうやら、例の学園に伝わる「都市伝説」が本当なんじゃないかと思ってね。秘密裏に調査を始めたんだ。ここの創立者は、大神君のご先祖たちということになってはいるけれど、本当にそうなのかなと思い始めた。」
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「護摩堂君、いやアキラ君、勇気あるね。さすがだな。」
「まぁ、ガセならガセでいいという気持ちで、旧校舎に侵入してみたんだけど。新月だったのかな。外は真っ暗だし。何も起こらなかった。時計塔も鳴らなかったし。」
「じゃぁ、助けてという女の子の声は聴いてないのね。」
「いや、聴いてないな。どうして。」
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最初に口火を切ったのは、九十九だった。
「実は、これは、遊輔君にも聞いてほしいんだけど。僕と美波さんは、以前から悪夢に悩まされているんだ。それも、かなりリアルで気持ちの悪い、下手すりゃ命まで奪われそうな夢なんだ。そこで見たものは、それこそ、さっきアキラくんが話してくれた、学園の『都市伝説』どおりなんだけど、ハロウィンのジャック・オー・ランタンのような頭をしている。
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南瓜のように見えるのは、頭部がゆがんでいるからだろう。黒いマントを羽織り、大きな鎌を持った大男なんだ。男はブーツのようなものを履いているのか、コツコツと音をさせてやってくる。そいつの周りには、火の玉のようなものが飛び交い、禍々しいまでの紅蓮の炎が大きな鎌にまとわりついている。挙げ句、その男の背後には、そいつになぶり殺しにされたかのような血を流した制服姿の女生徒の死体が宙に浮いたように漂っているんだ。」
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「その場面は、日によって少し違っているの。私が見た女の子は、引きずられていたわ。」
「俺が見た時は、そうだな。その大男の前に血だらけの死体となって、投げ出されていた。もっと怖いのは、そいつ以外にも、獰猛な大型犬を思わせる唸り声を上げる化け物がいる。」
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美波が口を挟む。
「そうね。ジャック・オー・ランタンと、もう一体いるわ。あれは、獣だわ。狼のような犬。化け物同士は、別個に動いているみたいだったけど。ジャック・オー・ランタンが持って歩いている女生徒は、10年前に亡くなっていた。
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なのに、その子は、何度もここの夢を見る学園生の前で、殺され続けているの。叫び声を上げ続けて。私は、実際にジャック・オー・ランタンのような化け物に殺されそうになった。これを見て。鎌で傷つけられた跡よ。」
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アキラは、
「おっと。いくら気を許した仲間同士とはいえ、僕たちは男ですよ。レディが気軽に肌を見せてはいけませんな。…とはいえ、今回は致し方ないか。ほう、美波さん、いい香りがしますね。これは、ロイヤルファミリー御用達と同じ銘柄の香水?」
「なにするんだよ。生徒会長には、そんな権限ないぞ。」
遊輔が飛んで中に入る。
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「もういいよ。美波さんも、こんなことまでしなくていいよ。生徒会長、これでわかっただろう。秋永君も美波さんも嘘は言ってないって。」
「大神君、生徒会長は辞めよう。アキラでいいよ。大丈夫、美波さんの白い柔肌は見ていません。僕が見ていたのは、傷口です。ミミズ腫れになっていますが、これは、一度や二度の傷ではありませんね。美波さん、あなた、何度も殺されかかっているでしょう。」
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「どうして、そんなことまで分かるの。」
「はい。一応、東大の医学部志望ですから。見立てがいいのは遺伝です。我が家の家系は、明治以降、ある事件をきっかけに、祈祷師家業を廃業し、医者に鞍替えしたんですね。親戚一同、医者の家系です。科学的治療のほうが安定した収入を見込めるし、持っている能力はそっちに使ったほうが絶対いい。護摩堂というのは、昔名乗っていた屋号。」
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「ある事件って?」
遊輔が怪訝そうな顔で聞く。
「あぁ、大神君じゃなくて遊輔君ってよばせてもらうよ。遊輔君の曽祖父さんの時代の話だがね。大神家とウィルソン家にまつわる因縁話。聞いてないか。
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さすがに大神家は真実は話せないだろうけど。ま、我が家もそれは同じ。そもそもの発端は、教育に対する利害が互いに違っていたということ。それを強引に変えようとしたことにあるのだから。両家は、この件で呪われた家系になってしまったってわけね。あくまでも、推測だけど。」
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九十九が慌てて話に割って入る。
