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『蘭(あららぎ)ユウジの日常的な非日常1』(存在しない記憶vol.2.5)後編

長編10
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『蘭(あららぎ)ユウジの日常的な非日常1』(存在しない記憶vol.2.5)後編

4:ユウジはリナを連れて隣県のある場所へ来ている

リナは相変わらずの生前の制服姿

ユウジは黒いスラックにネクタイ無しのワイシャツに夏用の紺色ジャケットを着ている

霊感が無い人間にはリナの姿は視えない

その為、ユウジが1人でしゃべっている様に見える

それを防ぐ為にユウジはイヤフォンマイクを付けて、電話してる様にみせている

しかし、電車の中で電話するわけにはいかず、リナには返答は出来ない事を伝え、リナは電車の中で経緯を説明した

10年彷徨い歩いた事で、怨念は弱まった

その状態でユウジに会い更に怨念は消えてゆき、日没までに怨念が高まらなければ、天に上がっても問題無いとお迎えから言われた

ユウジは納得した

現にリナが最初に現れた時には怨念を持って居たと感じたが、ある程度経ったら怨念が弱くなっていた

ユウジは最初、自分が慣れて感じなくなったと思ったが、美月がそれを否定した

美月がユウジを幽霊達の癒し系と呼ぶのは、リナの怨念を弱くした事も大きな理由だ

リナの心残りはデートしたい

恋人が居なかったリナはデートを経験したかった

それをユウジにお願いしたのだった

しかし、その願いは早速挫かれる事になる

まず、リナはゲームセンターにて、プリントシール機を撮りたいと希望した

しかし、そのゲームセンターは過去に盗撮事件が起きた為、男性1人での使用を禁止していた

プリントシール機コーナー前にスタッフが張り付いている徹底ぶりだ

少し離れた所でユウジとリナは話していた

「盲点だ。まさか、そんな事になるなんて…」

「蘭さん。こうなったら、あのスタッフのお姉さんを口説いて一緒に撮って貰いましょう」

「無茶言うな。あんな可愛い娘を俺が口説き落とせるわけ無いだろ」

「幽霊達にモテモテじゃ無いですか。蘭さんならいけますって」

「彼等は俺位しか話聞ける奴居ないから、俺の所に来てるだけだよ。あんな可愛い娘なら、一緒にシール機撮る相手には困らんだろうよ。俺の様なおっさんなんてお呼びじゃ無いだろ…」

「もしかしたら、おじさんが好みかも知れないですよ?」

「そうだとしても、仕事中に一緒にシール機撮るのはハードルが高い。せめて、リナが視えていれば事情も説明しやすいんだけどな」

「あの人は私が視えて無いでしょうね…」

「てか、パンツとか実体化させるなら、自身を実体化出来ないのか?」

「無理ですよ。あれだって実体化なんてさせて無いんですよ?霊感ある人なら、触れた時にある様に感じるだけなんです」

「マジかー。打つ手無いじゃ無いか。諦めるしか無いな…」

「これじゃ心残りが解消出来ないです」

「プリントシール機がそこまで重要なの?」

すると後ろから女性から声を掛けられた

「なにかお困りですか?」

振り向くと、ニット帽を被り、カーディガンを羽織るパンツルックの眼鏡をかけた女性が立っていた

ユウジ達が反応に困っている事を悟ったのか、女性は言った

「突然申し訳ありません。そちらのお嬢さんが、貴方を困らせている様にお見受けしたものですから」

その女性は指を揃え、リナの方向に向けてそう言った

それはリナの事が視えている証拠だ

「もしかして、リナの事視えてます?」

「リナさんっていうんですね。はい。視えてますよ。あ、申し遅れました。私、こうゆう者です」

そう言って女性は名刺を差し出した

「私、こう見えて占いの館で占い師をしてるんですよ」

マスクを外してニッコリと笑う

マスクで隠れていたが、美人だった

その笑顔には八重歯が覗かせている

渡された名刺には『占いの館ZOO 鑑定士斐巫女(かんていしひみこ)』と書かれていた

5:プリントシール機に映画、遊園地を堪能した3人は食事兼お茶を楽しんでいた

本日の費用はユウジが持つという申し出を斐巫女は丁重に断った

持ち合わせが少なめだったユウジはその言葉に助けられた

何より驚いたのは、ユウジと斐巫女が同い年という事

2人並んで歩いてたら、確実に歳の差カップルと思われただろう

斐巫女が言うには、占いの館では、2番目に鑑定歴が長いのに、若く見える見た目で損をしている

リナと斐巫女はすっかり打ち解けている

斐巫女をひみちゃんと呼び、斐巫女はリナをリナさんからリナちゃんに呼び方が変わっている位である

リナは斐巫女の様に美人で優しい姉が欲しかった事が理由だ

斐巫女も弟が居る為、年下の扱いは慣れていた

「しかし、リナちゃんは壮絶な人生を送って来たのね」

「うん。まさかこんな事になるとは夢にも思わなかったよ」

そんな2人と微笑ましい姿にユウジはまるで姉妹みたいと思った

リナの口に付いたクリームを斐巫女が拭く

そんなシーンを想像出来そうだ

「まぁ、10年も彷徨う幽霊なんて聞いた事は無いな。あ、斐巫女さんSNSフォローしときました」

「ありがとうございます。しかし、蘭さんも幽霊達の話聞いてあげるなんて、中々出来ないと思いますよ」

「あ、ひみちゃんもそう思う?蘭さん。幽霊の間でかなりの評判なんだよ。幽霊って心残りあると、成仏したがらない人も多いし、蘭さんが心残り解消は大切なの」

「いやぁ。結局話聞かないと居座られるし、その方が厄介なんですよ」

「そもそも、怨念を持つと幽霊って何が出来るの?」

「怨んでる相手。もしくはその相手に近い人間には視えるし、触れられるの。例えば、蘭さんか、ひみちゃんに怨念を持ってれば、2人に私は同じ事出来るの。でも、蘭さん、ひみちゃんを殺しちゃったら罪は重くなるね」

「まさにリナちゃんの10年が無駄になちゃうね」

「言われてみれば、恨みの相手に取り憑くは聞くけど、殺すまでは聞かないな」

「ねぇ、ひみちゃん。占いって今出来る?」

「出来るよ。占う?」

「うん。プロの占い師に占ってもらった事無いから占ってもらいたい」

「リナよ。プロに頼むのは料金が発生する。誰が払うんだ?」

「そんなの蘭さんに決まってるじゃないですか。私お金持ってませんよ」

「あのなぁ。今日いくら使ったと思ってるんだよ。来月からシフト減るから、あんま無理出来ない。無茶言うな」

「ふふっ、良いですよ。特別にリナちゃんは無料で」

「ほんと?わーい。ひみちゃん大好きー」

「さあ、何を占いますか?」

「何が良いかなぁ…。あっ、蘭さんとの相性とか?」

すると、斐巫女はニッコリと笑い

「それは占うまでも無いと思いますよ?」

と言った

「斐巫女さんの言う通りだな。そもそも、人間と幽霊の相性なんぞ占ってどうする。悪いに決まってるだろ…。せっかくプロの占い師に占って貰うんだからもっと有意義な使い方しようぜ…」