「大神家が呪われた家系だなんて。アキラ君、言いすぎじゃないか。今はもう、学校法人化しているんだし、20年以上前に男女共学になってからは、学園とは立場的には関係ないみたいだし。」
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「いや、いいんだ。そのとおりなんだと思う。俺の家は、明治以降、女子が育たないんだ。母親は、子どもを産んですぐに死んでしまう。祖父は、呪われた家系だから、このままでは家が絶えてしまうというので、イギリス人の女性を妻に娶った。俺の父もそうだった。母は、俺を産んですぐに死んだ。」
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「遊輔君、もういいよ。こんな辛い話しなくていいって。アキラだめだよ。君は、頭が良すぎ。読みは深いし、分析力は大したものだと思うけど。性格悪いわ。」
「いいや、いいんだ。実は、俺も悪夢を見るんだ。そして、ジャック・オー・ランタンだっけ。そいつに出会っている。女の子がなぶり殺しにあって、廊下をズルズルと引きずり回されるところも見ている。」
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「そうなのか。君も…。」
「九十九君、俺、例のラブレター事件の後、学校では、「ヤブレター、ラブレター」事件としてSNSで叩かれまくって、家に引きこもっていた時、父と祖父の会話を偶然耳にしたんだ。驚いたよ。呪われた家系で、外見(そとみ)には、奥手で色気も素っ気もない女とは無縁の家系らしいんだけど。
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大神家の人間は、満15歳を過ぎると、血が騒ぎ、どうすることもできなくなるんだそうだ。。人間とは言えないものになってしまうらしいわ。気水百香先生とロビン校長が、同時に着任した時の尋常じゃない様子や、気水先生の俺に対する異常なまでの干渉が気になってしかたがなかった。
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それと、15歳になって初めての満月の夕方、放課後、美波さんと九十九君が一緒にいるところを見かけて、二人の後を追ったんだ。とっても親密そうに見えたし。てっきり、デートでもするのかと思って、旧校舎へと急いだ。旧校舎に入る前、とてもいい匂いがした。美波さんの匂いかもしれないと思ったんだ。その残り香を頼りに、二人を追ったんだけど。
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美波さんが、さっきのように、ただならぬ雰囲気で九十九君に素肌を見せているのを遠目でみて。放心状態になっちまったんだ。あぁ、もう俺の恋は、完全に終わりだぁって。甘い香りが旧校舎内に充満していてさ。俺は、その香りに誘われるように階段を下ったら、なぜか外人墓地へ繋がるドアが外側に開いていたんだよ。その流れで、ふらふらと外人墓地へ行ったら…夕陽は落ちかけていたけど、黄昏って感じじゃなかった。東の空に 赤い月が出ていて。鳴らずの鐘といわれていた時計塔の鐘が、轟音を響かせて鳴り出したんだ。それと同時に、俺の身体が、姿が…変貌して。」
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遊輔は、泣いていた。
「もういいよ。遊輔。泣くな。これからは、もうひとりじゃない。」
「遊輔君、ごめんなさい。本当に、すまなかったわ。文化祭は、4人で盛り上がろう。」
九十九と美波が、その場に蹲(うずくま)る遊輔の肩を抱いた。
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「まいったな。今、何時だっけ?23時25分か。かれこれ、一時間もここに居るんだな。腹減ったな。近くのコンビニで何か買ってくるわ。」
アキラはそういうと、裏口のフェンスをかいくぐり、通りへと駆けていった。
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「この状況で腹減るか?酷いやつだなぁ。言うことがストレート過ぎるんだよ。」
「あれが、今彼にできる精一杯の優しさなんじゃないのかな。アキラ君だけが経験していないことを、私達は、知っているってことで。」
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九十九と美波の会話を聞きながら、
「お前ら、俺が仮に呪われた存在で、化け物の片割れだったとしても、俺を信じてくれるか?」
「それはわからないぞぅ。」
「私を守ってくれるのなら話は別。」
「条件付きかよ。ひでぇなぁ。」
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九十九は言う
「心配するな。そもそも、君が変身するところを見たわけじゃないし。たとえ、そうだったとしても、今日から、僕たちは、同じ秘密を共有し合う仲間だ。」
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「そうよ。仲間同士助け合おう。でも、勘違いしないでね。遊輔君に特別な感情があるわけではないから。」
「もういいよ。わかったよ。勘弁してくれよ。」
美波と遊輔と九十九の3人は、この日、初めての笑顔を見せた。
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5人分のサンドイッチとおにぎりと500mlのミネラルウォーターを手に、アキラが買い物から帰ってきた。