それを聞いたリナは頬を膨らませ、拗ねた

それを見た斐巫女は優しく、

「意味合いは違うけど、蘭さんの言う通りだよ。大抵の事は占えるよ」

「それじゃ、これからの運勢」

「かしこまりました」

斐巫女がテーブルの上にカードをシャッフルして3枚のカードを並べた

斐巫女は一瞬怪訝な顔をしたが、笑顔で言った

「今までの『試練』が終わり、『別れ』の時が来る。

『願いが叶う』って出てるよ」

「やったー。来世は安泰だー」

「おっ、良かったじゃん。さっきサイト見たけど、斐巫女さんかなり評判が良い占い師だよ」

「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです」

店を出たユウジ達は、帰宅する斐巫女を見送った

6:リナの希望にて、海に近い公園のベンチに座っている

「蘭さん。恋人同士なら、こうゆう素敵な所で語り合い、キスしたりするんでしょうか?」

「ドラマの見過ぎだ。こんな公共の場でイチャつくカップルなんぞ見た事無い。つーたかて、俺は彼女なんて居た事ねーから分からんがな」

「自分で言ってて、悲しくなりません?」

「しゃーねーだろ。事実なんだから認めないわけにはいかんよ」

「あー、私が生きてればなー。そのポジションに私が居たかもなのに…」

「その気持ちは嬉しいけど、どうだろうな…。住んでる場所が遠すぎだろ…」

「そっかぁ。私が幽霊になって無ければ、会えなかった。そう考えると複雑です」

「そんなもんじゃ無いかなぁ…。俺は運命なんてもんは信じて無い。予め決められた事なんて選択一つで変わる。結果論でしか無いと思ってるよ」

すると、ユウジの携帯電話がSNSからの通知を受信した

「おや?誰からですか?」

「見ない様に。友達からだよ。ちとトイレ行って来るわ」

「もー、早く戻って下さいよ」

帰り道。ユウジの前にカップルが歩いていた

男の方は茶色に髪を染め、パンクロッカーの様な服装

女の方は肩が開いたビッチリしたシャツにライダースを着て、穴の空いたデニムのミニスカートを履いている

リナが待つベンチに差し掛かった時リナは立ち上がり

「八上」

「え…あんた…もしかして鈴本?」

「なんでお前は幸せそうにしてるのよ!私は大好きな人達に触れる事すら出来ないのに!」

リナはアキを押し倒して馬乗りになった

「ひぃ」

アキと一緒に居た男はアキを助けようともせずに逃げた

リナがアキの首に両手を掛けた

ユウジが眷属である美月に命ずるより早く

シャリーン

ユウジの持つガムランボールから流れる水の様な体躯の龍。美月が現れ、リナに巻き付いた

「美月さん、離して!こいつだけは許せない」

「リナ、聞け!そいつを許さなくて良い。正直さ、リナが来る様になって毎日楽しかったぞ…。下らない悪戯。何時も無茶ばかり言う。でもな。歳の離れた友人…。違うな。妹が居たらこんな感じなのかなぁって。俺さ…。姉さんは居るけど、弟か妹が欲しかった。

今日だって、リナが幽霊にならなきゃ斐巫女さんにも出会えなかった。あんなにリナだって楽しそうだっただろ…。違うのかよ」

それを聞いたリナの美月を振り解こうとする震えが止まった

(ナイスよユウジ。今リナの正の感情と負の感情が拮抗してる。今ならユウジの剣で切れる。私が押さえている間に切って。境界を良く視るのよ)

「俺に切れないモノは無い!その心配はノーサンキューだ」

ユウジは眉間に全神経を集中した

ユウジの眉間

それは俗に言われれる第3の目、サードアイだ

リナの持つ負の感情

リナの持つ正の感情

その境界線を見極めた

「視えた!そこだ!」

刀印を結びその境界線に沿って切る

そして、リナの持った負の感情が切り離されて、ユウジの左手に宿った

「蘭さん。やっと私を救ってくれましたね」

「まぁな」

「私ね。お姉ちゃんも欲しかったけど、本当はお兄ちゃんも欲しかったんだよ。お兄ちゃんや、お姉ちゃんがいる友達が羨ましかった…」

「そればっかりは先に兄、姉が生まれてなきゃ無理だからな」

「今日、私、その夢叶ったよね?ちょっぴり意地悪だけど、ワガママ聞いてくれるお兄ちゃんと、甘えさせてくれる優しいお姉ちゃん。凄く楽しかった。良い冥土の土産になりました」