「5人分も?」
「あぁ、もしものためにと思ってね。」
「誰用?」
「別に、誰用でもないさ。余ったら持って帰ればいいだけの話だ。」
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「ありがとうね。気が利くね。」
「健康第一。食べて寝て出せることが一番。」
「遊輔食べるの早っ。ゆっくり噛んだ?」」
「お茶がほしかったなぁ。できれば珈琲とか。」
「おごってもらって贅沢言うんじゃないの。」
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九十九とアキラは、美波と遊輔の打ち解けた様子に、ほっとしていた。
「美波さんって、あんなに明るい表情する人だったんだ。」
「冗談も言ったりしてさ。女ってわかんねぇな。」
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「そういえば、少し肌寒くなってきたな。どうする?」
「んじゃ、旧校舎に入りましょうか?」
「まじっすか。美波お嬢様。」
おいおいと言った笑みを浮かべながら、ゴミ集めをしていたアキラが、
「ちょっと、待って。もうじき、時計塔が12時の鐘を鳴らず。それまでは、じっとしていよう。」
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九十九が素朴な疑問を投げかける。
「今日は、満月だけど赤い月じゃないね。」
「ん!そうなの?月は、赤くなくちゃ変身出来ないの?」
「そこまでは、俺もわからん。一度しか経験してないし。お前ら、俺の悲劇的な状況を見たいのか。」
遊輔が言って皆が大笑いした。
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「まぁなぁ、もうじき、ハロウィンを兼ねた文化祭も始まることだし。どうぜなら、そのまま狼男で出てみるか?」
「いいかげんにしろよ。お前ら。人の気もしらねぇで。本当に喰っちまうからな。」
「うそ、うそ、やめてぇ。」
明るい声があたりに響く。
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あああああ!
「こら、遊輔なんだよ。急に大きな声を出すなよ。びっくりするじゃないか。」
遊輔が何かを思い出したように真顔になった。
「そうだ。化け物の話で思い出した。この他にも、大きな鳥の化け物がいるようだ。はっきりとした姿は見えなかったけれど。赤い月がのぼった夕方に俺の目の前を飛んでいった。」
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「まじかよ。一体ここには、何体の化け物がいるんだ!」
「まさしく、今まさに、魑魅魍魎が跋扈する世界の入り口に俺達は居るわけだ。さぁ、これからバーチャルホラーゲームが始まるぞ。倒すためのアイテム捜ししないとなぁ。」
遊輔とアキラの会話を聞きながら、ずっと考え込んでいた美波が、重い口を空けた。
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「ちょっと、待って、もしかしたら、ジャック・オー・ランタンの化け物には、天敵がいるかも知れない。」
「はぁ?天敵!」
男子3人ほぼ同時に声を挙げた。
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「あの日、すぐに気絶しちゃった九十九君は、覚えていないかも知れないけど。私ね、旧校舎でジャック・オー・ランタンの化け物以外に、大きな黒い犬に遭っているの。黒い犬は、私が、ジャック・オー・ランタンの化け物に襲われて居る最中、突然現れたんだけど、犬の気配を感じた途端、鎌を持った大男が私への攻撃をやめて姿を消してしまったのよ。黒い大きな犬は、私の方に近づいてきたんだけど、私の匂いを嗅いだだけですぐに踵を返して立ち去ってしまったの。」
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「そんなことがあったんだ。俺、気絶していたから分からなかった。」
「ヘタレ野郎。美波さんの彼氏になんか絶対になるなよ。」
「美波さんは、そいつには、襲われなかったんだな。黒い大きな犬。まてよ…黒い犬=ブラックドック。どこかで聞いたことが在るな。遊輔は、オカルト研究部の部長じゃなかったっけ?ブラックドックについて、詳しく知らないか。」
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「しらねぇよ。聞いたこともねぇわ。」
「頼りないなぁ。休部してるわけじゃないんだろう?」
「うっせわ。スマホでググれ。」
「ググったよ。うーん。まだ、味方かどうかは判断できないけど、少なくとも、攻撃はしてこないということは、安心できるかもな。」
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「少し安心したわ、そういえば、俺も、犬か何かはわからんけど、息遣いというか獣の足音を聞いたような気がする。」
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「遊輔、お前さぁ、美波さんが言ったからって、後出しジャンケンのようなマネするなよな。自分の話ばかりしやがって。同情して損したわ。」
「違うよ。本当に聞いたんだから。犬のような獣の息遣いを。そりゃ、この眼で見たわけじゃないけどさ。」
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「なんだ。見てないのか。」
「本当は、怖くて逃げたんじゃないの。」
美波が突っ込む。
「ヘタレはどっちだよ。」
九十九のダメ出しに、遊輔は、すっかりお冠(かんむり)になった。
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「さてと、面白くなってきたな。天敵味方についてくれるといいな。そいつをどうやって手懐(てなづ)けられるかが問題だけど。よっしゃ、やるか。」
アキラは、パチンと音を立ててスマホを閉じた。
皆を鼓舞するようなアキラだったが、発する声は、こころなしか震えているようにも感じられた。
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九十九は聞く。
「アキラ、怖いか。」
「当たり前のことを聞くな。これは、ゲームじゃないんだ。今の話で、より現実味が増したよ。ここには、想像以上の闇がありそうだ。」
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ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン……
時計塔の鐘が深夜12時を告げた。
旧校舎の窓ガラスが割れんばかりに振動する。
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「鳴りやがったぜ。」
「クソっ!うるせぇ音」
「ほぅ、なかなかの迫力じゃないか。」
今宵は、遊輔の言う通り、いつもより音が高く感じる。
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あたりを照らす月光の明かりが、一瞬陰ったように感じられた。
全員の顔がこわばっている。
最後、12回めの鐘が鳴り終わった、その時だった。
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「誰かー助けて。助けてー誰かー。」
旧校舎の時計塔側から、女生徒の声が聞こえてきた。
「助けを求める声が聞こえる?でも、この声は、いつものあの子とは違う。」
「あの子と違うって。どういうこと?」
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「いつも夢の中(魔夜中)で殺される女の子とは別人だと思う。もっと、たくましい声だわ。この子は、多分、まだ生きてる。」
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「分かるのか?すげえな。」
アキラが問う。
「魔夜中のまは、悪魔の魔か?」
美波が、眼光鋭く答える。
「そう。私達の間では、そう呼んでいる。それで、間違いないと思うわ。」
九十九も無言で同意する。
「まさしく、そんな感じなのか。」
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「じゃぁ、仮に、俺のように夢の中、要するに魔夜中で、過去、一度もそいつらに遭遇したことのない人間は、永久にその異空間には入れないってことになるのか?」
九十九が答える。
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「最近、美波さんと話しながら気になったのは、まさしくそこなんだ。これは、想像に過ぎないのだけれど、何がきっかけでそうなるかはわからないんだけど、ハロウィンが間近になるに従って、魔夜中と現実との境の扉が開き出したんじゃないかって。」
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「そう、そうなの。ということは、今後、何らかのきっかけで誰でも異空間、つまり夢を経なくても魔夜中に入れるようになりつつ在るんじゃないかな。これは推測なのだけれど、まさに文化祭がその日にあたるんじゃないかって。」
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「地獄の釜の蓋が開くってこと。今は、その前段階ってわけか。あの時の俺が、まだ夕陽が照りつけている段階で、鐘の音を聞いたのも、東の空に赤い満月を見たのも、その予兆なのかもしれない。」
「なるほど。ハロウィンの文化祭が、地獄の釜の蓋が開く当日かもしれないってことだな。それは、想像するに硬くない。」
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アキラが遊輔に問う。
「一つ聞いていいかな。ちょっと気になったんだけど。遊輔が変貌したのは、魔夜中とは関係なかったんだよね。確かに、二人を目にしたことによって、旧校舎へと入ったわけだけど。」
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遊輔が答える。
「関係ないようだね。時間帯も必ずしも午前0時、あぁ夜の12時とは限らない。月が出ているか。満月かということかな。」
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「うーん。どうも引っかかるな。旧校舎に侵入した時、外人墓地へと続くドアが開いていたり。滅多に鳴らない時計塔の鐘が急に鳴り出したり。おかしくないか。君を無理やり狼男にしたかった何者かの悪意を感じるなぁ。」