「そうだな。俺も楽しかったよ。JKとデートなんてそうそう体験出来ないしな」

「蘭さん。私、26歳ですよ」

「リナは正直だなぁ。言わなきゃ分からなかったのに」

「あっ、つい。こんな私でも来世は幸せになれるのかな…」

「斐巫女さんの占いの結果を忘れたか?願いが叶うって。きっと3人兄弟の兄と姉が居る末っ娘だよ」

「今から楽しみです。あっ、蘭さん一つお願いがあります」

「言ってごらん」

「いつか、蘭さんが結婚して女の子が生まれたら、私と同じ『リナ』って名前にして下さい」

「リナは最期まで無茶言うんだな…。嫁さんはおろか彼女も居ないんだぞ」

「大丈夫です。蘭さんは私の心を掴みましたよ?」

「そっか…、そうだな、そうかもな。分かった。娘が出来たら、リナって名前にするよ」

リナを眩い光が包み始めた

「時間みたいです。ひみちゃんにも伝えて下さい。お兄ちゃん、お姉ちゃん、大好き」

目には涙を浮かべ、それでも笑顔で光に包まれ、リナの姿は消えていった

7:リナを見送り、倒れたままのアキに近づいた

「おー、忘れてた。立てるか?」

左手をアキに差し出す

その手を取り、立ち上がったアキの瞳に涙が溢れた

きっかけは些細な事だった

アキが片想いしている男子がリナを可愛いと誉めた

少し嫌がらせをしようと思っただけだった

だが、クラスの女子が次々と便乗してしまい、弄りがイジメに変わった

アキが辞めようとしても、やり始めたと言われ辞められ無かった

リナの自殺を知り、両親に全てを話し、転勤した

元より栄転の話しが持ち上がっていた事もあり、アキは逃げる様にその地を去ったのである

「そっか。君なりに罪の意識はあったんだね。でもさ、事実は変えられない。君はリナを自殺に追い込んだきっかけを与えた」

「はい。間違い無いです」

「俺はね君の罪を裁く者でも無いし、罪を赦す存在じゃ無い。でも、君は反省してる。その十字架を背負って生きるのは辛いかもしれない。でもな誰か一人でも、リナを覚えていて、リナの犠牲で生きてる。その意識を持てば良いんじゃ無いかな」

「はい。ゴメンね鈴本、私あなたを忘れない。ゴメンね。ゴメンね…」

ユウジは弱々しく見えるアキの背中を見送った

(この女ったらし)

「失礼だな。純愛だよ」

(純愛なんて言葉を口にする男が、反省してる娘にリナの怨念を押し付ける?)

「あ、バレた?」

ユウジはアキと左手で手を握った時に、リナの怨念をアキに移していた

(右利きの貴方が左手を差し出した時点でバレバレよ)

「うん。あの娘そんなに重く無さそうだったしな。つーか、あんな怨念持ちたくねーよ」

(リナは貴方を怨んで無いから効果無いでしょ。むしろユウジを兄みたいに好きって感情持ってたんだから貴方が欲しがってる過呪怨霊に出来たかもよ?)

「美月よ。リナの怨念は俺じゃ使いこなせん。タルパみたいにはなれんよ…」

(占いの結果だって違ったんでしょ?)

「あー、そこは斐巫女さんの意志を尊重した。いやぁ、斐巫女さんは美人で優しいし、占い師としても最高だわ」

ユウジの携帯が報せたSNSの通知は斐巫女からだったリナには伝えないで欲しいと言われた占い結果は

『願い』が叶い、『試練』が訪れる。試練の結果により、『別れ』が良くも悪くもなる

であった

その後、程なくしてアキはある男に入れ込み、その男を助ける為に借金を背負う

その男を愛するが故に生霊を飛ばす

その生霊は、男を訪ねて宅飲みをする者に祓われる事を恐れて、その者には気付かれない様に気配を消す

その者の名を『蘭ユウジ』という

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