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九十九が言う。
「言えてるな。今、ここに俺たち4人いるわけだけど。偶然集まったってわけではないような気がするんだ。」
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「美波さんに執着する理由のひとつに甘い香りがあるだろう。確かにいい香りには違いないんだが、俺は、その香りには、さほど、そそられないんだ。さっきから、気になっていたんだよね。遊輔さ、無意識のうちに、何者かによって、そうせざるを得ないように動かされているのかもかもしれないよ。」
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アキラの問いかけに、遊輔は、
「すっげーわかるわ。ゲームがそうだよな。メンツやアイテムが揃った段階で、次のステージに昇格するっていうかさ。一定の条件を満たさないと次に進めないよな。よくわからんけど。俺はしかたないけどさ。お前らどうよ。心当たりないの?」
神妙な顔つきで語った。
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美波は、静かに皆を見つめながら、
「偶然じゃない。4人が揃ったのには、わけがあると思うわ。きっと、これから何かが起こる。」
その様子に、さっきとは違う空気に満たされ、それぞれの顔に緊張感が漂い始めた。
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美波が叫ぶ。
「離れて!旧校舎から誰かが来る。それもすごい勢いで。」
美波が言い終わらないうちに、
4人が佇む旧校舎の外壁の中から、湧き出るように息を切らした1人の女子学生が、ほうほうの体で飛び込んで来た。
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女生徒は、髪を振り乱し、真っ青な顔をし息も絶え絶えで、その場にへたり込んだ。
白いソックスは、黒く汚れ、靴は片方しか履いていない。
ブラウスの胸元が大きくはだけ、白い肌には、赤く血に染まった刃物傷が出来ていた。
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「え?今、君、壁の中から。」
「あ!もしや君、捜索願の出ている。」
「沢カレンさん?」
「そうだけど。どうして……あなたたち ここにいるの。」
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「とにかく、傷の手当をしなきゃ。」
「俺、学校に電話入れるわ。」
「馬鹿、深夜だぞ。捜索願が出ているんだ。先に、警察だろうが。」
「救急車じゃないのか。」
皆が混乱していた。
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「ダメダメダメダメ…どこにも知らせないで。そんなコトしたら殺される。」
沢カレンの周りには、美波とは違う独特の甘い香りが漂っていた。
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所々に血の跡を残したまま、近くに居た遊輔にすがりつき叫んだ。
「お願い。助けて。助けて。ユウタが、ユウタが…大きな鎌を持った南瓜の頭をした大男に捕まった。捕まって、鎌が振り下ろされて。殺されたかもしれない。」
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ぎゃぁぁぁぁぁぁ。
ユウタ、ユウタ、ユウタァァァァ
沢カレンは、その場に倒れ伏し、大声を挙げ身を震わせて号泣した。
(続く)Continue
作者あんみつ姫
本作品は、掲示板にて行われている「第四回リレー怪談 https://kowabana.jp/boards/38 」の第五話となります。
第六走者は、決まり次第記載いたします。ここまでの作品は、以下のとおりです。
諸般の事情により、遅れての投稿となりましたことご了承ください。
第一話 : ゴルゴム13様
https://kowabana.jp/stories/35392
第二話:五味果頭真様
https://kowabana.jp/stories/35416
第三話:ロビンⓂ︎様
https://kowabana.jp/stories/35444
第四話:rano_2様
https://kowabana.jp/stories/35448
第五話:本作
第六話:一日一日一ヨ羊羽子様
https://kowabana.jp/stories/35497
第七話:綿貫一様 近日公開
以下、リレーに関する注意事項です。
注1、
本作の趣旨は、有志11名によるリレー形式でひとつの「怖話」をつくることです。
参加者多数のうえ、全体でかなりの長編になりますので、ところによっては怖さが控えめになる場合もあるかと思いますが、あくまで当初の目的としては「怖話」を目指すものであることをご理解いただけますと幸いです。
注2、
本作はアワードの対象からは辞退申し上げます。
また、リレー小説参加者は投稿作品に対して「怖い」ボタンを押すこと、およびコメントを書き込むことはいたしません。
注3、
企画に対してのお問い合わせやご質問につきましては、企画の窓口であるゴルゴム13・ロビンⓂまでご連絡ください。
本作の掲示板、およびリレー小説参加者個人のページでのお問い合わせやご質問は、ご遠慮下さいますようお願い申し上げます。